負のエネルギー奉納 二回目
俺達が聖騎士に要求したことは、アレクシア法国に我がダンジョンの平凡なものと報告することだ。
ようはこのダンジョンが邪神の手先でないと伝えてくれればいいのだ。どうせ向こうには女神からの神託とかいう、チートがあるのだからバレるのは必然だが、こちらが勇者に対応できるように時間さえ稼げればいいので問題ない。
女神からの神託とやらも、そう頻繁におりるわけではないと聖騎士から聞いているので数ヶ月も時間を稼げれば万々歳だろう。
まあ、虚偽の報告をすれば聖騎士もただではすまない。
アレクシア法国にいる巫女とやらに神託が降りれば虚偽の報告をした聖騎士は降格、または追放。最悪は教会へと反逆者として追われることになるだろう。
しかし、俺達の要求を断れば、それと同罪、それ以上の罪で追われることになる。
こちとらドッペルゲンガーがいつでも変身できる状態なのだ。
聖騎士に変身して裸で街を走り回るなり、国に潜入して教会の要人を斬り殺すことも可能だ。どちらにせよ社会的に死ぬことは間違いないので、俺達の要求を飲まざるを得ないのだ。
しかし、人は追い詰められれば何をするかわからない生き物だ。
俺としては追い詰められた人間が本性を現す瞬間は大好きなのであるが、あの聖騎士が社会的死を決心して教会にチクられては少し困る。だから俺達は希望を用意してやった。
俺達の要求を飲み、教会に報告しない間は一冒険者としてダンジョンに挑んでもよいと。
そうすれば聖騎士は証である剣を取り戻すチャンスに恵まれるし、己の弱味であるボックルを討伐できるかもしれない。
人間とは面白いもので、絶望的状況であっても少しの希望を与えてやれば簡単にそこに食らいつく。まだ大丈夫。チャンスがあるから打開できると。
単純なあの聖騎士がそこに食らいつかないわけはなく、次こそはボックルを討伐して剣を取り戻すと息巻いて帰っていった。
恐らく、次ならばもっと上手くやれるだとか、次ならば倒すことができるとか考えているのだろうな。
まあ、その間にボックルをレベルアップさせるし、出会わせることもしないけど。
今回で聖騎士のあしらいかたは熟知したのだ。
最初のようにビビって相手してやることもない。搦め手で攻めていけば、勝手に負のエネルギーを吐き出してくれるだろうな。
そんなわけで突然やってきた聖騎士は撃退できたし、やってきた理由や敵対する教会の情報もわかった。その上に、聖騎士からたっぷりと負のエネルギーも頂くこともできたので、結果としては満足のいくものであろう。
現在俺達が教会に睨まれる状況が邪神のせいであるっぽいことは納得できないが、仕方がないことだ。あの邪神達のことだからな、文句を言っても仕方がないのだ。
それならそれで今を上手く立ち回るしかない。
「とはいっても、これからの俺がやることは今までの事と大差ないのだけどな」
これからも自分の好きなように冒険者を苛め、からかってやり負のエネルギーを回収するだけだ。それがもっとも俺が生き残り、好きにできる道なのだから。
まずはこの手中にある聖騎士のパンツを一階層の大広間に奉るとするか。
エルフからもぎ取った白パンツを崇拝しているようなので、どんな化学反応が起こるかわからないので恐ろしいところもあるが、俺をバカにした聖騎士を戒めるためなのだ。ここは聖騎士のパンツも奉ることにしよう。
そう思い、水晶で一階層をいじろうとした俺だが、ダンジョンの一階層に大量の生物反応があることに気付いた。
時刻は既に夜である。泊まり込みでダンジョンに潜るならまだしも、一階層や二階層にいる冒険者はとっくに近くの街に帰っている時間帯だ。
それは一階層で祈りを捧げる信者達も変わらないはずなのだが、大広間にいる信者達は嬉々として野宿の準備をしていた。
「いやー、夜にご神体を見るのは初めてだから楽しみだな」
「そうだな。神官様がおっしゃるには大層美しい光景らしいぞ」
「貴方達は夜にご神体を見るのは初めてですか?」
