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第九話 時間の、その最後に

第九話です‼︎

聖因子を完成させた六人目の人物とは…

 日向家の玄関。みのりは靴を履き終えて、軽く爪先で床を2、3回蹴る。


「行ってきま〜す。」


「行ってらっしゃい。出来ればでいいけれど、今日は…」


「うん。分かってるよ。よっぽどのことがない限り、ちゃんと早く帰って来れると思う。」


「無理はしなくていいんだからね?」


「うん。じゃあ。」


 笑顔でみどりに言って家を出て行くみのり。そんな彼女を見送るみどりの表情は、いつもよりどこか明るかった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 学校に着き、下駄箱に靴をしまうみのり。まるで待ち構えていたような、いや、明らかに待ち構えていたとしか思えないタイミングで一人の少女が現れる。


「あれ?金城さん?」


「おはよう日向さん。早速だけど話があるの。付いて来て。」


「え?何?話なら教室で…ちょっと⁉︎」


 みのりが話す間も与えず、強引に手を引っ張り空き教室に連れて行く仁美。


 空き教室に連れてこられたみのりは、『あぁ、この状況。何か、あの娘に路地裏に連れ込まれたときと似てるなぁ。』などと考えつつ仁美を見る。


「ねぇ、金城さん。いきなりどうしたの?」


「私は言ったはずよ?話があるって。あなたはいろいろ知ってるはずだし、正直に教えてくれると嬉しいのだけれど。」


 そう言いつつ、彼女は鞄から銀色の砂時計を取り出した。


「え?金城さん…それ、何で?」


 驚いて自分の砂時計を取り出すみのり。どうやら、みのりが落としたものを仁美が拾っただけというオチでは無いらしい。そもそも、中の砂の色が違う。


「何で私がこれを持ってるかって?そんなのこっちが聞きたいわよ。」


 みのりの取り出した砂時計を見つつ言う仁美。驚きでしばし黙ってしまうみのり。ようやく口を開いた彼女の言葉は、


「まさか、六人目は金城さんだったなんて…」


 という、何の捻りのない言葉だった。その動揺にお構いなしに、仁美は次々と疑問を畳み掛ける。


「驚いてる暇があったら、早く教えてくれないかしら?あの変な格好した男は誰?あの男の言ってた聖因子って何?あの怪物は何?何で時間が止まった中であなた達は動けていたの?」


 仁美が鬼気迫る表情で問い詰める。それに後ずさりながら答えるみのり。


「ちょっ、ちょっと待って‼︎質問が多過ぎて、答えれないんだけど…」


 そう言われて少し冷静さを欠いていたことを理解した仁美は、目を瞑って軽く息を吸う。そうして一度落ち着き、再び、今度は一つずつ質問を開始する。


「…まぁいいわ。じゃあ一つずつ。まず、あの変な格好した男は誰?」


「分からない。砂時計ができるときに現れるってことだけは分かってるんだけど…」


「…次。あの変な格好した男の言ってた聖因子っていうのは何なの?」


「分からない。戦いの中で減っていって、こうして普通に暮らしているときは溜まっていくってことは分かってるんだけど…」


「……次。あの怪物は何かしら?」


「デビルホロウっていう、多分、精神生命体。どこから来たのかも、何が目的なのかも、まだ私達には分からない。」


「………最後に。何であなた達は止まった時間の中で動けていたの?」


「それは、この砂時計の力で物理的概念を持たない精神体を作ることで、一時的に時間の流れからの制約も受けないようになったから…だと思う。」


 質問を重ねる度に苛つきを募らせつつも、みのりの説明になってない説明を聞き終える。そうして呆れたようにため息をつく。


「はぁ。全部推測の域を出ない答え。あの子が言ってた通り、多くを知らない状態らしいわね。」


「え?あの子って…」


「怪盗風の服を着た子のことよ。」


 そう仁美が答えた瞬間、予鈴が鳴った。


「予鈴ね…まぁ、今日の成果は何も分からないってことが分かったってことかしら。」


「物は言いようだね。なんか、今の状況がすごく悪いものでは無いみたいに思えてきた。」


「そんな簡単に楽観視するのは危険よ。さぁ、行きましょう。」


  そう注意してらツカツカと歩いて教室に向かってしまう。みのり以外の人物にとっては、彼女のこの強引さは受け入れがたいものだったかもしれない。しかし自分から行動を起こすのが苦手なみのりとしては、仁美のこの強引さはありがたいものだった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 学校が終わる。学校を出たみのりは、仁美に許可を取ってから、グループLINEに六人目が金城仁美だったことが判明したという旨を伝える。


