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臆病なゴブリン達

なんやかんやで400万PV突破!ありがとうございます!

 

 シンとキールが互いに絆を深めて負の感情を排出し合っている様を笑いながら見ていると、二階層にも冒険者が巡り込んでいた。


「……何だこれ?」


『どうかしましたかマスター?』


 水晶を操作して、そちらの方を確認してみると、そこではゴブリンと四人の冒険者が珍妙な事をしていた。


 冒険者のパーティーが進む度に、ゴブリンたちは慌てて逃げる。


 ゴブリンといえば、基本的に好戦的だ。


 敵を見つければ早速とばかりに襲いかかるし、冒険者を襲うために機会を窺って隠れることはあるが、このような逃げる真似はしない。


『ああ、これはきっと、二階層で駆け出しの少年冒険者に股間叩きをした臆病なゴブリン達ですね。どうやら二階層にやってきた冒険者から逃げ回っているようです』


「だろうな。普通のゴブリンはこんな風に逃げないもんな」


 俺達がそんな事を言っている間にも、ゴブリンは壁から壁へと素早く移動して隠れる。


 そして、そろりと顔を出して冒険者達を眺めるのだ。


 さっさと遠くに逃げればいいと本能ではわかっているが、怖い者見たさみたいなものがあるのだろう。ゴブリン達は見つからない程度の距離からじーっと冒険者達を眺める。


「……さっきから何なんだ? 何かがいるよな?」


「ああ、魔物か人間か何かがいるのかは間違いない。ずっと俺達を付かず離れずの距離で見ているような気がする」


 冒険者達は周囲に何かがいるとは気付いているようだが、魔物なのか人間なのかは明確に断定できていないようだ。


「いやらしい奴等だ。俺達の手柄でも盗もうとしてるのか?」


 ダンジョンで、先を歩く冒険者を狙おうとしたり、冒険者が倒した素材のおこぼれを貰おうと付ける者はたまにいる。


 そういう人間はハイエナや死骸漁りなどと呼ばれており、同じ冒険者に軽蔑の視線を向けられるらしい。


 まあ、こういう誰が何をやったとか証拠もロクに残らないダンジョンだ。人がよからぬことを考える環境は十分にあるというわけだな。


 そんな奴等を警戒しているのか、冒険者達はさっきから苛立っている模様。


 つかず離れずの距離から窺う視線が気になって仕方がないようだ。本当はハイエナじゃなくてゴブリンなんだけどな。


 あの臆病なだけのゴブリンが、このような方法で嫌がらせをするとは大したものだ。実際は、マジで死にたくないから逃げているだけだろうけどな。


「魔物にせよ人間にせよ、よからぬことを考えているのは確かだろう。こういうのはさっさと潰しておいた方がいい。放っておくと戦闘中に襲いかかられるかもしれん」


 一人の男の言葉に他の三人が頷くと、冒険者達は一斉に道を分かれて走り出す。


 それに慌てたのが周囲にいるゴブリン達だ。


 ゴブリン達は声を出せば居場所がバレると理解しているのか、器用にハンドサインを使って意思の疎通をし、逃げ出した。


 それには流石に俺も驚く。


「……おいおい、こいつらは戦闘訓練を受けた兵士か何かなのか? ゴブリンの癖にハンドサインとか使い出したぞ」


 勿論、俺はそのような事を教えていない。


『簡単なハンドサインなら冒険者も使いますからね。恐らく、冒険者が声を出さずに手で意思の疎通をしていることに気付いて、その技を盗んだのでしょう』


 冒険者に変身できるストックを増やすためか、よく階層内を歩くボックルが補足説明をする。


「……レベルの低いゴブリンって、知能が低いはずだろ?」


 レベルが高くなって知能を得たり、ホブゴブリン、ゴブリンメイジなどに進化した個体なら、そのような知能を持つことにも納得するのだが。


『二階層の魔物は基本的にレベルが低いので冒険者と出会えば、基本的に倒されますからね。臆病な彼らが死にたくないという強い意思を持っているからこそ、技を盗む事ができたのではないでしょうか?』


 俺の疑問に珍しくボックルが真面目に答える。


 俺が感嘆の声を上げる間にも、ゴブリン達は的確に冒険者から逃げ回る。


 階層にある罠を正確に把握しているのか、罠である石畳を的確に避けている。


「おわあっ! 落とし穴か!?」


 それに比べて冒険者達はまったく把握していないのか、次々と罠にかかって動けなくなっていた。何十匹もいるゴブリンだが誰も無様に捕まったり、行き止まりに逃げるようなヘマをやらかす奴がいない。


『きちんと周りの物を利用する術も心得ているようですね』


 ゴブリン達の鮮やかな逃げっぷりにボックルも感嘆の声を上げる。


「多分、お前が冒険者を罠でおちょくる様を見て覚えたんだろう。お前ってば、たまにゴブリンに変身して、冒険者をおちょくっているからな」


『ノフォフォフォ! さすがはマスター。バレておりましたか。いやはや、冒険者というのは弱い魔物におちょくられるのが我慢ならないのか、とてもいい反応をしてくれますからね。ついつい、悪戯をしたくなるというものですよ』


