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男女平等主義者

今さらですけど、相変わらずのゲスさです。

 

 四階層にて存在する男性冒険者を叩きのめした聖騎士は、依然としてボックルを追いかけていた。


『ノフォフォフォフォ!』


 聖騎士の遥か前方を裸のボックルが楽しげな声を上げて走る。走るのだがそれは進化の証明である二足歩行を破棄した、四足歩行の走りであった。裸の人間が四足歩行で走る様はまさに獣である。四足歩行系の魔物に変身したことがあるせいか、妙に走り方が上手い。


「ちょっと待てえええええ! 私の女性としての尊厳を奪うだけでなく、今度は人間としての尊厳を奪う気か!? 頼むから二足歩行に戻してくれ!」


 聖騎士が悲鳴にも近い声を上げながら走る。


 それに対してボックルは軽く視線をやり、軽く吠えた。


『バウッ!』


「おい! 退化しているぞ!? お前は高い知性を持つドッペルゲンガーなんだろ? 頼むから言葉を操ってくれ!」


 必死に頼まれることを拒否することの何たる楽しい事か。相手が必死であればあるほどそれは拒否したくなるというものだ。それは自分が絶対的優位を誇っている証拠であり、その優位性を捨てるというのは愚か者がすることであろう?


 相手を辱めるためならばボックルは犬や獣にだってなれる。いやはや筋金入りの嫌がらせをする魔物だ。まあ、ドッペルゲンガーは何にでもなるしチンケなプライドなんてないと思うけどね。


「……もう嫌だ。自分の恥ずかしい部分が丸見え……」


 前方で見える裸族の尻を見て、しくしくとマジ泣きをする聖騎士。


 今までのような涙目とかではなく、本気で悲しがっていることがわかる泣き方であった。


 前でお尻を振って歩く裸族が、自分の姿であるせいか彼女の精神的ダメージは図り切れないだろう。


「うはははははははは! 聖騎士が泣いた泣いた! 泣いてやんぞ!」


 だけど、そんなことで同情を覚える黒木幸助様ではない。女性のマジ泣き? 大変結構である。


 すすり泣く聖騎士を指さして哄笑する俺。


 男女平等主義者である俺は、女性が泣こうが一向に気にしない。むしろ泣くことで相手は精神的に参っているという事を示しているのだ。そこを攻撃しないとは何たる高慢なことか。それは相手が怪我をしているから攻撃をしないと同じことだと俺は思う。


 女性を泣かせるな? 男であれば泣くのは恥だ? そんな事はない。男も女も同じ人間、どちらも泣きます泣かせます。


「ぐすっ……」


 手の甲で涙を拭いながら走る聖騎士。


 聖騎士の純粋な悲しみの負のエネルギーがダンジョンへと蓄積されていく。


 急に静かになった聖騎士が気になったのか、ちらりと後方を確認するボックル。


『マスター、女性を泣かしてしまいましたよ』


「……ああ、そうだな。聖騎士が泣いた」


 悲しげな声で送られてくる念話に、俺も悲しそうな声で答える。


『「相手は精神的に参っているからさらに攻撃しよう(しましょう)!」』


 そして共に楽しそうな声を上げて指針を明確にする。


 三文芝居ではあるが、共に考えを共通できていること確認するのは大変楽しいことである。これからするであろうことを考えると心が躍る。


 相手が泣いていようが関係ない。攻撃を開始しよう。


「ボックルそこの曲がり角を左に曲がって四―十一―五十番の壁を叩け」


 ちなみに階層内には通りごとに番号を細かく割り振ってあるので、その番号を覚えておけば罠の場所や全体地点を把握することができる。


『おやおや、意地が悪い罠を』


 その番号を全て把握しているボックルは、その罠がどのようなものであるか気付いたようだ。勿論、膨大な数字を把握できているのはボックルだけである。


 俺も結構覚えてきたが水晶のマッピング機能がないと怪しいものだ。


 言うまでもないがデュランは覚えていない。覚えていないが何となくで罠を把握しているのが恐ろしい。


 曲がり角に到達したボックルが左方向へと移動する。勿論、四足歩行のままである。


 聖騎士も涙を拭いながらそれを追いかける。


 薄暗く、罠が多いダンジョン内にいるというのに己の涙で視界を遮るとは愚かである。


 四足歩行で獣の如し先を進むボックルは、聖騎士のスピードと距離を把握しながら指定した番号の壁に近付いていく。


「ボックル、今だ」


 そして全体を水晶で把握している俺の声を聞いて、ボックルが横にある壁を押した。


「ぐすっ……うわっ!?」


 すると後方を走る聖騎士の近くの壁から棒が飛び出し、聖騎士の足を引っかけた。


 視界を涙で濡らしていたせいか無様に転がる聖騎士。


「……くっ! この野郎!」


 転がされたせいで悲しみより怒りが勝ったのか、憤怒の表情を露にしながら上体を起こそうとする聖騎士。――だが、それを待っていたとばかりに天井からタライが落下してきた。


