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第十五話 Plan-“E”

二月ば短いので、予定を変えて今日投稿しました。第十五話です。

 12月2日 日曜日。その時少女は、目の前にいる男性を、ただ見ていた。大嫌いな母親が楽しげに彼のことを説明しているようだが、そんなものは耳に入らなかった。それが偏見だとは分かっていても、母が認めた人間という理由から生まれる不信感。

 両隣からも、彼女と似たような感情が伝わってくる。それは無力感。自分ではどうにも出来なかったという無力感。それは自責の念。自分がもっと上手くやっていればどうにかなっていたかもしれないのにという自責の念。

 そんな感情を作り笑顔で隠しながら彼女は願った。今。今この瞬間、時間が止まったら良いのにと。そしてそのまま、二度と時間が動かなければ良いのにと。しかし、その願いは叶わなかった。


 そのまま惰性でバイトに向かい。その日は久々にバイトでミスをした。次の日が訪れて。惰性で学校に向かい。香月茜に愚痴をこぼして、泣いて、泣いて、泣いて…そうしてやっと、少しはいつもの彼女に戻れた気がした。しかしそんな中、今更ながら時間は止まり。がむしゃらに戦い。そして包囲網を突破した後に彼女が見たものは…


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「どうやら…間に合わなかったみたいね…」


 怪盗風の少女が呟くように言う。その表情は仮面で隠れていて見えない。


「どの口が…言うんですか…っ‼︎そんなこと‼︎どの口が、言うんですか⁉︎

 あなたは、私達より長く戦ってきたはずです‼︎それなら‼︎聖因子を使い切るとどうなるかも、あなたなら分かったはず‼︎あなたが私達に‼︎…土屋先輩にそれを教えてくれていたら、何かが変わっていたかもしれない…土屋先輩が…千春君が‼︎生きてたかもしれないのに‼︎」


 雫が叫ぶ。そんな雫に対して、怪盗風の少女は軽く息を吸い、僅かに俯いてから雫の言葉に答える。


「勝手に他人に責任をなすりつけないで貰えるかしら?あなたには分からなかったの?彼は知っていた。聖因子を使い切ると、どうなるか。それでも彼は逃げなかった…ただそれだけのことよ。だから私のせいにするのはお門違い。これは彼が、彼の意思で選び取った運命なのだから。」


 怪盗風の少女は、おそらく多くのことを考えた結果この言葉を選んだのだろう。しかし、その返答は雫にとって満足出来るものではなかった。


「そんなこと…そんなこと‼︎あなたが失うことを知らないから言えるんですよ‼︎失うことの悲しみを知らないから…だから運命だからって言って、はい終わりって言えるんです‼︎」


「それは‼︎」


 雫に肩を掴まれる怪盗風の少女。彼女の声から何かを感じ取ったのか、美波は怪盗風の少女をよく見て、あるものに気付く。


「シズちゃん‼︎言い過ぎだよ‼︎」


 美波の視線の先には、千春の残した茶色の拳銃と、怪盗風の少女が持つ緑色の拳銃。その視線に気付き、一つの仮説に至ってわずかに目を伏せる雫。


「その、銃は…?」


「…あぁ、強引に戦闘を中断させて、急いでここまで来たから隠し忘れたわね。まぁ、あなた達に仮説があるのなら…恐らく、その通りよ。」


 その言葉を最後に、生まれる沈黙。それを破ったのは雫だった。


「言い過ぎました…ごめんなさい。火野さん、みのりさん達のところへ向かいましょう。」


「…うん。分かった。私達はみのりんの…仲間達のところに行くけど…あなたは、どうすんの?」


「そうね…今後の方針は、ここの掃除をしてから考えようかしら。」


 言いつつ二丁の拳銃の引き金を引く。弾丸の先には、先程千春を襲っていたデビルホロウ達。どうやら先程までの異変は終わったと認識したため、3人を狙って戻ってきたようだ。


「ひとまず私は、一人でここの掃除をするわ。あなた達と合流するかは、それから決める。掃除の邪魔だから早く行って。」


「いくらあなたが強いからって、この数を一人に任せられる訳無いじゃん‼︎私達も手伝うよ‼︎」


「…良いの?あなたのその選択が、あなたの仲間の命を奪うかもしれないわよ?」


 美波の視線が揺らぐ。自分が助けに向かえなかったせいで、千春は…自分がもっと早く着いていたら何かが変わっていたかも知れない。そんな自責の念、後悔が彼女の決断を妨げる。しかし彼女は、悩んだ末に結論を出した。


