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仲間とかいうくだらないもの

 

「ようやく、追いついたわ! 二人共こんなところにいたのね!」


「あっ! レイシア! リオン!」


 ハンスとディルクが小部屋から出て階段の方へと戻っていくと、エルフと聖騎士もやってきて合流することができた。


「うん? 戦闘でもしていたのか? 盾や鎧が随分と汚れているではないか?」


「ディルクと一緒に突っ込んだ小部屋が魔物部屋で……」


 ハンスが苦笑いしながら言うと、エルフが呆れたような声を上げる。


「滑りに滑って魔物部屋って、どれだけ運が悪いのよ」


 とか言いながら自分も内心では背中に飛びつかなくて良かったとか思っているのだろう。


 このエルフにハンスにとやかく言う権利はまったくない。


「……ハンスが俺の背中に飛びついてこなければこうはならなかった」


「そのことについてはさっき謝ったじゃないかー」


「何にせよ皆無事で良かった。だが、ここは三階層だぞ? 厄介な魔物も出るし、気を引きしめないとダメだぞ」


「えっ? 三階層でリオンが苦戦するような魔物でもいたの?」


 エルフが疑問の声を上げるのも最もだ。聖騎士のレベルは五十六とこのパーティーでもぶっちぎりの実力。そんな聖騎士が平均レベル十もない、三階層で苦戦するとは思えないだろう。


「ああ、ここには本当にみみっちいことをする黒いワインドウルフも亜種がいてな。以前は私の前に現れては逃げたり、ちょっかいをかけるように襲ってきたりを繰り返しやられたのだ」


 あの時のワインドウルフ、今のイビルウルフにやられた屈辱の数々を思い出しているのか聖騎士が拳を握り込みながら語る。


「魔物の癖に魔物らしくないわね」


「でも、魔物にプレッシャーをかけられ続けられるってかなり嫌かも……」


 命を狙うつもりで襲いかかってくる魔物に迫られ続けるのはかなりのプレッシャーだろうな。夜中に後ろを歩いている人間に対してたまにビビる俺からすれば、獰猛で襲い掛かってくるとわかっている魔物にプレッシャーをかけられ続けたら耐えられる気がしないな。


「……それなら追いかけて討伐すれば良かったのではないか?」


「それができたら苦労はしない! 奴等は私が追いかけると全力で逃げ出すのだ!」


 素朴な疑問を言うディルクに、聖騎士が想いを爆発させるように言う。


『グルルッ?』


 すると、俺がいる部屋にも聖騎士の大声が響き渡り、ソファーで寝転がっていたイビルウルフが音にビックリして起き出した。


 イビルウルフは身体を起こすと、黒くてふさふさの耳をピクピクと動かしてこちらを見やる。


 そんなイビルウルフに俺が手招きしてやると、イビルウルフは嬉しそうにこちらにやってきた。


 どこぞのデブ猫とは違う可愛らしさに癒される。あいつと来たらソファーで寝転びながら延々とテレビを見ているからな。こちらに見向きもしないし、可愛くないやつだ。


「ほーら、ここにおバカな聖騎士がいるぞー」


『ヴォフ?』


 イビルウルフの頭を撫でながら水晶を示すと、そこには聖騎士が映し出されていた。


「特にあのふてぶてしい顔をした黒いワインドウルフへの恨みは忘れない!」


 そんなイビルウルフへの恨みを語る聖騎士であるが、それを見ている本人は……。


『フッ』


 人間が鼻で嗤うかのように、器用に鼻で嗤った。


 その呆れの込められた細められた瞳は聖騎士に向けて「また懲りなくやってきたのか」とでも言っているかのようだった。


「私達は見たことがないけど、とにかくそういう魔物がいるってことね」


「ああ、そうだ。幸いなことに今回はレイシア達もいるからな。出会ったとしても逃げる前に討伐できるかもしれない。もしかしたらドッペルゲンガーも……」


 イビルウルフとボックルを討伐できることを妄想しているのか、聖騎士が聖騎士らしからぬ笑みを浮かべる。


 こいつ、気持ち悪い笑みを浮かべるようになったな。普段は至ってバカなだけの常識人なのだが、あの日の屈辱が忘れられないのかイビルウルフとボックルに対しての執着が強いな。


