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国境の山脈へ

 討伐の疲れも多少はあるため、村人たちの好意に甘えることにし、その日も村に泊まることとなった。村長宅の空き部屋で昼辺りまで仮眠をとっていたレグスが目を覚ます。家の外からは人の声が聞こえ、この村に到着したばかりの頃とは全く別の雰囲気を感じる。時刻は正午を過ぎていた。


「あら、起きてたのね。」


 部屋をノックし入ってきたのはグラーティアだった。


「今起きたところだ。」

「そう、丁度良かったわ。村長が食事の用意ができたって。」

「そうか。」


 部屋を出てグラーティアと共に食卓へと向かう。窓から村の様子を窺うと、畑を耕す者や外で遊ぶ子どもたちが見えた。


「平和だな。」

「そうね。」


 二人で少しの間、村の様子を眺め居間へと向かった。食事は並べられており、フェレスとウィルは座って待っていた。食事の材料はレグスたちの食材ではなく村の物が使用されている。気にする必要はないと伝えたのだが、討伐のお礼ということで村長が頑なに譲らなかった。


「遅ぇぞ。」

「悪いな。村の様子を少し見てた。」

「さあ、温かいうちに召し上がってくだされ。」


 村長に勧められ食事をする。質素ではあるものの村で採れた野菜を使った料理を堪能した。

 食事も終わり皆で片付けを手伝った後、居間で村長を交え話をしていた。


「村長、明日には村を出るつもりだが何か問題があるなら言ってくれ。今日中にできることがあれば手伝おう。」

「いえいえ、これ以上頼むのは申し訳のうて。」

「ちょっといいかしら?」


 グラーティアが何かに気が付いた表情で村長へと話しかける。


「兵士に討伐依頼を出していたのよね?どこの都市へ依頼を出したの?」

「ここから最も近い都市であるラスキウスですじゃ。兵士長のカリダスという方ができる限り早く兵を出すと言っておりました。」

「やっぱりラスキウスだったのね…」


 ラスキウスは先の騒動で都市機能は停止、今現在は立て直しを行ってる最中だった。そして、都市の兵士は全員ではないが王都へ連行もしくは粛清された者もいる。村長の討伐依頼を聞いたカリダス自身はレグスたちの目の前で殺された。待っていたとしてもこの村への派兵はなかったと予想できる。


「ここから他の都市は遠い、当然と言えば当然か。だが、時期が悪かったな。」

「そうね、私たちはラスキウスから来たのだけど、今ラスキウスは守護不在で王都が色々と対応しているところなのよ。」


 ラスキウスの現状を村長へと伝える。王都が粛清と称し襲撃したことや、亜人や獣人たちに退去を命じ都市外へ追放したこと。そして、現在は王都が都市を管理しているということを説明した。


「そんなことに、にわかには信じられませんな。」

「そうだろうな。見ていなければ信じられないだろう。」

「カリダスも、その騒動に巻き込まれ亡くなったわ。私たちの目の前でね。」

「なんですと!」


 自分たちが討伐を頼みに行った際、快く受けてくれた兵士長がすでに死んでしまっていたと聞き村長は動揺していた。


「やはり、この村まで情報は届いてないか。こんな状況だ、行商も来ていないのだろう?」

「ええ…」


 村長は暗い表情のまま黙ってしまった。大百足の顎を用意したはいいが、今のラスキウスで買い取りは難しい思われる。行商でも訪れてくれれば買い取ってもらえるかもしれないが、その望みは薄かった。今の村には馬車もなく顎を運ぶことも難しい。


「俺たちの馬車を使って売りにとも思ったが、ラスキウス以外に売りに行くところはないか。人族であればラスキウスでの取引は可能だろう。村長、今から作物が育つまで持たせるほどの蓄えはあるのか?」

「残念ながら…」

「狩猟をしようにも大百足が食い荒らした後ではな…」


 次に作物が実るまで村人全員が食べていけないのは火を見るより明らかだった。ここまで関わっておいて見捨てるわけにもいかず、何か手は無いかと考えているとグラーティアが一つの案を出した。


「どちらにしても厳しいのであれば、魔族領へと行くのはどうかしら?ここから山脈沿いに北へ行けば、大百足が食い荒らしていたことを考えると魔獣も少ないんじゃない?北の荒野に入らなければ大丈夫だと思うわ。まあ、村人たちに亜人や獣人に対して偏見がないのであれば、なのだけど…」

「グラーティア、魔族領での受け入れは大丈夫なのか?」


 少数だが現在の魔族領に住む亜人や獣人の中には、人族に迫害され憎しみを持っている者もいる。それを知っているレグスはグラーティアへと問いかけた。


「問題無いわ。使い魔を魔族領へ飛ばしておけばいいでしょう。それにレグスや私の名前を出せば悪いようにはしないわよ。」

「そうか、まあ一つの案だな。道中、多少は魔獣の襲撃もあるだろうし、どうするか決めるのは村人たちだ。」


 最終的には村人たちが決めることである。村長は少し考え口を開いた。


「村の皆と相談してみないと何とも…」

「そりゃそうだわな。レグスもグラーティアも無理言いすぎだろ。生まれ育った村を捨てるのは難しいもんだぞ。それに魔族領までの道のりも楽じゃないだろ?」

「そうだな。」


 話はここまでということで、それぞれ居間から出て行った。グラーティアは外で使い魔の蝙蝠に手紙を持たせ、魔族領への連絡準備をしていた。フェレスは村の子ども達と遊んでいる。レグスがその様子をのんびりと眺めていると、隣にウィルが現れた。


