白の魔女ミラルダ②
黒髪の少年は、お貴族様の子どもらしかった。
名前はジュード。姓名は聞いても教えてくれない。
最近、眠りが浅い。
もう眠気がせまってきた。
あふあふと、あくびをする。
「ミランダ姉様、雪月花はここに置いておくよ」
ジュードを拾ってから、もう7年になる。
彼も17歳だ。
「うん、ありがとう……」
ぐんぐんと育った彼は、今では見上げるくらいに背が伸びている。
さらさらの短い黒髪。吸いこまれそうな、これまた黒い瞳。
細身だけどがっしりとした胸板と肩。
最初は、ジュードを助けたら近くの村へと連れていくつもりだった。
不老不死の魔女である私は、敬われても愛されはしない。
生きる時間も尺度も違い過ぎるから。
だけど、ジュードは村へ――人の世界へ戻るのを嫌がった。
以来、助手として私の側にいる。
「……もう休んでいいよ、ジュード。そんなに働かなくても……」
ジュードは助けられた恩からか、一所懸命働いていた。
7年間、ずっとだ。
「ミランダ姉様は、欲がなさすぎるんですよ……」
ジュードは動きを止めず、自分で採取してきた材料で薬を作り始める。
ここ数年、ジュードの薬作りの腕はめきめきと上達した。
そんなに働かなくても、暮らすのには不自由しないんだけどな。
「遅くなりすぎないうちに、寝てね?」
「ありがとう、姉様。おやすみなさい」
「おやすみ~」
私は自室に戻り、ベッドに潜りこむ。
うあああ~と身悶える。
ジュードは、私が気がついてないと思ってる。
でも、私は気づいてる。
夜遅くまで、ジュードが働く理由を知っている。
そこまで稼がなくちゃいけない、わけを。
「………プロポーズの指輪……あうあうあ~……」
ジュードのことは嫌いじゃないけど。いや、好きだけど。
ふもとの村で注文出すなよぉ。
すぐ! 私も知ってしまったのだ。
ジュードが私にプロポーズする気でいることを。
しばらく、ごろごろとベッドの中で転がる。
……生殺しもいいところ。
今夜もまた、きっと寝られない。
夜の暗さから、ジュードの黒を想い出してしまうから。