「今日会いたい気持ちはやまやまだけど、今日会うのはバイトの関係で無理そげ‼︎とりあえずグループにだけ招待しといてくれる?」


 との連絡があったので、これまた仁美の許可を取って、グループへと招待する。雫が足りない情報などを捕捉するグループのノートを作り、今まで集めた全ての情報を共有した。ちなみに、文面だけでも伝わる仁美の圧に雫が怯えていたのだが、それはまた別の話。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「ただいま‼︎」


 家に着いたみのりを母であるみどりが迎える。


「おかえりなさい。早く帰って来てくれたわね。本当に無理して帰って来たわけじゃないわよね?」


「心配しないでって。今日は特に、用事とかなかったから。」


「なら良いけど。」


 笑顔でそう言いリビングに戻る母。みのりも気持ち駆け足で自分の部屋に戻り、急いで私服に着替える。引き出しの中からエプロンを取り出して、それを着ながらダイニングへと向かう。


「準備出来たよ。」


 長袖のTシャツの袖をまくりつつ言う。


「気が早いわよ。」


「お母さんこそ。ノリノリだね。」


 そう言って顔を見合わせ、二人で笑い合う。


 いつからだっただろうか。みのりがまだ幼い頃。みのりの父親である日向智則が今の部署に入ってから、長期の出張が増えた。

 その初めての長期出張から智則が帰ってくる日、みのりは彼を精一杯出迎えたいと思った。そこで彼女はみどりに頼み、一緒に夕食を作った。初めてだったため、彼女はみどりの手伝いをしていただけだったが、みどりも智則も喜んだ。その笑顔が嬉しくて、智則が長期出張から帰ってくる日はみのりとみどりが協力して夕食を作るのが恒例になったのだ。

 今日も出張の最終日。智則が約一ヶ月ぶりに帰って来るのだ。何回も手伝いをしている間に実力は上がっていき、今では献立の半分を任せられるくらいに料理が上手くなっている。


「今日は何作る?」


「そうねぇ…みのりもいるし、割と手間のかかる料理を作ろうかしら。」


 言いつつ冷蔵庫の中身をざっと確認する。少し考え込み、そうね、と前置きして…


「今日はローストビーフにしようかしら。私がお米を研いでおくから、ローストビーフの下ごしらえ頼めるかしら。」


「うん。任せて。」


 みのりはシンクで手を洗う。タオルで濡れた手を拭き、トレーに乗った牛肉を受け取る為、手を伸ばす。その手はトレーに触れず、すり抜ける。もう一度挑戦するが、結果は変わらない。


「…え?」


 みのりが自分の姿を見下ろすと、そこにはエプロン姿ではなく巫女装束の自分の姿。振り返ると、歩いているポーズで止まっているエプロン姿の自分の姿が。視線を前に戻せば、そのことに全く反応を示さずに、トレーを持った状態で止まっているみどりが。ふと、以前の美波の言葉が頭をよぎる。


『あぁそーだ、ちなみに時間が止まるのは週に一回ぐらい‼︎…だったんだけど、少しずつ頻度が多くなって来ててね〜…正直、明日来てもおかしくないくらい。』


ーちょっと‼︎昨日の今日でこれ⁉︎時間差でフラグを回収しないでよ‼︎


 突然時間が止まったことと、そうなるフラグを建築した美波に対する、もはや八つ当たりとも思えるようた理不尽な怒りを心の中で愚痴る。ひとまず…


「う〜ん…ごめんね、お母さん。すぐ終わらせて帰って来るから。そしたら一緒に夜ご飯、作ろうね。」


 みどりには聞こえないと分かりつつもそう言い残して、扉をすり抜けて外へ出る。外へ出てみると、扉の前で金城仁美が待っていた。


「ごめん‼︎待たせた⁉︎」


「いいえ、今来たところよ。」


「…恋人繋ぎはしないからね?」


 謎の既視感を感じて、みのりはついそう言ってしまう。


「…恋人繋ぎ?今の流れで何でその単語が出て来るのかしら?なんにせよ、女同士で恋人繋ぎをするのは願い下げよ。」


 そんな、みのりとしては珍しいジョークも、仁美に容赦なくバッサリ切り捨てられてしまう。


「まぁ、この冗談の出所は後で火野さんに聞いてもらうとして。じゃあ、探しに行こっか。デビルホロウ‼︎」


「なんか、いつになく張り切ってないかしら?まぁいいわ。」


 二人は空を飛ぶ。再び時間を進めるために。

というわけで、六人目はみのりの友人、金城仁美でした‼︎これは予想できた方も多いのでは?


次回は12月15日更新です‼︎

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