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エスカロギア王国の動向

 少し時間は戻りレグスたちがラスキウスを出発した頃、エスカロギア王国王城では今後の娯楽都市ラスキウスの統治についての会議が開かれていた。部屋には一つの見事な装飾がされた円卓があり、その円卓を囲むように背の高い椅子に七人の人物が座っている。その七人が見つめる先には、部屋の扉の前に立った近衛兵団の団長であるレムレスの姿があった。レムレスはラスキウス粛清の報告と現状の説明を行っていた。


「…などの王制反対派と思われる証拠を掴みましたので、守護ドルミート及び、ラスキウス兵士長カリダスは処刑しました。」


 円卓の上には手記と血に塗れたアミュレットが置かれている。どちらもレムレスが持ち帰ったものである。手記はドルミートの屋敷から手に入れた物で、アミュレットはカリダスの遺体から持ってきた物だ。


「そうか、守護までもが反対派だったとは…」


 レムレスの報告を聞き、髭を貯えた初老の男が呟く。一番奥の席に座るその男がエスカロギア国王である。他の六人もこの国を支える重要人物たちであった。


「新たな守護を決めなければならんな。レムレスよ、ご苦労であった。」


 国王の言葉を聞き、一礼したレムレスは退室する。そのまま王城へ用意されている自室へと向かっていると、目の前の廊下の壁にできた影から一人の男が現れる。諜報や暗殺などを行う暗部の隊長ナリウスだ。二人は目を合わせずすれ違うように歩き、すれ違いざま周りに聞こえない程の声で話す。


「北の大森林で例の施設らしき場所を見つけたぞ。」

「そうか、詳しい報告は私の部屋で聞こう。」


 それだけ話すと、ナリウスはそのまま廊下を歩いていく。レムレスも自室へと向かった。自室へ着くと部屋ではロベリアが待っていた。


「陛下への報告は終わったの?」

「ああ、ここにいるということはナリウスから聞いたか?」

「ええ、今度こそ当たりだといいんだけど…」


 少しの間を置き、ナリウスが部屋に入ってきた。


「待たせたか?」

「いや、早速見つけた施設について詳しく教えてくれ。」

「ああ、部下からの報告があったから俺が直接見に行ってきた。中はかなり破壊されてたな。まあ、あの亜人が脱走した時に壊したんだろ。だが、レムレスの言っていたようにいくつかの区画に分かれてたらしく、無傷な場所がいくつかあった。中を軽く見てきたが、風化してるものも多かったが資料なんかも多少は残ってるようだったぞ。」

「どうやら今度こそ当たりのようね。」

「そうだな。早急に調査に行くとしよう。調査はロベリアに一任する。その方が対外的にもいいだろう。」

「私はいつでも行けるわよ。」

「よし、二人ほど兵士を付ける、自由に使え。ナリウス、それで場所はどこだ?」

「北の大森林にある結界手前の一軒家。おそらく例の亜人が住んでたと思われる家の地下だ。」


 調査計画を立てロベリアとナリウスは部屋を出る。部屋に一人となったレムレスは今後について考えていた。

(やはりレグスの家の下に研究所があったか。あの男が施設を放置するわけがないとは思っていたが。これでまた一歩目標に近付くな。あとは…)

 レムレスは徐に書斎の壁に掛けてある絵画を外す。絵画がなくなった壁には埋め込まれた金庫ような小さな扉があった。魔法による鍵がかかっており、レムレスの魔力でしか開かない構造となっている扉だ。レムレスはその扉を開ける。中には掌に乗るほどの小さな水晶の球体が置かれている。それをそっと手に持ち眺めた。


『我……だ…!…つ……こ……の…閉……お……だ!』

「相変わらずうるさいやつだ。」


 球体から僅かに聞こえてくる声にうんざりした様子でレムレスは呟く。


「まだ私では無理だな。覚醒を急ぐか…」

『…に……!』


 球体から聞こえる声を無視し、それを元あった場所へと戻した。再び扉を閉め絵画で隠すと近くに置いておいた外套を羽織る。


「さて、アルキミア王国にも種を蒔いておかねばな…」


 レムレスは部屋から出ていった。

 数日後、ロベリアはレムレスが手配した兵士二人を伴ってレグスが住んでいた家へと来ていた。


「ここね。入口は居間の床下だったかしら?」


 家へと入り、報告のあった地下への入口へと向かう。すでにナリウスが侵入した後だったが、罠を警戒しつつ奥へと進む。中は異世界の研究所を思わせる造りをしており、所々破壊はされているものの魔法による光源が生きている場所もあった。ロベリアは報告にあった無傷の区画を目指す。一つ、また一つと部屋を調査し残された資料などを回収していく。そしてある部屋に入ると、そこには机の上に置かれた小さなケースと、一枚の紙が置かれていた。紙は所々なにかで汚れ黒く染まっていたが、そこに書かれた内容は読み取ることができた。紙を一読したロベリアがケースを開けると、そこには筒状のカプセルに薄緑の液体が満たされていた。そしてそのカプセルの中に浮かぶものがある。それらを見たロベリアの表情は先程までとは違い歪んだ笑みが浮かんでいた。


