第十話 金城仁美
第十話です…第十話です。みのりは2回目の戦闘です。え?ジャンル詐欺だって?…言わないで下さい…
「彼女」は父親から、常々こう言われていた。
『立場や金に頼って、自分を過信するな。怠けるな。今の立場や金を保つ為、他人以上の努力をせよ。』
だから「彼女」は他人以上の努力をした。市内で一番偏差値の高い高校に入学して。その高校でトップの成績を保ち。姉の代わりに、父の跡を継ぐにふさわしい人間である為の努力を怠らなかった。
彼女の名は金城仁美。金城財閥の次女。日向みのりのクラスメイトだ。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
仁美は隣で空を飛ぶみのりを横目で見つつ、今までの自分の足跡を思い返す。
ただ信じられたのは、唯一の味方であると同時に、自分の運命を決める枷となった姉、金城愛のみ。
仁美には、心から信じられる友達など一人もいなかった。仁美に友達になろうと笑顔で言い寄って来る者が求めていたのは、仁美自身ではなく、仁美の持つ金や立場だった。仁美もバカではなかった為、そんなことなど一瞬で見抜くことが出来た。
そんな中。高校生になった彼女は、一人のどこか変わった少女に出会った。それが日向みのり。誰との関わりも求めず、また誰との関わりも拒まない少女。仁美はそんな彼女のことを、自分の目が届かないものに興味を持たない人物なのかもしれないと予測した。自分の目に届かない、他人の過去や未来に興味を持たない。そもそも、他人の方を見ていない。しかし、他人から話しかけられたら視界が移る為、少しの興味を持つ。そして他人が離れていき、視界から消えるとまた興味を失う…
他のクラスメイト達はみのりに進んで関わろうとしないからか、彼女のその性格に気付いていないのかもしれない。
仁美は初めて、この人となら本当の友達になれるかもしれないと思った。きっと彼女なら、自分の「今」だけを見てくれるから。
その予想は正しかった。みのりは仁美にとって、唯一の友人と呼べる存在となった。
しばらく経って。一人の少女が仁美の前に姿を現す。従姉妹である、影山月美だ。彼女は仁美の姉である金城愛を頼る為に金城家へやって来た。最初にその話を聞いたときは嬉しかった。彼女は仁美にとって、友人とは呼べないし、今では立場も大きく異なるが、苦難を分かり合える人物だと思っていたから。
しかし、彼女は変わってしまっていた。彼女の顔には常に闇が感じられた。その闇を隠すために作られた不自然な笑顔。不自然なほど自分に学校でのことなどを問いかけてくるようになり、常に笑顔という名の仮面を外すことはなかった。何があってそうなったのかは、仁美には分からない。何はともあれ、かつてあった笑顔などそこには無かった。仁美は月美への信頼を全て捨ててしまった。
そして彼女の時間は一度止まる。その止まった時間の中で怪盗風の少女、純白の男、そして巫女姿になった日向みのりと出会い。今はこうして共に止まった時間の中で空を飛んでいる。運命とは実に分からないものだと思う。しかし仁美はその運命を嫌だとは思っていない。ただ、彼女としても白黒はっきりさせておかなければならないと考えていることがあり…
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「金城さん‼︎あれ‼︎」
みのりが指差す先には、闇に包まれた人型の怪物と、それと戦う美波と雫の姿があった。
「おっ‼︎みのりん‼︎ひとっぴ‼︎ナイスタイミングだよ‼︎」
二人に気付いた美波がブンブンと手を振りながら叫ぶ。それを隙と見たデビルが漆黒のエネルギー弾を放つが、ずっと意識はデビルに向けていた美波はそれを軽々と躱す。
「ひ、ひとっぴ?」
「うん‼︎仁美ちゃんのあだ名‼︎イカすっしょ⁉︎」
