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スライムキングの手の平返し

 

 俺がエルフたちをしばらく放置して優雅なティータイム。


 紅茶とお菓子を楽しみ、べこ太にお菓子をあげて、もふもふしたりと遊ぶこと数時間。


 様子を見に玉座へと戻り、推奨の映像を確認してみるとエルフたちは七階層までたどり着いていた。


「んふふー、順調ね。エイナとも大きく差をつけたし、これでしばらくあの女も私に逆らえないわね」


 まだ七階層だというのにご機嫌な様子のエルフ。


 令嬢よりも優位に立っているという状況が余程楽しいらしい。まあ自分より下にいる奴を見下して笑うことは凄く楽しいからな。俺も冒険者を見下してせせら笑っているから気持ちは凄くわかるぞ。


 しかし、エルフが機嫌よく歩いている傍ではハンスと聖騎士が暗い表情をしていた。


「ご機嫌だね、レイシア」


「そのようだな」


「何よ? 問題なく階層を進めているのよ? 機嫌もよくなるに決まっているじゃない。リオンはともかく、ハンスはどうしてそんなに暗いのよ?」


「順調だから怖いんだよ。ここ最近、こんなにあっさりと階層を進めたことがなかったから。僕には嵐の前触れのような気がするんだ」


 鋭いじゃないかハンス。


 今こうしてお前たちを進めているのは、エルフと令嬢の対立を深めたり、聖騎士に精神的なダメージを与えたりという側面もあるが、本命で言えばここで仕留めるためだ。


 既にその階層には、ここのダンジョンの先兵たるボックルとイビルウルフが向かっている。


 お前たちを絶望に突き落とす準備は万端だ。


「あんなに苦労して進んだ階層が、こんなに簡単に攻略できるわけがない。きっとすぐに黒いワインドウルフやドッペルゲンガーが襲ってくる」


 どこか険しい表情をしながら辺りをしきり確認する聖騎士。


 エルフ達の慰めで立ち直ったかのように思えたが、続きに続く楽な階層攻略のせいか疑い深くなっているらしい。いや、こうでもしないと過去の自分が惨めに思えてしまって堪えられないのだろうな。


「……こうやって油断をさせた瞬間に悪辣な仕掛けをしてくるのが、ここのダンジョンだ。あまり気を抜かずに用心するに越したことはないな」


「確かにそうね。ちょっと浮かれて気が緩んでいたかも」


 ディルクにそう言われて、エルフが珍しく素直に受け入れて気合を入れなおす。


 人が油断をする時は相手や状況を下に見ていることで起きるので、当然それをひっくり返される事態に遭遇すると感情が大きく揺れる。だから、油断してくれる方が負のエネルギーの回収的に効率がいいので少し残念。


 もっとも次の作戦はあの二人の能力によるものが大きいので、作戦に響くわけもないけどな。


『マスター! デュランから聞いたんすけど冒険者が七階層まで来ているって本当っすか!?』


 俺がそのように思っていると、突如俺の後方からスライムキングの声がした。


 振り返ると転移陣でここまで飛んできたのか、十階層にいるはずのスライムキングが部屋に入ってきていた。


 もうすぐ作戦を開始するっていうタイミングで面倒な奴がやってきたな。デュランめ、余計なことを言いやがって。


「なんだよ? そうだけどなんか文句あるのか?」


『ありありっすよ! 最近はゴーちゃんと階層を交代したりで、まったく冒険者と戦っていないっす! 暇なんで今回は十階層まで回してほしいっすよ!』


「……言っとくけど今回の冒険者は強いぞ?」


『またまたー、あの頭の悪いエルフのパーティーなんすよねー?』


 こんな頭の悪そうな喋り方をする魔物に、頭が悪いとか言われるエルフたちも可哀想であるな。まあ、それは大正解なので否定も擁護もしないけど。


「でも、今日はリオンもいるし、もしかしたら十階層のスライムキングも討伐できそうね!」


『ははっ、俺に勝ったこともないのに何を調子に乗っているんすかねぇ?』


 水晶から聞こえる威勢のいいエルフの声を聞いたスライムキングが、余裕たっぷりの表情で言う。


「スライムキングなら何度も討伐したことがある」


「ど、どうやって? リオンって騎士でしょ? スライムキングを斬るには相性が悪いと思うけど?」


「確かに相性は悪いが、別にスライムキングは斬撃に絶対なる耐性を持っているわけではない。粉微塵になるまで斬ってやって、最後に核を潰せばいいのだ」


『…………』


 聖騎士に自信のある佇まいと言葉を聞いたスライムキングが黙り込む。


 まるでタマネギの皮を剥いて、切っていく。聖騎士の言葉は料理のように実に作業感の籠ったものだっ

た。


 これにはスライムキングも無意識にビビったのか、どもった声を上げる。


『ま、まあ、いくら口では言っても実行できるかどうかは別っすよ! いつものようにスライムを召喚して、投げまくれば――』


「言っとくけど、そいつは聖騎士でレベルは五十六だ」


『……マスター! なんて危ない奴を侵入させてるんすか!? これは大問題っすよ! 早くいつものように狡い罠で追い返すっす!』


 俺がぼそりと聖騎士のレベルを教えてやると、スライムキングは見事な手の平返しをしてきた。軟体生物だけあってか、手首をどれほど返そうが気にならないらしい。


「それをしようとタイミングを計っていたらお前がきたんだよ! あと狡い罠言うな! 知性溢れる巧妙な罠と言え!」


『パンツを剥ぎ取る罠から知性なんて感じられないんすけど……』


「言っとくけど、あれはパンツを剥ぎ取る罠なんかじゃないからな? 相手の持ち物を一つ奪う罠だっつうの! ……今のところは全部パンツしか奪ってねえけど」


 何となくスライムキングからの視線が気まずくて、最後の言葉が尻すぼみになってしまう。


 ランダムのはずなのに毎回奪ってくるのはパンツなんだよな。まあ、効果的だから嬉しいのだが、いつか男が踏み抜いてしまって男物のパンツが飛んでこないか心配でもある。


「……何だまだ文句があるのか? 俺は忙しいのだが?」


『い、いや、文句なんて何もないっすよ! さーて、ゴーちゃんとでも遊んでくるっす!』


 俺が睨みを利かすように言うと、スライムキングは慌てて回れ右をして転移陣へと戻っていった。





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