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中年神官ゼルド。神の声を聞く

今回は文字数が増えたために分けました。

次話は21時更新予定です。

 

「さあ、皆さん。今宵も神に祈りを捧げましょう」


 神々しいまでに輝くパンーーご神体の前で、私の穏やかなる声が響き渡る。


 すると、数多の冒険者を始めとする信者達がゆっくりと膝をつく。


 ここにいる信者達は皆、並々ならぬ煩悩――信仰心を持つ人々である。皆が示し合わせたように膝を付き、身動ぎや雑談をするものはいない。


 真剣な表情で真摯にご神体に祈りを捧げているのだ。


 最初は神の御前で無礼な行いをしていた冒険者達もいたが、ご神体の姿を一目見た瞬間に悟りを開いた。


神の存在を前に人々はひれ伏すのが道理というものだろう。


 コケのダンジョンの一階層の大広間。数か月ほど前までは、そのような何の変哲もない場所であったが、ついこの間ここに神が降臨されたことにより、このダンジョンの一階層は神が住まう聖域となった。


 神の存在と魅力にいち早く気付いた我らは、ここを聖域と定めて日夜祈りを捧げている。


 我らの祈りは朝と昼と夕方に一回ずつ捧げるのが通常であるが、それを出来る者は多くない。


皆日々を生きる仕事やら聖域までの道のりが険しかったりと、三回も行える者は少ない。しかし、神は誠にお優しいことに三回の祈りを捧げずとも、美しいお姿を保ちながら我らを温かく包み込んでくれるのだ。


 勿論敬虔なる信徒である私ことゼルドは、一日三回の祈りを欠かしたことはない。神の聖域へと毎日通えるように近くの街に引っ越した。


神に祈りを捧げる回数は三回であるが、私は早朝から正午といったように長い時間をかけて祈りを捧げている。


 しかし、だからといって神の器の大きさに甘えていては信者が廃るというもの。事情によって祈る回数が少ないものが多くなれば、神は悲しみ姿をくらましてしまうかもしれない。


それは非常に恐ろしいことだ。


 あのような芸術的、いやそれすらも超える超越的な美しさを誇るご神体を拝むことができなくなるなど考えるだけで身が震える。


あれをなくして私は生きられないのだ。


 器の大きな神に甘えていてはいけない。諸事情で祈る回数が少なければ、何らかの形で埋め合わせをしなければならないのだ。


 そのような理由で、今回は神のおわす聖域に泊まり込みで祈りを捧げることにしたのだ。


我らの信仰心が篤いことを神に示すのだ。そうすれば毎日三回祈りを捧げることができない信者の嘆きも緩和されることだろうし、神も我らの信仰心を認めて下さるはずだ。


 そんな私の計画に皆が賛同してくれたのか、聖域を埋め尽くさんばかりの信者が今宵は集まることができた。


「それでは両手を合わせて祈りましょう……そこの貴方、まだ顔を上げてはなりません。ご神体の姿を拝むのは祈りを捧げてからです」


「はっ、はい! 申し訳ありません!」


 最近新しく入ったばかりの信者が堪え切れなかったのか、いきなりご神体を直視しようとしていた。


宵闇を照らす神々しいまでのオーラを放つ神。その姿を少しでも早く、少しでも長く拝みたい気持ちは理解できるが、今は祈りを優先する時である。


 今はただ目を瞑って神に真摯に祈りを捧げるのだ。


 新入りの信者が祈りに入るのを確認。それから大広間を埋め尽くす信者を睥睨して問題ないことがわかると、私も神の御前に跪いて祈りを捧げる。


 今宵も神のお姿は美しい。あの女性の像にフィットするような丸いライン。それは女性の身体の肉感的な部分を損なう事はなく、柔らかな丸みを強調。そしてそこが大事な場所であることを示すような純白感溢れる白色で包む事により、パンツの清潔さと純白性を示している。そしてそれは前部分も同じ、まるで女性の骨格に合わせるが如き密着具合。さらには男のロマンである場所を過剰に隠すことなく、適度に露出もさせているのだ。まさにこれこそがエロス特にあの魅惑的な三角地帯が素晴らしい。それでいて身体の動きを一切疎外させないようにできているのだから、これを神の御業と言わずして何と言おうことか。


 おおっと、祈りの最中であるというのについ邪念が漏れてしまった。これではいけません。


 煩悩を追い払い、頭の中をスッキリさせよう。


 そう思った瞬間のことだった。


「「……おおお」」


 誰でしょうか。祈りの最中であるというのに口を開く不届き者がいる。


 それが一人や二人であれば、祈りの後に厳重に注意するのだが、今回は何十人という信者が声を漏らしている。


 静謐なる神の聖域を乱すとは何事か。私はいても立ってもいられず、不遜ながら神の前で顔を上げる。


 そこで私が目にしたものは、眩い光を放つご神体の姿であった。


 その身に纏う光のオーラはいつにも増して綺麗で力強い。それでいて私達信者を包み込むような温かさを感じる。


「おお……」


 いつになく神々しいご神体の姿を目にして、私の口から思わず感嘆の声が漏れる。


 一体どういうことだろうか。これほどまでに強い光は今まで見たことがない。


 もしや、我らの祈りがついに報われる時がきたのであろうか?


