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第十三話 流れ始めたはずの時間は止まり

第十三話。今回からラスト・ラグナロク編開始です。

 急遽始まった金城邸での集いが終わり、美波と雫、千春が去って行く。部屋の中は、みのりと仁美の二人きりになる。


「あら?あなたは帰らないの?」


「うん。ちょっとね。」


 二人の間に沈黙が生まれる。今回は、二人ともなかなか口を開こうとしない。そんな状態がしばらく続いて、ようやく仁美が口を開く。


「あなた、隠し事をしているわね。あの手紙のことで。」


「あ、バレちゃった?まぁ、別に隠してたつもりはないんだけどね…」


 そう言って、みのりは例の手紙を仁美に渡す。それを受け取った仁美は無言でさっと目を通す。大まかな内容は雫が要約していたので、さほど長い時間はかからなかった。一通り読み終えるとその手紙をテーブルの上に置き、小さなため息を吐いた。


「なるほど。確かにあなたの言う通り、わざと隠していたわけではないみたいね。水野雫が伝える必要がないと判断しただけといったところかしら。」


 そこに書かれていたのは、待ち伏せされるのも面倒だから、ヘルメットとライダースーツを回収する気は無い。なのでそれらを置いておく必要は無い、ということだった。みのりも雫も、これはラスト・ラグナロクにも怪盗風の少女の正体にも関係ないと判断したが故に言わなかったのだろう。


「それにしても金城さん、よくそんなこと分かったね。」


「簡単なことよ。渡すときにチラッと見えたけど、筆跡を隠す為か手紙はパソコンで打ったものをプリントしたものだったわ。その時見えた文字の大きさからして、水野雫の発言だけでは入るべき文章量に満たないと思ったの。」


「それだけの情報でそこまで分かっちゃうんだ…まぁ、一応その内容を無視して置いてきちゃったんだけどね。」


「悪い子ね。私の友人は。まぁ、正体不明のもう一人。彼女の徹底ぶりにはなんというか…漫画でもあるまいし、ここまで徹底しなくても正体はバレないわよ。」


「でも、これぐらい徹底しないと金城さんなら見つけちゃいそうかも。」


「流石にそれは私を過信し過ぎよ。」


「この調子だと、指紋とかも徹底して隠してるかもね。金城さんが調べそうだから。」


「あなたねぇ…」


 そう冗談めかして言いあって、淡い笑みを浮かべ合う二人。しかし少しして、みのりの笑顔がどこか不安気なものになる。その一瞬の変化を仁美は見逃さなかった。


「どうかしたの?」


「ちょっと、ね…あの、さ…ちょっとだけ、失礼なことを、聞いてもいいかな?」


「その為にここに残ったんでしょ?」


 仁美に言われて、みのりは軽く俯く。自分の目的など、仁美に簡単に見抜かれてしまうことは分かっていた。だが、なかなか言い出す勇気が出ない。


ーそれでも…一歩、踏み出さなきゃ。ちゃんとした、友達でいるために。


 そう自分を鼓舞して、みのりはずっと胸にしまっていた疑問を打ち明ける。


「…どうしても気になっちゃってさ。何で私だったのかな、って。金城さんなら、私以外の人の誰とだって友達となれたはずなのに…あ、勘違いしないで欲しいけど、別に金城さんと友達になりたくなかったって意味じゃないんだよ⁉︎ただ、率直にそう思っただけで…だって、私ってどこか特別って訳じゃないし…」


「…あなた、それ本気で言ってるの?」


「うん…」


 みのりが答える。それに対する仁美の反応は予想外のものだった。彼女は少し間を置き、柄にもなく大笑いを始める。それを見たみのりが慌てて問いかける。


「えっ⁉︎私、変なことでも言った⁉︎」


「えぇ…言ったわよ。あなたはやっぱり特別よ。何しろ、私を特別扱いしないんだもの…」


 その返答の意図が分からず、戸惑うみのり。その戸惑いは彼女の思考を迷走させ、「え⁉︎えぇと…それってもしかして、友達なんだからちょっとぐらい特別扱いしろ…ってこと?」という検討外れな発言を生み出した。笑いを抑えて、軽く呼吸を整える。


「違うわよ。あなたが私と友達になってくれたのが、私が金城仁美だったからじゃなく、私が話しかけたから…だからあなたのことは信じられるの。今まで私と友達になろうとした人間が求めていたのは私じゃなくて、私の持つ立場や金だけだったから。」


 偽りの無い目でみのりを見つめる仁美。その真っ直ぐな視線を浴びたみのりは何故か緊張してしまい、慌てて目を逸らす。


「ん?どうかしたのかしら?」


「…ズルいよ。金城さんは…金城さんは私のこと、そう思っててくれたんだね…それにしても、金城さんと友達になろうとしてる人は、みんな金城さんの立場とお金しか見てないっていうのは、流石に考えすぎじゃない?」


 みのりの感じた緊張の正体は、照れだ。仁美の優しい本音を聞かされて。自分よりずっと高みにいると思っている、大切な友達の自分の評価を知って。


「考え過ぎじゃないわよ。そういう目は昔から見慣れてるから、私には分かるのよ…まぁ、だからといってあなたが私を求めてるってわけでもないんでしょうけどね。あなたは別に人との関わりを求めてる訳じゃない。求められてるから与えているだけ…」


