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誘拐阻止

 エスカロギア王国北東部に位置する大森林。その静かな森の中、男は気配を消し周囲へ注意を払いつつ歩いていく。男が音を立てないよう注意しつつ藪を抜けると、そこは少し開けた場所になっていた。視線の先には猪が地面を掘り起こし何かを食べている。男がいる場所は運よく風下になっていた。これならば匂いで猪に気付かれることはない。男はフードを深く被り直し、身を低くする。

(やっと獲物がいたか、ここ数日何も獲れなかったからな。あれだけ大きければ2、3日は食べていけそうだ。)

 男は狩猟用の手斧を持ち、静かに近づいていく。猪は何かを食べるのに夢中でこちらには気がついていない。しかし、手斧を振り上げいざ飛びかかろうとしたとき、森の奥から大声が聞こえてきた。


「待て!おとなしく捕まりやがれ!」

「逃げんじゃねぇ!」


 その声に驚いた猪は、森の奥へと走り去ってしまった。男はその後ろ姿を見ながら項垂れる。


「ああ、逃げられた。やっと肉にありつけると思ったのに。それにしてもなんなんだ?」


 猪が逃げた文句でも言ってやろうと声がした方へ向かう。猪が逃げたのとは逆方向だ。少し歩くと何かから逃げるように走る少女を発見した。少女には猫科動物に似た耳と尻尾が生えている。ようするに亜人だった。

 猫人族、高い平衡感覚と素早い動きが特徴の種族だ。

 歳は人族で言うところの17、18歳くらいに見える。少女の少し後を武器を持った二人組の男が追いかけていた。フードを被った男は気付かれないように木の枝へ飛び移り様子を窺う。少女は足をもつれさせ転び、男たちに詰め寄られた。男たちは身形や言動からしてごろつきの類の様だ。一人は斧、もう一人は剣を手にしていた。木の枝を慎重に渡っていき気付かれないように男たちの会話を盗み聞きする。


「依頼主に怒られねえうちに、さっさと捕まえて戻るぞ。」

「ちょっと手伝うだけで金が貰えるんだ。おいしい仕事だぜ。」


 ごろつき風の男たちは少女を誘拐しようとしていた。剣を持った男がゆっくりと少女へ近付いていく。その様子を見ながらフードの男は考える。

(亜人は一般的な人族より身体能力は上だ。猫人族はただでさえ種族的に素早く、人族に追いつかれることはまずない。ただでさえここは森の中だ。猫人の方が有利な場所で、こんな風に追い詰められることはないはずなんだけどな。)

 フードの男が少女を観察すると、少女の精神が恐慌状態にあることに気が付く。

(怯えていているのか?追われているだけでそこまで怯えることはないだろう。面倒なことになっていそうだ。)


「おとなしくしてろよ、王都に戻ったら猫人好きが可愛がってくれるだろうぜ。」


 下品な笑いと共に剣を持った男が少女の腕を掴む。少女は絶望的な表情になりながらも必死に抵抗するが、身体に力が入っていない。

(最近、この森が騒がしいのはこいつらみたいな誘拐が目的のやつらが来ていたのか。獲物が獲れなかったのもそのせいだな。ここで猫人の少女を見捨てるわけにはいかない。ついでにこいつらにも少し話を聞いてみるか。)

 少女を助けるため木から音を立てずに降り、少女の腕を掴む男の側まで気配を消して歩いていく。気配を消していたとはいえ、気付かれることもなく簡単に真横まで行くことができた。

(こいつら、気付かなすぎだろ。冒険者や盗賊なら気がついてもいいと思うんだが、警戒心がなさすぎる。その点はさっきの猪の方が優秀だったな。それにしても、この男どもの笑い方は不愉快だ。)


「おい、楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ。」


 そう言って少女を掴む男の腕を折れない程度に握り締める。突然現れたように感じたのか、男はひどく驚いた顔でこちらを見た。斧を持ったもう一人の男は呆気にとられた表情でこちらを見ている。


「なんだてめぇは!痛ぇ!放しやがれ!」


 剣を持つ男は少女の腕を放し、突然現れた男の頭目掛けて剣を振り下ろした。少女側へと剣を避け、今も立てずにいる少女を抱えながら距離をとる。剣を躱す拍子にフードが外れ、男の姿が露わになった。


