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聖騎士の裸体

 

『ノフォフォフォフォフォフォ!』


「……くっ!」


 ゴブリンの死体が転がる五階層の十字路にて、ボックルの高らかな笑い声が響き渡る。


 シャドーに変身したボックルはその異様に長い腕を振るって聖騎士へ襲いかかる。


 あわよくば触れて変身させてもらおうという作戦だな。


 聖騎士は振るわれる腕を剣で迎撃して防いでいるが、その顔色はどこか苦しそうだ。


 異様に長く鞭のようにしなるシャドーの腕に間合いを測りかねているのだろう。


 一つ一つの指が鋭いナイフのように尖っているので掠っただけでも、怪我は免れないであろう。聖騎士の前では今、シャドーの指数である八本のナイフが振るわれているに等しいのだから。


 鋭い爪と剣がぶつかり合って火花を散らす。


 レベル的には聖騎士の方が圧倒的に強いが、シャドーの能力を生かしたボックルのいやらしい戦術の前では攻めきれないのであろう。


 例え人間の方がレベルが高くても、魔物には驚異的な身体能力や特殊能力の数々があるのだから。レベル差以外の要因で、それを覆すのが人間の技や戦術なのだが、うちのボックルはそれすらも兼ね備えているので上回るのは至難であろう。


「くっ……」


 くっ、ころ?


「ドッペルゲンガーの変身したシャドーがここまで強いとは……」


 言わない事はわかってはいたが、どうしても期待してしまう。女騎士といえば「くっ、殺せ!」と言わせなければならないのだから。


 聖騎士がシャドーの胴体を両断しようと剣を薙ぎ払う。シャドーはそれを左腕で弾き、右腕を伸ばして襲いかかる。


 身体を逸らしてそれを潜り抜けようとした聖騎士だが、振るわれた右腕がグンと伸びた。


「っ!?」


 伸びてきた右腕を見て、慌ててバク転で後退する聖騎士。


 それを見たシャドーは影移動ですぐさま影に潜り、宙に浮かぶ聖騎士の真下から現れる。


「なっ!? しまった!」


 バク転で宙返りをしたせいか、聖騎士の顔が地面すれすれの位置になり、影から現れたシャドーの視線が合った。おのれの影への警戒を怠った聖騎士の致命的なミスだ。


 いけ! そのままタッチしてしまえ!


『おや、いい位置に頭が』


 俺のそんな応援虚しく、ボックルは足元にある聖騎士の顔をボールのように蹴りつけた。


「ぶっ!?」


 聖騎士が苦悶の声を上げながらボールのように蹴り飛ばされる。


 凄いな。人の顔を物とも思っていない気軽さで蹴っ飛ばしたぞ。前世ではああいう暴力的な屈辱を他人に味合わせたことがないのでちょっと興味があるぞ。


 前世では目の前で大事なものを落とした悪友の、物を遠くに蹴り飛ばしたり、女子のスカートの下に蹴り飛ばしてやったくらいだな。奥山君はそれでスカートを覗く大義名分ができたとか言って喜ぶことが多かったけど。


 俺もエルフの頭とかボールのように蹴り飛ばしてやりたいな……。


 じゃなくて、今はタッチできたかどうかだ!