「ごめん、シズちゃん。みのりんとひとっぴのこと任せれる?」


 言われた雫は考え込むように俯く。少しして顔を上げ、絞り出すように言う。


「分かりました。直ぐに、絶対に連れて来ます…五人で、合流しましょう…」


「勝手に私を頭数に入れないでもらえるかしら?」


「こっちだって、不本意です。ですが、後々聞きたいこともありますし、命の危険がある以上は、リスクを減らすべきです。あなたにも、私達にも、私情がありますが…それは一旦、後回しです。」


 そう言い残し、雫は神名中央高校方面へと向かう。数匹のデビルホロウ達が彼女を追うが、赤と白の弾丸がそれを止める。


「悪いけど、あなた達には恨みがあるから…直ぐに倒させてもらうよ‼︎」


「はぁ…全く。本当に、あなた達がどうなっても知らないわよ。」


 美波がハンマーを倒し、「Enter>バーン・ブラスト」をセレクト。辺り一面に銃口を向け、何度も引き金を引く。


「ちょっと‼︎あなた、なんて戦い方してんのよ‼︎滅茶苦茶よ‼︎」


 自らも二丁の拳銃でデビル達を迎撃しようとするものの、美波が片っ端から撃破してしまうため、攻撃に参加出来ない。と、美波の撃った弾丸が怪盗風の少女に直撃する。明らかに見境なく攻撃している。美波の怒りが、恐怖が。彼女を暴走させている。


ーここを早めに片付けることが出来るのは良いのだけれど…このままだと、火野美波の聖因子がすぐに尽きる。でも、今彼女に消えられる訳にはいかないわね。なら…


 怪盗風の少女が銃口を美波に向けて、引き金を引く。それはデビル達のみに集中していた美波の手に命中。それに気が付いた美波が動きを止める。


「いきなり何すんの⁉︎」


「安心してちょうだい。聖因子で聖因子を補助することは出来ても、聖因子で聖因子を傷つけることは出来ないから。今あなたがばら撒いた弾丸に数発被弾しても何の影響もない私を見れば、それは簡単に分かるでしょ?」


「あ…」


 隙ありとばかりに美波の後ろから兎型のデビルホロウが現れるが、怪盗風の少女が二丁の拳銃でそれを撃破。美波はすぐさま振り返り、それを理解する。


「私は…」


「人の死を悲しむ気持ちと、人の死を他人のせいにして怒ることで悲しみから逃げるのは違う。

 これは、かつて私に投げつけられた言葉よ。私は人の死を悲しむ人間を、決して馬鹿にしたりはしないわ。けれど、怒りに溺れて道を見誤る人間は心から軽蔑する。例えば、そうね…仲間の死を知り、力を使い過ぎれば消滅すると知っておきながら、怒りで暴走して力を使い過ぎる人間とか。」


 そう言われて美波は、自分の拳銃に付いた砂時計の砂を見る。残り七割ほどあったはずのそれは、気付けば残り約半分になっていた。そんな彼女の様子を見て、怪盗風の少女は溜息を吐く。


「どちらにせよ、今のあなたは正直足手まといよ。だから早くあなたの仲間のところへ…」


 その言葉は銃声でかき消される。弾道を目で追うように振り返れば、霧散するデビルホロウの姿。いつの間にか美波と背中合わせの状態になっていた。


「これはさっきのお礼。やっぱ後ろを守り合いながら戦った方が良さげだね…」


「…あなたは信じられるの?私の事を。」


「うん。そりゃ信じるし、出来れば助け合いたいよ。だってあなた、すっごく優しいから。」


「…え?どういう意味?」


 一瞬だけ視線を美波に向けて問いかけてから、接近したデビルホロウを撃ち抜く。


「お、ありがと。やっぱこうやって戦った方がやりやすそげだね。」


「だから、早く質問に答えてちょうだい。私が優しいって、どういう意味?」


「そのままだよ。なんとなくだけど、私には分かるんだ。あなたさ、わざと私達に嫌われるように動いてるでしょ。」


 怪盗風の少女の心に焦りが生じる。しかしその動揺を抑える為の時間も与えず、デビルホロウ達は進行してくる。


「…ってかさ、なんかさっきより増えてない?」


 どうやら美波も同じことに気が付いたらしく、背中を通じて彼女の焦燥感が伝わる。怪盗風の少女は自分の中にも生まれていた焦燥感を抑える為、ひとまず現状に対する考察を述べてみる。