『……ますか? 聞こえますか? 私の敬虔なる信徒ゼルドよ』


 呆然とご神体を眺めていると、ふと私の脳に語りかけるような声が聞こえる。


 それはとても澄んでおり聞いているだけで脳が解けてしまう。そんな甘美さを持ち合わせた優しい声であった。


「神の声だ……」


「ああ、美しい神の声だ」


 それは私以外にも聞こえていたのか、周りにいる信者がうわ言のように言葉を漏らす。


「……これはまさかっ! 神の声っ!?」


『はい、そうです。私は貴方達が崇める自由を愛する神リンスフェルトです。貴方達の深い信仰心のお陰でこうして声をかけることができるようになったのです』


 な、なんと! そうだとしたら何と嬉しいことか。


『謙遜することはありませんよ。ゼルド、貴方は信者の中で一番篤い信仰心を持っており、私もそれを把握しています。だから、私がこれほどまで長く語りかけることができるのは貴方だけなのですよ?』


 少し悪戯っぽく言う神の言葉に脳が蕩けそうになる。


「美しい声だったな」


「ああ、あのご神体にしてあの声ありだな」


「俺、もっと真面目に祈りを捧げるよ」


「やっぱり神は存在したのだ!」


「ああ、あの声をもっとお聞きしたかった。叶うなら永遠に……」


 そして周りを見渡せば、神の声を聞き終わったであろう信者達が。


『彼らは残念ながら信仰心が少し足りなかったようで一言くらいしか語りかけることができませんでした。だけど、信仰心が篤い貴方の場合は、私とこうして会話ができるのですよ』


 な、なんと。私だけが神と会話をしている。神を独占している。不遜ながらも私はそれをとても嬉しく思ってしまった。


『いいのですよゼルド。これは貴方が頑張ってきた努力の証です、自分を卑下することはないのですよ』


 このような邪な気持ちさえも神はお許しになるというのか。このゼルド感動でむせび泣きそうだ。


 いや、しかし泣いている場合ではない。いかに私の信心が篤くても神と交信できる時間は限りあるはず。時間を無駄にするのはよくない。


『その通りですゼルド。今回は私は貴方に頼みたいことがあるのです』


 か、神の頼み! 勿論断るわけがない! 興奮で思わず発狂しそうになるが、ここはグッと堪える。


「私への頼みとは一体……?」


 神が死ねと言えば、私は何のためらいもなしに死ぬ覚悟がある。


『そんな酷いことは言いませんよ。それに私の頼みを聞いていれば後者もきっと叶います』


「ははあっ!」


『私は神ではありますが、人々の信仰心がないと生きてはいけません。ですから私が存在するために信者を増やしてほしいのです』


 なるほど、神を崇める信者を増やせばよいのですね。そうすれば神はこの世に留まることができると。


『そういうことです。ゼルド、やってくれますか?』


 お安い御用です! このゼルド、リンスフェルト様から賜った命を遂行してみせます。私が信者を増やす旅に出た暁には、数多の邪教を駆逐し、全ての宗教をリンスフェルト教にしてみせましょう!


『はい、その通り。特にアレクシア教なる邪教は駆逐しなければなりません。しかし、ゼルドがいれば何も問題はありませんね。頼りにしています』


 私が神に意気込みを語ると、神は私を頼りになるとおっしゃった。


 私が生まれて三十五年。これほどまでに嬉しかったことはない。見事命を遂行した暁にはどのようなお言葉が貰えるのか……。


「では、神よ。私は早速信者を増やすために旅に出ます」


『お待ちになってゼルド。貴方に私の加護を与えます』


 私が立ち上がると神がそれを留める。


 そして神のそんな声が聞こえた瞬間、ご神体が眩い光を放った。




前回もバカな話だとは思っていましたが、今回はもっとバカになった気がします。

そして、さらに次の話はもっとバカだと思います。中年神官ゼルドの熱い展開にご期待。

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