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第三回邪神会議

 

『『『きたきたきたー!』』』


 禍々しい力で満ち溢れる邪神界で、邪神達の雄叫びが上がった。


『おい! 負のエネルギーがもう来たぞ! 思っていたよりも早いな!』


『あいつ、ねちっこく女神信者の聖騎士を苛めていたからな。ビッチの僕が泣き叫ぶ姿は見ていて面白かったぞ!』


『まさかドッペルゲンガーに変身させて裸でダンジョンを走り回るとは中々の鬼畜だ』


 敵対勢力である女神の僕が苦しむ姿を見るのは、邪神達にとっても面白いものなので、今回の幸助の様子は邪神達全員が見ていた。


 特に盛り上がったのは聖騎士に変身したボックルが裸でダンジョンを走り回った件である。


 それらの光景を見ていた邪神達は、幸助の鬼畜ぶりを語り笑い合う。


『さて、汚らわしい女神の僕を笑い倒すのは非常に楽しいことなのだが、それは後にして我らも行動をしようではないか』


 そんな盛り上がる中、いつもの如くリーダー格の邪神が手を叩いて話を切り返る。本当はリーダーも今すぐ混ざって聖騎士の痴態を語り合いたいのだが、それをするといくら時間がかかるかわからない。それを必死に我慢しての進行だ。


『そうだな! 幸助が女神の僕に一泡吹かせているんだ。俺達は親玉の方に一泡吹かせようじゃねえか!』


『『『お前めっちゃいいこと言うな!』』』


 短絡的な言動が多い邪神の言葉であったが、この時ばかりはどの邪神も褒めたたえるような言葉を発していた。


 一柱の邪神の名言により、邪神達の気分が否応なく高まっていく。


 前回は初めてのエネルギーを効率よく使って小手調べのようなことをした。


 魔王エルザガンを覚醒させると同時に敬虔な信者を確保。勇者が動けないように各地に住む魔物を強化。


 さらなる一手を放ち、女神共に目にものを見せるには絶好のタイミングだ。


『俺達の下に再び魔力が集まったんだ。どう使うか考えることにしよう』


『『『そうだな!』』』


 リーダー格の言葉に、他の邪神達も元気よく返事する。


『負のエネルギーをどう利用するか』


『魔王エルザガンを強化してやろう。奴は今や教会と全面衝突している魔王だ。俺達の事を熱心に崇拝して魔族にも信者を増やしていると聞く。ここでさらなる力を与えて人間共を苦しめてやろう』


『確かにそれもありだが、力を与えるには早すぎるのではないか? そう簡単に我らが力を与えては舐められるというものよ。もう少し奉仕させるなり、試練を乗り越えた果てに力を与えた方が良いんじゃなねえか?』


『エルザガンは今順調なんだろ? だったら、新しく魔王を誕生させたらどうだ? 前回各地にいる魔物を強化してわかっただろ? 人間は数が多くてしがらみも多い。魔王エルザガンと遠い位置で魔王を誕生させて、人間の国を侵攻させれば混乱がより広がるぞ』


『む、それも一理あるな』


 リーダー格の投じた一言に、邪神達がここぞとばかりに己の意見を述べる。


 基本的に下界を覗いて、生物の不幸を笑ったりしている邪神だが、ぐーたらしている訳ではない。日夜女神共に一泡吹かせてやろうと、作戦を考えているのだ。


『ふむ、確かにエルザガンを強化するのはいいが、さらなる力を与えるには少し早すぎる気がするな。魔族で信者も増やして我らにも力を与えているが、まだ力を与えるには足りないな』


『じゃあ、俺の言った通り新しい魔王はどうだ? 新たな魔王が生まれれば混沌が広がるぞ?』


『勇者の手が届かない田舎の村を魔王や魔物に襲わせ、絶望で以って人々を飲み込むのはいい。泣き叫ぶ者達の負の感情、遅れてやってきた勇者や生存者を妬む負の感情は非常に美味しいのだが、我らの力となり得る信仰心は得られるかどうかだ』


 リーダー格の邪神は訴える。それは我らの大きな力となるのかと。


 田舎の村を襲えば確かに負の感情で満ち溢れることになることはわかっている。だが、邪神として今欲しているものは人々の信仰心なのだ。


 女神や邪神も人々の感情を糧にすることは間違いないが、それでもやはり一番大きなものは敬う信仰心なのである。


『今、我々が欲しているものは何だ?』


『『『女神共の屈辱にまみれた表情!』』』


『そっちじゃない! いや、それも勿論欲しいのだが、我らがそこに至るまでに必要なものだ』


 リーダー格が唱和した言葉を否定すると、他の邪神達が常識を疑うような眼差しを向けたが、リーダー格が何を言いたいか察したのか、納得したような顔をする。


『『『我らへの信仰心!』』』


『そうだ! だから今回は信者を重点的に増やし、かつ女神の庇護にいる人間共に混乱を与えられるようにしたい!』


 リーダー格の邪神がテーブルに身を乗り出して熱く語るのを、他の邪神達が納得したような顔で見る。


『となると最初に言っていた、エルザガンになると思うのだが――』


『違うんだ』


 邪神の言う言葉を、リーダー格が遮る。


『魔王エルザガンの下には我らの信者が集まっているのではなかったのか?』


『最近、俺達の下に確かな信仰心が集まっているのを感じているのだが……』


 リーダー格の否定の言葉に、邪神達が首を捻る。


 そう最近では、魔王エルザガンのお陰で邪神崇拝が広まりつつある。それにより邪神達が少しずつ力を蓄えつつあるのだが。


『最初は俺もそうだと思っていたが違ったんだ。エルザガンとは違う場所から間接的に信仰心がやってきているのだ。ほら、感じないだろうか? 幸助のダンジョンからやってくる信仰心を……』