「違うよ‼︎…まぁ、今は、だけど。」


「でしょうね。そう。今は。あなたは変わったのね。あの人達と出会ってから。」


 みのりはその言葉を聞いて、目を見開く。思い出すのは、数日前の仁美の発言だ。


『なんというか…嫌いっていうよりか、再会して嫌いになったって感じね。昨日数年ぶりに会った訳なんだけど…全然違ったわ。昔はそうでもなかったのだけれど。人って変わってしまうものなのね。』


ー変わった、か。いつか私も変わったからって切り捨てられちゃうのかな…


「ねぇ、金城さん。変わった私は、嫌い?」


「え?それってどういう…あぁ、なるほど。そういうこと。私が月美の話をしたから心配させちゃったみたいね。けど、安心していいわ。あなたが私の金や立場だけを求めるようになったら見限るけど、今のあなたは嫌いじゃないわ。」


「…やっぱり、金城さんはズルいよ…」


「酷い冤罪ね…あ、そうそう。いきなり話が変わるのだけれど。日向さん。あなた、月曜日の準備は大丈夫なの?」


「え?月曜日?…あ…」


 仁美に言われてみのりは思い出す。自分は今日、何故塾に行こうとしていたのか。


「…英語の、小テスト…」


 それを思い出してしまったみのりは軽く憂鬱な気分になる。


「まぁ、塾に向かっていたところを勝手に遮った私も悪いけど…どうする?明日もここに来て私と一緒に勉強でもする?」


「え?良いの?」


「良いわよ。じゃあ明日の10時、あなたの家まで迎えに行かせるわね。」


「うん。分かった。じゃあ、また明日。」


 そう言い金城邸を後にするみのり。彼女はいつになく笑顔だった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 時は流れて、12月3日月曜日。11時39分。青空の下、時間が止まる。


 日向みのりと金城仁美は、英語の小テスト中にそれを感じていた。


「…えぇ…あと1分‼︎たったあと1分で、テスト終わりだったんだよ⁉︎」


「いくら絶対にバレないからと言って、カンニングはしちゃダメよ。」


「しないって‼︎しかもあと1分で終わるから、カンニングしたところで間に合わないし、そもそも…」


「えぇ。そもそも、カンニングをする必要はなさそうね。見たところ、間違いは一問だけだから。」


「まぁ、おかげさまでね…って金城さんが見てるじゃん⁉︎」


「だって私は全部合ってるもの。カンニングする必要は無いわ。」


「かっこいい…私も一回だけでもいいから言ってみたい…」


「あなたもあと一歩だったじゃない。そんなことより…」


 仁美が動きを止めた生徒達の座る席を避けつつ飛び、窓の外を見る。そして外の状況を把握して拳銃を取り出し、数回引き金を引く。みのりも慌てて窓の外を見ると、そこには無数のデビルホロウが。


「うわぁ…話には聞いてたけど、笑えない数だね。」


「もう、ここまでくると一周回って笑うしかないとも思えるけど…これじゃあ作戦通り、合流しながら戦うのも無理そうね。まずは私達でここを片付けるべきかしら?」


 ハンマーを倒し、槍を召喚しつつ呟く。


「いや、片付けるって簡単に言うけど、出来るもんなの?」


「流石の私も、出来ないようなこと言わないわよ。さっき数発撃ってみたけど、私達が戦ったあのヒトガタや、あなた達の戦っていたデビルホロウよりは数段脆いわ。それに今回は最後だから特殊技も使い放題。二人で勝てるだけの要素はしっかり揃ってるわ。」


「…分かった。金城さんが言うなら信じる‼︎」


「あまり過信はしないことをお勧めするわ。二回目でもう最終決戦って言うのも不安だけど…行くわよ。」


「うん‼︎」


 二人は窓をすり抜けてデビルホロウ達へ立ち向かう。みのりはハンマーを倒し、ウインドウを呼び出す。その隙を狙い象型のデビルがみのりに襲いかかるが仁美が槍で牽制。みのりは一度も使ったことのなかった破邪ノ煌キを選択。頭の中に使い方が浮かんでくるが…


「この能力も地味‼︎」


 みのりが空に向かって銃を撃つ。その銃弾は空で破裂。その破片が拡散して結界を創り出す。その結界の中のデビルホロウ達の装甲が少しずつ崩れ始める。


「こうやって、結界内のデビルホロウに少しずつダメージを与える技らしいんだけど…」


「私みたいな、余計に聖因子の力を使わなくても戦える前衛と一緒にいれば便利な技ね。」


「いや、一人のときは全くの役立たずなんだけど…」


「そんな事態には陥らせないわよ。私が、最後まであなたと戦うもの。」


「金城さん…分かった‼︎じゃあ、前衛お願い‼︎」


 仁美の横から迫って来ていた烏型のデビルホロウの翼を撃ちつつ叫ぶ。


「言われるまでも無いわ。フォローありがとう。」


 動きを止めた烏型にとどめを刺しつつ答える。こうしてみのりと仁美のラスト・ラグナロクは始まった。

ついに始まったラスト・ラグナロク。その先にある全ての真相に、みのり達は辿りつけるのでしょうか?


https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=72676312


こちらでみのり達のイラストが見れますので、こちらも是非‼︎

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