二人の冒険者らしき男が会話をしていると、ボックルが好んで変身する中年神官が現れた。ボックルが毎日その姿でいるからだろうか。俺と中年神官は話したこともないのに妙に親近感を覚える。
「あっ、はい神官様。恥ずかしながら自分達は毎朝祈りを捧げて仕事に向かっておりましたので、夜にご神体を見るのは初めてなのです」
「そうですか。それならば今日はきっと一生心に残る日になりましょう。夜になるとご神体は宵闇を照らすかの如く、神々しいオーラを放つのです。それはもう美しいものであり、いつも私達が見ている星空など比べるまでもありません。そう、見ているだけで我々の心が現れていくような――そん
な神聖さを感じられますよ」
にっこりと笑いながら語り返る中年神官。まるで尊きものを語るかのような優しい瞳をしているが、語っている内容はかなり変態的なもの――であるが、何となく俺にも理解できてしまうのが悔しいところだ。
「「はい! とても楽しみですね!」」
そして、ここに集まる冒険者達は欲望に忠実な信者共である。常人であれば首を傾げるようなものであっても、即座に全てを理解して返事する。
そう、どうやらパンツに祈りを捧げる信者達は、夜の学校で天体観測をするがごとく、夜に光り輝くパンツを眺めようというものであった。
一階層の大広間には冒険者達が喜ぶようにマネキンの上にパンツ、その更に上に日替わりで様々なスカートといったものを穿かせている。
そして神々しく見えるようにライトを当てているのだが、信者達は夜でも光り輝くパンツという光景に惹かれたらしく、泊りがけでパンツを眺めて祈りを捧げようというらしい。
一見、信者の熱い信仰心のようにも見えるが、結局は普段とは違ったエロスを味わいたいというわけで今日も一階層の信者はブレていなかった。
大広間の様子を見てため息を吐いた俺は、一先ず聖騎士のパンツを奉ることを後回しにする。
あいつらが帰った明日の夜にでもするか。
そう思って手の中にあるパンツを椅子の肘起きに置くと、俺の目の前にある水晶が紫色に光り出した。
「おっ、これは負のエネルギーがマックスになった証だ!」
身を乗り出して水晶を確認してみると、負のエネルギーがマックスになったゲージが表示されており、その横には『負のエネルギーが一定値を満たしました。邪神界に転送しますか?』というお馴染みの文字が。
ダンジョンで潜っている冒険者が何かしらの負の感情を抱いたのか、信者の邪な感情を吸収したのか。多分後者だとは思うが負のエネルギーが満たされたのだ。
今回ここまで来られたのは数多の冒険者と聖騎士のお陰だな。特に聖騎士はたくさんの負のエネルギーを吐き出してくれたし、思ったよりも満タンになるのが早かったな。
冒険者の悔しそうな顔、恥辱に塗れた表情、怒り、恐怖といった様々な光景が浮かび上がる。今回も存分に楽しむことができたし後悔はないな。
ゲージが満タンになった以上、これ以上負のエネルギーを貯めることはできないので一刻も早く転送したいのであるが、前回のように加護を授けられて壮絶な痛みを伴うと思うと躊躇われるな。
まあ、それでも俺が生き残り好き勝手するには、これを奉納して力を貰う事だからな。やるしかないだろう。
そう決心して俺は水晶をタッチして転送する。
すると、ゲージが勢いよく減っていき空になる。そして『転送が完了しました』と表示された。
特に問題なく、今回も負のエネルギーを送ることができたらしい。
これで邪神達が負のエネルギーを利用して好き勝手するわけだが、今度は何を引き起すのやら。またエルザガンとかいう魔王を強化するのか、それとも魔物を強化して魔王を生み出すのか。
何をしでかすかわからないが、とりあえず俺のダンジョンが目立つようなことだけは止めて欲しいものである。
地味にネット小説大賞の最終選考で落ちている本作品。またしても最終選考落ちです。書籍にするにはきっと足りない部分が多いのでしょうね。それでもこれを書くのは楽しいので、ちょくちょく更新します。これからもよろしくお願いいたします。