 あいつらもまた熱狂的なファンを持ったものである。


 さて、これだけ聖騎士がドヤ顔で手強さを語ったのだ。ここは恥をかかせる意味で三階層などはすんなりと進ませてやろう。


 それにエルフと令嬢の確執もあるしな。令嬢は二階層で終わり、エルフも三階層ではドングリの背比べ状態で面白くない。


 どうせなら階層差をつけて二人の対立をもっと煽らせてやりたいしな。


 さあ、エルフ達よドンドン進め。




 ◆




「……特にリオンが言っていた懸念はなかったわね」


 俺や魔物たちが特に手を出さずに見守っていると、三階層にいたエルフ一行はあっという間に四階層に至る階段を見つけた。


 これには以前三階層で死ぬほど苦労をした聖騎士が呆気にとられた表情だ。


「どうしたのリオン?」


 しばらく口をあんぐりと開けて固まっている聖騎士を不思議に思ったのか、エルフが尋ねる。


 すると聖騎士はわなわなと肩を震わせながら叫んだ。


「お、おかしい! 黒いワインドルフの妨害もないし、あっさりと階段も見つかるなんて! 私が一人で来たときは三階層の攻略に半日もかかったんだぞ!?」


「半日? 連続で落とし穴に引っかかったとしてもかなり時間がかかりすぎじゃないかな?」


「……ここらの階層であれば、罠に引っかかって足止めでも食らわない限り、一時間もかからんぞ」


 そう、ハンスとディルクの言う通りだ。一階層から十階層まではそれほど階層が広くないので踏破するのに時間はかからない。


 そこに罠や魔物といった要素がかかるので時間は変動するが、基本的にこいつらは一時間もあれば階層をクリアする。他の冒険者共はまだ少し時間がかかるが、エルフ一行は常連さんだしな。


「そ、そんな馬鹿な。私の場合はワインドウルフがしつこく邪魔してきたんだ! そして、何より、下に降りる階段が見つからなかったんだ!」


「「「階段なら目の前に……」」」


「そうなのだが! そうなのだが……何だろうなこれ……前に私が必死に三階層を歩き回ったのは何だったんだ……っ! 魔物にからかわれ、階段も見つからず、通りすがりの冒険者の助言を聞けば、泥の落とし穴。あれほど苦労したのに!」


 目の前に突き付けられる光景。以前血反吐を吐きながら探したものがあっさりと見つかったことに聖騎士はやるせなさを覚えたのか、完全に涙目になっていた。


 あはははは! いいぞ、聖騎士! 俺はお前のその反応が見たかったのだ。以前苦労した末にたどり着いたものが、まるで当たり前のようにあれば落胆するよな? やるせないよな? あの時はあんなにも苦労したのに、どうして今は楽に見つかるのかって思うよな?


 その答えはすごく簡単。このダンジョンでは俺がルールだからだ。つまり、俺の気分次第で止めるも進めるも決められるってわけだな。


 いやー、ダンジョンマスターのこの全能感といったら半端ないな。これだからこの職業はやめられないん

だ。


「リオン、そういう時もあるわよ。ここのダンジョンはランダムに構造が変わるんだから」


「そうそう。四階層では五階層への階段がまったく見つからないかもしれないし」


「……そういう経験は何度もあった」


 常連でいつも俺が酷い目に遭わせているせいか、三人は崩れ落ちた聖騎士を優しく慰める。


 心のこもった三人の言葉が胸に響いたのか、聖騎士は目元を腫らしながらゆっくりと口を開く。


「……ううっ、仲間がいるということはこんなにも素晴らしいものなのだな。皆がいるとこんなにも心強い」


 聖騎士のそんな台詞を聞いて、三人は暖かく微笑む。


 そしてエルフが聖騎士に手を差し伸ばし、


「さあ、行くわよリオン! こんなクソみたいなダンジョンを作ったダンジョンマスターをボコボコにしてやりましょ!」


「……ああ、そうだな」


 聖騎士は目元の涙をぬぐうとエルフの手を取って立ち上がった。


 ディルクとハンスといい、皆仲良しごっことは本当にくだらないな。


 所詮仲間など利害の一致で結ばれたものでしかないというのに。





いつもありがとうございます。

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