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武器と心を破壊

 

「シン、俺も行くぜ!」


「ああ、今度こそ!」


 キールがシンの隣に立ち、勇ましく斧を構える。


 さっきのやり取りで絆とやらが深まったのか、お互いに顔を見て笑い合っている。


 ゴーちゃん相手にワンパンだったのに、その自信はどこから湧いてくるのだろうか。


『はは、その程度の武器じゃあ、俺には傷をつけられねえよ』


「何を言うか。現にお前の足には傷がついているだろうが!」


「その程度の武器とか言いやがって! 絶対に許さねえからな!」


 ゴーちゃんの失笑しながらの言葉に、目に物を見せてやらんと二人が駆け出す。


「えっ、ごめんなさい」


 後方では。キールの気迫のこもった言葉を聞いたせいか、以前「その程度」と言ったアイシャが反射的に謝っていた。


 シンとキールが己の武器を鈍く光らせながらゴーちゃんに肉薄する。


 シンとキールにある希望。それはもう一つの予備。これさせあれば、まだ戦えるということだ。


 それはつまり、その武器が壊れれば希望も潰えるという事。


 己の口から俺達の希望はこれなんです! これが壊れれば戦う気力がなくなります! と言っているようなもの。己の弱点を喧伝することのなんとバカな事か。


「「うおおおおおお! くたばれ!」」


 ゴーちゃんの足に向かって打ち下ろされるシンとキールの武器。


 ゴーちゃんに打ち付けると、一つの武器が呆気なく破砕した。


「そんなバカな!? さっきは問題なく傷を与えられたはずだ! どうしてこんなにも脆いんだ!?」


「あり得ねえ!」


 予備の武器が呆気なく壊れたせいか、シンが目と口をこれ以上ないほどに開いて叫ぶ。


『バーカ! それはその剣が安物の玩具だからだよ! そんな事もわからずに、宝箱の前で喜んだり悲しんだりしている様は滑稽だったぜ? それにさっきだって「この剣があれば戦える!」とか玩具の剣を掲げながら言われて、こっちからすりゃ戦闘するより笑いを堪える方が辛かったぜ! ゲ

 ハハハハハ!』


 ようやく笑うことができるとばかりにゴーちゃんは腹を抱えて笑い出す。


 バカにされているシンは、ショックのあまり怒ることもできないようだ。


「……じゃあ、俺の剣は?」


『何だよ。それならさっき見ただろ? 本物の金貨百枚の剣は俺が折った!』


「あああああああああああああああああっ!? そんなああぁっ!?」


 再び漏れるシンの嘆きの声。


 そこには深い絶望と後悔、怒りといった様々な負の感情があった。


 希望を見せて絶望へ落とす。単純なだけに効果はてき面だな。


 三十階層にいるアンデッドの嘆きの声は不気味であるが、こっちの嘆きの声は心地よさというものがあるな。


「シン! しっかりしろ! 今は戦闘中だぞ!」


「うるさい! キールは自分の武器が壊れていないからそんな事が言えるんだ! キールの剣をよこせ! それさえ、売れば俺の剣が二本買える!」


 キールがシンを叱咤するが、錯乱しているシンからすればキールは嫉妬の対象でしかない。錯乱しているシンは、キールへと組みついて蛮族の斧を奪おうとしている。


「バカ野郎。戦闘中に何してんだ! 魔物の前だぞ!? 錯乱でもしたのか!?」


 階層主を前にして仲間の足を引っ張るとは。これまた面白い行動に出たものだ。嫉妬は人を狂わせると聞くが、それは本当のようだ。


「キール! 撤退しましょう! これじゃあ戦うどころじゃないわ!」


 前衛兼リーダーであるシンがこれでは、とても戦闘にならないと感じたのかアイシャが撤退を提案する。


「ああ、わかってる! ほら、シン! 撤退するから組みつくな!」


「嘘つくな! 自分の斧が壊されるのが嫌だから撤退するんだろう!?」


 しかし、嫉妬に狂っているシンはそれを受け入れない。


 まるでアンデッドのゾンビのように、キールに抱き着いて離れない。


 ははは、そうやって他人を不幸に蹴落とそうとする根性、俺は大好きだぞ?