「おまえら、俺の住んでいる森で好き勝手してるようだな。」

「何言って…」

「赤い目に黒い角!?」

「こいつ、依頼主が言ってた森の奥に住む亜人じゃないか?」


 フードが外れ赤い目と髪の流れに沿うように生える黒い角が露わになった。その姿を見て、ごろつきどもは動揺していた。

(どうやら俺のことを依頼主とやらから聞いているようだな。そっちもあいつらから聞き出そうか。)

 未だ何が起こったのかわかってない猫人の少女は、驚愕の表情で突然現れ自分を助けた亜人を見ている。何か言おうとするが、うまく声が出せずにいた。


「とりあえず話を聞くのに二人も要らないな。頭の悪い方は消えてくれ。」

「ふざけんな!てめぇを捕えれば貴族にすらなれるんだよ!」

「おとなしく捕まりやがれ!」


(話からして、俺個人が誰かに狙われているようだな。そんなに悪いことはしてないはずだなんだが。)

 ごろつきは左右に分かれ、徐々に距離を詰めてきていた。斧を持つ男が懐から何かを取り出す。それは、暗い紫色をした玉だった。玉には魔力のようなものが纏わりついているのが見える。男たちや少女にそれは見えていないようだった。

(あれは、魔道具か?そうなると、先に始末するなら斧の方だな。もう一人も持っている可能性もあるか。おそらく俺には無意味だろうけど。)

 亜人はそっと少女をおろし、斧を持つ男の方へと向き直る。剣を持った方が少女を捕える可能性もあったが、未知の魔道具の処理を優先する。


「おとなしく帰る気はないんだな?片方は見逃してもよかったんだが。」

「ハッ!てめぇもこの魔道具で…」


 亜人の男は素早く斧を持つ男の懐へと飛び込み、その勢いのまま鳩尾へ拳を打ち込む。狙われたごろつきは亜人の男が消えたように感じ、全く反応できていなかった。衝撃により呼吸困難に陥りその場に崩れ落ち、手に持っていた玉が地面へと転がる。亜人はその玉を拾い上げた。


「それを返しやがれ!」


 剣を振りかざし背後から襲い掛かってくる男を振り向きざまに蹴り飛ばす。男は剣を落とし背後の木へと叩きつけられ気を失った。亜人が振り返ると、先程殴り倒した男が這いながら逃げようとしているのが目に入った。足元に落ちている剣を拾い上げ這う男へと近付く。逃げようとしている男は背後に立つ亜人に気付き命乞いをしだした。


「許してくれ、もう亜人に手を出さない。この森にも入らない。」


 亜人は男に剣を突きつけ問いかける。


「仲間を見捨てて逃げるつもりだったのか?」

「あ、あいつは今回の襲撃で初めて会ったやつだ。助けるいわれはない。」

「今回の、か。ここ最近森が騒がしかったのは、やはりおまえたちが原因か。」


(襲撃ということはこの少女だけでなく猫人の村そのものを襲った可能性がある。そういえば、ここから一番近い村は猫人の村だったな。それに、今回の、ということは他の亜人たちの村も襲撃された可能性が高い。村を狙うなら襲撃に加わったのはごろつきだけではないかもしれない。いったい何が起きてるんだ?)


「詳しくはあっちで気を失っているやつから聞くとしようか。」


 目の前に立つ亜人の言葉にごろつきは自分が殺されることを悟る。必死に逃げようと這い出すが、逃げ切ることができるわけもなく首を切り落とされた。もう一人の意識は戻っていないことを確認し、亜人は拾った玉を調べ始めた。

(これはまた無理矢理な作りだな。魔法適正の高い水晶に無理矢理魔法を組み込んだ、いや組み込むというよりはねじ込んだと言った方が合ってるな。一般的な魔道具製作を生業にしている者が作ったわけではなさそうだ。これが少女を怯えさせていたのだろう。おっと忘れてた。)

 亜人は地面に座る少女へ近づき話しかける。


「あ、うう…」

「すまないな、もう少し我慢していてくれ。」


 うまく喋れない少女は亜人の言葉に小さく頷く。亜人はそれを確認すると、腰に付けた狩りに使う予定だった縄で未だ気を失っているごろつきをもたれている木にそのまま縛りつける。そこまでしても起きないごろつきを眺めながらつぶやいた。


