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ゴーちゃんの絶望

 

 二階層のゴブリンに目をつけた俺は、兵士セット一式を水晶で召喚してボックルに渡す。すると、ボックルは部屋で一発エアーガンを撃つなり、嬉々とした様子で二階層に転移した。


 あの臆病なゴブリン達をもっと鍛えるのだそうだ。まあ、教育する方針は既に決まっているのだ。ある程度道具の使い方を教えて、弾さえ撃てるようになれば、面白いことになるだろうな。


 ダンジョンマスターの部屋は、口うるさいボックルがいなくなったせいかとても静かだ。今では、ソファーからまったく動く気がないべこ太と、床のカーペットで昼寝をしているイビルウルフのみ。


 言葉を操る魔物がいないせいか実に静かだ。こういうまったりとした平和な時間は久し振りな気がする。


 それぞれの微かな身動ぎの音や呼吸しか聞こえない。そんな静かな空間を満喫すべく、俺はインスタントの紅茶とクッキーを用意する。


『ぶにゃー』


 俺がお菓子を開封した瞬間、ソファーに座っているべこ太が俺にも寄越せと言わんばかりに鳴き声を上げた。


 こちらに近寄って可愛くおねだりすらしない。


「チッ……無駄に嗅覚だけは鋭いんだから」


 また無視して、この間のように勝手に貪られても面倒だ。ここは大人しく分けてやることにしよう。この程度のもの魔力さえあればいくらでも用意できるしな。


 ついでに、寝ているイビルウルフが拗ねないように、イビルウルフの分も別に取っておく。これをべこ太が奪ったら、俺はもう知らん。


 ソファーの上に、クッキーを入れた皿を置くと、べこ太がのっそのっそと歩いて齧り出す。


 それをチラリと眺めてから、自分の分のクッキーと紅茶をテーブルに置いてから椅子に座る。


 それからクッキーを一つ摘まんで齧る。サクサクとした気持ちのいい食感がし、口の中に甘い味が広がる。


 それは俺には少し甘すぎるように感じられたが、砂糖を入れていない渋みのある紅茶と一緒に流すと、程よい味になった。


 同じようにしてクッキーを三枚食べた俺は、口直しとばかりに紅茶を飲んで水晶に視線をやる。


 三階層に降りた冒険者は、大して面白い奴でもないし、俺が手を下すまでもなく勝手に罠にかかって負のエネルギーをまき散らすだろう。こちらは放置。


 現在七階層で魔物と戦っている冒険者達は、このまま行けばまた十階層にまで行けそうだな。後はもう、階層主に簡単な仕上げをしてもらえばいいだろう。


 シン達の事を考えると、前回同様ゴーちゃんを十階層に押し上げるのが面白い気がするな。スライムキングとの再戦も見たいところであるが、今回はシンとキールの心を重点的に折りにいっているのだ。是非ともここは、ゴーちゃんがトラウマになるように、十階層の階層主はゴーちゃんにしてやりたいな。