「うぐっ! そ、そんなことはねえよ! 今のままじゃあ、まともに戦えねえから立てなおす――あああっ!? 俺の斧を盗るなクソゴーレム! 金貨二百枚の斧だぞ!?」


『ははは、小さいな。これじゃあ、武器にもならねえな。どれ? 俺の力で何回地面を叩いたら壊れるか試してみよう』


 キールからあっさりと斧を取り上げたゴーちゃんは、そう言って斧を何回も地面に叩きつける。


 なんて素敵な事をするのだろうか。


 わざわざ持ち主の前で、新しいものを徐々に壊していく様はより相手に絶望を与えることだろう。一瞬で潰すのもいいが、徐々に潰れていく様を見せるにも実にいいな。


 人間とは桁外れな力で乱暴に地面に叩きつけられた斧は、一発地面に打ち付けられる度に刃こぼれし、ひしゃげて、歪に形を変えていく。蛮族の斧がどんどんゴミになっていく。


「やめろ! やめてくれええええええええええ!」


 ゴーちゃんが武器を打ち付けることはキールは止められない。止めようとしても攻撃は通じないし、近くに寄れば余波に巻き込まれるからである。


「ははは、お前の武器も壊れろ」


 一方、キールに抱き着いているシンは、壊れていく斧を見て不気味に笑っていた。


 シンのあまりの壊れっぷりが気になったのでステータスを見てみると、状態に【錯乱】とついていた。


 まあ、あの壊れっぷりなら納得か。


 階層主部屋の中央でゴーちゃんが斧を打ち付ける中、後ろの方では、


「……フローラ、ここは私達だけでも撤退しましょう」


「仲間を見捨てるのは心苦しいですが、そうしましょう。私達の魔法はゴーレムに効かないようですし、あの二人は錯乱しています。救助をするのはとても難しいですからね」


 ほら、見ろ。仲間だの絆だの言っていようが、所詮は我が身が大事なのだ。


 後衛二人は、仲間を見捨てる言い訳をひとしきり言い合うと唯一の出口めがけて走り出した。


 しかし、その唯一の出口を塞ぐように、黄金色の巨大ブロックが降り注ぐ。


『ははっ! 逃がさねえよ! 前回逃げられたから対策済みだ!』


 そのゴーちゃんの得意げな台詞には、俺も驚かされた。


 あのように椅子を作っているのには、そのような理由があったのか。だとすると、それを邪魔したのは悪かった――いや、あれはあれで、俺が楽しかったからいいや。


 俺はあいつらの主であるから、多少横暴な事をしても許されるよね。


「……ねえ、フローラ。これってピンチなんじゃない?」


「仲間を見捨てようとした私達への罰でしょうか?」


 何だかんだこの冒険者達は、全滅する前に撤退をしていたからな。こうやって全滅するであろう状況は初めてではなかろうか。


 そう思うと見ているこっちもワクワクしていた。


 ゴーちゃんは斧をペシャンコにすると、それをゴミのように投げ捨てて、抱き合うキールとシンにパンチをお見舞い。


 すると、二人は面白いように吹き飛び、仲良く壁にめり込んだ。キールの背中に装備されている予備の斧がその衝撃でひしゃげる。


 ゴーちゃんはそれを一瞥することなくアイシャとフローラの下に歩み寄る。


 いつものように軽口を言わず、無機質な赤い瞳を向けながら迫ってくるのは迫力があるな。


「ひいいいっ!? 『ファイヤーランス』ッ!」


「『シャイニングレイン』ッ!」


 顔を引きつらせながらアイシャとフローラが攻撃魔法を放つ。


 しかし、そのどれもが低位な魔法のせいかゴーちゃんの能力によって無効化される。


 さすがは魔法使い殺しの魔物。高慢ちきな魔法使いを恐怖に落とすのに最適だな。


『よし、せっかくだからお前らの武器も折るか』


「あああああっ!? やめて! それはお師匠様に貰った大切な杖なの! 思い出の杖だし、これ以上ないほど私の魔力に馴染んで――あああああああああああああっ!?」


 アイシャから杖を奪うと、それを一気に折る。


 そして、その魔の手は神に仕える修道士に向かう。


「ああ、止めて下さい。それは神が敬虔なる修道士だけに与えることを許した杖です。貴方のような悪しき者が持てば――」


『はい、何も起こらないな。神からの罰も何もない。つまり俺ってば神に認められし修道士ってこと? はっ、いらねー! 生憎俺は神なんて信じてないからな! 潰れちまえ!』


 そう言って、修道士から取り上げた杖を手の平でゆっくりと押し潰していった。




次は幸助少し。

ゼルドの閑話。

そして次にエルフ達かな?

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