「起きないな、強く蹴り過ぎたか?死んではいないようだし水でもかけてみるか。」


 ごろつきへと手をかかげ、魔力を集中させる。ごろつきの頭上に周囲から水が集まり水球が生成され落とされた。突然頭から水をかけられ、ごろつきは目を覚ました。


「くそ!なんだ!この縄を解きやがれ!」

「目を覚まさせてやったんだ。感謝くらいしてもいいんじゃないか?」

「なんだと!おい、俺を助けやがれ!」


 目を覚ましたごろつきは、連れの男に命令をする。だが、その命令は届かない。


「おまえの連れならあそこだ。」


 亜人は首の無い死体を指差して見せる。仲間の死体を見て、ごろつきは自分の置かれた状況がいかに絶望的かを知った。血に濡れた剣を突きつけつつ問い始める。


「おまえらは何のためにこの少女を誘拐しようとした?」

「か、金だ。亜人を生け捕りにして奴隷商に連れて行けば大金で買い取ってくれる。」

「奴隷商が買い取る?依頼主は王都の奴隷商か?」

「いや、兵士たちだ。兵士たちが村を襲撃するって言って頭数揃えるために俺たちを雇ったんだ。」

「襲撃、村を狙ったのか。」


(兵士が出てきているってことは兵士を動かしても問題ない王都に連れて行かれたってのが正解だろうな。他の都市で兵士が動けば反逆を疑われる。誘拐された亜人の行き先は王都で決まりか。王都からの命令で他の都市から兵士が出てる可能性も否めないが。)


「頭数を揃えるってことは、おまえたちみたいなのが他にもいるというわけだな?この魔道具も兵士から貰ったのか?」

「そうだ。」

「俺のことを聞いたのも兵士たちからか?」

「ああ。」


(兵士たちがこいつらを雇い亜人を襲撃していた。こいつらが騙されて兵士だと思ってるだけかもしれないが、本当に兵士が動いていたら最悪の場合、国家規模で亜人誘拐を行ってる可能性がある。)


「最後の質問だ。この魔道具はどうやって止めるんだ?発動の術式はあるようだが解除の術式が組み込まれてないぞ。」

「知らねぇ。止める必要なんて今までなかったからな。もういいだろう?全部話したんだ見逃してくれ!」


(やけに素直に話すと思ったらそういうことか。まあ、生きるために必死なことを非難する気はないが、俺が許すかどうかは別問題だ。)


「見逃す?何を言ってるんだ?」

「え!?」

「この大森林を騒がせたんだ。生きて帰れるわけがないだろう?この大森林やここに住む亜人に対して人族は狩猟や交易以外では不干渉という契約がエスカロギアの王族と交わされている。これを破った場合の処罰は俺たちが下すことになっているんだ。人族の法でも死罪があるだろ?大森林の亜人を誘拐しようとしたんだ、誰一人生きては返さん。」


 亜人はそこまで言うと、手に持った剣でごろつきの首を切り落とした。地面へと転がる首から手元の玉へと視線を移す。

(今の王族は契約を忘れているのか?さて、どうしたものかな。割ればいいのか?)

 思考の途中、頭の中に聞き覚えのある落ち着いた老人の声が聞こえてきた。


『ふむ、魔力の流れがわからぬが、この手の物は壊してしまえば大丈夫じゃろう。精神魔法の術式も発動し続けないといけないもののようだしの。しかし、微量の魔力で永続発動できるような術式を作ってある割には、お粗末な作りの道具じゃのう。』


(そうか、ならとりあえず割ってみるとしよう。)

 頭の中の声に言われるまま、玉を握りつぶし破壊する。すると先程まで喋ることもままならなかった少女が立ち上がり身体の調子を確認しだしていた。亜人の男は手に持つ剣を振り血を払い、死体から鞘を奪い剣を収めておく。

(この後必要になるだろう。あまりいい武器ではないが仕方がない。正直無くてもどうとでもなるが。)