 そんな理由で、俺はゴーちゃんを再び十階層に押し上げる決意をした。


 スライムキングがごねる可能性もあるが、適当にそこはあしらってやろう。レベルを一だけ上げるとか言ったら、喜んで我慢しそうだ。


 そう思って、まずは十階層にいるであろうスライムキングと話をしようと水晶を操作する。


 すると、十階層の階層主部屋には何故か金色のゴツいゴーレムがいた。


 自分専用の椅子を作ろうとしているのか、金色のゴーレムを分解して椅子を組み立てようとしている。


 ゴーちゃんが、慎重にジェンガのようなブロックを組み立てる中、俺は声をかける。


「……おい」


『どわあああっ!?』


 階層主の部屋に響き渡った声に驚いたのか、ゴーちゃんが驚きの声を上げる。


 そして積み上げていたブロックを押し込んでしまったのか、ブロックが重々しい音を立てて崩れた。


 凄い重そうな音だったな。この間、金塊ゴーレムとか召喚してたし、あれ全部金だったりするのだろうか? 売り払ったらかなりのお値段になりそうだ。


『あああああああああっ!? せっかく組み立てたのにっ!』


 崩れ落ちるブロックを見て、ゴーちゃんが頭を抱える。


 感情に仕草にと、最近ますます人間味を増している。


『ちょっとマスター。声をかけるタイミングを考えてくださいよ』


「おいおい、これでもゴーちゃんがブロックを持ち上げて、ゆっくりと置こうとする瞬間まで待ってやったんだぞ?」


 物事にはタイミングというものがある。だまし討ちなどをする際は、特にそれが大切だからな。


『それって明らかにこうなるのを狙ってましたよね?』


「まあな。俺がお前らに声をかけるのに気を遣わなきゃならん理由はないからな。って、俺のお茶目な悪戯の事はどうでもいい。何でゴーちゃんが十階層にいるんだよ?」


 確かに俺はゴーちゃんに十階層に行ってもらおうと思っていたが、まだ声をかけてなかったぞ。


『スライムキングが不死王のいる三十階層に遊びに行ったので、これ幸いと十階層にやってきました』


 お前は空き巣か。まったく、勝手に十階層に上がってきやがって。


「やってきたはいいが、肝心の冒険者がいないだろう?」


『壁ゴーレムからの情報で、この前の冒険者達が来ているのは知っているので久し振りに戦えると思ったんです!』


 こいつにそんな情報網があるのは初めて知った。いや、そこまでは俺も尋ねていなかったし、大して気にもしていなかったし別に怒るほどの事でもないか。


「……まあ、元々呼ぶつもりだったからいいけどな」


『本当ですか! ありがとうございます!』


 連絡をしないことを怒りたいところだが、今回はスライムキングと面倒なやり取りをせずに済んだから良しとする。


 転移陣に制限をかけるなり罰を与えるなりしてもいいが、階層主は割と突飛な事をしでかすからな。あんまり束縛すると成長を止めるようで面白くないような気がするんだよな。


 まあ、あんまり舐めているようだとさすがに罰を与えるけどな。特にボックルは、そろそろ罰を与えるべきだと思うんだ。


 この間のように聖騎士と戦わせるというような死地へと送り込んでやろうか。いや、聖騎士にとってボックルは状況打開の鍵のようなものだからな。


 うっかり討伐されると俺が困るし悩みどころだな。


 まあ、ボックルの件については保留として、今後もこき使うことにする。


 一先ずの結論を決めていると、ゴーちゃんがまた一からブロックを組み立て直す。どうやらスライムキングのように玉罪に座って冒険者を待ち受けたいようだ。


 まあ、その気持ちはわからないのでもないので、もう邪魔はしないことに……。


 いや、やっぱり完成してから崩してやろうかな? 人であろうと魔物であろうとそこに感情があれば、悪戯をしてやりたくなるというものだ。


 人の努力を踏みにじる行為は楽しいからな。たまには階層主の絶望も悪くない。


 椅子が完成してから目の前で崩してやるのがいいのか、ゴーちゃんが座る瞬間にブロックを転移させて、無様に転かすのがいいのか。どっちだろうなー?


 俺が素敵な笑みを浮かべて想像していると、ふとゴーちゃんが振り返る。


『戦闘は久し振りだなー。あっ、マスター、今回やるべき事とかありますか?』


「そうだな。冒険者達は以前お前を斬れなかったことで、高い金を払って新しい武器を買ったらしいぞ」


『……つまりそれをへし折ってやればいいんですね? 冒険者達の目の前で』


「わかってるじゃないか」


 短い言葉だけで、俺の意思をくみ取ってくれる階層主は最高だな。


 それから三十分後、十階層の階層主部屋では、椅子に座ろうとして無様に転がるゴーちゃんの姿が見れた。


 勿論、俺は爆笑した。




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