「やけに帰ってくるのが遅いやつもいると思ったら、どうやら仲間を呼んで来ていたようね。ただその分、他の場所に残ってる残党を探す手間は省けた。多分進行してきた奴らの大半は、ここに集まってるでしょうからね…

 それから、さっきの話だけれど。もしあなたがそう思いたいのなら、勝手に誤解して、勝手に後悔すればいいわ。」


「うん…勝手に信じるよ。そんで、受け止める。…きっと、あなたもそうやって我慢してきたんだよね。」


「…知ったかぶり、しないでちょうだい。」


 そうして二人は背を向けあったまま、言葉も交わさずに引き金を引き続ける。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「みのりさん‼︎金城さん‼︎」


 雫が分離ホーミング弾を発射。元から仁美の攻撃とみのりの結界で弱っていたデビル達に耐え切れる訳もなく、残りわずかになっていたデビル達は一斉に霧散する。


「雫ちゃん‼︎そっちはもう終わったの⁉︎」


「…話せば、長くなるんです。話は、移動しながらにしましょう。」


「反論は認めないようね。分かったわ。」


 こうしてみのりと仁美は、雫から真実を、千春の末路を聞くことになる。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 異変は美波サイドで起きた。


ー2人で背中合わせで戦うと、やっぱ効率がいいや。今まではこんなにたくさんのデビルホロウ達と戦ったことがなかったから分からなかったけどね。


 ようやく底が見え始めた敵の群れを見つつ思う。ざっと残り15体前後といったところだろうか?それぞれ強さに個体差があるとはいえ、1体1体は普段のデビル達よりずっと弱い。だが、それが複数体となると話は別だ。連携を駆使して攻撃して来るため、背後の心配はしなくていいとはいえ、かなりの集中力を要する。


ー多分シズちゃんのことだから、ちーくんのことは移動中に伝えるだろうし…みのりん達が気持ちの整理をつける為の時間を、しっかり作ってあげないと。だから…


「一気に行かせて貰うよっ‼︎」


 美波はハンマーを倒して、「Shift>ヒート.ブースト」をセレクト。超光速で移動し、次々にゼロ距離射撃でとどめを刺していく。

 敵も元から二人の攻撃で消耗していた為、全てのデビルホロウ達を撃破するのにそう時間はかからなかった。


「ふぅ…聖因子は結構使っちゃったけど、これでシズちゃん達が来るまではゆっくり出来るね…」


 自分の残り約四割ほどになってしまった砂時計の中の砂を見つつ言う。


「あなたは?こっからどうするの?」


 返事がない。振り返ると、微かに震えながら動きを止めている怪盗風の少女。明らかに様子がおかしい。


「私……し…。今す……って。」


 声が震えていて、上手く聞き取れない。


「…ん?なんて言った?」


 美波が怪盗風の少女の肩に手を乗せて、背中をさすろうとしながら聞き返す。しかし怪盗風の少女は、まだ震えが止まらないままの右手でゆっくりとその手を払い除けてしまう。


「私を…殺して‼︎今すぐ撃ってって言ったの‼︎」


「…え?」


「詳しい事情を話してる時間は、無いわ‼︎だから…早く‼︎」


 仮面に隠れていて、表情は見えない。だが、彼女の声が。その言葉が、怪盗風の少女自身の本心であることを物語っていた。

 それを理解したからこそ。唐突な要望に困惑する美波。そして二人が黙る。沈黙を破ったのは美波だった。


「いきなり殺せって言われたって…そんなこと、出来るわけ無いじゃん…だからさ、聞かせてよ。その理由を…いや、聞いても多分、納得出来ないけど…」


「…いいわ。こうなったら、全部教えてあげる…けれど時間がないわ。だから、もしものことがあれば、すぐにその銃で撃って…」


 こうして火野美波は、怪盗風の少女の真実を知ることになる。

怪盗風の少女の正体が、次回明らかに…?

3月15日投稿予定です

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