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エルフと騎士

 

 前回は、冒険者が一階層ですぐにとんずらをしたせいで、全く参考にもならなかった。余計な置き土産を置いて行かれて目は焼けるし、全然面白くない。


 もっと魔物とのギリギリな戦いに苦しみながらも勝利し、気を抜いた瞬間に転移陣を踏み抜いて一人孤立とか、そういう絶望の表情を見たいのに。


 ゴブリンに鉄装備持たせただけで、逃げ帰るとか最近の若者は全くなっていない。


 おかげで負のエネルギーは全く貯まってない。


 水晶に負のエネルギーがどれだけ貯まったかゲージで表示されるのだが、一ミリくらいの長さしか見えない。恐らくこれは俺にわかりやすく見せるためのもので、本当はもっと少ないだろう。


 純度も薄いし量も少ない。少々の痛みや焦りだけではこんなものという事か。


 実際アイツらは十分もダンジョンの中にいなかったしな。


 そんな感じに初めてのダンジョン侵入者に文句を垂れながらも、俺は黙々と階層を増やし、魔物の調整を行った。


 五階層から十階層は階層を広くし魔物の種類を増やし多彩なフロアになっている。


 ジャイアントスパイダーにワーグ、エビルアイ、コカトリスと状態異常を引き起こす厄介な奴等も多い。


 さらには階層全体も薄暗く、罠も多い。


 単純な強さだけでは無く、チームとしての力も試される。


 なお、脳筋対策として謎解きも加えてある。


 石板を集めたり、クイズを解いたりしなければ先へは進めないようになっている。


 大方これで一階層から十階層は整ってきたのではないだろうか。


 後は、次の冒険者がやってくるのをDVDでも見ながら待つか。


 この世界には当然電波なんてものは無いので、全て円盤でしか見れない。


 まあ、円盤なら魔力と引き換えに取り出し放題なので退屈にはならないな。


 ちなみに俺は魔王なので人間のように頻繁に飯を食べなくても大丈夫なのだが、それをすると人間味を失ってしまいそうなのでキチンと三食食べている。


 心は人間のままなので、なんかしっかり食べないと気持ち悪い。


 母ちゃんも朝は抜かずにしっかり食べなさいと言っていたし。


 料理のできない俺は簡単なものしかできず、目玉焼きとかレンジでチンしてできる物ばかり。そろそろ、味噌汁とかカレーとか、だし巻き卵とか食べたい。


 このままでもいいのだが、身体に悪い感じが半端ない。


 いや、魔王だから大丈夫だと思うけど、人間として危ないような。部屋も散らかっているし。


 誰か身の周りの世話でもしてくれないだろうか。




 ×     ×     ×



 始めての冒険者が俺のダンジョンに来て三日後。


 ついに二組目の冒険者がやって来た。


 人数は二人。男女のペアだ。


 茶髪の男は体をがっしりと覆った金属鎧を装備しており、この間のなんちゃって騎士とは大違いだ。盾も頑丈そうだし剣も銅とかではなく、何かの鉱石を使って作られた物のようだ。


 女の方はなんとファンタジー種族のエルフという奴だ。


 肩口にまで揃えられた金髪に細長い耳が印象的だ。


 あれ、偽物とかじゃないよね?


 腰には短剣背中には弓を携えている。手には何も武器を持ってはいないが、恐らく魔法に接近戦何でもできるのだろう。

 さてステータスを確認してみよう。



 名前 ハンス

 種族 人間

 性別 男性

 年齢 二十五

 職業 騎士

 レベル 二十八

 称号 なし



 名前 レイシア 

 種族 エルフ

 性別 女性

 年齢 五十八

 職業 魔法剣士

 レベル 二十七

 称号 なし



 なるほど。二人ともレベルが三〇近くある。これなら前回とは違い期待が持てるというものだ。


 えっ? ちょっと待て。あのエルフあの見た目で五十八歳なの? 


