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第十一話 ラスト・ラグナロク

あけましておめでとうございます‼︎

というわけで第十一話です‼︎

「あら?どうかしたの?」


 みのりの視点が戻る。目の前には牛肉の乗ったトレー。


「ううん。何でもないよ。じゃあ、早速作ろっか。」


 みどりから牛肉の乗ったトレーを受け取りながら、みのりは考える。


ー明日はいつもよりちょっと早めに家を出て、あの路地裏に寄ろっかな。


 そう心の中にメモしてから、料理を始めるみのりだった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 千春の視点が戻る。そこには時間が進む前にはいなかったはずの見舞客がいた。


「どうしてあんたがいるんっすかねぇ…」


「こうして何度か姿を現さなければ、取引のことを忘れて仲間に話してしまうかもしれないだろう。」


「そりゃ、良い心がけっすね。でも安心していいっすよ。いろんな病気を患っている僕っすけど、アルツハイマーとか、そう言う記憶に関わる病気は患って無いっすから。」


「そうか。ならばまた来るとしよう。」


 一瞬だけ眩い光を放ち、それが消えた頃には男の姿も消えていた。彼は引き出しを見て、考え込むように軽く俯いた。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 仁美の視点が戻る。そこは金城家の屋敷の自室の入り口。彼女はポケットから砂時計を取り出す。


ー本当に、これは何なの?


「あら、仁美じゃない。」


 考え込んでいた仁美の耳が、嫌いな人物の声を捉える。思考を中断して彼女が嫌々振り返ると、そこには予想通りの少女の姿があった。どうやら考え事に気を取られて接近に気が付かなかったようだ。


「月美。どうかしたの?」


 自分とどこか似た雰囲気と顔立ちをした少女、影山月美。月美に、意識的に感情の篭ってない声を作ってそう返答しながら、仁美は砂時計をポケットにしまう。


「相変わらず冷たいわね。そうだ、ちょうどいいわ。もしも愛さんが私を探していたら、伝言を頼めるかしら?今は外に出てるけど、6時までには帰ってくる、と。」


「気が向いたら伝えておくわ。」


 面倒くさそうに仁美が言い捨てると、それに満足したのか月美が屋敷から出て行く。月美を見届けた仁美は自分の部屋に入り、机の上に置かれたパソコンを開く。自作のソフトウェアを使い、止まった時間の中で見た男のモンタージュ画像を作成。使用人にそれを渡し、情報を収集させる。と、モンタージュ画像を受け取った使用人とすれ違いで、ノック音。姉の愛が部屋に入って来る。


「ねぇ仁美。月美ちゃんのこと知らなぁい?」


 言われてコンマ1秒悩んだ末に、任された通り伝言を伝えることを選ぶ。


「…月美から伝言。今は外に出てるけど、6時までには帰ってくるらしいわよ。」


「んー。りょーかい。うーん、ちょっと危ないことするから、一応相談しよっかな〜って思ったんだけどぉ…まぁいっかぁ。サンプルも借りてあるし、勝手にやっちゃおー。」


 サラッと愛から放たれる問題発言。これが一部の人物から影でマッドサイエンティストと呼ばれる所以だろう。


「ちょっと…姉さん、それって大丈夫なの?」


「んー。もし何かあっても、被害を被るのは私だけだしぃ。」


「大丈夫じゃないじゃない…」


 今から始める実験が楽しみなのか、満足気な様子でスキップでも始めそうな足取りで部屋を出て行く愛の後ろ姿を見つつ仁美は思う。


ー影山月美。あなたに何があったの?いきなり私の目の前に戻って来たと思ったら、急に性格が変わって、学校でのことを根掘り葉掘り聞こうとして…たまには演技じゃなくて、普通に笑いなさいよ…


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 雫は視点が戻ると、直ぐにベッドに潜り込んだ。


ーあれは…あのデビルホロウは、一体‼︎今まで、見たことない…聖因子の、デビルホロウの真実と、何か関係があるんでしょうか…


 ベッドから飛び出して、机に向かう。取り出したのは携帯。メモ帳機能で今回のヒトガタのデータを記入する。そこに、今まで雫が戦った全てのデビルホロウの情報を書き溜めているのだ。ヒトガタのデータを書き加え、今までのデータを見直す。


ー今まで戦ってきたデビル達は、大きく分けて5属性に分けることが出来ました。火、水、木、金属、岩…それに対して私達の属性は、恐らく私は水、土屋先輩が岩、火野さんが火、みのりさんが光、金城さんが金属、あの人の属性は不明…


ーそして、あのヒトガタっていうデビルホロウも属性が不明です。強いて分類するなら、なんとなく感じたのは、闇でしょうか?


