第十七話 楽園を求める者
チャージショットを撃った美波。果たしてその結果は…?
美波の放ったチャージショットが月美の本体を直撃。それと同時に月美の精神体の動きが止まる。すぐに月美の精神体の方へ向かう美波。俯いている月美の顔を見ると、そこにはもう赤い仮面は付いていなかった。
「とりあえずこれであなたの中のデビルは倒せたはずだけど…どう?」
不安げに美波が呼びかけると、彼女はゆっくりと目を開いた。安心したように微笑む美波。
「あなた…本当に…」
月美は、驚き半分呆れ半分といった様子で困ったような顔で美波を見る。
「うーん…いつまでもあなたって呼ぶのはアレだしなぁ…ねぇ、名前は⁉︎」
先程までは命をかけた戦いをしていたと思えないような気軽さで言う。
「全く、あなたは…月美。私の名前は影山月美よ。」
「月美?月美…月…」
軽く顎を触れ、なにやら真面目な顔で考え込む美波。
「どうしたの?まさか聞き覚えのある名前だったりしたかしら…」
そんな彼女に、内心動揺しながら問う月美だったが…
「そんじゃあ、つきむん‼︎」
「…は?」
月美の疑問顔とは裏腹に、晴れ渡る笑顔で美波は叫ぶ。
「これからあなたのこと、つきむんって呼ぶからさぁ‼︎あなたは私のこと、気軽にお姉ちゃんって呼んで‼︎」
今度は月美が少し考え込み…
「何で、そう呼ばなきゃいけないのかしら。」
このまま美波に振り回されるのもどこか悔しいようにも思えた月美は、拗ねているような顔で美波から目を逸らしつつ呟く。
「アッハハ‼︎酷いなぁ、もう‼︎」
笑顔でそう言う美波を横目に見る月美。
今まで、相手を傷付けない為だと自分に言い聞かせて、いくつも隠し事をしてきた。何度も目を逸らしてきた。それでも。いや、だからこそ。今度はちゃんと美波の目を見て、心からの本音を。
「まぁ、何はともあれ…ありがとう。」
「…‼︎へっへーん‼︎どういたしましてっと‼︎」
美波が見たのは、今まで仮面で感情を隠してきた少女の、まだ少しぎこちない、それでも本心だと分かる控えめな笑顔。それに答えるべく、美波は高々とVサインを掲げつつ言った。
「…なんか、急いだ意味、無かったね。」
「まぁ、二人とも無事ですし、結果オーライじゃないですか?」
そして、やっとたどり着いた三人は、肩透かしをくらうこととなった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
それから休む間も無く攻めてきた数体のデビルを仁美と雫中心で撃破して。ひと段落ついたところで、ひとまずお互いの情報を交換する五人。
「にしても、つきむんがひとっぴの従姉妹だったなんてねぇ…」
美波はあえて、千春のことを語らない。何故なら…
ーひとっぴは、ちゃんと理解してるだろうけどみのりんは実感が湧いてないだろうし…一番関わりが浅かったからか、ひとっぴは直ぐに飲み込めたっぽいけど、みのりんに関しては、下手なタイミングで理解して、さっきの私みたいになっちゃいけないしねぇ…
そんな美波の考えを知ってか知らずか。雫も千春の話題に触れる事なく別のことについて話し始める。
「まぁ、情報も共有出来たことですし、そろそろ影山さんの聖因子を回復するべきじゃないですか?」
「あぁ、そのことなのだけれど。先に私じゃなくて、火野さんを回復させてあげてもらえないかしら?」
「ふぇ?何で私?」
「あなた…自分の聖因子も確認してないの?」
「んっと…うぉ‼︎良く生きてたな私‼︎いやー、ちょっと加速し過ぎた⁉︎」
「それと、あのチャージショットは明らかにオーバーキルよ…」
気付けば残り少しとなっていた砂時計の砂を見て慌てる美波に対し、呆れたという視線を投げかける一同。
「ちょっと火野さん⁉︎もうちょっと気にしようよ‼︎今回復するから‼︎」
「悪いね、みのりん‼︎」
みのりが『祈癒ノ日溜リ』を使用して美波に触れる。その顔はどこか曇った表情で。
ー…あれま。みのりん、こうやってギリギリになった聖因子を見たせいで、ちーくんのこと思い出しちゃったのかな?
