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デュランの落書き その二

タイトルからして、お察しの内容です。食事中には読まないことをオススメします。

あえて、食事中に読んで挑戦するのもアリです。

 

「あはははははは! ブラボーブラボー! ゴーちゃん! 最高だったぞ!」


『ありがとうございます!』


 十階層での戦闘が終わり、水晶を介してゴーちゃんに語りかけるとゴーちゃんがぺこりと礼をする。


 先程のような粗野な態度と比べると凄く礼儀正しい。とても冒険者相手に非道の限りを尽くした階層主とは思えないな。


『久しぶりに戦うことができて、俺も楽しかったです』


「まあ、今の冒険者の実力じゃ二十階層に辿り着くのはまだ無理だからな」


 十階層に辿り着くのもままならないのだ。さらに難易度の上がる二十階層に冒険者達が到達するのは厳しいだろう。


 ハイレベルの冒険者が集う大国や首都の方ならともかく、俺が根城にしておるコケのダンジョンは初心者にも見向きされないというレベルというのが周囲の認知だ。さらに立地も田舎ということおあり、精々やってくるのは駆け出し冒険者ばかり。


 キールやシンのように噂を聞きつけないでもしない限り、高レベルの冒険者はやってこないだろうな。


『ですよね』


 ゴーちゃんもそれに気付いていたのか、がっくしと肩を下げる。


「まあ、安定的に深い階層までもぐる冒険者が現れると俺が困るんだけどね」


 だって、俺ってばこのダンジョンに住んでいるダンジョンマスターであり、人類の敵である魔王だぞ? 


 つまり、ここに潜ってきている冒険者達は俺の命を狙ってきている訳だ。


 自分が過ごしている上の階層ではわらわらと殺人鬼が集まっていると思うとゾッとするな。


 まあ、心の平和を守るためにもこっちも必死なんだけどね。


『……まだしばらくは俺の階層に冒険者がくることはなさそうですね』


「余裕ができたら徐々に冒険者を流したりするし、たまにこうして十階層に上がってきてもいいから我慢してくれ」


『わかりました。たまにでいいので、こうしてまた十階層に上げてくださいね?』


「おう」


 スライムキングのような甘ったれや、どこぞのドッペルゲンガーと比べると、ゴーちゃんは礼儀正しくて忠義心も高い。


 そんな良き階層主には、主である俺も甘やかしたくなるというものだ。


『……俺も下の階層に籠って新しいことしようかな?』


「……頼むから不死王みたいにアンデッドを大量生産とか止めてくれよ?」


『わかってますよ』


 この間、不死王のいる三十階層から大量のアンデッドが湧いて、二十九階層に登ってくるという大事件が起きた。


 何やら、スライムキングと新しいアンデッドの魔物を作り出すのに夢中で、魔物の整理を怠ってしまったそうな。


 幸いにも、不死王がアンデッド達を合体させてキメラといった上位個体にするという収納術のお陰で切り抜けられたが、気付くのが遅れていたら二十九階層までもがアンデッド階層になるところだった。


 あんなグロテスクな階層は三十階層で十分だが、このままだとキメラが階層を上がってくることは確実だ。何とかしないといけないな。


 頭の痛い思いをさせる階層主のことを考えていると、ゴーちゃんが部屋のお片づけをし始めた。


 壁に埋もれて気絶しているシンとキールを引き剥がして、部屋の中央へとゴミのように投げる。入り口で倒れているアイシャとフローラも女性であることをお構いなしにポイだ。


 何だか、ゴミの日にゴミ袋を投げる主婦のようだな。


 俺だったら、女性が気絶しているのをいいことに、スカートの中とか覗いたりしちゃいそうだな。


『マスター、地面とか壁とか直りますよね?』


 冒険者達を中央に集めた後、ゴーちゃんが周囲を見渡して気まずそうに言う。


 パワフルなゴーちゃんが暴れたせいか階層主の部屋が大変な事になっていた。拳を思いっきり打ち付けたせいか地面は陥没しているし、派手に動いたり、斧を叩きつけたせいか辺りは傷だらけ。壁には冒険者がめり込んで凹んでいる。


 スライムキングが戻ってきたら、ぎゃあぎゃあと騒ぐこと間違いなしだ。


「まあ、少し魔力を使えば俺の能力で治るな。面白いものを見せてもらうための必要経費だ。気にするな」


『ありがとうございます!』


 これくらいならばダンジョンマスターの能力で修復可能だ。魔力の微々たる消費でしかないので気にしなくていい。


 ゴーちゃんは礼を言うと、意気揚々と剣と斧の残骸を拾い集める。敢えて壊れた武器を回収してあげることによって、冒険者達の目覚めと共に追い打ちをかける気だ。最高だな。


『おー! 十階層の戦いが終わったか!』


 俺がゴーちゃんの思惑に気付いて感心していると、突然階層主の部屋にデュランが転移してきた。


『終わったけど、それがどうかしたか?』


 ゴーちゃんが訝しみの声を上げる中、デュランは気にした風もなく倒れた冒険者の下に近付く。


『おー! おー! 今回も冒険者がいるな! ちょっと悪戯していいか?』


『……まあ、問題ないな。マスター構いませんよね?』


「ああ、構わんぞ」


『うおっ!? 何だマスターも見ているのか。じゃあ、俺はこいつらで遊ぶぜ!』


 軽く驚いたデュランは、俺から許可を貰うなりいそいそと冒険者の前で屈み出す。


 まあ、デュランは基本的に面白ければ問題ないだろうというスタンスなので、俺の許可がなくてもやるだろうけどな。


 肘置きに手を突きながら、俺はボーっとデュランが何をするのか眺める。デュランの悪戯といえば、エルフパーティーにやった落書き事件だ。


 また、あいつらの股間を見て新たな査定を下すのだろうか? 


