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旅立ち

 グラーティアの館、応接室に入り思い思いに座る。全員表情は暗かった。ストラとベスティーは全員分の飲み物を用意するために部屋を出る。最初に口を開いたのはグラーティアだった。


「みんな無事でよかったわ。レグス、ウィルを助けてくれてありがとう。」

「そういう約束だ。」

「約束じゃなかったら俺、殺されてたわけか?」


 場の空気を和ませようとウィルが冗談を言う。


「そうだな、その方が楽だった。」

「酷いな!」


 笑いあっていると、全員分の紅茶をトレイに乗せたストラとベスティーが部屋へと入ってくる。全員に紅茶が行き渡るとグラーティアが話を始めた。


「これからどうしたものかしら?」

「俺は、当初の予定通りにアルキミア王国へ行く。多少危険だが、山を越えればアルキミアへはすぐだしな。」


 エスカロギア王国、その東に隣接するアルキミア王国。両国の間には険しい山脈が南北へと伸びる。そこが国境となり、お互いの領土を守る天然の城壁にもなっていた。両国間の移動は山脈南方にある海を船で渡るのが一般的だ。山脈北部は平地ではあるものの荒野となっており、アンデッドや強力な魔獣が徘徊する危険な土地のため、人族はおろか亜人や獣人でさえ通らない。過去、交易に使われた山を越える道も存在するが、こちらも魔獣が多く生息するため、現在は使われることがない。


「フェレスはどうする?こんな状況だ、魔族領の猫人族のところへ行ってもいいんだぞ?」

「私はレグスさんと行くよ?そう言ったじゃない。」

「それなら、私もついて行こうかしら。レムレスの言ったことも気になるから。ただ…」


 グラーティアは嫌そうな顔をしながら続ける。


「アルキミア王国ってことは、あの女に会うのよね…」

「あの女?」


 グラーティアの言葉にフェレスが首を傾げ問いかける。言いたがらないグラーティアの代わりにレグスが答えた。


「妖精女王だ。グラーティアとは仲が悪い。まあ、お互いに認めてはいるようだが…」

「へぇ、妖精女王かぁ。って四人の亜人の王の一人でしょ?生きてるの?」

「いや、二代目だ。妖精女王になる前からグラーティアとは仲が悪かったんだ。」


 フェレスに説明をしていると、グラーティアは何か考えがまとまったようだ。


「まあ、妖精族に会うのは手ではあるわね。長生きだから何か知っているかもしれないし。」

「そういうことだ。そこであまり手掛かりがなければ巨人族にも会いに行くつもりだ。どうせ、話をしに行かなければいけないところだしな。」

「そうね。長旅になりそうね…」


 ある程度の予定を立てていると、これまで黙ったままだったウィルが話しかけてきた。


「なあ、レグス…」

「なんだ?」

「妖精族ってエルフもいるのか?」

「ん?ああ、いるぞ。友好的な妖精や精霊たちがいる場所だ。ただ、黒小人だけは別の場所にいるな。」

「エルフかぁ。それよりも、黒小人ってどんなやつらなんだ?」

「昔、転移者がドワーフと呼んでいたな。」

「なっ!?まさか白小人と茶小人なんてのもいるのか?」

「ああ、いるぞ。よく知ってるな。」


 驚き黙り込むウィルへグラーティアは不思議に思い問いかける。


「確か、ウィルの知り合いにドワーフがいるって言ってたわよね?その人から聞いたの?」

「いや、前世の世界、俺の住んでた国とは別の国の伝承にホワイトドワーフ、ブラウンドワーフ、ブラックドワーフってのがあったんだ。ホワイトは白色、ブラウンは茶色、ブラックは黒色を意味してる。ナックラヴィーといい、昔の異世界人が名前でも付けていったのか?」

「ねぇ、他の色のはいないの?」


 フェレスの質問にウィルも興味がある様子でレグスを見ている。


「いや、その三色だけだ。知られていないだけかもしれないけどな。世界は広い、未だに知らない種族がいたとしても不思議ではないだろう。そうだ、俺もウィルに聞きたいことがある。」


 ふと思い出したかのようにレグスがウィルへと問いかける。


「あの商人に化けてたやつが使った、信号弾だったか?それを放った物はなんだ?」

「ああ、あれは信号拳銃って言われてるやつだ。信号弾なんかの特殊な弾を撃つ専用の銃だな。」

「銃?」

「銃は俺のいた世界、面倒だから異世界でいいか。その異世界の武器さ。簡単に言えば弾丸を飛ばして攻撃する遠距離武器、弓矢なんて比にならない距離まで届くし、人ぐらいなら簡単に殺せてしまう代物だ。」