そう考えたら、雫ちゃんは今、何考えてんだろ?ちーくんが死んじゃったときは私ほどじゃないけど、割とヒドい状態になっちゃってたし…でも、その割にはすぐに落ち着いてたけど…
などと美波が考えていると…
「危ない‼︎」
仁美がみのりと美波を突き飛ばす。先程まで彼女らのいた空間を、コウモリ型のデビルが通り抜ける。
「危なかった…ありがとう、金城さん…金城、さん?」
みのりが見た仁美の身体は、彼女の記憶の中のそれとの違いが大き過ぎて。彼女の記憶の中では、胸には切り傷などなかったはずだし、身体の一部が燃えていないはずだった。そのまま去っていくコウモリ型を、すぐさま月美と雫が追う。
「ねぇ、金城さん…嘘、だよね?」
仁美の鎧が壊れて、眩い光を放つ。眩しさに目を細める美波とみのり。光が少し収まって目を開くと、そこには見慣れた制服姿の仁美がいた。その身体からは、僅かに金色の光が溢れ出している。
「…どうして、かしらね?こんなことをしたのは。」
自分の掌から出ている金色の光を見つつ仁美は呟く。それでもその光を眺める目は、どこか満足気で…
「分からないよ…それを知りたいのは私だよ‼︎」
「まぁ、何でこんなことをしたのかは分からないけれど…不思議と後悔はしてないわ…」
「だからって…そんなの‼︎」
「お願いだから、泣かないでちょうだい。私は満足よ。私のたった一人の…友達を守れたのだもの。」
泣き崩れるみのりとは対照的に、優しく微笑む仁美。
「違うよ…違うよ、ひとっぴ‼︎私がいるよ?シズちゃんもいるし、ちーくんもいる…ひとっぴにはさ、ちゃんといるんだよ‼︎友達‼︎」
仁美は目を瞑る。そして思い浮かべる。美波の顔を。雫の顔を。千春の顔を。最後に、みのりの顔を。
「そうね…いつの間にか、友達が増えていた…不思議なものね。あんなに手に入らないと思っていた存在が、こんなにも手に入るなんて…」
言いつつ、彼女は一番の友人に金色に染まりつつある砂時計を手渡す。
「…あ…」
「…これも、自分では理由が分からないのだけど、これはあなたに持っていて欲しいの。そうすれば、ずっとあなたといられる…そんな気がする。」
「重いよ…私なんかには、重過ぎるよ‼︎」
みのりは俯きつつ目に溜まった涙を拭う。再び顔を上げた時には、もうそこには彼女はいなかった。残されたのは、完全に金色になった砂時計だけ。
「うわあぁぁぁ‼︎」
その場に崩れ落ちるみのり。
「みのりん‼︎」
ーいけない‼︎さっきまでは良くも悪くも『死』を実感しきれてなかったけど…よりによって、最悪なタイミングで理解しちゃった‼︎これだとちーくんとひとっぴ、二人分の『死』の悲しみを…そんなの、さっきの私の比じゃない‼︎いきなりみのりんが暴れ出しちゃったら…‼︎
しかし、唐突にみのりが落下するのを見たことで、そんな彼女の懸念は悪い方へ外れだことを理解する。
「みのりん…?みのりん‼︎」
慌ててみのりを受け止める美波。
「どうして…体が、動かない‼︎」
全身に力が入らないのか、手から拳銃と金色の砂時計が滑り落ちる。
その瞬間、いくつかのことが同時に起きた。
「火野さん‼︎そっちに行きました‼︎仕留めて下さい‼︎」
雫の声が響き。その内容に違わず、先程のコウモリ型が現れる。
「ちょっと‼︎いきなりそう言われても…」
言いつつ慌てて引き金を引くが、片手でみのりを抱えていたため、上手く射撃が出来ずに外してしまう。コウモリ型はまっすぐ砂時計へと向かい、その砂時計を吸収してしまう。
「あっ‼︎」
砂時計を吸収したコウモリ型が金色の光を放つ。
「あの…光…」
みのりが呟く。光が収縮し、現れたのは一人の男だった。
「今の光を見て、金城仁美が復活するとでも思ったかい?」
現れた男が言い終わるのも待たず、雫が引き金を引く。男はそれを確認すると、手からトゲ付きのワイヤーを出す。そのワイヤーは雫のエネルギー弾を破壊し、そのまま止まらずに雫、美波、月美、みのりを縛る。
「ふーん。これが『プリズン・オブ・フルメタル』か。僕の力でブーストされてるとは言え、面白い能力だね。」
その独特な雰囲気にオーラ。一同はその正体を理解する。
「あなたは…影山さんの中にいた、デビル…」
「うん。そうだよ。まずは感謝しよう。君達のおかげで、また少し楽園に近づけた。とはいえ…火野美波、君のあの攻撃にはヒヤヒヤさせられたけどね。」
「そうだよ…あなたは私が倒したはず‼︎」
「うん。そうだね。確かにそうなってたよ。ギリギリのタイミングで影山月美の体から分離していなかったら。」
そう。月美の中にいたデビルは、美波のチャージショットが直撃する一瞬前に月美の体から脱出していた。月美の意識が戻ったのは、月美の体の中のデビルが消滅したからではなかったのだ。そして彼はみのりが美波を回復している隙を狙って、二人を同時に殺す為に身を潜めていたという訳だ。と、男から赤銅色の光が溢れ出る。
「さて。これで僕の望みを叶えることが出来るね。そのお礼に教えてあげるよ。君達がデビルホロウと呼んでいる存在が何たるか…僕達は、哀れな存在に過ぎないんだよ?」
こうして、デビルホロウの真実は語られる。
金城仁美、消滅。そして明かされる真実とは…
次回は4月15日更新です