「くそっ!」


 立ち上がる暇もなく、そのまま転がりタライを回避する。


 ディルクやエルフだったら絶対にタライでノックアウトなのだが、さすがは聖騎士だな。


『ここで罠を畳み込みますか?』


「いや、今は姿を隠すことにしよう。自分の裸に変身したドッペルゲンガーを見失うほど怖いことはない」


 自分の姿をしたドッペルゲンガーがどこに行って何をするか。考えるだけで不安でたまらないはずだ。もう三階層に上がって冒険者の前に躍り出ているかもしれない。それとも虎視眈々とこちらを観察して隙を伺っているのかもしれない。何しろ相手は千変万化のドッペルゲンガー、変身できるのは聖騎士だけでは

 ないのだ。


 聖騎士はこれから出会う魔物や人間全てを疑い疑心暗鬼になるであろう。


『なるほど、相手を苛立たせて不安にさせるのですね。では、私は隠れます』


 俺の指示に素直に了承するボックル。


 俺はボックルの逃亡を自然に助けるために、四階層に散らばったゴブリンやワインドウルフ達を呼び寄せる。


『では、これにて! 私は一階層に急がねばなりませんので!』


「待て!」


 即座に立ち上がって、ボックルの下へと走り出す聖騎士。


『グギャアッ!』


『グルン!』


 だが、それを阻むように前方や曲がり角からゴブリンやワインドウルフが姿を現した。


「邪魔をするな貴様ら! 私の尊厳がかかっているのだ!」


 聖騎士が剣を構えて突破を図ろうとする中、ボックルは魔物に変身して群れに紛れ込み、自然に離れていく。


「くそっ! あのドッペルゲンガーはどこにいった!?」


 飛びかかってくるゴブリンを切り捨てながら、周囲を見渡す聖騎士。しかし、ボックルは既に群れに紛れて移動したせいか遥か遠くに逃げてしまっている。この群れ全員を倒したとしても無駄な話だ。


 魔物達には時間稼ぎを徹底させているが、低レベルのゴブリンやワインドウルフでは荷が重いのか、次々と切断されていく。


 一番の目標であるボックルを逃がす事はできたのではあるが、欲を言えば、目標を見失った時に魔物がいやらしく時間稼ぎをして聖騎士を苛立たせたいものだがなあ……。


「戦力、指揮官が足りないな」


 デュランでも呼んで暴れさせるか? いや、あいつはボックル同様人間に紛れることに意味がある。すでに多くの冒険者との人脈を築いているわけだし、それを台無しにするのはもったいない。


 階層主であるスライムキングは出せないし、不死王を呼び出したら四階層までアンデッド階層になってしまうからなー。


 ボックル以外に魔物を統率し、指示できる奴がいないのは問題ではあるな。


『ウォン!』


 俺がどうしようかと悩んでいると、いつの間にか隣に来たらしいワインドウルフが軽く吠えた。


 ダンジョンマスターの能力のお陰で何となく魔物が何をしたいのかは理解できる俺。そうでなくてもこの場合は行きたいという意思表示をしているのはわかる。


「何だ? お前が行くのか?」


『ウォン!』


 そうだとばかりに胸を張るワインドウルフ。


 そうだな、このワインドウルフは実に見どころがある魔物であった。この際だし、レベルアップさせて強化し魔物を率いてもらうか。


「よし、わかった。ちょっとこっちに来い。レベルアップさせてやる」


 水晶の目の前にワインドウルフを呼び出して座らせる。


 そして、俺は水晶を操作してこの部屋にいるワインドウルフを表す青いマーカーをタッチ。


【ワインドウルフ レベル九】


 ワインドウルフのレベルが表示される。


 レベル九であの聖騎士に立ち向かい、舐め腐るとは大した奴だな。


 ワインドウルフのレベル項目をタッチすると、次のレベルに必要な魔力が数値として現れるので、レベル二十に上がるまで魔力を注ぎ込む。


 すると、水晶が紫色の光を放ちワインドウルフがその光に包まれた。


 突然魔力が身体に流れ込んできたせいか、ワインドウルフが驚き目を見開く。


『ウォフ!?』


 怪しい光がワインドウルフの体を包んでいくと、ワインドウルフの体が震えて大きくなっていく。


 それは劇的な変化であり、体長百三十センチほどのものが二メートル近くに変わり、灰色の体毛は漆黒へと変わり鋭利な体毛へとなった。顔つきはより一層凶暴ではあるが相変わらずふてぶてしいものであり、眼光は血のように染まっていた。


『ウォン!』


「……おお、さすがに喋りはしないか」


 デュランや不死王、ボックルは高位なので最初から喋っていたが、ワインドウルフは低位の魔物だしな。スライムキングはスライムからレベルを上げたわけではないので別なのだろう。


 それにしても普通にワインドウルフとしてレベルを上げようとしたのに、どうして色が黒く染まるのかわからないな。スライムキングは水色のままだし。


 ちょっと気になったので水晶を見てみると。


【イビルウルフ 亜種 レベル二十】


 どうやらまったく違う魔物になってしまったようだ。亜種とか存在するんだな。


 ここで調べようとしていたら聖騎士に魔物が皆殺しにされてしまうので、今は四階層に送り出すことにする。


「まあ、いいや。イビルウルフ、聖騎士の邪魔をしに行ってこい!」


『ウォン!』


 俺が指示を出すと、イビルウルフが嬉々として返事し部屋の奥にある転移陣へと走っていった。



地味にツギクルブックスでAI特別賞を貰ってます。最終選考に落ちたので何もないですけど。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公の名前を 黒木 黒井 どちらかに定着させて欲しい 小さなことではあるけど 名前が出る度に気になってくる
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