「異世界も物騒だな。しかし銃か、詳しい構造とかは知らないのか?」

「そこまでは俺じゃわからん。さっき話に出た知り合いのドワーフ、ファベルって言うんだが、そいつなら知ってると思うぞ。なんせ武器マニアの転生者だ。」

「ほう、会ってみたいもんだ。」

「今、どこにいるのかわからんけどな…」

「さて…」


 手を一回叩き、グラーティアが話を戻す。


「とりあえず東に向かうとして、旅路に必要なものを準備しましょう。あ、そういえばウィルはどうするの?」

「ん?俺もついてくぜ?妖精や精霊なんて見たことないしな。特にエルフは見てみたい。」

「はあ、気楽な理由だな…」


 ため息をつくレグスとは対照的に楽し気なウィル、その二人を眺めつつグラーティアは今後の予定を話し始めた。


「ストラ、ベスティー、二人は魔族領へ行きなさい。領土の守りを固めておくこと。私が戻るまで任せるわよ。」

「「かしこまりました。」」

「馬車は私が用意するから、レグスたちは食料や必要な物を買ってきて。あ、フェレスちゃんは私と一緒に馬車の準備をしましょう?」

「は~い。」

「仕方がない、さっさと準備をして向かうとしよう。」

「買い物か、面倒だな…」

「ウィル?」


 ぼやいたウィルにグラーティアは笑顔のまま睨みつけた。


「はい、頑張って準備させてもらいます!」


 気圧されたウィルは立ち上がり直立不動のまま答える。その様子をレグスとフェレスは苦笑いしながら眺めていた。

 一夜明け、レグスとウィルは商店街を歩く。開いている店は疎らではあるものの、一応は営業しているようだった。グラーティアから預かった資金で数日分の食料を買う。量が多いため、荷台を貸してもらい運ぶことにした。


「随分と買ったなぁ。」


 荷台をひくウィルが、買い込んだ食料を見る。


「山越えだからな。これでも持つか少々心配だ。」

「そうなのか?」

「山の麓に小さな村があるが、そこでの食料調達はおそらく無理だ。村人が食べるだけで精一杯だろうからな。山越えまで持たせなければいけないが、最悪食料は現地調達だな。」

「マジかよ。でも、それはそれで楽しそうだな…」

「本当に気楽な奴だ。」


 他愛のない会話をしつつ、館へと食料を運んでいると館の前に馬車が止まっているのが見えた。二頭引き四輪の屋根付き荷馬車だ。準備をしていたグラーティアはレグスたちに気が付くと、何かあったのか複雑な表情をしていた。フェレスは馬を撫でている。


