ジェンガ
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この間ダンジョンに来た冒険者のお陰か、ここのところは毎日冒険者がやってくる。
冒険者達の会話を聞く限りでは「浅い階層で金貨が取れた」などと声を上げているのは分かるのだが、アレを探せと言うのは何だろうか。
冒険者の反応を見る限りでは、金貨でもいい装備でもなさそうだ。
よっぽど価値のある物なのだろうか。そんな物宝箱に入れた記憶がないんだが。
まあ理由はよくわからないが、冒険者がたくさんやって来たのであれば前回の結果は成功と言えるだろう。
結局あの後、むさ苦しい男達が金貨を手に入れ、ほくほく顔でダンジョンを引き返していった。一方、丸太の罠に一度ノックアウトされた男達は見事に立ち上がり、第五階層まで進出した。最後にも同じ糸の罠を仕掛けた時の反応が面白かったな。
あの斥候役が罠を再び見つけた時の引きつったあの顔。
そしてその後の彼の行動が笑えた。彼は糸が切れたら丸太が振り子のように飛んでくると思っていたらしく、自分から糸を切って前方から飛んで来る丸太に備えた。
しかし丸太が前方から来る事は無く、後頭部を激しく丸太に打ち付けられ再びノックアウト。
いやー、前回と同じ罠を使う訳がないじゃん。それにしても相変わらず彼のマグロっぷりには笑わされたよ。綺麗に滑るように飛んでいくんだよ彼は。他の奴とは違うよ。
その後彼が立ち上がる事はなく、そのパーティーは引き返す事になった。彼が立ち上がれば宝箱までもうすぐだったのに非常に残念だ。
まあ広告は一つのパーティーさえしてくれれば十分であろう。それなりに話題になるくらいの金貨は詰め込んであげた事だしね。
それが功をなして連日冒険者が押し寄れてくる状況なのだが、それにしては多くないだろうか。まあそれはいいことなのだが、数が多くていちいち見張るのも面倒くさくなってしまったので、今日はからかいがいのある冒険者だけにターゲットを絞って嫌がらせの罠を仕掛けている。
「うわー、あのエルフまた来ているよ。懲りないねー。けど、うちはリピーター大歓迎だから歓迎してあげるよ」
× × ×
多くの冒険者が罠や魔物の強さに慌てて引き返していくなか、強者だけがダンジョンを進んでいった。彼らは夜になっても引き返す事はなく、ダンジョンで一夜を過ごして突き進むらしい。
現在我がダンジョンで不法侵入および、勝手に寝泊りしようとしている冒険者は三組。
レイシアとハンスのペア以外は男女の四人パーティーが二組。いずれも高レベルの冒険者達だ。
その中で、現在九階層で食事の用意をしている冒険者達のステータスを覗く。
名前 シン
種族 人間
性別 男性
年齢 二十四
職業 剣士
レベル 四十
称号 なし
名前 キール
種族 人間
性別 男性
年齢 二十四
職業 戦士
レベル 三十六
称号 なし
名前 アイシャ
種族 人間
性別 女性
年齢 二十
職業 魔法使い
レベル 三十七
称号 なし
名前 フローラ
種族 人間
性別 女性
年齢 十九
職業 修道士
レベル 三十四
称号 なし
なるほど。確かにバランスの取れたチームだ。このレベルなら九階層までは楽勝だっただろう。
戦士と剣士はどう違うのだろうと思って調べてみたら、どうやら剣士は剣や大剣、双剣などの一般的な剣を使う事に特化した、スピード&パワータイプのようだ。
それに比べて戦士は斧や、剣、シールド、ハンマーと色々な装備を使いこなす事に重点をおいた職業のようだ。スピードは剣士に劣るものの、パワーや体力に補正がかかる頼れる前衛職だ。俺も、パーティーを組んでダンジョンに潜るとしたら絶対に入れておきたい奴だな。盾にしても大丈夫そうだし。
しかし、ここまで順調に進んできたお前達だが、十階層には階層主がいるから簡単には通れない……はず。アイツは今頃何しているんだろな。部屋で暇だ―とかごねていそうだな。
