エルフパーティー
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ただ相手をからかうための罠にかかった令嬢は、いかにも不満そうな表情をして一階層を歩いていく。
「お嬢様、そのように歩いてはまた罠が出てくるかもしれませんよ?」
「わかってますのよ!」
そして、それをセバスチャンが咎め、令嬢が怒りをセバスチャンにぶつける。
主である令嬢が今は何を言っても聞いてくれないと悟ったセバスチャンは、ため息を吐きながら後に続く。
プライドの高い主を持つと下の者は苦労するな。
しみじみとそんな事を思っていると、映像を映し出す水晶が音を鳴らした。
どうやら新たな冒険者がやってきたらしい。
誰であろうか? 今は令嬢とセバスチャンを見るので忙しいのだが。
念のためにと侵入者を確認する。
名前 レイシア
種族 エルフ
性別 女性
年齢 五十八
職業 魔法剣士
レベル 二十八
称号 まな板
名前 ハンス
種族 人間
性別 男性
年齢 二十五
職業 騎士
レベル 二十九
称号 ダガー
名前 ディルク
種族 人間
性別 男性
年齢 二十五
職業 盗賊
レベル 二十五
称号 華麗なるマグロ滑り ボーンククリ
名前 リオン=シルフィード
種族 人間
性別 女性
年齢 二十
職業 聖騎士
レベル 五十六
称号 女神アレクシアの加護(小)
エルフのパーティーだ! そこには保護者である騎士ハンス、マグロ滑りのディルク、それにどういうわけかこの間やってきた聖騎士までやってきているではないか。
これはこれは一体どういうことだろうか。
それにしても聖騎士以外は久し振りの面子だな。前回デュランが落書きをした時以来だろうか。
しばらくは顔を見せていなかったが、あの時の落書きはどうなったのだろうか? 油性とはいえ、大分日にちが経ったのだからインクは消えているよな。
そのことについて直接聞いてやりたいくらいだが、それはできないな。後でボックルにでも探りを入れさせてやろうか。
まあ、何にせよ面白い奴等が来たので歓迎してやろう。
俺は令嬢とセバスチャンが表示される画面を一旦押し退けて、エルフのパーティーを覗くことにした。
先頭を歩くのは予想通りエルフ。一階層へと至る俺のダンジョンの中を我が物顔のように闊歩しているところがちょっとムカつく。
だけど、これから起こる反応を考えると、そんな澄ました顔すら、後のスパイスとなるのだ。
この余裕溢れる顔。今度は失敗しないとなどという、高慢ちきな考えが透けて見えるようだ。そんな顔と気持ちを抱いているから、毎回ボコボコにされるというのにな。
続いて歩くのは聖騎士。こちらはこの間、心をへし折って弱みを握ったのでもう少し復帰には時間がかかると思ったのだが、意外と早く復帰してきたことに驚いている。
……あれだろうか? 仲間さえいれば立ち直り、前に進めるとかいうやつだろうか。
恐らく、俺のダンジョンでやられた心の傷を舐め合って仲良くなったのだろうな。
そう考えると、聖騎士がこのパーティーにいるのも納得だな。
存分に傷を舐め合って勇気でも貰ったのか、聖騎士の表情はキリリと引き締まったものになっている。
その滲み出る表情からは、何としてでもボックルを倒してやるという決意が満ち満ちていた。どうせ空回りするのにな。
そして聖騎士に後ろにいるのがマグロ滑り、もといボーンククリのディルク。
そしてエルフの保護者であり、ダガーである騎士ハンス。
この二人は前にいる女性陣に比べると些か表情が暗い。
「ああ、この大広間に続く階段を降りると、またここにやって来たんだっていう実感が湧いてくるね」
「……ああ、そうだな」
階段を降りながらハンスとディルクが呟く。
どうしたのであろうか。いつも何だかんだといって意識の高い二人だが、今日は声が弱々しい。