ーあの怪盗風の人が木属性には見えないですし、私達には木属性がいない。それに対してデビルホロウには光属性がいない…デビル達に光属性がいないのは、戦ったデビルがまだ少ないからというわけではない…とも言い切れませんね。実際闇属性?を見たのも初めてですし。


ー木属性、光属性、闇属性。この三つの属性には、何か秘密でもあるんでしょうか?そしてその秘密は、デビルホロウの、聖因子の真実と関係があるんでしょうか?


 少しずつ情報を貯めて、着実に真実に近づこうとする雫。

 カレンダーを見る。今日は11月30日の金曜日。みのりの参戦が11月27日の火曜日で、千春の見舞いを断ったのが11月28日の水曜日。この日みのりはあの怪盗風の少女に出会う。11月29日、つまり昨日にラグナロクの判明にみのりの友人、金城仁美の参戦。そして今日、ヒトガタの登場。ここ数日でイレギュラーが固まり過ぎている。

 みのりの情報によると、ラグナロクは12月。つまり明日起きてもおかしくない。この連鎖するイレギュラーすらそれの前触れに過ぎないのかもしれない。

 彼女はポケットから砂時計を取り出す。その砂時計を充分眺めたあと、それを机の上に置いてベッドに潜り込む。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 翌日。みのりが目を覚ます。昨日の料理は大成功だった。智則は仕事の疲れで、夕食を食べて風呂から上がったら直ぐ眠ってしまって、出張先での土産話を聞く時間は無かったが。


 みのりがバックに塾用の教材を持ち、あの怪盗風の少女に返すためのライダースーツとヘルメットを段ボールに詰め込んで、いつもより早く家を出る。

 見送りに玄関まで付いてきたみどりは、みのりの持つ段ボールを見て首をかしげていたが。


 路地裏にたどり着く。入ってみると、そこには手紙が。偶然って重なるものだね、などと思ったが、どうやらそうでもないようだ。宛名の欄には『Dear M.Himukai』の文字が。封を開けて中を見る。

 彼女は携帯を取り出して、塾に今日は行けないという旨の電話をし、その後グループLINEに集まりたいという旨の連絡を入れる。仁美と雫も同じことを考えていたらしい…と、突然後ろから肩を叩かれる。振り返ればどこかで会ったことがある人物。


「えっと…あなたとはどこかで…」


 会ったことがある。それは分かる。しかし、どこで会ったかまでは思い出せない。


「日向みのりさんで間違いありませんね?」


「はい、そうですけど…」


「当家令嬢、金城仁美様がお待ちです。」


 上からヘリの音がする。そうだ。彼女は仁美の使用人の内の一人だったはずだ。過去に一度金城家に行ったときも、学校の前に突如現れたヘリに半ば強引に乗せられて連れて行かれたものだ。しかしここは路地裏。ヘリが着地する場所も無いのにどうやって…とみのりが考えていると、上からロープが。使用人が自身のベルトにしっかり固定する。


「しっかりとお掴まり下さい。」


「え、えぇっと…」


「ご安心ください。このロープはただのロープのように見えて、金城愛様の開発されたものですから。特殊な構造故に、金属のワイヤーにも劣らない丈夫さを持ち、なおかつ重さや表面の質感は通常のロープに近い為、皮膚を傷つけない。とても優れたものですよ。」


 満面の笑みで愛の発明を褒めながら説明する彼女に対して、引きつった笑みを返すみのりは心の中でそっと告げる。


ーあの、私が心配してるのはそういうことではなくてですね?


 そんなみのりの心の中の呟きが届く訳もなく、ヘリ側の準備が完了したことを告げる使用人。どうやら抵抗は無駄らしいと悟ったみのりは、ヘルメットとライダースーツの入った段ボールをそっと手紙が置いてあった位置に置く。そして使用人の腰にギュッとしがみつく。使用人もみのりの肩をしっかり抱く。それを確認したヘリの乗組員がロープをリールで巻き取っていく。


ーあぁ。漁師さんに釣られる魚って、きっとこんな気分なんだね…


 そんな無意味な現実逃避をしている内に、ヘリの上に到着したみのりであった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 金城邸に着くと、そこには既にみのり以外の全員が揃っていた。


ーえ?ちょっと待って?