俺はふと十階層の番人の様子を見るために、水晶の映像を切り替えた。
十階層。俺の部屋みたいにカーペットをひいて欲しいと言うので、青色のカーペットをひいて豪華な椅子を設置したのだが、奴の姿はない。
まあ、アイツは気まぐれな奴で落ち着きがないから当たり前か。
多分椅子もかっこいいから置いているだけで、あまり使っていないのであろう。
水晶に触れてスライドさせ、画面を移動させて奴を探す。
すると元気な声が聞こえてきた。
「ほーれほれ。落ちるぞ! 落ちるぞ!」
「うるさい。気が散るだろうが」
「あはは、ゴ―ちゃんが怒った」
「ゴ―ちゃん言うな!」
階層主の部屋には十階層の番人ことスライムキングと、なぜか二十階層の番人ことエレメンタルゴーレムがいる。
しかも、ゴーレムを解体してジェンガをして遊んで。
階層主には転移陣があるために階層主は移動する事ができる。これはアイツらが暇だとごねるから作った物だ。
俺が「暇ならジェンガでもして遊んどけ」と教えたものなのだが、まだやっているとは。
恐らくこのジェンガはエレメンタルゴーレムが創造した下位のゴーレムであろう。
ジェンガをしたいがために造り出され、解体されるとは可哀そうだ。
そんな事をアイツが気にする事もなく、和気あいあいとしながらジェンガは続く。
「おーし、乗ったぞ。動くな! 動くなよ!」
「ちっ、成功したか。じゃあ次は俺の番」
「うーん、ここかな。あ、これ抜いたら駄目な奴だ……これなら……いける」
「おうおう! いいのか? 本当にそれでいいのか?」
「ゴ―ちゃんは黙ってて」
「ゴーちゃん言うな!」
「そろーり、そろーり……」
「あっ! 汚ねえ! 身体を変形させるとかズルいぞ!」
「へっへーん。スライムですから」
ちなみにスライムキングのレベルは三五。結構あのパーティーとレベルが近くて危ないから忠告も兼ねているのだが。このまま放っておいたら、冒険者が来るまでジェンガで遊んでいそうだな。
なので俺は声をかける事にした。いや、階層主が二体いるとか、面白いけどもう少し深い階層でやろうと思う。それにゴーちゃんの強さは結構反則的だから。
「おい、お前ら」
「「ひゅおおうっ!」」
二体が素っ頓狂な声を上げる。なんだ、その変な声は。
バラバラバラララ。
「ああああああああっ! 崩れたあああっ!」
人間の形態から、変化させていたスライムキングの体にジェンガが降り注ぐ。スライムだから打撃系は平気なようだ。
「いええええい! お前の負けな! 罰として俺の部屋全部掃除して来い!」
「今のは無しだって! マスターが声をかけるから!」
「人のせいにするのはいかんよ」
ゴーちゃんこと、エレメンタルゴーレムが腕を組み二マ二マと目を細める。
こいつら無駄に人間味があるから面白いんだよなあ。
あの光る目が、変化して色々な表情をするんだよ。
「楽しんでいるところ悪いが、九階層まで冒険者が来ているぞ。今は休憩しているが、多分明日にはこの部屋にやってくるぞ」
「まじっすか! やったあー! やっと戦えるよー」
「ちなみに数は四人で平均レベル三十六.一人は四十レベルの剣士がいるぞ」
それを聞いた途端に、スライムキングの動きが凍りつく。
「……お前とやったジェンガ……楽しかったよ」
ゴーちゃんが腕で顔をぬぐう動作をする。
「ちょっと俺ヤバくない!? いや、勝つし! 返り討ちにしちゃうから!」
「頑張れよ。てなわけでゴーちゃんは二十階層に戻れ」
「マスターまでゴーちゃん言わないで下さいよ!」
そう吠えながら、ゴーちゃんは端にある転移陣で自らの部屋へと戻った。
「じゃあ、報告はしたから明日は頑張れよ」
「あのマスター!」
「駄目だ」
「まだ何も言っていないですよ!」
「レベルアップはしないぞ?」
「ぐっ! 鋭い」
「じゃあなお休み」
「ちょっとー!」
まだ何か言いたげな、スライムキングとの会話をやめて映像を遮断する。
まあ、アイツならやられる事は無いと思うんだけどな。レベルは低めの設定だけど技を多彩にしているしな。