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とある駆け出し冒険者

 

 俺の集めた負のエネルギーを使って、邪神官を生み出した邪神達。


 そして邪神に属する俺達と敵対する勢力、アレクシア教。それらの情報などがわかり、新たに動くことを決心した俺だが、基本的にやることは変わらない。


 そう、俺はいつものように冒険者に嫌がらせをすればいいのだ。


 それをすることがすなわち命を守る最善手となるのだから。勿論俺自身の強化も課題だけどな。


 俺はいつものようにダンジョンマスターの部屋で優雅に腰かけ、ダンジョンのコアたる水晶を操作する。


 全体の階層マップを確認。すると、二階層で一人の少年冒険者が潜っているのを見つけた。


 装備は最低限の胸や膝を覆っている皮鎧、貧相な鉄の剣という、いかにもな駆け出し冒険者の姿。


 まだ年若く貧相な服をしている少年ということもあり、田舎の村からやってきたばかりなのだろう。


 今までダンジョンに入って来る冒険者ばかりを見ていたので、さすがに俺でもそれくらいは判別がつく。


『おやおや、この少年は駆け出しですかね?』


 俺が駆け出しの少年を水晶で眺めていると、ボックルがずいっと顔を出してくる。


 勿論、その姿は見目麗しい聖騎士や色っぽい爆乳魔法使いではない。ついこの間邪神官となったゼルドの顔そのままだ。


「ああ、そうだな。田舎の村に住む少年が冒険者に憧れて村を飛び出す……」


『……きっとこの少年の胸には、たくさんの夢や希望で満ち溢れているのでしょうね』


「だからこそ、俺達が与える現実と絶望に対して甘美なる負の感情を吐き出してくれるのだろうな」


 都合のいい夢や希望がたくさん詰まった風船を針で突くのは大変楽しいことだ。皆も膨らんだ風船を針やシャーペンで突いてパンと割るのは好きだろう? それと同じさ。


 生の感情でパンパンに膨らんだ少年の心を針で割る。考えるだけで楽しくなってきた。


『ノフォフォフォフォ! マスター、今日も悪魔族も恐れ戦くくらいの醜悪な笑みですよ』


「爽やかな笑みと言え。それにお前の笑みだっていつもの五割増しで黒いぞ?」


 ボックルが俺の笑みを醜悪だとか意味のわからんことを言っているが、今の俺はこの駆け出しの少年を苛めることを頭を巡らせ、気分がいいので気にしない。


 俺が素敵な笑みを浮かべながら少年を眺めていると、二階層を徘徊していた一匹のゴブリンと少年が出会った。


「ゴブリンか!?」


『ギイッ!?』


 出会いがしらの少年の言葉。


 お互いに通路から出てきて出会う形になったわけで、少年とゴブリンが驚いたような反応をする。


 その反応を見るだけで、ゴブリンと少年のどちらともが接敵するまで互いの存在に気付いていなかったということになる。


『このような間抜けな反応は久し振りでございますね』


 まったくもってボックルの言う通りだ。前回の相手はレベル五十六、戦闘力だけは手練れの聖騎士だったためにこういう遭遇戦になることはマズあり得なかった。


 前回の聖騎士が戦闘面だけは凄かったので、少年のノウハウのなさがよくわかるのだろうな。


「……ゴブリン一匹。いつも村でも追い払っているんだ。いつも通りやれば問題ない」


 数多の魔物がひしめくダンジョンにいながら、まさかの村基準の考え。この少年の頭はどこまでお花畑なのか。アホ過ぎて思わず嘲笑が漏れる。


 ゴブリンが棍棒を構えて、少年が剣を構える。


 それからお互いが間合いやタイミングを計るように睨み合う。


 ゴブリン一匹を相手にこれだけ慎重になる相手は久々だ。それだけ慎重になれるのであれば、きちんとパーティーを組むなり、装備を整えるなりすればいいのに。


「やああああっ!」


 俺がそんな事を思っていると、次の瞬間少年が剣を構えて踏み込んだ。


 それに触発されてゴブリンも焦ったように飛びかかる。


 少年が放った振り下ろしは、飛びかかってきたゴブリンの頭に吸い込まれるように直撃。ゴブリンは脳漿を漏らしながら地面に崩れ落ちる。


 二階層の広間に残ったのは息を荒げ、ゴブリンの血液に服を汚した少年であった。


「ゴブリン程度大したことはないな! 俺なら行けるぞ!」


 少年が血に塗れながら、元気よく言う。


 自分の実力を都合よく再確認して、さらなる希望を持ったということだろう。


 少年はゴブリンを倒して自信をつけた。ゴブリンを大したことがないと言った。


 そうなれば少年を絶望に叩き落すに相応しいのはゴブリンではなかろうか。


 ゴブリンに始まりゴブリンで終わる。何とも素晴らしい巡りではないか。



 ◆



「……何だこれ? 看板か?」


 二階層を進んだ先で少年が見つけたのは、このダンジョンに潜る多くの冒険者達を惑わす看板だ。


 この看板は指し示す方向が正しかったり、まったく見当違いだったり、罠が待ち受けたりする。それ故に冒険者達も看板を信じるか、信じないかで大いに頭を悩ましているのだ。


 まあ、基本的に俺が気分で罠や看板を入れ替えるからね。悩んでも仕方がないのだけどな。


 きちんとマッピングをして進むのが一番だ。


「……看板だから親切な誰かが立てたってことだよな。じゃあ、看板の通りに右に行ってみるか」


 なんと自分に都合のいい解釈。


 そうやって少年が進んだ先は……、


「うわっ! な、何だ! ゴブリンが湧いてきたぞ!」


 看板の通りに進み小部屋に入った少年は、見事に罠にかかっていた。


 魔物が大量に湧き出る魔物部屋である。少年が魔物部屋に入るとわかった俺は、ここぞとばかりに湧き出る魔物をゴブリンに変更。


 小さな一室には棍棒を手にしたゴブリンが所狭しと登場。


「だ、大丈夫。ゴブリンなんだ。ゴブリンがちょっと群れただけなんだ。これなら俺にだって……」


 十匹はいるゴブリンを前に、駆け出し少年は震えながら剣を構える。


 ゴブリン単体が弱いからといって見下すことの何たる高慢なことか。


 冒険者とは一般的にパーティーを組むべきものだ。


 それは力ある魔物に対して人間ではどうしても一人で対処できないことが多いからである。一人より二人、二人よりも三人。


 そうすれば多くの魔物が現れても生き残る確率がグンと上がる。


 それをしていないということはよっぽど自分の腕に自信があるのか、あるいはパーティーを組んでくれる人がいない可哀想な奴なのか。


 こいつは哀れな前者だ。


 ゴブリンは群れで行動することによって真価を発揮する魔物。それを侮るなどとは……。


『何秒持ちますかね?』


 ゴブリンに囲まれた少年を見て、隣にボックルがウキウキとした声を出す。


「あー、何秒だろうな? 五秒? 十秒? いや、意外と泥沼な戦いを繰り広げるかもしれないぞ? ゴブリンは弱い獲物を苛めるのが大好きだからなー」


『ノフォフォフォ! マスター、とても楽しそうな声です』


「当ったり前だろ? こういう瞬間を楽しみにして冒険者を苛めているんだから」


 俺にとっては今が給料を貰える時と言っていい。


 そう、今こそが至福の時間なのだ。



そんなわけで幸助の日常の始まり。

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