 戸惑いを隠せないみのり。金城邸に住んでいるのだから、仁美がいるのは分かる。


「火野さん、今日はバイトとか大丈夫なの?」


「今日はシフト入ってなかったからねぇ。友達の家で勉強してたらいきなりその家までスーツの男の人が来たからもうビックリしたよ〜‼︎」


 どうやら仁美はその権力で美波の個人情報だけでなくその友人関係の情報まで入手済みなようだ。流石は金城家だ。


「雫ちゃんは?」


「窓を、コンコンって、叩く音がして…カーテンを開けて見たら、ロープに繋がれた男の人…気絶して、気が付いたら、ここに…多分、1週間は、夢に出て来ます…」


 これは最早、ただの誘拐ではないだろうか?そんなことも簡単に揉み消してしまえるというのが、金城家の恐ろしさなのだが。


「まぁ、一応みんながここにいる理由は分かったけど…」


「あのぉ…一番ここにいるのがおかしい僕について触れないのはおかしいと思うんっすけど…」


「え?だって日程びっしりの火野さんやここに来たがりそうにない雫ちゃんよりはまだあり得るし…」


「いや‼︎絶賛入院中っすよ‼︎入‼︎院‼︎中‼︎」


 周りの医療用の機械を壊さない程度に動き、存在を主張する千春。そんな彼を見て、呆れたように仁美は解説をはじめる。


「実際、複数のバイト先に先回りさせる必要のあった火野美波や、ここに来るように説得するの難しそうな水野雫、そしていつものルートから大きくそれていた日向さんよりは充分簡単だったわね。」


「じゃあこの機材どうしたっていうんすか‼︎多分これ、僕の入院してる病院のと全く同じ機材っすよね‼︎」


「簡単じゃない。買ったのよ。まぁ○○○○円ぐらいの出費は覚悟してたけど、○○○○円で済んだから、興ざめだったわ。」


 その仁美の発言を聞いて唖然とする美波、雫、みのり。当然だ。仁美の予想していた額も実際の価格も、3人が想像しないような金額だったのだ。

 千春はその額を大体知ってはいたので、どこか暗い表情になる。

 それぞれ違う反応をする四人を気にせず、みのりに話を進めるようにうながすと、彼女は「まぁ、今度こそみんながここにいる理由は分かったことだし…さっそくだけどこれ。」と言って、路地裏に残されていた例の手紙を取り出す。


「ん?何?みのりん。それはラブレターか何かかい?もしそうなら、この優しい優しいお姉ちゃんが、責任を持ってビリビリに破いちゃるけど?今なら私の可愛い可愛い妹を汚そうとする悪い虫に向けた天誅も付いてくるけど?」


「いや、違うからね?それも、いろんな意味で…まぁ中を見れば分かるよ。」


 そう言いつつ、念の為に出来るだけ美波に近づかないように移動して、手紙を雫に渡す。それを開くと、雫の目の色が変わる。彼女はしばらくその内容に没頭し、読み終えてから目を閉じて一度深呼吸をすると、「少し、考える時間を下さい。」と呟いた。


「じゃあ、水野雫が考えている間に私が調べたことを教えるわ。

 昨日のヒトガタの戦いの後にいた男。名前は烏丸秋斗。まぁそれはどうでもいいの。彼のことだけど、彼も今、土屋千春と同じ神名私立病院に入院中よ。私達が戦ったあの場所にいた人物が救急車を呼んだらしいわ。で、そこに二つの謎があるの。

 一つ目は監視カメラの映像。彼は通報がある数分前まではコンビニの監視カメラにしっかり写っていたはずだった。でも突如として映像から消えた。まるで録画したビデオをスキップさせたようにね。

 そして二つ目。その通報は、誰がしたものかが不明だということ。現場にもその人物はいなかったし、人通りの少ない場所と時間だったから目撃者はいない。声もボイスチェンジャーで変えられてた。それも二重にね。」


「二重に?」


「そう。特殊なボイスチェンジャーらしいわ。一度ボイスチェンジャーで変えた声を、もう一つのボイスチェンジャーでまた変える。だから変える前の本来の声を調べるのが困難なのよ。まぁ、その仕様上ゆっくり話さないとタイムラグが発生してしまうけど。」