「どうした?考え事か?」

「ああ、とりあえず村人たちがどの選択をしてもいいように俺たちの馬車は置いていこうかとな。多少時間がかかるが、山越えのことも考えるとその方が色々と都合がいいだろう。」

「まあ、よく使われていた昔ならいざ知らず、今は誰も使ってないような山道なんだろ?馬車が通れない可能性もありそうだしな。」「大百足の顎を持ってきたが、逆に邪魔になってしまったか…」

「まあ、結果的に選択肢が増えたんだしいいんじゃないか?」


 二人が話をしているところへ、使い魔を飛ばしたグラーティアが歩いてくる。


「二人で何をしているの?」

「これからどうするか話していただけだ。」

「馬車は置いて歩きで山越えだとさ。」

「そう、いいんじゃないかしら?村の様子を見る限り、山道なんて誰も手入れしてないでしょうし。それに村のためでもあるんでしょ?」

「馬車があれば村人たちも選択肢が増えるだろう。それに、隣国への洞窟については少し気になることもあるしな。」

「なんかあんのか?」

「例の心配事かしら?」

「ああ、行ってみないことにはわからないがな。」


 レグスには山道、そして大百足が住み着いてたと思られる隣国へと続く洞窟に気掛かりなことがあった。だが、海路へと変更しようしても、馬車を置いていくことを考慮すると時間がかかり過ぎてしまう。結局は山道を行くしかなかった。

 その日の夜、村人たちは集まって今後について相談をしていた。レグスたちは明日の朝から出発するため、そして相談の邪魔をしないよう早々に眠ることとした。

 夜が明け、朝食を済まし村長宅を出ると、家の前には村人たちが集まっていた。見送りにと一緒に家を出た村長が、集まった村人たちの前に立ち、レグスたちの方へと向いた。


「皆さま色々とありがとうございました。」


 一斉に村人が頭を下げた。


「我々は大百足の顎を持ってラスキウスへ行ってみますじゃ。」

「そうか。街道沿いは安全だろう、俺たちが使っていた馬車は使って構わない。気を付けてな。」

「はい。ですが、状況次第では魔族領へ向かおうと思っております。皆さまの話を聞く限り、何かきな臭く感じますのでな。」

「そう、私の方からも連絡を入れておくようにするわ。レグスか私、グラーティアの名前を出せば大丈夫よ。」

「重ね重ね、ありがとうございます。旅のご無事を祈っております。」


 村人たちに別れを告げ、レグスたちは西の山脈を目指す。フェレスが仲良くなった子供たちに手を振る。村人たちは見えなくなるまで見送るつもりのようだ。

 村から山脈までの街道は、使われなくなったとはいえ多少荒れてはいるものの、馬車で通ることができる程度に道は残っていた。その道を歩く。村が見えなくなったころ、ウィルが話し始めた。


「しっかし、歩きとはなぁ。この世界には空を飛べる乗り物とかないのか?」

「浮遊魔法すら確立されていないのに、空を飛ぶ乗り物があると思うか?」

「そうか、そうだよな。ん?でもなんでレムレスたちは使えたんだ?」


 ラスキウス襲撃時に転移者たちが浮遊していたのを思い出し、ウィルが疑問を投げかける。


「ギフト、ってわけじゃないだろうしな…」

「昔、魔王様も言ってたわね。『なんで、異世界人の連中は浮遊魔法を使えるんだ!』って。」

「異世界人と俺たちとで何か違うのか?」

「うぅん、この世界と異世界との違いなんて魔獣がいるいないと魔法があるないくらいじゃないか?実際に今まで見てきただけでも、同じ動物に同じ食べ物だしな。まあ、食材は同じだけど料理については異世界の方が上だな。」

「ほう、料理は異世界の方が上か。これはウィルに作ってもらう必要があるな。」

「そうね、楽しみだわ。」

「おいしい料理食べたい!」

「俺は料理なんてしたことねぇよ!」


 ウィルの言葉に全員が反応する。流石に美味い料理というものには興味が惹かれた。


「まあ、異世界人が昔から現れていることを考えると、どこかで異世界の料理も食べられそうだな。機会があれば探してみるか…」

「いいねそれ!私も行きたい!」

「そんなに食いたいのかよ!」

「ふふふ、どうせあちこち行くのだし探してみてもいいんじゃないかしら。本来の目的を忘れなければね。」


 色々問題を抱えた自分たちの現状では楽しく旅などしていられないが、世界をまわる目的の中にも楽しみができた。その後も歩みを進める。まもなく山道へと差し掛かるころ、考え事をしている様子のウィルが気になり、レグスが話しかける。