 たまにやけに威勢のいいゴブリンがいるからな。さすがに気付くわ。


 まあ、弱い者に変身して、相手の怒りを煽るというのは実に素晴らしい方法なので黙認というか推奨だ。


「ああ、でもやっぱり限界はあるか。逃げている一匹が行き止まりに行ってしまったぞ」


『いえいえ、マスター。よく見てください。そこもある意味正解ですよ』


 落胆の声を上げる俺に、ボックルが注視するように促す。


 水晶を見ると、冒険者の先を走るゴブリンが行き止まりへと真っ直ぐに走っている。その先が行き止まりの壁で、後ろからは冒険者が迫っているにも関わらずだ。


 普通なら、これ以上先に進めぬことに狼狽し、そして後ろから冒険者という死神が迫ってくることに嘆くはずだ。


 しかし、ゴブリンはそここそに希望があるのだと言わんばかりの足取りだ。


 俺が疑問に思っている間に、ゴブリンは勢いよく跳躍。そして床にある石畳をピンポイントで踏み抜いて、落とし穴の罠を起動させた。


 ダンジョンにある落とし穴の罠が作動して、石畳が瞬時に開く。当然その上にいるゴブリンは穴に落ちていき、石畳は何事もなかったかのように閉じられた。


 そして、その数秒後に追いかけていた冒険者がやってくる。


「あれ? 誰もいない? そんなバカな? 俺の前には確かに誰かがいたはずだが……」


 呆然とした声を上げながら辺りをうろつく冒険者。


 しかし、そこには誰もいない。ゴブリンが落ちた閉鎖式の落とし穴は、一定の時間が経つまでは開閉しないからな。何時間もいれば見つかるだろうが、さすがに冒険者もそこまで気が長くない。


 曖昧な存在に対して、そこまで時間は割かないだろう。


「んだよ。どうなってんだ?」


 冒険者は行き止まりの区画を調べると、舌打ちして元の道に戻っていった。


 冒険者が追いかけていたゴブリンは、閉鎖式の落とし穴でひっそりと息を潜めていた。


「なるほどなあ。臆病なゴブリンからすれば、閉鎖式の落とし穴は何よりも安全なシェルターになるというわけか」


 水晶を眺めていた俺は、そんなゴブリンの様子を見て爽快な気分で笑う。


 弱者である者が、圧倒的強者を騙してやり過ごす様は非常にワクワクして爽快であった。


『弱い者だからこそ、気が付けるポイントが違うというわけですね。あれには私も脱帽しました。ノフォフォ!』


 ボックルも同じ気持ちなのか、どこか楽しそうに笑う。


 まさか落とし穴を緊急避難用のシェルターとして活用するとは思いもよらなかったなあ。


 そこまで生き残るために執念を燃やすとは、中々見どころがある魔物だ。


『……マスター』


「わかってる。あのゴブリン達を鍛えてやろう。あの慎重さがあれば、今後冒険者達にも引けをとらんだろう」


 何せ圧倒的な能力の低さを、知恵で補うゴブリン達だ。鍛えてやれば、冒険者をおちょくりまくれる魔物に成長するだろう。


「奴等が慢心しないように、レベルはあまり上げず、もっと下の階層にぶち込んでやろう」


『それがいいかと。彼らの強さは自分達が弱者だと自覚しているが故のものですからね』


 ボックルがそのような事を言う間に、俺はあのゴブリン達をどの階層に放りなげるか、どのような武器を持たせるといいのか考える。


『マスター、あのゴブリン達ですが、マスターの世界にいる兵士のように育ててみるのはいかがです? 御覧の通り、あのゴブリン達は臆病で積極的に攻撃できませんし、ここはあの隠密能力や生存能力を活かして遠距離攻撃をさせるのが良いと思うのです』


 なるほど、あのハンドサインを使って連携する様は、まさに兵士そのものだ。あのゴブリン達に近距離武器を持たせるなど論外。連携と隠密能力を駆使して、遠方よりネチネチと冒険者に攻撃するのがいいだろう。


 おお、想像するだけで面白くなってきた。


「いいだろう」


『ではマスター。あのゴブリン達に兵士装備一式を頂きたいです』


 珍しく慇懃な例をするボックルに、俺は顔をしかめる。


「いいけど、銃は無しな。あれを使うと多分、冒険者の虐殺になっちゃうから」


 聖騎士のような硬そうな鎧を装備した奴ならともかく、普通の冒険者なら間違いなく弾丸で貫かれると思う。そのような過ぎた文明の道具を使って虐殺してもまったく面白くない。


 俺は人殺しをするためにダンジョンを経営しているわけではないのだから。


 いやでも、おちょくるためなら別だよ? おちょくるためならどんな物でも使います。 


『それは私も懸念していたことでございます。銃のようなもので殺傷性の少ないものはありませんかねマスター?』


 ボックルのその言葉を聞いて、俺は考え込む。


「ん、じゃあ、武器はエアーガンにしよう。それなら殺傷性はないしな」


『えあーがん?』


 俺が召喚している映画や書籍でもエアーガンは出てこなかったのか、ボックルが首を傾げる。中年神官の顔でそれをやられてもまったく可愛くない。イラっとする。


 咄嗟に殴りつけたくなるが、それをすると話がそれそうなので我慢し、俺はボックルにエアーガンがどのようなものか説明をしてやる。


 俺とボックルがゴブリンの教育方針について語る中、二階層にいた冒険者達は誰もが不機嫌そうな顔で三階層に向かっていた。




レビューを書いてくださった方々、ありがとうございます。私の作品の中で、ダントツのレビューの多さです。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] サバゲー用のエアガンは殺傷性はないですが、 一般的なエアガンはネズミ駆除から鹿狩りまであり日本でも一部のハンターが使用しています。鹿狩り用などでは22口径のライフルよりパワーがあるもの…
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