表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/119

それぞれの秘密

 

 あれからシンのパーティーは意識を取り戻した。


 それぞれがゴーちゃんに武器を壊されたせいか、メンバー全員が意気消沈していた。


 そんな気まずい空気の中、シンが座り込んですんなりと頭を下げた。


「……すまない、皆。俺が取り乱したせいで……」


 シンが頭を下げる中、誰も喋らない気まずい空気が流れる。


 誰も言葉を発しない中、シンはただひたすらに頭を下げ続けていた。


 そんな中、壁にもたれかかったキールがため息を吐いて、口を開く。


「まあ、本音を言えば怒鳴りつけてやりたいところだけどよ、俺は今までシンに助けてもらっていたしそこまで強くは言わねえよ。俺も武器は壊されて気持ちはわかるしな」


 パッと見れば、冒険者の男との熱い友情。互いのことを支え合う


 宝箱を見つけた時とか、同じ低次元の争い繰り広げていたしな。責められる立場でもないと心の中で思っているのだろう。それにこのシンの失態によって、自分の今までの失態を帳消しにするつもりだ。


 所詮は仲間だなんだと言い張っても、人間関係とはこういう打算に塗れたものである。


 キールの『今まで助けてもらった』発言を聞いたアイシャとフローラも不満そうな顔から一転、打算と媚びに塗れた笑顔となった。


「シンは昔から物とお金を大事にしていたからね。買ったばかりの武器が破壊されたり、あんな風に偽物だったら私もパニックになるかも」


「互いの弱い所を支え合うのがパーティーです。次はこうならないようにしましょう?」


「……皆。ありがとう! 次は絶対あんな風にならないから!」


 何という茶番だろうか。最後の最後にしてこのパーティーの本当の闇を垣間見た気がした。


 やはり、この世では最上級の関係とは利用し合える関係なのだと俺はしみじみと思った。


 だって、友情とは互いの利益を約束し合う仲だろ? それこそがお互いのためであり嬉しいことなのだ。人は自分に利益をもたらす人物を大切に扱う傾向がある。つまり、互いに利益さえあれば、簡単に相手を裏切ったり見捨てたりしないってわけだ。単純明快だろ?


 俺は冒険者達の励ましの会話を聞いて哄笑する。


 そうやって、ひとしきりの傷の舐め合いが終わるとシンがソワソワとしだした。


 何やら股間の辺りを頻繁にまさぐっている。


「……おい、シン? どうしたんだよ?」


 シンの不審な様子に気付いたのか、キールが小さく囁く。


「なんか股間がヒリヒリして気になるんだ。俺、ゴーレムとの戦いで股間を強打したのだろうか? ……何でだろう? 凄いことがあった気がするのだが思い出せない」


 デュランにガムテープで毛を引き剥がされ、痛みで起き上がると即座に気絶させられたからな。よく覚えていないのだろう。いや、身体が思い出すことを拒絶しているのかもしれないな。


 道理で起きてすぐに発狂しないはずである。


「いや、そんな様子は一度もなかったが……まあ、いい。ここは確かめやすいように俺が言ってやるよ。おーい、俺達ちょっとしょんべんに行ってくるわ」


「いちいち、そんなこと言わなくてもいいわよ」


 キールの下品な物言いに、アイシャがうんざりしながら手で追い払い、フローラが苦笑する。


「よし、シン行くぞ」


「お、おう」


 キールとシンは連れションに見せかけて、堂々と女性陣から離れる。


 そして、ダンジョンの人通りが少ない通路にたどり着くと、シンが恐る恐る己の股間を覗き込む。


「なっ、ななななな、無い!」


「無いってお前、まさか息子がなくなったのか!?」


 シンのあまりに絶望した表情を見て、キールがからかい半分の声を上げる。


 しかし、それは本当のこと。シンからは途轍もない絶望の感情が流れ出している。


「……違う」


「じゃあ、なんだよ?」


「……毛が……ないんだ?」


 シンの告白を聞いて呆然とするキール。


 通路には、二人の男が呆然とした表情で見つめ合う時間が流れる。


「ちょっと、お前見せてみろよ?」


「やめろっ! 恥ずかしいだろ!?」


 無遠慮にキールが股間を覗こうとして、シンがそれに全力で抗う。


 キールがズボンを下げようと力を入れて、シンが必死にそれを押さえつける光景は、アホな中学生が遊んでいるかのようだ。


 女子のスカート捲りは見ていて最高に楽しいが、男子のズボンの下ろし合いは見ていて非常に醜いな。


「お前、ここまで大袈裟に言って見せねえとはないだろうが!」


「本当にないから見せたくないんだよ!?」 


「じゃあ、初めに相談なんてするなよな! いいから見せろっ!」


「ああっ!?」


 遂にキールがシンの防御を突破して、ズボンやパンツが俺の水晶に晒される。


 俺は即座に映像をシャットアウトするが、一瞬遅かった。


 無毛な大地に突き刺さる、鞘に収まったナイフが見えてしまった。


 なんでこういう一瞬の映像に限って、はっきりと保存されるのだろうか。人間の不可思議な脳みそに俺は問いかけたい。


「ぶわははははははははっ! 本当につんつるてんだな! それに息子も皮被って可愛いな! おい!」


 映像が遮断された水晶から、キールの下品な笑い声が上がる。


 自分の息子はフランベルジュの癖に、他人の息子を見て笑えるのだろうか?