 このまま聖騎士とボックルの戦闘を眺めていたくはあるが、変身できるようになったかが重要なのだ。


 俺は早速ボックルに確かめるべく念話を送る。


「おい、ボックル。蹴りでも変身できるようになるのか?」


『ノフォフォフォ! 残念ながら手だけの制約なのですが、蹴る直前に右腕で太ももに触れておいたのでバッチリですよ』


「おー! よくやった! 変身できるようになったのならいいんだ!」


 ナチュラルにセクハラをしたボックルが羨ましい。奥山君のような奴だな。


 俺の嫉妬心はともかく、これで聖騎士はクリアもしたも当然だな。


 水晶の映像では、高笑いをしながら聖騎士に変身するボックルの姿が見受けられた。


 久し振りに綺麗な姿をした聖騎士を見たな。


 デュランに嵌められてからはずっと泥だらけだったからな。


 うむ、改めて見ると美しい金髪碧眼の聖騎士だな。


 俺が聖騎士となったボックルをまじまじと見つめていると、蹴り飛ばされた聖騎士が首元を押さえながらも立ち上がった。


 本物の聖騎士は泥にまみれていて汚らしい。本物が偽物に魅力で負けるってどうなのだろうか。


「……くっ、油断した。あのドッペルゲンガーめ。私を物のように蹴りつけるとは……」


 聖騎士は痛みに顔をしかめながらもボックルを睨みつける。


「今度は私に変身して動揺でも誘う気か? だが、それは悪手だな。私は対人戦には自信があるのだぞ?」


 剣の先端をボックルに向けながら自信満々に言う聖騎士。


 自分の得意な分野を言うとはバカなのか? 魔物の姿で攻められるのは苦手なのですって言っているようなものじゃないか。


『ノフォフォフォフォ! 残念ながら戦闘はここまでですよ。聖騎士さん』


「? どういうことだ?」


 聖騎士の姿を模したボックルが笑い、聖騎士がそれを訝しみの表情で見つめる。


 ボックルが聖騎士に変身できるようになった時点でこちらの勝利は約束されたも当然。もはや、バカみたいに戦う意味はないのだ。


 ここからは本気で容赦なく攻めさせてもらう。


 俺はボックルに念話を繋ぎ、命令をする。


「ボックル、脱げ」


 俺がそう告げると、聖騎士の姿をしたボックルが亀裂のような笑みを浮かべる。


 そして、ボックルは己の鎧に手をかけて、次々と防具を外していく。


「……ん?」


 突然防具を外しだしたボックルを見て、小首を傾げる聖騎士。


 その間にもボックルは次々と防具やマント、ベルトを外していく。


 武器や防具を外していくボックルを見て、増々疑問符を浮かべる聖騎士。ボックルが何をしたいのか計りかねているのだろう。


 まあ、俺達が考えるようなことをすぐに思いつく女性は少ないと思う。少なくとも魔物であるドッペルゲンガーがそのようなことをやるとは思わないだろうな。


 やがて鎧や手甲、全ての装備品を解除したボックルは黒のインナー一枚だけとなった。


 聖騎士の肌は、戦いに身を置いている騎士のわり綺麗なもので、とても白くて滑らかであった。鎧の上からではよくわからなかったが胸も結構な大きさをしており、それでいてなお腰はキュッとくびれている女性らしい体つきであった。


 ……ふむ、眼福である。


 ボックルが俺のために見せてくれるとは限らないし、あいつに頼み込むのも癪なので今のうちに水晶でスクリーンショットをして保存だ。さらに角度を変えながら連続で撮影しておこう。


「……装備品を脱いで一体どうするつもりだ? まさか鎧を脱げば速く動けるとでも思っているのか? 残念ながらその程度では――」


 ビリリイイッ!


 聖騎士が呆れながら言葉を続ける中、ボックルが最後の砦であるインナーを自ら破り捨てた。


 黒のインナーが乱暴に裂かれて、形の良い双丘が露わになる。


「ふおおおおおおおっ!」


 俺は目を限界まで見開きながら水晶のスクリーンショットを乱打。聖騎士の裸体が水晶に刻み込まれていく。


「うおいっ!? 貴様何をしている!? 私の体で裸になってどうするつもりだ!?」


 ボックルの行動を見て、さすがに聖騎士が慌て始める。


 ビリッ! ビリリリリッ! ビリッ、ビリッ!


「ちょ、ちょっと待て! 私の話を聞かないか!? 無言で服をむしって裸になるな!」


 聖騎士が慌てふためく中、俺は水晶でスクリーンショットを乱打。


 聖騎士のあられもない姿を残さず記録。百枚くらいは保存している気がするが気にしない。


 撮れるうちに撮っておかないとな。


 今ならば盗撮犯の気持ちが分かる気がする。


 何だろう。こちらが安全な場所から女子のあられもない姿を撮っていると思うと凄く興奮する。


 それは性的な面も少なからずあるが、相手の弱みをグッと握っていると思うと楽しくて楽しくて仕方がない。こう常に相手の心臓を握っている感じがいいな。


「何を思っての行動かはわからんが、早く服を着ろ! それくらいは待ってやるから――」


『着ません』


 全裸になったボックルが堂々と言い放つ。


 美しい女性が何も隠さずに仁王立ちする姿は、酷く勇ましく見える。


 これもスクリーンショットだ。


「ど、どうしてだ?」


『なぜならば、貴方を社会的に抹殺するためだからです』


「社会的に? 一体どういうことだ?」


『今から私は全裸で一階層まで走ります』


 ボックルの言い放ったその言葉を聞いて理解したのか、聖騎士が目を大きく見開いて頬をひくつかせる。


「じょ、冗談だよな? このダンジョンには多くの冒険者が潜っているのだぞ? 一階層に上がれば、パンツを信仰している狂信者達だっているんだ。敬虔なるアレクシア教徒の私は清い体でいるのが求められていて無暗に肌を見せる訳には――」


『さあ、楽しい追いかけっこの始まりです。この私を捕まえて御覧なさい!』


 聖騎士がつらつらと言葉を並べる中、全裸となったボックルは颯爽と走り出した。


「ちょっと、嘘!? 待て待て待て! やめろおおおおおおおおおおおっ!」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 正に外道
[良い点] 本当にやりやがった…最高に最低な使い方である。
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