そんな二人の様子が癪に障ったのか、先頭を歩くエルフがチラリと振り返り、
「もう! ここまで来て何を弱気になってるのよ二人共!」
「いや、だってまたここで気絶なんてしたら今度は何を描かれるか……」
そう言いながら己の下腹部を撫でるハンスとディルク。
詳しくは知らないが、どうやらハンスとディルクは前回の落書き事件によって心の傷を負ったらしい。
ちょっとそれ詳しく聞きたいんだけど! 他人の心の傷をほじくる事は楽しいこと以外なにものでもない。俺は傷口に塩を塗るのが大好きだ。
「何だ? 公衆浴場で落書き披露してしまった事件を気にしているのか?」
「リオン、それを言わないでくれ!」
俺が前のめりになりながら聞いていると、見事に空気の読めない聖騎士が傷口を掘り返した。
おほほほ! なるほど。ということはあの二人は落書きに気付かず、公衆浴場まで行って晒してしまったのか! これは傑作だ。
俺はハンスとディルクの悶える姿を見て、腹を抱えて笑う。
「女であるレイシアはこうも平気なのに、男である二人が弱気になってたらみっともないぞ?」
「その言いようだと、私が女であることを捨てているように思えるから止めてちょうだい。私はきちんと気持ちを切り替えただけよ。だってそんな事を言って恐れていたら冒険なんてできないし、いつまで経ってもダンジョンを踏破できないじゃない」
さすが一階層の大広間でパンツを奉っている女だけのことはある。他の冒険者とは覚悟が違うということだろうか。
「そんな事言いながら、レイシアだって大広間の話題を振ったら――」
「ああん?」
「……何でもないです」
ハンスが果敢に攻め返そうとするが、エルフが睨みを利かせて唸るだけど引き下がる。
まあ、ハンスはパーティー全員を守る盾役だからな。攻めるのが苦手なのだろう。
「うん? 大広間の話題とはどういうことだ?」
「「「…………」」」
そして、そのことを知らない聖騎士が空気を読まずに掘り返す。
聖騎士のそういう純粋なところ、俺は大好きだ。純粋さというものは人を無自覚に傷付ける刃と同じだけどな。
「あっ、一階層に着いたよ!」
「あ、ああ」
悪い空気を振り払うかのように言うハンス。聖騎士も何か地雷を踏み抜いたと気付いたのか曖昧ながらも頷く。
地味にこういう気まずさの不快感はダンジョンのエネルギー源となるので嬉しい。
皆、ドンドン険悪になって嫌悪の感情を抱いて欲しいものだ。
なんて思っていると、一階層で奉っている物を目にしたせいか、エルフから途轍もない嫌悪の悪感情が湧き出した。
その嫌悪ぶりといったら相当なもので、水晶に表示されるゲージが大きく動く程だ。
エルフが嫌悪感たっぷりの表情をしている中、他のメンバーは大広間を見渡す。
そこはいつも通りと言ってよいのだろうか?
光り輝くパンツに祈りを捧げる信徒達がいた。
しかし、しばらくこのダンジョンに来ていなかったハンス達はそれが不自然に映ったらしく、訝しむような視線を向けている。
「……ねえ、何かあそこにいる人達、何か様子が変わってない?」
「ああ、何というか以前のような騒がしさと無秩序さがなくなり、統率感といったものがあるようだな……」
確かにな。以前はもっと無秩序で騒がしかった気がする。いや、ご神体が現れてからは別の意味で騒がしくなったのだけどね。
「むむむ……あれほどの祈りを捧げる信徒達がアレクシア様を信仰していないとはなんて勿体ないことだ」
「しょうもないものを見ていないで、さっさと下に行くわよ!」
聖騎士の腕を引っ張って、エルフが大広間から離れようと歩くがそこに声がかかる。
「――しょうもないとは聞き捨てならねえな」
その声の方にエルフ達が視線を向けると、祈りを捧げる信徒の一番前で立ち上がる男性がいた。




