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プロローグ リエラの街の冒険者

なんやかんやで三章はじまります。

 

「もう! いつまで引きこもってんのよ!」


「「…………」」


 私はディルクとハンスが引きこもっている宿屋の一室の扉を叩く。


 しかし、中から返事は聞こえない。


 前回私達がダンジョンから帰り、とある事件にあってからずっと二人はこうだ。


 そのとある事件とは、ダンジョンで私達が気絶している間に何者かが私達の身体に落書きをした。そして、その落書きに気付かないままに私達は大衆浴場に入り、屈辱を味わってしまったのである。


 ハンスは己の股間を示すように『ダガー』と書かれ、ディルクは『ボーンククリ』と書かれていた。


 そして、そして、わ、私は自分の胸のサイズを表すかのように『まな板』などという屈辱極まりない言葉をお腹に書かれたのである。


 それらを書かれただけならまだしも、それらを見せつけるかのように公共の場で晒してしまったのである。お陰で私は大衆浴場にいる女性(エルフ族の私からすれば皆巨乳)に同情、失笑されることになったのである。


 思い出しただけでも腹が立ってきた。


 ドンドンバキッ!


「ひいっ!」


 扉を叩く腕に力が入ってしまったせいか、扉が少し陥没してしまった。


 なに、この程度なら扉が老朽化していたとか言い訳すれば弁償とかはしなくて済みそうだ。


 それよりも今、部屋の中からハンスの声が聞こえた。


「コケのダンジョンを攻略するための作戦会議をするわよ! 早く部屋から出てきなさい!」


「……コケのダンジョンに行くのは今度にしないかい? その、ほら、色々と準備とかあるでしょ? 俺の溶かされた鎧とかまだ出来ていないし……」


 私が扉を叩きながら言うと、部屋の中からハンスのか細い声が聞こえてきた。


「もう二週間は休んだわ。ハンスの鎧もできたからいい加減取りにこいってドワーフの親方も怒っていたわよ」


「……じゃあ、もう一週間ほど休養したら行こうか。実はスライムに鎧を溶かされた時に少し皮膚を溶かされて痛むんだ」


 ハンスがさらなる休養を求めたことにより、私の苛立ちが急速に高まる。


「先週もそんなこと言っていたわよね? またズルズルと休む気? というかスライムに皮膚を溶かされて痛いのならどうして初日に大衆浴場に入っていたのよ?」


「……た、大衆浴場?」


「……大衆浴場だと?」


 初日の大衆浴場という言葉を聞いて思い出したのか、ハンスとディルクが反応した。


「……うう……お風呂は嫌だ。またバカにされる。僕のは短くなんかない!」


「……お、俺のはねじれてなど……ましてや細長くなんか……」


 何て風に二人がブツブツと呟き出したのを聞いて、私はため息を吐く。


 あの二人の己の股間サイズを晒されたようなものだからね。二人の下腹部に書かれた文字を見た男性達は爆笑し、ここぞとばかりにいじり倒されたらしい。


 今やハンス、ディルクという名前を呼ぶ者はほとんどいない。


 通りを歩けば『おう、ダガー元気か?』『よっ、ボーンククリ。調子はどうだい? ちゃんと武器の手入れはしているか? ガハハ!』などと言われるのは当たり前だ。


 口々に言われるその言葉に二人は精神的なダメージを受けて、二人はずっとこうして引きもっているのである。


 皆が二人のあだ名を忘れるまで引きこもろうという魂胆だろうが、それは無理な話である。ただでさえ娯楽が飢えているのだ。面白いものは全力でいじり倒す。それが冒険者というものだ。


「私もやられた身だから気持ちはわかるけど、二人共いつまでウジウジしてんのよ。こういうのは逆に堂々としている方がいいのよ? 縮こまったり、情けない顔するから余計に周りが面白がるのよ」


「……レイシアに僕たちの気持ちはわからないよ?」


「……そうだな」


「どうしてよ?」


 私も冒険者たちに散々といじられている。


 酒場に三人で行って、私達三人ともバカにされた記憶は新しい。


「「だってレイシアの胸が『まな板』だってことは皆知っていることでしょ?(だろ)」」


 ハンスとディルクのその言葉に、心優しい私もさすがにブチ切れた。


 気付けば私は宿屋の扉に回し蹴りを食らわして、扉を蹴り飛ばしていた。


「二人が自慢するダガーとボーンククリをへし折ってあげるわ!」


「「ひいいいいっ!」」




 ◆



 手のかかる二人を無理矢理宿屋から連れ出した私は、冒険者ギルドに併設される酒場へと来ていた。


「おっ、久しぶりにダガーとボーンンククリとまな板が来ているぞ」


「いじり過ぎて凹んだって聞いたけど立ち直ったのか?」


「武器が凹んだくらいならトンカチで叩けば治るだろ?」


「うはは、違えねえ!」


 すると、早速とばかりにハンスとディルクを笑う声が聞こえる。


 冒険者たちが大笑いする中、ハンスとディルクは死んだような顔をしていた。


「あんな奴等は放っておきなさい。私達がコケのダンジョンで成果を果たせばバカにされることなんてなくなるわよ。それに私達以外に第二、第三の被害者も出るかもしれないしね」


「そ、そうだね。今は前向きに考えよう。コケのダンジョンはまだ誰も階層主を倒すことができていないんだ。それを僕たちが最初に成し遂げたと知ったら、皆もバカにできなくなる!」


「ああ、そうだな。ウジウジと宿にこもっていても仕方がない」


 宿屋での私の説教が効いたのか、二人の目に輝きが宿りはじめた。


 よし、これでようやく前に進める。


「ねえ、ハンスがダガー、ディルクがボーンククリって呼ばれてるのはどうしてなの?」


「知らないの? 二人のあそこがそれに酷似してかららしいわよ」


「ぷっ、何それ? ダガーとボーンククリとか、二人の顔見ながら想像したら笑えてきたんだけど」


「わかるわ。特にダガーとボーンククリに例えるところが面白いわよね」


 ダメだ。酒場にいる女冒険者の心無い言葉を聞いて、ハンスとディルクがテーブルに突っ伏してしまった。


「……ダガーじゃない。僕のはそんなに小さく……うう……」


「……誰がボーンククリだ。俺のはねじれてなどいないし細長くも曲がってなどもない……!」


 そして二人がまだうわ言のようにブツブツと呟き出す。


 ああ、もう。ようやく話を進められると思ったのに。


「ほら、二人共顔を上げなさいよ。あんな奴等無視しておきなさいって」


「あら? そこにいるのはまな板エルフじゃなくって?」


「はぁ?」


 私が突っ伏す二人を宥めていると、不意に失礼な声をかけられた。


 眉間を寄せながら振り向くと、そこには長い金髪の髪をカールさせた女冒険者がいた。


 上質そうな胸当てなどを装備している姿は、どこぞやの姫騎士のようにも見える。


 上品な所作でこちらに歩み寄って来る女は、


「……エイナ=ハークライト」




文字数が多くなったので区切ります。

次話もできあがっているので、次の更新は近いと思います。

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