 前回はディルクが『ボーンククリ』で騎士の男であるハンスが『ダガー』だったよな? 


 今回は一体どうなるのか。『親指』とか『小指』とか出るのを俺は期待していたりする。


 俺がワクワクとしながら見守ると、予想通りデュランがシンのベルトを外しだす。


『なんだなんだ? 冒険者の装備を引ん剝いて全裸で帰らせる気か?』


『いんや、それはボックルがいるからやる必要がねえだろ?』


『それもそうだな』


 ゴーちゃんはデュランの悪戯に興味が湧いたのか、同じく屈んで眺める。しかし、俺は男の股間など見たくないために、敢えて映像の角度をずらして見えないようにした。


 何が楽しくて男の股間など見なければならんのか。


 俺が角度を切り替えて五秒後、デュランはサッとシンのズボンを下ろした。


 それからデュランは気絶したシンの股間を眺めて腕を組む。


『…………』


 きっとデュランの頭の中では、見えている股間に最適な物体を探しているに違いない。


『……ゴブリンのように俺達も叩くか?』


 隣で屈んだゴーちゃんが悪魔のような台詞を吐く。


 あれは低レベルで力の弱いゴブリンだからこその遊びであった、お前達みたいな屈強な魔物がしたら一発で終わりだぞ……。


 想像しただけで、俺の股間がヒュンと引き締まった。


『……それもいいが、今回は違う』


『じゃあ、どうするんだ?』


 ゴーちゃんに問いかけられると、デュランの抱えている頭部がニヤリと笑う。


 デュランは一旦抱えている頭部を地面に置くと、ポーチから何かを取り出した。


 その物体二つを見た瞬間、俺はデュランのやろうとしている事を理解した。


『……何だこれ?』


『マスターの道具でガムテープと除毛クリームって言うらしい』


 そう、デュランが手にしたのはガムテープと除毛クリーム。


 何かを貼り付けたり、段ボールの蓋を閉じたりと万能の効果を発揮する粘着テープ。


 それと毛深き男性の悩みを解決する、スッと塗ってサッと洗い流してすべすべ肌を約束する除毛クリーム。


 現代日本ではありふれた道具だ。


『……その道具を使って何するんだ?』


『この男達の股間にある毛を剃る……!』


 ゴーちゃんの問いに、デュランは臆することもなく言い張った。


 ガムテープと除毛クリームを使って股間の毛を剃ると。


 人間という生き物は大切な部分を毛で覆い、その場所を汚れや菌から守る働きがある。


 目には睫毛、鼻には鼻毛、肌にだって細かな毛が生えているし、勿論男子生命たる股間にもだ。


 その大事な場所をデュランは剃るといったのだ。これの何と恐ろしいことか……。


『……一体何のために?』


『股間がツルツルとなった冒険者が、他人に苛められると思うと面白いからだ。それにガムテープと除毛クリーム。どっちが多くの毛が抜けるか気にならないか?』


『除毛クリームはともかく、ガムテープは毛を抜くための道具なのか? マスターのDVDで観たかぎり、それは何かを貼り付けるための道具だと思っていたが……』


 まったくもってゴーちゃんの言う通りである。


『簡単だぜ。毛が生えているこいつの腕に貼り付けて、それをこうやって一気に引き剥がすんだ』


「があああああああああああああああああッ!?」


 デュランが手本を見せるように、シンの腕にガムテープを貼り付けて、それを一気に引き剥がした。


 それには気絶していたシンも堪らず、獣のような咆哮を上げる。


『うるせえ』


 そして、すぐにデュランに手刀を叩きこまれて気絶した。


『ほら、こんな風に抜けてるだろ?』


『なるほど。ちょっとキモイな』


 映像に映ったガムテープを見ると、結構な量の毛が張り付いていた。


 うええ、見たくないものを見てしまった。


『ってな、訳でどっちがたくさん剃れるか確かめてみようぜ!』


『わかった!』


 デュランがベリベリとガムテープをシンの股間に貼り付け、ゴーちゃんがキールの股間に除毛クリームを塗りたくる。


「なあ、デュラン。ちなみに二人の今回の査定はあるのか? ダガーみたいに」


 俺の言葉を聞くと、悪戯を終えたデュランがポーチから油性ペンを取り出す。


 そして、シンの下腹部にこう書いた。


 →『鞘に収まったナイフ』


 なるほど、真性包茎か。


 次にデュランは、除毛クリームを塗られたキールの傍に移動し、同じく下腹部に油性ペンを踊らせる。


 →『フランベルジュ』


 ちょっと待て。フランベルジュって刀身が波打って、揺らめく炎のように見えるというドイツの剣だったよな?


 どうなっているんだ? キールの股間は波打っているのか? ガタガタなのか?


 ちょっと、想像ができないので気になるぞ?


 俺の中にあるキモイものが見たくないという気持ちと、フランベルジュと言い表されるほどの物体を見てみたい気持ちがせめぎ合う。


 これが葛藤と言う奴か。


 見たくないけれど、見なければ気になる。


 俺は長い葛藤の末に、股間が見えるように映像の角度をずらす。


 すると、そこには皮が余っており、フランベルジュのようにガタガタとしている股間があった。


「……ああ、確かにフランベルジュだ」




地味にHJ大賞の一次審査を通過しました。

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