そう笑顔で答えつつ、デビルがエネルギー弾を放った際に出来た隙を見逃さずに引き金を引く美波。しかしそれは突如現れた黒い盾に遮られてしまう。
「…ま、まぁそれはあとにして…行くよ、金城さん‼︎」
デビルホロウの方へ向かおうとするみのり。その手を仁美が掴む。
「待って。」
「遅れてすみませんっした〜‼︎…あれ、なんっすか?この場違い感。」
遅れて来た千春を鋭い視線で睨みつける仁美。その鋭い視線に怯えた千春の背筋がピンと伸びるのをみてから、すぐに視線をみのりの方へ移す。
「日向さん。あなたは…いいえ。あなた達は。一体、何のために戦うの?あの怪物達を倒さず、逃げ続けるという選択肢だってある。それなのに、あなた達はなんで戦うの?戦う理由も分からない相手と、私は協力出来ない。」
そう言う仁美の目を見て、元から細い目を更に細めて、伸びていた背筋を元に戻し、軽く口角を緩める千春。
「戦う理由っすか。僕の場合は、何かを残したかったからっすかね。一応知ってるとは思うんすけど、僕ってば絶賛入院中で。いつ死ぬか分からないもんっすから、それまでに出来ることは、やっときたいんっすよ。」
優しい声で答えた後に、射撃をしつつデビルホロウの方へ飛んで行く千春。
「ちょっと、ちーちゃん‼︎死んじゃうなんてさみしいこと言わないの‼︎にしても、んー。戦う理由かぁ。私が戦うのは、やっぱり進んだ時間でやるべきことがあるからかな。大事な妹の為に、お姉ちゃん頑張んないと‼︎」
「その…私は‼︎知りたいから、です。正直に言うと、私にとって、ここは都合のいい場所です。関わらなきゃ、いけない人も、少ないですしね…それでも、知りたいんです。聖因子とは、何なのか。何で、時間が止まったのか。あの男の人は、誰なのか。それを知る為には、戦うしかないって、私の心が、言ってる気がするんです…」
美波と雫の二人も、自分の戦う理由を語りながら引き金を引き続ける。それを聞きながら、みのりは考える。そんな彼女に、仁美はもう一度問いかける。
「日向さん。あなたの戦う理由は?あなたは、何を求めて?何の為に戦うの?」
ー私は、何の為に戦ってるんだろう。私は、病気で先が短いわけでもない。今はお母さんと一緒にご飯を作る約束をしてるけど、前は絶対に守らなきゃいけないような約束なんてしてなかった。聖因子の正体を絶対知りたい訳でもない…なら、何で私は戦ってるんだろう。
みのりは考えつつ、美波を見る。雫を見る。千春を見る。そして隣を見る。そこには、自分に重い問いを投げかけた少女の姿。
ーそうだ。私は…
「私は…強くなりたい‼︎物理的な力じゃない‼︎火野さんや雫ちゃん。千春君に…あなた。金城さんみたいな。そんな、心の強さが欲しい‼︎」
黒い拳銃を、少し強めに握って答えるみのり。それを聞いた仁美は、どこか嬉しげで、どこか悲しげな、複雑な表情を示す。少し間を置き…
「勘違いしないで。私は、決して強くなんかないわ。私は、自分のために戦う。私の生きるべき場所はここじゃない。進んだ時間の中よ。だから私は、自分のために時間を進めることにするわ。」
言いつつ拳銃をデビルに向け、3回引き金を引く。彼女が放った三発のエネルギー弾が人型のデビルにしっかりと刺さる。
「正式に、あなた達に協力させてもらうわ。これからよろしく。」
「あ、うん‼︎じゃあ戦い方を…」
「その必要は無いわ。しっかりとあの子の戦いを見ていたもの。一度見たものは、そう簡単には忘れない。」
そう言いながら、ハンマーを倒す。そうして現れたウインドウに書かれた技名を見て、彼女は眉を潜める。
「ゴルド・スピアーにプリズン・オブ・フルメタル…見ていて恥ずかしくなる名前ね。」
ぼやくように言いつつも、上にあったゴルド・スピアーをチョイス。拳銃に付いている砂時計から金の光の粒が現れ、それが一本の槍となって収束する。