 少女の元へと歩き、状況を聞くため話しかける。


「無事効果は消えたようだな。どこか調子の悪いところはあるか?」

「助けていただきありがとうございます。猫人族のフェレスです。」

「俺はこの奥の森で暮らしてるレグスだ。」

「長が言っていた、大森林の守護者様?」


レグスは頭を抱える。


「おい、今の長はなんて名だ?」

「え?ガートです。」

「あいつか。そうか長になったのか…」

「知ってるの?」

「あいつに短剣術を教えたことがあったからな。他に変なこと言ってないだろうな?」

「守護者様は偉大だとよく言ってました。」

「その守護者様ってのやめてくれ、レグスでいい。それに敬う必要もない。」

「え?よかったぁ。なんか丁寧に話すのって苦手なの。」

「ガートは後で説教するとして、村はどうなっている?」

「兵士たちとさっきの連中みたいのが大勢できて皆を連れていこうとしてたの。長に言われて隙を見て逃げたんだけど、結局見つかって。長がこの方角へ行けって言ってたけど、レグスさんに知らせるためだったのかな?」

「だろうな。あいつが俺に頼るとなると、あまり良くない状況というわけか。」


(おそらくは全員が捕えられ王都へ連れて行かれようとしているか、すでに連れて行かれたかだな。とにかく村へ行ってみるしかない。)


「村に行ってみよう。この奥に俺の家があるから、フェレスはそこで待っててくれ。」

「私も行く。みんなを助けたい!これでも長から鍛えられてるから戦えるよ。」


(弟子の弟子といったところか。なんとなく放置できないな。あいつのことだ、俺が見捨てないとわかっててフェレスを逃したな?ガート以外には俺の顔なんて知られてないだろうし連れて行った方が面倒も減りそうだ。あの魔道具にさえ気を付ければ大丈夫だろう。)


「わかった。一緒に行こう。」


 二人はともに猫人族の村を目指すこととなった。今いる場所から村まではそう遠くはない。道中他のごろつきや兵士との遭遇も想定し警戒しながら進む。ふと、フェレスが話し始めた。


「レグスさんは数百年生きてるの?」

「ああ、正確には二百年とちょっとか?」

「亜人なのよね?種族はなに?目は吸血族の特徴だけど髪は銀じゃないし、その角は魔人族だよね?」


 吸血族、赤い目に銀髪が種族の特徴の少数種族だ。高い自己再生能力を有し、多種族から生血を吸う。血を吸われた者は、その量によっては死に至ることもあるため危険視される種族である。

 そして、魔人族は角がある以外、外見は人族と違いはない。だが、非常に高い魔力と魔力操作技術を持ち、魔法が得意な種族だ。

 レグスの外見はその二種族の特徴を併せ持っていた。


「まあ、その、なんだ、種族については気にするな。」

「…うん。」


(フェレスは納得してない様子だな。別に秘密でもないから説明しても構わないんだが、今はそんなゆっくり話している状況でもない、不安はあるだろうが今は納得してもらうしかない。)


「あれ?でも短剣術を長に教えていたのよね?」

「ああ。」

「さっきのやつらに止めを刺した剣筋は凄かった。あれも種族的なものなの?」


(あの剣筋からある程度の腕前を理解できるか。ガートもなかなか優秀な弟子を持ったじゃないか。まだ村まで距離はあるし、このくらいなら少し話してやるか。)


「あれは紛れもなく鍛錬の成果だ。身体能力や魔力なんかは確かに種族的なものに左右される部分はある。だが使い方次第だ、武具も使い手によっては長持ちしたり性能を使いこなせなかったりとあるだろう?その武具に当たるのが生まれついての身体能力や魔力、使い方にあたるのが技術、俺はそう考えてる。」

「へぇ、なら私も魔法使えるようになるかな?少しだけ精霊を呼べるのよ。」


 そう言ってフェレスは胸の前で掌を上へと向けると光が集まり始めた。集まったのは光精、つまり光の精霊たちだった。


「驚いたな、精霊を呼べるなんて。しかも珍しい光精とは。」


 レグスは素直に驚いた。確かに精霊魔法は魔力が少なくて済む。ただし、精霊に好かれているという条件が最低限必要だ。精霊自体ほとんどが気まぐれなため使える者は少ない。得意としてるのは妖精族に分類される精霊に好かれる種族の者たちだけである。


