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シンの希望

 

「ゴーレムが動き出したわよ!」


 アイシャがゴーちゃんの異変に気付いたのか注意の声を促す。


『そおら!』


「えっ! ちょっとそれデカすぎよ!?」


 後ろで騒ぐアイシャに邪魔をさせないためか、ゴーちゃんが玉座として積み上げたブロックの一つを投げる。


 それは金塊ゴーレムを使っているからか、想像以上に重いらしく重々しい音を立てて床に埋もれた。


 間一髪逃れたアイシャが、青い表情で陥没した地面を眺めている。


 魔法に耐性のあるゴーちゃんに魔法使いであるアイシャが狙われてはマズいと感じたのか、シンとキールが二人して走り出す。


 円を描くような二人の軌道に、ゴーちゃんは目を左右に動かす。


「『シャイニングアロー』」


 そんな狙いを定めるタイミングで意識を逸らすように、フローラが光の矢を放つ。


 並の魔物であれば、狼狽えるであろうタイミングであるが魔法耐性のあるゴーちゃんには効かない。


『ふははは! 無駄だ!』


 ゴーちゃんは光の矢など、まったく意に介さずに黄金の拳を振り下ろす。


 それはどちらか一人を狙うような攻撃ではなく、素早く動き回る二人の動きを阻害するものであった。


 重量級ゴーレムの体重の乗った拳が地面を陥没させる。


「うおっ!?」


「なあっ!?」


 地面から伝わる衝撃と陥没した地面が二人のバランスを崩し、巻き上がる破片と土煙が二人の視界を閉ざす。


 そんな絶好のチャンスをゴーちゃんが逃がさないはずがなく、近くにいたシン目がけてゴーちゃんが次なる拳を振るう。


「『フォースシールド』ッ!」


 仲間の危機を感じて修道士のフローラが発動したのか、シンの目の前に長方形の壁ができあがる。


 しかし、ゴーちゃんは魔法の障壁を障害物ともみなさずに、そのままシンごと殴りつけた。


「ごはっ!?」


 上から殴りつけられたシンが、面白いように地面に叩きつけられた。


 勢いよく地面に突っ伏す光景が潰れたカエルを彷彿とさせたので、俺は思わず手を叩いて笑う。


 シンの身体を纏う防具は、とてつもない衝撃を受けて悲鳴を上げるようにバキバキと割れていく。


 ああ、武器破壊の次は防具破壊までしてくれるなんてゴーちゃんはなんて素敵なのだろう。恐らく、ああやって上から叩きつけることによって、防具破壊を意図的に狙ったのだろうな。