「うふふ、いい物が残ってるじゃない。これがあれば…」


 カプセルの中には胎児らしきものが浮かんでいた。胎児らしきものの心臓はまだ生きていることを示すように脈打っている。

 ロベリアは施設から無事だった資料を回収し、ケースを片手に王都にある表向きは魔道具研究所となっている自身の研究所へと向かった。



 レグスたちが魔力操作の練習をしている頃、山脈麓の村からの馬車がラスキウスへと向かっていた。数人の村人を乗せた馬車は、ゆっくりとした速度で走る。

 ラスキウスへ到着すると、入り口を警備してた兵士へと話し都市内へと入った。大百足の顎を売却するため店を探すが、なかなか買い取ってもらうことができずにいた。そこへ一人の男が声をかけてくる。


「何かお困りの様子ですね。どうされましたか?」

「大百足の顎を売りに来たのですが買い取ってくださる店が見つからないのです。」


 応対したのは村人は突然話しかけてきた男を警戒しつつも説明をした。


「私は王都から来たものですが、大百足の顎は私が買い取りましょうか?ただ、少々安くして頂ければですが。」


 このまま顎を持ち帰ることもできないと判断した村人は、男の提案を受け入れることとした。顎を渡し相場より少し安い程度の金額を受け取る。


「では私はこれで。」


 どこからか借りてきた荷台へと顎を乗せた男は通りを歩き遠ざかっていく。まとまった金が手に入った村人たちはその金で手分けして食材を買いに行ったが、物資自体も少ないようで思ったよりも食材を買うことはできなかった。村人たちは買った食材を馬車へと乗せ、ラスキウスを出る。ラスキウスからしばらく離れたところで、一人の村人が呟いた。


「やはりあの旅人たちが言っていた通りにした方がいいんじゃないか?」

「そうだな、このままじゃ…」


 村人たちは暗い表情で俯いていた。食材を買うときも山脈麓の村から来たというだけで商品を見せてもらうことすらかなわないことがあり、明確な差別を感じていた。このままでは次に何かあれば自分たちは全滅するしかないのだと実感していた。重い空気の中ゆっくりと馬車を走らせていると、不意に街道脇から声がかけられる。


「おい、あんた達!」


 村人たちが声がした方を見ると、そこには帯剣した六人ほどの男たちがいた。村人たちは盗賊かと警戒し、馬車から降り持ってきていた鍬や斧を構える。


「ま、待ってくれ。俺たちはあんた達に話があるだけだ。」


 武装した男が言った言葉を聞いても警戒を緩めない村人たちを見て、男は諦めて話を続ける。


「あんた達の村に四人組の旅人が行かなかったか?亜人と人族の四人組だ。グラーティアって名前に覚えはないか?」


 そこまで話すと村人たちはようやく警戒を緩めたが、まだ武器は持ったままだ。そして、男たちへと話しかけた。


「あの方たちを知っているのですか?」

「俺たちは元ラスキウスの兵士でカリダス隊長の部下だった者だ。グラーティア様のことも、そして他の方たちも知っている。」

「カリダス様の…」

「隊長を知ってるのか?はっ!魔獣討伐依頼を出してきた村の人たちか!?」

「ええ、都市の状況はグラーティア様たちに聞きました。カリダス様のことも…」

「そうか。いや、魔獣討伐の依頼に行けなくて済まなかった。」


 そう言ってカリダスの部下だったという男たちは全員が頭を下げていた。その姿を見て、村人たちは構えていた武器を降ろす。


「魔獣についてはあの方たちが退治してくれました。もう気になさらずに。」

「そうか…」


 少しの沈黙の後、頭を下げていた男の一人が村人へと問いかける。先程まで話していた男とは別の男だ。


「これから皆様はどうされるおつもりですか?我々にできることがあるのでしたら手伝いましょう。」

「兵士としての仕事はどうされるのですか?」

「カリダス様のいない隊になどいられないと我々はラスキウスから出てきたのです。行く当てもないのでグラーティア様たちを追うつもりでしたが…」

「そうですか。我々はあの方たちの勧めで村を出てある場所へ向かおうかと相談していたところです。」

「魔族領、ですか?」


 元兵士の男にも容易く予想できた。グラーティアたちが勧める場所、そして村人たちの安全が確保できる場所となると魔族領しか思い浮かばなかった。


「ええ。飢えて死ぬくらいなら生きる可能性のある道を行こうと…」

「ならば我々が護衛をしましょう。このままこの国にいても粛清されるだけです。我々もともに魔族領を目指すとしましょう。」


 その言葉に他の元兵士たちも頷いた。村人たちにとっても元兵士が護衛となることに異議を唱える者もいなかった。こうして、山脈麓の村の村人たちと、カリダス配下だった元兵士たちは村へと向かい、他の村人たちを連れ魔族領を目指す。途中、グラーティアが手配した魔族領からの護衛も付き無事に魔族領へ到着することとなる。


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