「どうしたウィル?」

「うぅん、この世界と異世界の違い。ずっと、なんかひっかかってるんだよなぁ…」


 ウィルは考えていたことを話し始める。


「この世界と異世界が似すぎてるんだよ。いろんなものが。文化や技術に関しては明らかに異世界の方が上なんだけどさ。環境による違いが多少はあるけど、動物、植物は同じものが殆どだし。魔獣にしても共通点があるんだよ。確かに異世界には魔獣なんていない。でも神話や伝承としてその存在は語られてた。その神話や伝承とほぼ同じ生物が魔獣としてこの世界にはいる。どう考えても偶然だとは思えないんだよなぁ。」


 ウィルから見てこの世界の動物、そして植物はどう見ても異世界、元居た世界のものと同じであった。転生してからの生活でもその違和感を感じていた。そこへ、ラスキウスで聞いたレムレスの言葉でさらに違和感が強まった。


「確かに、不自然だな。ウィルの全く知らない魔獣とかは見たことないのか?」

「俺も流石に神話や伝承すべて知ってるわけじゃないからな。そこは何とも言えない。大体、神話や伝承だって作り話の可能性の方が高いんだぞ。子どもたちへ教訓を伝えるために作った話だったりな。」

「そうなると、その辺りのことがレムレスの言ってた『世界の真実』に繋がる可能性があるのか。」

「神様もいる世界だ。何があっても不思議じゃないだろ。でもそこがわかれば、確かに近付けそうだな。」


 ウィルの知識は『世界の真実』に近付くためには必要だとレグスは感じていた。そして、ラスキウスでレムレスがレグス以外を生かした理由もそこにあるのではないかと考え始めていた。


「そういえば、異世界は神がいないのか?」

「いると言われてた。」

「言われてた?」

「自分の目で見た訳でもないし、観測されたわけでもないからな。いるいないの確証は無いさ。この世界は異世界から来る途中で神様に会ったから俺はいるって断言できるぞ。まあ、自称だったけどギフトみたいな馬鹿げた能力くれるくらいだし神様なのは確かじゃないか?」

「まあ、そうだろうな。」

「確証がないって点では神話や伝承の生物と同じだな。その辺りは本当のところどうなのかはわからん。この世界を見てると異世界でもいたんじゃないかと思えてくるぜ。」

「【解析鑑定】でその辺りのことはわからないのか?」

「そんな便利な力じゃねぇよ。人なら種族や個体名、動物なら例えば、馬・なんたら馬みたいに分類名と名称、魔獣なら名称だけ、あと持ってる力なんかが…」


 途中で会話を止め、ウィルは何かに気付いたのか考え込んでしまった。


「どうした?」

「なんで魔獣は名称だけなんだ?この世界の生物なら動物と同じように、大まかな分類と種の名称があってもおかしくないんじゃないか?特殊な能力や状態なんかは同じようにわかるんだけど。なあ、この世界に名前のついていない魔獣っているか?」

「さあどうだろうな。いてもおかしくないだろう。俺もすべて知ってるわけではないからな。それに動物と魔獣はそもそも違うものかもしれないしな。」

「そうだよな。名称のない魔獣に【解析鑑定】使ってみれば何かわかるかな?でも、この前見せてもらった魔眼の戦斧は【解析鑑定】しても魔眼の戦斧って結果だったしなぁ、この世界での呼称になる可能性が高いか。あ、でも、レグスの種族は不明だったな。わかんねぇことだらけだ。」

「不明か。まあ、今わからないことをあれこれ考えても仕方ないな。まずは妖精族の知識に期待しよう。」


 数日歩き、たどり着いた山道入口付近で今日は野営することとなった。まだ時間は正午過ぎではあるが、ここから山脈を貫く洞窟まで休憩なしで進む予定のため、夜が明けてから出発することとなった。現在は道中で使う薪などを補充するため、皆で拾い集めている。そんな最中、何かを決心した表情でフェレスがレグスへと話しかけた。


「レグスさん、私に魔法を教えて。」

「そうか、そういえば教える約束だったな。それに使えるようになれば洞窟でフェレスの力が役に立つ可能性もあるか。わかった、夜まで時間があるし練習だな。」

「やったぁ!」

「俺にも教えてくれないか?実は魔法を習ったことがなくてな。」


 フェレスとの会話を聞き、ウィルも教えてくれと言ってきた。しばらく考え、レグスは答える。


「それならグラーティアにも手伝わせるか。そうと決まればさっさと薪を集めるぞ。」

「は~い!」

「おうよ!」


 早々と薪を集め、グラーティアが待つ野営場所へと戻る。薪はすでにウィルの【空間収納】へと入れてあった。予定より早く戻ってきた三人を見てグラーティアが軽く驚いた表情をしていた。


「あら、早かったわね。」

「魔法を教えてほしいらしい。フェレスには約束してたんだが、ウィルも便乗してきてな。」

「ふふふ、それでこんな早く済ませてきたのね。それなら、食事の支度だけでもしてしまいましょう。」

「そうだな。」


 グラーティアの言葉に頷き、全員で食事の準備を始めた。



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