 ははは、今回は防具が壊れたよ。次は武器だね。


「おいっ! シン!?」


「シンさん!?」


 シンのうめき声で攻撃を受けて察したのか、キールとフローラが動揺した声を上げる。


「ぐっ、うう……っ!」


『ははは! 武器頂き!』


 うめき声を上げるシンをよそに、ゴーちゃんはシンが落とした剣を拾い上げる。


 その隙にキールがボロボロになったシンを担ぎ、フローラシンに回復魔法を唱えようと詠唱を始める。


 急いでシンを回復させる冒険者達をゴーちゃんは脅威に思う事なく、拾った剣を天井の光に照らして眺めていた。


 そりゃ、そうだ。俺達はシンの目の前で武器を折りたいのだ。痛みで反応や感情が鈍っていたら、いい反応が見られないだろう? ここはわざと放置だ。


「くそっ! 舐めやがって! 何で、こんな奴が十階層にいるんだよ」


 そんな俺達の思惑を知らないキールは、舐められていると感じて悔しそうに言う。


 ごめんね。こうしたら面白いかもって思ったんだ。


 やがて、シンがフローラの回復魔法を受けたお陰か見事に立ち上がる。


「シン、大丈夫ですか?」


「くっ……、助かった。皆ありがとう」


 パーティーメンバーにお礼を言うと、メンバーがホッとしたような顔をする。


 そしてシンは再びゴーレムに立ち向かおうと、腰にある剣へと手を伸ばす。


 しかし、そこには鞘しかなく、肝心の剣がない。


「あれ? 俺の剣は?」


『おお、剣ならここだぞ?』


 それに答えてくれたのが、ゴーちゃん。


 ゴーちゃんはシンの持っていた剣を爪楊枝のように二本の指で持つ。


「か、返せ! 金貨百枚の剣だぞ!?」


『おいおい、この程度の剣が金貨百枚かよ。うちのダンジョンだったら、こんな物宝箱からゴロゴロ出るのになー』


 俺からシンとキールの状況を聞いているゴーちゃんは、ここぞとばかりに相手を挑発する。


「ぐっ、あのクソゴーレム!」


 こんな程度の武器を金貨百枚で買い、ゴロゴロと出てしまってダブったシンが憤怒の表情を浮かべる。


『えっ? なんだ? どうしてそんなに怒っているんだ? えっ、もしかしてここに来る前に金貨百枚の剣を買って、意気揚々と来たら宝箱から同じ剣が無料で出てきたとかないよな? 反対の腰に同じような剣を佩いているし、俺の言葉に怒るからそうかなーって。いや、まさかそんな間抜けな

 事はないよな?』


 全てを知っている癖に、全て推測したかのように言って、相手を煽りにかかるゴーちゃん。ここぞとばかりに煽りの言葉が冴え渡っている。


 間の取り方や、言葉の高さ、腹の立つ言い方と満点である。先生花丸をあげちゃうぞ。


「ふぬぬぬぬぬぬ! ぶっ殺す!」


「ちょっと待てシン! 気持ちは滅茶苦茶わかるが一人で行くのは危険だ!」


「離せキール! 俺があいつをぶった斬るんだ!」


 一人で飛び出そうとするシンを羽交い絞めにする仲間達。


 全員でかかって、やられかけたのだ。一人で攻撃してもロクな事にならないと理解しているのだろう。


 ゴーちゃんは、羽交い絞めにされて暴れるシンを余裕の表情で眺めながら、


『何だ? この剣はいらないのか? いらないなら折ってしまうぞ? こんな小さな剣は、俺には使えないしな』


「……お、おい冗談だろ? 俺がそれを買うのに、どれだけ精神をすり減らしたかわかっているのか? 貧乏性の俺が……っ! 命は金に換えられないと思って、必死の思いで買ったんだぞ!? 消耗して潰れるならともかく、こんな新品も同然の状態で壊されてたまるか!」


 シンが焦点の定まらない目で叫ぶ。


 そのあまりの必死さに、羽交い絞めにしているアイシャとフローラもドン引きだ。


 そんなシンの必死な叫びを聞いたゴーちゃんは、剣先と柄を両手で掴み、


『そんなの知るか。壊れてほしくないなら持ってくるな』


 もっともな言葉と共に、金貨百枚の剣をへし折った。


「あっ、あああああっ! あああああああああああああああっ!?」


 階層主の部屋にアンデッドのような雄叫び声が響く。


 おお! これは中々の絶望の感情だ。水晶の負のゲージがドンドンと溜まっていく。


 やはり、人は積み重ねた努力が大きいほど壊されると絶望を感じるらしいな。それも本人の納得がいかない形で引きおこると、より多くの絶望が得られるように感じるな。これは要研究だ。


「落ち着けシン! 俺達にはもう一つの剣があるはずだ!」


 絶望でガクガクと震えるシンを、仲間であるキールが肩を揺らしながら訴えかける。


「……もう一つの剣……?」


「そうだ。きっと神様がこういう事態に備えて、俺達に授けてくれたんだよ!」


 この状態を仕掛けた俺が神と崇められるとは、なんという皮肉だろう。


「左側の腰にある剣を見てみろ!」


「……剣がある。金貨百枚の剣だ」


 己の腰に金貨百枚の剣があることを認めたのか、虚ろな目に力が宿っていく。


「そうだ! だから、お前はまだ戦える!」


「そうよ! 私達はまだ戦えるわ!」


「そうです! 私達はまだやれます!」


 仲間達の励ましの声で力が漲ったのか、シンが左腰にある予備の剣を引き抜いた。


「そうだ! 俺にはもう一つの剣がある! だったら、俺はまだ戦える!」


 同じ剣があることが希望になっているのか、剣を構えたシンが高らかに叫ぶ。


 このような展開になるとは予想していなかったが仲間達も酷いことをする。


 なにせ仲間に希望をみせているのだ。それはこれから起こりえる絶望という名の炎に油を注いでいるようなものなのだから。




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