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お約束

 

「……ようやくたどり着いたな。十階層の階層主部屋に」


「ああ、ここにたどり着くまで長かった」


 シンが率いる冒険者が、十階層にある重々しい石の扉を前にして呟く。


 まるで、そこが最終階層だと言うべきような感慨深い声音だ。ダンジョン全体としては三分の一以下なんだけどな。


「ここのダンジョンは階層主と戦うまでに体力や精神力を持っていかれる気がするわ」


「ええ、それでもようやく来たのです。気を引き締めていきましょう」


 疲れ気味のアイシャを励ますフローラであるが、フローラ自身も疲れているのか声は弱々しい。真っ白な法衣は泥まみれになっているだけでなく、幾度なく転んだせいか擦り切れている。


 まあ、それはフローラだけでなく、アイシャやキール、シンも同じようなものだ。


 罠に何度もかかっていたせいか皆がボロボロであった。


「で、問題の階層主はスライムキングなわけ? 私達がこの間入った時は、金色のムカつくゴーレムだったじゃない」


「そう、それが問題だよな。スライムキングかゴーレムかで対応は大きく変わるからな」


 アイシャとキールが不可解とばかりに眉を潜めながら話す。


 アイシャの方は、前回煽られてバカにされたせいか不快というイメージがあるようだ。眉間にたくさんの皺が寄っている。


「けど、あの金色のゴーレムを見た事がある奴はいないんだよな?」


「はい。私達の後に階層主の部屋に入った冒険者達も階層主はスライムキングだったと言っていました。金色のゴーレムなど誰も知らないようです」


 まあ、ゴーちゃんが十階層に出てきたのは、あの日だけだったからな。それ以降は出していない。


「おかしいよな。それじゃあ、俺達の折れた武器は何だったんだって話だぜ」


「ああ、まったくだ。少なくても幽霊や幻の類じゃないだろ。確かに金色のゴーレムはいた」


 夢や幻の類で武器をへし折られてはたまるかとばかりに、キールとシンが腕を組んで言う。


「一定の月日で交代したり、ダンジョンマスターが変わると階層主が変わるってのは聞きますけどね」


 へー、日替わりで階層主が変わるのか。面白いな。


 まあ、でもうちの階層主筆頭は、どいつもこいつもアクが強かったりする奴ばっかりだからな。


 デュランとか階層を持つ気もないしな。押し込んでみても、勝手にどこかにいったりしそうで怖い。まあ、デュランやボックルなんかは冒険者に紛れるという最大のアドバンテージがあるので階層主にするのは勿体ないことだからする気はない。


「極低い確率で出てくる階層主とか? 金色のゴーレムで、金塊ゴーレムを出せるとか言っていたじゃない? あれはきっとダンジョンによる冒険者集めのための階層主なのよ!」


「そんな宝箱じゃあるまいし。でも、あれが全部金塊でできているとしたら、お金にはなりそうだよね」


「ハハ! そりゃあいい! そうだったら、この先金には困らなさそうだな」


 アイシャの冗談めかした言葉に、シンとキールが笑いながら言葉を返す。


 希望的な話ではあるが、シンとキールはどことなく目が真剣だったような気がする。


 それから冗談を言って、場を和ませながらも冒険者達は階層主に対しての作戦会議を始める。


 スライムキングだったら、アイシャが範囲魔法を詠唱し、スライムが召喚された瞬間に焼き払う。そこを一気に前衛が攻め込み、フローラが前衛と後衛のサポートという堅実なもの。


 対する、金色のゴーレムの場合は、新しい武器を手にした前衛を主力とする。魔法攻撃は効果を示さないので、アイシャが攻撃魔法による注意引き、フローラが徹底的に前衛を魔法で援護という形らしい。


 冒険者達が必死に意見を交わし合う中、俺は高みの見物だ。


 どうせ上手くいくはずがないのにな。相手がゴーちゃんの時点で並みの魔法使いは足手まといにしかならないのだ。


 となると、アイシャとフローラは役に立たないとして、実質的にはキールとシンの二人だけ。たった二人でゴーちゃんに勝てるわけがないじゃないか。


 少なくても重量級の騎士や、剣士が必要だろうな。順調に獲物がかかるような様子を観察するのはやはり楽しいな。負けるとわかっているのに必死に作戦を立てて、意見を交わす様は非常に滑稽だ。それはやはり、全体的な情報を知っているダンジョンマスターならではの楽しさだろうな。