「黄金の槍…大層な名前のわりにはそのまんまね。安直でがっかり。」
「あ、あの〜、金城さん?一応、知ってるとは思うけど、聖因子の無駄使いは…」
「えぇ。だからこそ自分の能力ぐらい、しっかりと把握しておくべきじゃない。」
そう言いデビルホロウに向かって飛びかかり、勢いよくエネルギー弾を受けたときに出来たであろう傷口に槍を突き刺す。美波達三人に集中していたデビルがいきなりの奇襲に対応することなど出来る訳もなく、為す術もなく胸を貫通される。と、その胸から闇が溢れ出してくる。
「うおっ⁉︎回避ぃ‼︎みんな回避ぃ‼︎」
自分の砂時計を確認し、闇に触れると聖因子が減少することに気付いた美波が全員に退避を促す。デビルホロウは動く様子は無い。どうやら闇を放出している間は動くことは出来ないらしい。そのことを確認し、一旦五人が集まる。五人で同時射撃するものの、本体に届く前に弾丸は消滅してしまう。チャージショットも試してみたが、やはりこれも通らないようだ。
「うーん、参ったねぇ。あいつが動くまで攻撃出来ない感じかぁ。」
「そうでもないわ。あなた達。悪いけど手を貸してもらうわよ。」
と、上空から声。上を見ると、空から唐突に現れる怪盗風の少女。
「お?もしかしてあいつに似たヤツと戦ったことがある感じ?」
「えぇ。あるわ。あのヒトガタは二人以上でかかれば撃破するのはそう困難じゃないの。それも、私がいればの話だけれど。」
「お、もしかして特殊技っすか?」
「まぁ、そういうことね。」
言いつつ拳銃のハンマーを倒し、現れたウインドウの上の文字をタッチ。白く輝き始めた拳銃を見てから、5人に視線を移す。
「そうね。性質上…あなたが一番良いかしら?」
言いつつ美波に拳銃を向け、引き金を引く。いきなりの行動に驚きつつも、それを慌てて反射的に拳銃でガードする美波。
「うぉ⁉︎いきなり何するんじゃあ‼︎…って、おろ?」
白いエネルギー弾を吸収した美波の拳銃が赤く輝きはじめる。それを興味深く見る雫を見ながら怪盗風の少女は説明を始める。
「ムーン・リコレクション。物体の本来の能力を引き出す副次作用がある技よ。今の状態でチャージショットを撃てば、あいつにもダメージを与えることが出来るわ。」
「びっくりしたじゃん‼︎そういうことは、最初から言ってよね‼︎そんじゃあ、一気に決めるよ‼︎」
口では愚痴を言いながらも、言われた通りにハンマーを長押しする。銃の前に火の紋章が現れる。その紋章は通常より早く大きくなり…
「さぁて、こんなもんかな…いっくよー‼︎ドォン‼︎」
美波が引き金を引く。それは闇に阻まれても勢いを衰えさせることなく、中のヒトガタまで届き大爆発を起こす。
「はぁ⁉︎何この大爆発ゥ⁉︎私聞いてないぃ‼︎逃げて‼︎超逃げて‼︎」
その爆発は止まることを知らず、どんどん六人に迫ってくる。
猛烈な爆風を受けながらも、少しずつ時間が戻ろうとしているのを感じる。
「何ですか…あれ…」
雫が後ろを向きつつ言う。爆炎も少しずつ収まり、闇が消えたその中心にいたのは…
「人?」
時間が止まり、動けなくなっている人間だった。闇を放出する為に動きを止めていたヒトガタと、全く同じポーズをしている。
「もうすぐ時間が進むわ。後処理は私に任せて、あなた達は今まで通りの時間を過ごしてちょうだい。」
怪盗風の少女が言う。みのりはふと思い付き、怪盗風の少女に向かって話しかける。
「そうだ‼︎あなたのライダースーツとヘルメット、私達が会った路地裏に置いておくから‼︎」
「…何?」
「だから、良かったらだけど取りに行って。」
そのみのりのその言葉を最後に、時間が進み始めた。
冒頭の金城家の教えはノブレスオブリージュという考えに近しいものです。高圧的な態度の仁美がどうこれから動いていくか、ご期待下さい。