 どう見ても二十歳前半にしか見えないのだが。


 むむむ、ファンタジー世界特有の寿命が長いという感じなのだろうか。


 二人がダンジョンの扉をくぐったところで音声を拾う。


 ちなみに現在懸念していた水晶のグラフィックの良さだが、どうにもならなかった。


 光量が大きくなった瞬間に自動で画面が暗くなる的な能力を期待したのだが、そんなものはどこにもなかった。


 音量調整はできるのにどうして映像は無理なんだよ。


「……ジーク達が言っていた通りに様子が違うね」


「……ええ。ダンジョン内に漂う魔力が凄く濃いわ。今までとは全く別物よ」


「苔のダンジョンなのに苔が一つもないね。雰囲気といいダンジョンマスターでも変わったのかな?」

 ハンスの言葉に同意するように頷くと、レイシアは眉間にしわを寄せながら呟く。


「恐らくそうね。この魔力からして相当ねじ曲がった心の持ち主に違いないわ」


 おい、誰がねじ曲がった心の持ち主だよ。引っぱたいてやろうか。


「とにかく、慎重に進んで少しでもここの情報を持ち帰ろう」


「そうね。行きましょ」


 顔を合わせて頷き合うと二人は、周囲を警戒しながら歩き出す。


 前回の遠足に来たかのような奴等とは大違いでその足取りには一切無駄が無い。


 レベルが三十近くになるとここまで違うのか。


 そして二人はゴブリン達の奇襲を難なく察知して先制攻撃をしかけ、あっという間に魔物を切り捨てていく。


「見て。このゴブリン達、全員鉄製の武器を持っているわよ」


「ドレッドが嘆いていた理由はこれか……確かにドレッドよりもいい盾を持っているね」


「私達もかけ出しの頃にこれを見たら、確かに落ち込むわ。ゴブリンの方がいい装備をしているだなんて――ちょっと! それ持って帰る気!? やめてよそんな汚い物!」


「えっ? ドレッドの為に持って帰ってあげようと思って」


「それだけはやめてあげて。あの子泣くわよ?」


「そうかなあ? 俺だったら喜ぶけど」


「……あの子はハンスと違って意外と繊細なのよ」


 レイシアはそう言うと、ゴブリンなんて汚い物これ以上見たくないというふうに顔をそらし歩き出した。


 それに遅れてハンスも歩き出したが、ちゃっかりと盾はアイテム袋という奴に回収していた。


 その後も彼らは、立った二人で危なげなくゴブリンの連携やスカイサーペントを近寄らせることなく蹴散らしていく。


 特にエルフのレイシアは自分の魔法に自信があるのか、敵が多いと一気に範囲の広い魔法で一掃する。


 その魔法に怯んだところで、ハンスが飛び込み魔物達を一閃。レイシアもチャンスがあれば即座に短刀を腰から抜き、斬りかかる。


 お互い声をかける事もなく、カバーをしている。



 相当な信頼が無ければ難しい事だ。


「んん? これは看板かな?」


 魔物との戦闘を終えたハンスが、前方の看板に気付く。


「ダンジョンに看板? 誰がそんな物置くのよ」


「でもここに書いてある。この先右に進めって」


 この看板の地点からは道が分かれ、複雑な構造になっている。


 俺でも迷いそうだけど、ダンジョンマスターの能力のおかげで迷う事なく歩く事ができる。


「こんなのあからさまに罠でしょ?」


 くだらないといった様子で、溜息をつき左側の道へと進むレイシア。


 しかし、一歩足を踏み出した瞬間に足元の石が沈む。


「きゃあっ! わ、罠? ……全然気づかなかったわ」


 瞬時に足を下げたのが、幸いで落とし穴にはまる事は無かった。



 ちっ、惜しいな。そのまま落ちたら一時間は暗闇に閉じ込めてあげたのに。


「やっぱり、そっちは間違った道なんじゃない? いきなり罠があるし」


「うー、そうかもしれないわね。ここはその看板に従って移動してみようかしら」


 うん。見事な勘違い。罠がある方が正しい道だよ。


「それにしても巧妙な罠だったわ。全然不自然な点はなかったのに」


 二人はおそるおそる看板の示す右へと歩いた。


「……何よこれ」


 肩を震わせながら呟くレイシアの声。


「行き止まり? 何か書いてあるよ」


 レイシアとハンスの目の前にはただの壁。しかしその壁には塗料でこう書かれている。


『ダンジョンに看板なんてあるわけねーだろ。おめでたい頭してるなー』


「「…………」」


 二人の空気が凍り付き、先にレイシアが動きだす。


「きいいいいっ! 何よ! この文字は!」


 怒りの形相を露わにして文字がかかれた壁を殴りつける。


 あっはははははははは! このエルフ超面白いんですけど! あはは、そこにも罠があるのに。


 レイシアが殴りつけた石の一つがズルりと下がり、部屋から何かの作動音が鳴る。


「……えっ?」


「まずい今の音は!」


 ハンスが声を上げた瞬間に、唯一の出口が閉まり、魔物が部屋から湧き出す。


「魔物部屋!?」


 光が次々と集まり、出てきたのは大量のゴブリン。


 それも、ハイゴブリンを混ぜた十五体の。


「数が多い!」


「狭くてここからじゃ魔法が使えないわ!」


 さすがはベテラン魔物部屋に遭遇してもパニックを起こすことなく、対処をしている。


 しかし、やはり前衛のハンスが数で攻められて苦しそうだ。


 何とか致命傷を盾でガードしてカウンター一閃するが、数が多く次々と鎧に傷がつく。


「ハンス大丈夫!?」


「こっちは何とか。スキルもあるし俺が引きつけるから頼む!」


「わかったわ!」


 ハンスのスキルのお陰か、多くのゴブリンがハンスの方へと引き寄せられている。


 その間にレイシアは奥のゴブリンを小さな風魔法で引き裂き、己も短刀を構えてとびかかる。


 すると部屋を埋め尽くさんばかりのゴブリンが数を減らし、じょじょに二人が優勢となっていった。


 全てのゴブリンがいなくなった部屋では息もたえだえの様子の二人が。


 ははは、魔物部屋は楽しかったかな? 


 エルフのレイシアはすごく感情豊かで見ているだけでも面白かったよ。


「絶対……ここのダンジョンマスターは性格が悪いわね」


 はあ? もう一回ゴブリン投入するぞコラ。


「それは同意するよ。文字を使った仕掛けといい多分魔物じゃないよ」


「魔物の方がもっと優しい性格しているわよ。こんな陰湿な罠をしかけるなんてよっぽど心がひねくれているのよ。魔力と同じね。――大体」


「うわあ! また魔物が沸いてきたよ!」


「嘘っ! 魔物は一度倒したら当分は同じ場所に出現しないはずでしょ!?」


 すっとんきょうな声を上げながらも二人は開いた出口から慌てて逃げ出す。


 ただでは逃がさん。俺の悪口を言ったからには、トラウマの一つや二つ植え付けてから帰ってもらわなければ。


「レイシアがダンジョンマスターの悪口を言うからだよ!」


「そんな事あるの!? どれだけ小さい奴なのよ!」


「うわああああっ! オーガだあああっ! レイシアのせいだよ! 謝って!」


「嫌よ! 私は悪くないわよおお!」


 このまま二人は大量のオーガに追われながら、ダンジョンから逃げ出すのであった。




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