「気が付いたら呼べたのよ。これなら魔法も使えるかな?」

「フェレスは精霊に好かれているのだろうな。精霊魔法を練習してもいいかもしれない。精霊魔法なら魔力もそこまで必要ないからな。ん?隠れるぞ。」


 そんな話をしていると前方から三人組がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。風貌からして男の三人組、先程のごろつきどもの仲間の可能性が高い。レグスは咄嗟にフェレスを連れ林道端の藪へと隠れた。


「なに?どうしたの?」

「人族が三人、こっちに来る。」


 驚くフェレスを落ち着かせ様子を窺う。しばらくするとすぐ目の前を三人組が通る。その際、話し声が聞こえてきた。


「あいつらどこまで追っていったんだ?あの玉さえ使えば簡単に追いつけるだろ。」

「亜人嫌いのあいつらの事だ、殺しちまってどうしようか考えてんじゃねぇか?」

「ありそうだな。」


(話からしてさっきの二人組の仲間で間違いなさそうだ。しかし、このまま先に行かれると二人組の死体を発見されるな。あの二人は死んでいるから俺のことは知られないとしても警戒されることは間違いない。村にすぐ戻って来られても面倒だ。ここで始末しておこう。)


「ここに隠れていてくれ。あいつらを始末してくる。」

「私も…」

「一人で大丈夫だ。すぐに終わらせてくる。」


 フェレスは何か言いたそうにしているが、それを無視し素早く三人の頭上、木の枝の上へと移動する。木が少し揺れ、葉が落ちるが男たちに気にした様子はない。男たちは武装はしているものの、武器は抜いていない。静かに背後に降りつつ、その勢いのまま両手で二人の頭を掴み地面へと叩きつける。残された一人が振り向き驚いた顔をしていた。すぐさま剣を抜き正面から首へと突き立てる。首を刺された男は何か言おうとしているが口から血がこぼれるだけだった。


「クソッ!誰だ!?」

「ぶっ殺してやる!」


 地面へ叩きつけられた二人が起き上がり怒鳴る。石で切ったのか顔から血を流していた。しかし、仲間の一人が今まさに殺された姿を見て二人は逃げることを選択した。レグスは剣を首から抜きつつ、その勢いのまま逃げ出す一人の首を切り払う。狙われた男は後ろから首を切られ倒れた。残りの一人は振り向かず悲鳴を上げながら走っているが、すぐに回り込まれ容易く蹴り倒された。


「だ、誰だあんた。なんで殺すんだよ…」

「俺の住む森で好き勝手しておいて何を言ってる?」

「俺の住む森だと?あの方が狙ってる亜人はおまえか!」

「あの方?」


 思わぬ情報に、剣を突きつけるとごろつきは小さく声を上げる。


「あの方について教えてくれないか?」

「顔も名前も知らない!フードを深く被ってて顔が見えなかったし、何より俺たちみたいなごろつきは直接話もさせてもらえない。」


(つまりは、ごろつきや兵士に命令しているやつがいるってことか。おそらく王城の関係者だろう。)


「おまえらは猫人の村から来たんだな?」

「ああ。」

「村人はどうした?」

「へ、兵士たちが王都に連れてったはずだ。」

「そうか。」


 剣を振り抜き首をはねる。レグスは嘆息する。いつもの騒ぎ程度であれば、すでに必要な情報は手に入っていることが多い。しかし、今回はあの方と言われる者が情報を意図的に操作しているような気がした。まるで自分が動くことすら予想されているように。

(考えすぎだろうか?嫌な予感がするのは確かだが…)

 レグスは隠れているフェレスの元へと戻り知り得たことを伝えた。


「どうやら他の猫人たちは王都に連れて行かれたみたいだな。このまま王都へ向かうつもりだがどうする?途中で村に寄るか?」

「うん、一応私も武器を用意したいし。」

「わかった。ならまずは村に向かおうか。」


 現在いる場所から王都の間には猫人の村がある。この辺りは強い魔獣もおらず、王都や周辺の都市から獣を狩りにくる者もいる場所だ。できるかぎり人との遭遇を避けるため警戒を強める。しかし、普段はよく見かける狩人たちは全くいないようだった。村の入口に到着すると数人の気配がすることに気が付く。先程の話の通りなら村人はいない。レグスとフェレスは顔を見合わせ、村へと走り出した。



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