 紳士に語りかけるリーダー格。他の邪神達はそれを訝しみながらも幸助のダンジョンへと意識を飛ばす。


『……本当だ。幸助のダンジョンの一階層から邪な気を感じるぞ』


『途轍もない信仰心だ。今まで幸助から転送される負のエネルギーに混じっていたせいか気が付かなかった……』


 邪な祈りを日夜捧げ続ける信者達の様子に気付いた邪神達が感嘆の声を上げる。


 幸助が配置したパンツは、邪な想いを持つ信者達の崇拝対象となっている。それは邪神の加護を持つ幸助の私物でもあり、邪神界とリンクしていたダンジョンにあるせいか信者達の信仰心が間接的に邪神へと流れていたのである。


『この代表者である中年神官に加護を与えるのはどうだろうか?』


『『『おお! 邪神官か!』』』


 女神共には敬虔である神官がいるというのに、邪神達には神官たるものがいないのは面白くない。邪神の意を汲んでくれる敬虔な信徒が邪神達も欲しいのだ。そんな理由があってか、邪神達のテンションは高い。


『彼らが崇拝するパンツ神なるものを我らの誰かが名乗って扇動するのだ。そうすればアレクシア教なるクソ集団と真っ向から対立する組織を作ることができるうえに、我らは信仰心を得ることができる。いいと思わないか?』


『『『賛成!』』』


 信仰となる対象がパンツであり、ありのまま自分ではないのだが実際に負のエネルギーが自分達に流れてくるのであれば問題ないスタンスだ。


 伊達に世界を面白おかしく、女神達に一泡吹かせてやろうと思っていない。


『そういえば、こういう堕とし方をするのは久し振りだな。前にやったのは何百年前だったっけ? 前は恋をこじらせた聖女を恋と運命の女神だと偽って魔の道に堕とした時以来だろうか?』


『ああ、身分の差とかで結婚できずに想いを殺していた女の手助けをした時だったよな? 最初は聖女も俺達の囁きに半信半疑だったけど、ちょっと俺達が手を貸して二人の仲を育ませたり、謀略で引き離したりしたら縋ってくるようになったよな。最終的には狂って虐殺とかしだしたくらいだし』


 邪神達が猛威を振るっていた時代は、敬虔なアレクシア信徒をたぶらかして多くの邪神官を誕生させていたものだ。さすがに力の大半を失った今では堕天させることは難しいが、今回のように邪な本能に素質のあるものは少し後押ししたり、流れを作ってやれば簡単に転がる。


『じゃあ、この中年神官ゼルドに加護を与えて邪神官とすることに異議はないか?』


『『『異議なし!』』』


 リーダー格の言葉に全員が賛成の意を示すことで一つの案が決まった。


『ところでパンツ神の役は誰がやる?』


『言い出しっぺ!』


『そうだな。俺達じゃあ品がねえからな。落ち着きのあるリーダーだな』


『昔から甘い言葉を囁き、操って堕天させるのは十八番だろ?』


 リーダー格のそんな言葉に、他の邪神達がニマニマと笑いながら言う。


 それにリーダー格の邪神は鷹揚に頷くと、喉の調子を整えるように咳をする。


『……んっ、ゴホン、ゴホン。こんな感じでいいでしょうか?』


 するとリーダー格の邪神の口から、落ち着きのある女性の声が漏れる。


 それは誰もが振り返るような美しい声であり、聞けばその女性の清らかな心の内がわかるかのような心地の良いものだ。


『ぎゃあーっはっはっは! 女神アレクシアの声に似てるぞ!』


『声がビッチみたいだな!』


『似てる似てる! うめえええええ! イヒヒヒヒヒヒ!』


 リーダー格の声が女神に似ているせいか、邪神達は腹を抱えて笑い出す。


『私は自由を愛する女神リンスフェルトです。敬虔なる信徒ゼルドよ。貴方に私の加護を与えましょう!』


 そんな邪神達の反応が嬉しくて興が乗ったのか、リーダー格も女性声で高らかに言う。


 それを聞いている邪神達はさらに高笑いをしだした。


 まるで先生の真似をする中学生の如き遊びである。


『それで他の負のエネルギーはどうすんだ?』


 十分後、そんな一柱の邪神の言葉がようやく出て、中学生の如き他人の声真似大会は終わりを告げる。


 一応真面目なリーダー格が、少し恥ずかしそうにしながら今後の方針を語る。


『今は田舎の村々に勇者が常駐されているようだし、ここは各地にいる魔物に強化だけして潜伏させてはどうだろう? 邪神官の動きに合わせて魔物達を動かすんだ』


『そうだな。それで問題ないな。今は人間達も立て直しに必死で動くことはできないしな。ここはじっくりと力を貯めてやろうじゃないか』


『『異議なし!』』


 そんな感じで今後の大体の方針が決まった。


 今回はリーダー格の邪神の提案がベースとなったために、リーダー格はこれからの道筋を考える。


『……邪神官といったら、それなりの力と武装は欲しいな。悪戯に大きな加護を与えると死ぬかもしれんし、地力を上げるアイテムのようなものがいいか。あの男の欲望を刺激しつつ、装備できるものといえば……』




本当にアホなことになりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 第三回邪神会議 ↑ これ、あまりのゲスい展開に戦慄したったwwwwwwwwww すげぇ!すげぇよ!邪神さんたちwww❤️ このゲスい展開は、神の意思を感じてるぞε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(…
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