「わ、笑うなよ! おい!」


「いや、悪い悪い。ぶわははははっ! やっぱ無理だ! 堪え切れねえ!」


 目クソが鼻クソを笑うとはこのことか。滑稽なキールの様子を見て俺も大笑いした。


 自分の方がシンよりも遥かにつんつるてんになっているのにな。


 キールの方は除毛クリームのお陰でさっぱりしたせいか今のところ気付いていないようだ。今ここで気付いてくれたら、面白い反応が見られたというのに非常に残念だ。


 まあ、今はシンから極上の羞恥の感情が貰えたからよしとするか。




 ◆





「ねえ、フローラ。これは一体どういうこと?」


「どういうことと言われましても……」


 男性がデリケートな部分で悩んでいる一方、女性陣は緊急会議が行われていた。


 それはアイシャとフローラの胸のサイズが同じくらいになっているという事件だ。


 フローラの胸が巨乳から美乳サイズに。アイシャの胸が貧乳から普通サイズに。アイシャからすれば最大のコンプレックスを解消するに至り神に祈っていたほどだが、現実は甘くなくポロリと詰め物が落ちたのである。


 それに気付いたフローラが慌てて拾い上げる。


 これが会議が開かれるまでのおおよその経緯だ。こっちもこっちで面白すぎるだろ。


「これっ、フローラの物よね? あんな風に慌てていたんですもの、今さら違うとは言わないわよね?」


「は、はい」


 既に決定的瞬間を抑えられた以上、フローラは素直に頷くしか方法がないだろう。


「ふーん、フローラの胸って普通よりも大きいくらいなのね。思っていたほど巨乳ではないわね」


「あの、アイシャさん。そんな風に触ると痛いのですけど……」


 男性の下品な光景と違ってこっちの光景は本当に美しい。


 こっちなら何度でも見られるくらいだ。


 それにしてもアイシャの忌々しそうな表情が面白い。女性が嫉妬深いのは知っているが、ここまであからさまだと清々しくも思える。


 これもフローラの弱みを握ったが故なのだろう。


 アイシャがフローラの詰め物をペシペシと叩きながら問いかける。


「一応聞いておくけど、これってフローラが私に詰めたわけじゃないわよね? 私に恥をかかせようとしたとか――」


「そんなあからさまな事を私はしません! っじゃない! そんな酷いことを私がする意味もありませんよ!」


「ちょっと、あからさまって部分が気になるんだけど?」


「いえ、それは、そうじゃなくて……。とにかく! そんな事をすれば、私が胸を誤魔化していたことがバレるじゃないですか! そこまでして私がアイシャさんを陥れる意味がありません!」


 自分の失言を誤魔化すようにフローラが、正論のようなものを並べて話を変える。


「……確かにそれもそうね。だとしたら、一体誰が? まさかキール達?」


「いえ、彼等は気付いた様子もないですから」


「それもそうね。となると自然に考えられるのは、あの金色のゴーレムかしら?」


「他の冒険者がきた痕跡もありませんし、あの性格の悪いゴーレムならあり得るかと」


 勿論ゴーちゃんがやったことだ。ゴーちゃんがやった最後の悪戯は女性陣の闇部分を引き出すにも十分な効果があった。


 お陰で見ている俺は凄く楽しい。女性のいざこざって男性よりも黒いから、見ているだけで迫力があるんだよな。


「まあ、ずっとこれで胸のサイズを偽ってきたフローラも性格が悪いとは思うけどね」


「うう、女性には見栄というものが必要なんです」


 ここでその話題に触れて皮肉を言うアイシャの方がよっぽど性格が悪いけどな。あはは。


「私だってそれはわかるわよ! だけど、現実は厳しくて私のような胸が薄い子は見栄を張ることも難しいのよ!」


「…………」


 その話題に下手な答えを返してはマズいと理解しているのか、フローラは黙り込む。


 そんな態度すら気に食わなくも思うのが女子という生き物だ。


「……何か言いなさいよ」


「はい」


 本当に言葉を発しただけだ。これは天然あのか、相手をバカにしているのかわからないところが凄いな。フローラも優しげな顔をしているが立派な女子だな。


 しかし、劣等感に苛まれているアイシャはそれをバカにされたと捉えてしまう。


「ふざけてるの?」


「いえ、滅相もございません」


 フローラの真剣な表情をアイシャはねめつけるように見た後、大きくため息を吐いた。


 それからフローラへと詰め物を突き出しながら、


「取引をしましょう。私もこの違和感のない詰め物が欲しいわ。これだけ精巧なのだから、私がちょっと見栄を張れるくらいの物もあるでしょ?」


 これだから女は怖いのだ。感情的になったかと思えばすぐにこれだ。


「しかし、これは仕入れるのが難しくて結構なお値段が……」


「フローラの嘘がバレるよりかはいいでしょ?」


「……わかりました」


 こうして、女と女の秘密の取り決めが発生した。


 しかし、身体に書かれた商品情報が出回れば、それらも全て無為になると思うけどな。


 男性と女性それぞれに秘密ができつつ、今回の冒険者達はコケのダンジョンを去っていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