 みのりは初めて怪盗風の少女と出会ったときのことを思い出す。あの時だけは進んだ時間の中で会ったのだった。思い出せば、あの時だけ彼女の話し方はおかしかった。あのヘルメットはただのヘルメットにしてはやけに重かったから、中に同様のものが仕組まれていたのかもしれない。


「話は、聞かせてもらいました。その、烏丸さん?に関しては、止まった時間の中でも体が動いて、その代償で、時間が進んだ時に、体がダメージを受けてしまったって考えるのが妥当、なんでしょうか?」


「多分そうでしょうね。私達が止まった時間の中で精神体を使ってるのは、物理的概念を無視することで体がボロボロになるのを防ぐためだった…」


 しばしの沈黙。それを破るように、美波がパンと手を叩いてから口を開く。


「まぁ、その男の人のことはヒトガタの正体の手がかりとして覚えとくとしてさ。みのりんが持って来た手紙の内容を教えてくんない?私にも分かるように。」


 雫は軽く息を吸う。そして分かりました、と前置きしてから、ゆっくり解説を始める。


「ここに書かれていたのは、ラスト・ラグナロクの、詳細についてでした。ただ、それについて深く考えれば、デビルホロウの正体にも、近づけるかもしれないと…」


 そちらについては、結局は仮説を立てるまでも至れませんでしたが、と前置きをしてから、雫はラスト・ラグナロクの詳細を語り始める。


 手紙の内容によれば、ラグナロクとはデビルホロウ達の一斉侵攻のこと。

 この世界にデビルホロウが入れないようにするための結界があり、その結界を維持、管理しているのがあの白い男。しかしその結界と維持は完璧ではない。結界はデビルホロウが通れば通るほど脆くなるのだ。時間が止まる頻度が多くなっていたのはこの影響らしい。

 そしてその傷ついた結界を修復する力を発揮出来るのは半年に一度。それが6月の初めと12月の初め。当然その修復の直前が結界が一番脆くなる。そのタイミングを狙ってデビルホロウ達の起こす一斉侵攻がラグナロクだ。そしてその修復の力を使っても、一度では完璧に修復出来ない。つまりラグナロクを繰り返せば繰り返すほど結界は脆い状態になる。つまり一度目のより二度目の、二度目より三度目のラグナロクの方が大量のデビルホロウが通れるようになり、規模が大きくなる。

 計算上、もうすぐ来るであろう次のラグナロクは、この世界に侵攻しようとしている残り全てのデビルホロウによる一斉侵攻になる。これさえ凌げられば当分はデビルホロウがこの世界に来ることはなくなるらしい。だからこそ、ラスト・ラグナロクなのだ。


「一回目の戦いがイレギュラーな相手で、二回目の戦いが最終決戦…笑えないわね。」


「そう?最終決戦前に仲間になるって、なんか強キャラ感あっていいじゃん‼︎ひとっぴだけ銃以外の武器も使えるしさ‼︎レッツ‼︎ポジティブシンキング‼︎」


「話はまだ、終わってません。私が言いたいのは、この情報の影に隠れている情報です。先程言った通り、まだしっかりとした仮説は立てられてないですけど。デビルホロウは、ここじゃない世界から来ている…そんな感じのニュアンスを、感じませんか?そしてあの人は、きっとそれを知ってます。」


「まぁまぁシズちゃん。今は目の前の最終決戦‼︎シズちゃんの知りたいことは、全部終わったらあの子が教えてくれるかもしれないよ?」


「…分かりました。」


 雫が手紙をみのりに返す。それを受け取ったみのり話を締める。


「まぁ、あの子が聖因子の力を使い過ぎるなって言ってたのは、この一斉侵攻の為に出来るだけ力を温存しとくべきだからって分かった。ついでにヒトガタの正体の手がかりも掴めた。最後の戦いで終わりじゃない。最後の戦いの後に知るべきことがたくさんある…それが分かっただけで、今日集まった意味はあったんじゃないかな?」


「そうっすね。まぁそれも、最終決戦を勝ち抜くことが出来なきゃ意味ないっすけど。」


「ちーちゃん。死亡フラグ立てちゃダメ‼︎」


「いや、今のはセーフじゃないっすかねぇ⁉︎」


 そんなやりとりを最後に、今日の集いは終わったのだった。

次回は第十二話、1月15日投稿です‼︎

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