何がしたいんだろうね。
本文にも、己にも言えるタイトルにしてみました。
とくと御覧じてくださりやがれ。
謎の覆面にさらわれて、椅子に拘束状態で座らされたのは、2時間前。
目に見える範囲で事足りるような狭い部屋に置かれているものは、無機質な黒いスピーカーと、椅子に縛り付けられた己だけ。
「唐辛子って、水飲んでもからーい」
「…………」
「生クリーム食べ過ぎると、気持ち悪くなーる」
「……………」
「片栗粉って、少しの水混ぜると面白ーい」
「………………」
「ポテチのちっこい欠片、歯茎に刺さるとかなりいたーい」
「…………………」
「バナナの筋だけ食べると、そんなに」
「おい」
耐えるという理性的行為が、わけの分からないような、若干共感してしまう様な、おかしな言葉に翻弄されてついに途切れた。
自分でも驚くくらい低い声で、スピーカーから流れ続ける声を遮ると、同じ声で同じスピーカーから文句が流れて来る。
「なんで途中で邪魔すんの」
「なんで邪魔されないと思ったんだ。かれこれ1時間以上はお前のどうでもいい言葉を、呪いのように聞かされ続けてるんだぞ」
「呪いなんて失礼な。どう聞いてもこんなきれいな声で紡がれる言葉が、呪いのわけないでしょ」
斜め上の方向に向けられた返答に、サクは思わずうつむいた。
ただでさえ、ストレス蓄積に長けた文言(と言っていいのかは分からないが)を、たしかに透き通るようないい声であったが延々聞かされていたのだ。耐久値も限界である。
「お前は誰で、何がしたいんだ?」
自分としては、この上なくまっとうな質問のはずだった。白くて狭いだけの空間にいて頭がおかしくなったかもしれないが、少なくともこの質問は、犯人と思わしき人と双方向にコミュニケーションを取れる被害者がかます質問としては真っ当のはずだ。
だが、しかし。
「僕は僕で、したいことをしているんだよ?」
そんな、一瞬納得してしまいそうになる暴論を返されては、質問の意味をなさない気がする。
そうじゃない…。そうじゃないんだ…。とは思うものの、じゃあ何なの?と聞かれればよくわからない。そもそも、自分はさらわれてここに連れてこられたのだ。記憶はないが。誘拐犯が営利目的ではないが、正体を明かすなんて真似はしないだろう。
だったら、質問を変えるまでだ。
「お前の名前は?したいことを具体的に教えてくれ」
「僕には名前が無いよ。したいことねぇ…說明を求められても、あんまり考えたりすることは好きじゃないんだ。ほら、僕ってば頭が悪いからさ。でもまぁ、今の僕は気分がいいから考えてあげよう。そうだね、今は君に一方的に共感しそうでどうでもいい事を、語尾を伸ばす感じで言うことかな?」
余計わからなくなった。
名前がない?意味がわからない。名前なんて、生まれた頃から持って然るべきものだろう。
考えるのが好きじゃない、頭が悪いから?頭が悪いにしては、随分と的確に人の嫌がるツボを抑えやがるじゃないか。
というより、共感しそうなどうでもいいことって、自覚してんのかよ…。
「んっんー?もう質問はおしまいかな?じゃあ、まだまだ続くよ。僕プレゼンツ、どうでもいいこと集」
自分の置かれた境遇を理解し、飲み込むために随分と思考を浪費したらしい。だんだんと考えることが辛くなってきた。今だけは、この理由の分からないプレゼンテーションに思考を委ねてみよう。
少しづつ、少しづつ。聞こえる声が遠のいていった。
分からない。作者は思いました。
コイツは何がしたいんだろう。
この話は何を伝えたいのだろう。
この話は何の生産性を持っているのだろう。
スピーカーのアイツは何者なのだろう。
名前がないとはどういうことだろう。
何がしたいのだろう。
やっぱコイツは頭がオカシイんじゃないか。
作者はね、物語が思いつくと下書きやプロットもなく完成させるタイプなんだけどね、作品の完成は、話が浮かばなくなった時なんだって。続きが存在しないし、今のポンコツじゃ、何も出てこないから、完成させちゃうんだって。いつか、名前のないスピーカーと、サクがどうなったのか、わかる日が来るといいね。作者はね、今はわかんないよ。いつか続きが浮かんでくるまで、のんびりヘドバンでもしていようかな。