 俺が冒険者達をせせら笑いながら見守っていると、準備が整ったのか冒険者達が扉を開いた。


 石造りの扉が、ゴゴゴという音を立てて左右に開いていく。


「あー! 金色のゴーレムよ!」


 階層主の部屋に足を入れたアイシャが、前方を指さしながら叫んだ。


 そこには、金色のブロックに素早く腰掛けるゴーちゃんがいた。


 どうやら俺が転移で奪った後、必死になって組み立て直したようだ。


 ゴーちゃんの焦りようから、まさに今完成したばかりといったところだろう。


 しかし、ゴーちゃんはそんな様子を微塵も感じさせずに声を発する。


『よく来たな冒険者達よ! 我はこの階層を任され門番なり。これ以上先に進みたければ、この我を倒すがよい! さあ、冒険者達よ! その武勇を――』


「やっぱり、ゴーレムだったか! 行くぞキール! 俺達が切り崩すんだ!」


「おうよ! フローラ! 頼むぜ!」


「はい! 『エンチャント・スピード』『エンチャント・シールド』」


 ゴーちゃんが、RPGのボスのように語りかけるが、冒険者達は先手必勝とばかりに駆け出す。


『おいおい、ちょっと待て! こういう名乗りのシーンは、待つのがお約束だろ!? 正義のヒーローや、五人のレンジャーも、悪が相手でもそれだけは守っていたぞ!?』


「何意味わかんない事言ってんのよ。『ファイヤーランス』ッ!」


 そんなせっかちな冒険者に待ったをかけるゴーちゃんであるが、返ってきたのはアイシャの罵倒と火の槍であった。現実というのは世知辛い。


 椅子に座っていたゴーちゃんは、驚き立ち上がるも顔面に火の槍を受けた。


 炎の槍はもうもうと爆炎を上げるが、ゴーちゃんは低位の魔法を無効化する能力があるのでまったく効かない。


 それは冒険者達も理解しているのか、視界が塞がった今がチャンスとばかりにシンとキールが斬りかかる。


「金貨百枚の剣だ!」


「こっちは金貨二百枚の斧だ! おらぁ!」


 気持ちはわかるが、何と格好の悪い掛け声なのか。


 それでも気迫だけは本物か。ゴーちゃんの左右の足を斬りつける。


 金属と金属がぶつかり合う甲高い音が部屋に響いた。


『おいおい! せっかく魔法を受けたんだ。せめて、「やったか……っ? ……何!? 無傷だと!?」をやらなくてどうするんだ!?』


 ちょっと、ゴーちゃんが現代日本の文化に毒されすぎているのかもしれない。暇つぶしにアニメやゲームをやらせるのは、ほどほどにしておこうかな。


「凄いわ二人共! あのゴーレムに少し傷がついているわ!」


「……よし、折れてないぞ! さすがは金貨百枚しただけのことはある!」


「こっちもだ! 刃こぼれ一つしていないぞ!」


 アイシャがゴーちゃんの微かな傷を見て嬉しそうな声を上げるが、シンとキールは己の武器が無事な事を嬉しがっているようだ。


 ゴーちゃんの間合いから離脱しつつ、己の武器に頬ずりをしだす。まるで、高い金貨を賭して買った意味があるのだと自分に言い聞かせているようであった。正直気持ち悪い。


『なに、喜んでんだよ。こんなの掠り傷じゃねえか』


 己の自慢の身体を傷つけられた事と、言葉を無視された鬱憤が溜まってのか、ゴーちゃんが面白くなさそうに言う。


 お前はハブられた子供かよ。まあ、その不満を冒険者にぶつけてもらえればいい。


「ゴーちゃん、そろそろ目にものを見せてやれ」


『はい』


 俺が念話で言ってやると、ゴーちゃんは不満を冒険者にぶつけることにしたのか怪しく目を輝かせた。





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