白の魔女ミラルダ④
そのまま、ふたりで家へと帰ってきた。
頭のなかは整理がつかず、ぐちゃぐちゃだ。
ジュードの手の熱さが、わたしの心を焼いていた。
とにかく、一旦離れよう。
ひとりきりになって、頭を冷やそう。
幸い、今日の夜ご飯の当番はジュードだ。
部屋にこもれる。
わたしは自室のベッドに、静かに寝転んだ。
「……はぁ…………」
なぜか、ため息がでる。
「……私はずっと生きるんだよ? 一緒に、なんて……」
17歳で魔女になって以来、わたしの外見は変わっていない。
わたしは、そう、ずっと変わらないのだ。
ジュードは、大きくなった。
かっこよくて、働き者の青年になっていた。
「……自分好みに、しすぎたかも…………」
悶えているあいだに、時間はすぎ去っていく。
夕食の時間だ。
気まずさを抱きながら、リビングに降りていくとーー普段よりも豪華なご飯が出来上がっていた。
「あれ、今日すごいね?」
「……うん、お金に余裕があったから」
「いいの? わたしは何もしてないけれど」
「気にしないでよ、姉様」
む、気にしなくていい……か。
ぱくぱくと、わたしは食べ始める。
……おいしい。もぐもぐもぐ。
一口ごとに、わたしは上機嫌になっていく。
あっという間に、食べ終わりーーわたしは満腹になっていた。
ふぅ、と息をすると……ジュードが真剣な目つきをしていた。
身構えながら、お茶をすする。
「……姉様」
「うん……」
びっくりするほど、わたしの声は落ち着いていた。
「俺にとって、姉様はとっても大切な人です……できれば、ずっと一緒にいたい」
そういって、ジュードはテーブルの下から小さな箱を差し出した。
ポケットに入るような、小さな箱だ。
ごくり、と息をのむ。
ジュードは手慣れた動作で、箱を開けたーー何度も練習したのだろう。
それでも、手がわずかに震えているのが、わたしにはわかった。
「…………婚約指輪だ。どうか受け取って欲しい、ミランダ姉様」
きれいな、真っ白な雪色の宝石がついた指輪だった。
「ジュード…………」
ジュードは、口を引き結んでわたしを見つめていた。
薬をつくるときと、同じーー真剣そのものの顔だ。
それを見ると、わたしは言いたかったいろんな事が、吹き飛んでしまった。
「……それ、は…………」
「姉様は魔女だ。……俺とは違う。でも、心はーー通じ合えるんじゃないか」
「…………そうだけれど……」
わたしは、口ごもった。
ジュードのことは、好きだ。
一言でいえば、そうなる。
それが結論だ。
でもーーひとつだけ、知りたいことがある。
いままで、わたしもよくは聞かなかった。
ジュードが言いたがらなかったからだ。
それでも、聞かなければならないことがある。
わたしは、婚約指輪に吸いこまれそうになるのを振り切って、言った。
「ジュード……あの日、あなたはどうして雪のなかに倒れていたの?」