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令嬢のパンツ

HJノベルス様から6月22日発売! Amazonでも予約できますので、よろしくお願いいたします!

 

『おーい! マスターの好きなやつを持って帰ってきてやったぜ!』


 俺がエルフ一行を水晶でチェックしていると、デュランが人差し指でパンツを振り回しながらやってくる。


 パンツの色は紫と黒か……。悪くない趣味だな。


 だが、ここで喜び飛びついてはダンジョンマスターや魔王としての尊厳が保てない。パンツ好きなどというレッテルを剥がすためにも、ここはきちんと否定しておかなければな。


「失礼な。人のことをパンツの大好きな変態みたいに言いやがって」


『お? 何だ? パンツがいらねえのか?』


「……いらないとは言っていない。ただ冒険者からパンツを奪うことは負のエネルギー回収に非常に役に立つアイテムであって、決しての俺の嗜好で集めているわけじゃない」


『じゃあ、何で男からは盗らないんだ?』


「それは俺が嬉しくな――じゃなくて、男からパンツを奪っても屈辱を与えることができないからに決まっているだろう。男と女のパンツじゃ、価値が違う」


 男はパンツを盗られてもどうとでもなる。そもそも男性の下着や裸というのは基本的に需要がない。


 しかし、女は違う。


 古来より男は女を求める生き物。逆に女という生き物は男から求められるもの。自分の身体の価値というものを理解しながら男を選ぶのだ。


 裸の一歩手前の最終防衛ラインであり、武器でもある下着は女にとって非常に価値の高いもの。それを理不尽に奪われると、女は当然怒り、恥辱の念を抱くのである。


 そう、俺はこうした理論的な考察を踏まえた上で、女冒険者からパンツを奪っているのだ。そう、これは負のエネルギーを効率的に回収するための行いだ。


『……マスターって、エロに関してだけは素直じゃねえな』


「おい、今の俺の崇高なる理念を聞いて、どうしてそこにいきつくんだ!」


『まあまあ、そう怒るなって。とりあえずコレやるから!』


 俺がデュランを説教してやろうと身を乗り出すと、デュランが令嬢のパンツを渡して逃げていく。


 むう、絶対にあいつは理念を理解していないな。今度会ったら、きちんと理念を教え込んでやらないとな。


 そう思いながら俺は、デュランから受け取った令嬢のパンツを手の中で広げる。


 ふむ、紫と黒を基調にした高級感溢れるパンツ。貴族に相応しい高貴さを表しながら、同時に背徳感と妖しさともいえるエロスを醸し出している。


 生地には所々細かい刺繍があるが、裏側はそれを感じさせることなく柔らかくて肌触りのいいものだ。


 お金のない没落令嬢にしては意外といい下着を穿いているのだな。やはり金銭的に追い詰められていても令嬢も女。女としての尊厳を守るために、パンツだけは安いものを穿けなかったのだろうな。


 これを売るだけでも結構な額になりそうではあるけどな。令嬢にはこういう拘りが他にもありそうだ。金欠の割に服や装備だってよかったし。


 執事であるセバスチャンもそりゃ苦労するわな。


「にしてもサイドは紐か……悪くないな」




 ◆




 戦利品の鑑定を終えた俺は、意識を切り替えてエルフ一行の監視へと移る。


 令嬢を置いていったエルフは無事に三階層へと至る階段を見つけたようだ。


 しかし、階段を見つけたはいいがエルフ達は一向に降りる気配がない。特にエルフ、ハンス、ディルクの三人は階段の奥をじっと睨みつけている。まるで親の仇でも見るような視線だ。


 そのことに疑問を抱いた聖騎士が首をかしげる。


「どうしたんだ? 階段を降りないのか?」


「降りるわよ。降りるけど心の準備が必要なのよ」


「何の心の準備だ?」


 そういえば聖騎士には階段でのトラップを味合わせたことがなかったな。


 聖騎士が理解できずに眉をひそめていると、ディルクとハンスが口を開く。


「……ここのダンジョンでは階段にも罠がある」


「段差がなくなって坂になるんだ。階段を歩いている時や走っている時に突然地面がなくなる感覚は、それはもう心臓に悪いよ」


「ここは低階層から階段で罠があるのか。というか致死性の罠じゃないというのがここのダンジョンらしいというか……」


 聖騎士の口ぶりでは、普通のダンジョンでは深層にいかないと階段では罠がないらしい。何とも甘い仕様だな。どこに罠があるかわからないという気持ちを抱かせるのが重要なのに。


 そうすれば冒険者達は自然と罠を警戒する。そうなると後は勝手に神経質になって心を摩耗させていくのだ。


 あるはずのない罠に不必要に警戒して怯える様は見ていて滑稽でとても楽しい。


 それにダンジョンを経営するダンジョンマスターからすれば、罠を仕掛けるだけなので大変コスト的に優しい。いいこと尽くしなのだ。


「本当、みみっちいダンジョンよねぇ」


 俺が罠についての素晴らしさを振り返っていると、水晶画面に表示されるエルフがそんなことを呟いた。


 言ってくれるじゃないか。俺としてはここで怯えさせるだけで手を出すつもりはなかったのだが、エルフのその台詞を聞いて考えが変わった。


「やめてよレイシア! レイシアがここのダンジョンの悪口を言うと、いつもロクなことが起きないんだから!」


「な、何よ!? 私のせいにする気!? そんなのたまたまであって、私の発言云々は関係ないでしょ!?」


 それが関係あるんだよね。現にお前は今の俺の考えを変えた。


 ここでは俺が意のままにダンジョンを支配している、言わば領域だ。そんなところで自分の悪口を言われて黙ってられるか。


「とにかく階段に罠があるかもしれないことはわかった。できるだけ足元には気を付けながら進もう」


「……そうだな」


「ディルクはまた勝手に滑っていっちゃダメよ?」


「……好きで滑っているのではない」


 エルフに注意するように言われて、いつも以上に顔をむっつりとさせるディルク。


「そうか。ディルクには珍妙な滑り補正があったな。ということは、いざ階段の段差がなくなり転がり落ちるような時があれば、ディルクの背中に乗ればいいのではないか?」


「「なるほど」」


 思い出すように言った聖騎士の台詞を聞いて、ハンスとエルフが感心するように呟く。


 ディルクにはマグロ滑りと言う受け身補正がある。それを利用する形で背中に乗れば、ディルク以外の

面々はアトラクションのスライダー感覚で階段を降りられるかもしれない。


 何かちょっと楽しそうだぞ。俺も乗ってみたい。


「……なるほどではない。誰がそんなことをさせるか。第一、三人も背中に乗れるはずがないだろう」


「確かに。罠にかかった状態から背中に乗るのは難しさがあるね」


「じゃあ、無理ね」


 ディルクのもっともな否定の意見を聞くと、ハンスとエルフは素直に頷いた。


「……じゃあ、行くぞ」


 一応、罠を警戒してか盗賊であるディルクが先行して進む。


 そのディルクの後ろ姿を、ハンスとエルフはどこか獲物を見るような目つきで見ていた。




表紙はTwitterや活動報告でUPされていますので、興味のあるかたはチェックを!


エルフの胸が大注目を浴びております。

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