「食料買ってきぜ。」

「ありがとう。」

「どうした?何かあったのか?」

「それがね、山越えに耐えられるような馬車が見つからなかったのよ。このままだと山越えは歩きね。そうなると運べる食料に問題が…」


 用意された馬車を眺める。平地を移動することを前提とした作りなうえに、馬は二頭。荷物の重さを考えると、馬の力も荷馬車の耐久性も山越えには不安があった。


「確かに、麓までは問題ないだろう。だが、二頭引きでこの量の荷物を乗せて山越えは無理だな。」

「あのさ、荷物を別空間に保管するような魔法はないのか?」


 何気なく問いかけてくるウィルへレグスは答える。


「空間に関する魔法は実用に耐えるものは無い。」

「そうなのか。なあ、俺の【空間収納】に食料や荷物入れて行けばこの馬車でも山を越えられるか?」

「【空間収納】?」

「ああ、俺のギフト【空間支配】って言うんだが、それの権能の一つに【空間収納】があるんだよ。まあ、中に入れておいても腐る物は腐るんだけどな。」

「それは構わん。積荷の重さがなければ、いけるか…」


 幸い、全員軽装備ということもあり積荷がなくなれば馬への負担は大きく軽減される。四人の重さだけで考えれば運ぶことは可能だと判断できた。


「それで行こう。無理そうなら山の麓で馬車から歩きへ変更だ。【空間収納】があれば歩きでもそこまで負担はないだろう。唯一の人族であるウィルも普通ではないしな。」

「サラッと人を貶すのやめてくんない?」

「転生者が普通の人族と同じと言うのか?他の人族に謝ってこい。」

「ソウデスネ。ゴメンナサイ。」


 二人の言い合いを見ていたグラーティアが手をパンパンと叩き準備を促す。


「となれば、この馬車でいいわね。じゃあウィル、その食料と馬車に乗せてある荷物をお願いね。」

「はいよ。」

「グラーティア、御者はどうする?俺はできないぞ。」

「それもウィルに任せるわ。前にできるって言ってたわよね?」

「ああ、子供の頃に叩きこまれたぜ。任せとけ。」

「となると、あとは山脈の魔獣対策に武具くらいかしら?」

「俺は必要ない。」

「俺もギフトがあるし必要ないなぁ。剣は闘技場で貰ったのがあるし。」

「私もレグスさんが作った短剣があるから問題無いよ。」

「私は武器は使わないし、全員大丈夫そうね。それじゃ、準備を終わらせてしまいましょう。」


 各々が準備を始める。ウィルが開いた【空間収納】へと荷物を入れ、運ぶのに使った荷車を返しに行く。ふとフェレスがレグスの背中を見ていた。


「どうした?フェレス。」

「装備の話してて思い出したんだけど、レグスさんの服、刺された時の穴がないなぁって思って。」

「ああ、獄龍の鱗は体から離れても再生能力を持っている。それで作ってあるからか、多少の傷くらいなら服自体も再生するようだ。ただ、獄龍の鱗ってのが厄介で装備自体が装備者を選ぶようになってしまっているがな。」

「へぇ、なんか便利だね。私もそういう服欲しいな。」

「妖精族の里に行けば何か面白いものがあるかもな。」

「うん、楽しみにしとく。」


 その後、準備は順調に進みいつでも出発できる状態となったが、今日はすでに日が傾いているため出発は早くても明日以降となった。その夜は、すでに魔族領へ向かった二人を抜いた四人で食卓を囲む。


「この館で過ごすのも終わりね。流石に寂しいものがあるわ。」

「長く住んでいれば思い入れもあるだろう。なんならグラーティアは残るか?」

「嫌よ、未来の王が道を踏み外さないように監視しなくちゃね。」

「酷い言われようだな…」

「フェレスもいるし、お目付け役ばっかだな。ハハハ。」

「あなたも監視対象よ、ウィル。また操られたりしたらたまらないわ。」

「アッ、ハイ。」


 そんなやり取りをしつつ食事も終わり割り当てられた部屋へと引き上げる。ベッドへと横になるレグスはレムレスの言葉を思い出す。


『貴様がソレを持っているとはな』


 思い当たる節はなく、何とも言えない気持ちで天井を眺めていた。

(おそらくはウィルが言っていた【解析鑑定】を使ったのだろう。だが、ウィルはそんな反応をしなかった。あいつの【解析鑑定】はウィルのものとは違うのか?それともウィル自身にとっては、それほど反応するものではなかったのか。ギフトも使いこなせるかどうかは本人次第のようだし、おそらくは前者なのだろうな。ウィルが能力を使いこなせるようになれば、これもわかるか。)


「世界の真実か…」


 レグスは目を閉じ、眠りにつく。

 朝、目を覚ましたレグスは館内を歩く。すると館の玄関でグラーティアが一枚の紙を見つめ立っているのを見つけた。


「あら、おはよう。今巡回の兵士が来たのだけど、どうやら早々にこの都市を出ないといけないみたいよ。カリダスの埋葬まではいたかったのだけど…」


 そう言って手に持った紙をレグスへと渡す。その紙を見てレグスの表情も険しくなる。


「都市の亜人、獣人の退去命令、従わない場合は処刑。人族に対しては亜人と獣人の引き渡しが強制されるわけか。ここで王都の兵士たちともめれば無事だった人族にも迷惑がかかるな…」

「残念だけど準備が出来次第、出発しましょう。」


 起きてきたフェレスとウィルへ退去命令について説明し早々に出発の準備を始める。幸いほとんどの準備が前日に終わっているため正午前には都市を離れることができる。馬車へと乗り込み都市の東門へと到着すると警備をしていた兵士が話しかけてきた。


「グラーティア様、そして皆さん。都市から追い出してしまう形になってしまい申し訳ありません。」

「気にしないで。私の館は好きに使っていいわ。」

「はい。お元気で。」


 そう言って兵士は頭を下げる。一行はラスキウスを離れ国境となっている山脈を目指した。


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