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ボックルが盗んだもの……

聖騎士とボックルのシーンを待っていた方には申し訳ないです。今回は何をしているか不明の不死王の描写です。

 

『ノフォフォフォフォ! マスター、これ凄く楽しいですよ!』


 聖騎士が必死になってゴブリンの大群を捌く中、この事態を起こした張本人からボックルから楽しげな声での念話が届いた。


「おう、見ているこっちも楽しいぞ。というか、レイスなんて魔物を俺は配置した覚えが


 ないのだが、一体どこで触ってきたんだ?」


『はあ、レイスを初めてとするアンデッドの魔物なら二十九階層に溢れていますよ?』


 俺が疑問に思ったことを尋ねると、ボックルが困惑したように答えた。


「はあっ!? どういうことだ!? そんなの俺知らないぞ!?」


『いえいえ、マスターもご存知のはずですよ。何せ二十九階層の大広間に不死王を配置したのはマスターなのですから』


「いやいやいや、不死王を二十九階層に配置したのは覚えているが、それとアンデッドが溢れることの何が関係しているんだ?」


『アンデッドを作り出す不死王を配置したのですよ? そのフロアは全てアンデッドで埋め尽くされるに決まっているじゃありませんか?』


 さも常識のように答えるボックル。


 そんな魔物の常識知るか!


 ボックルのとんでもない言葉を聞いた俺は、急いで五階層のマップから二十九階層のマップへと変更。


 すると、フロア中が青いマーカーで埋め尽くされていた。


 恐る恐るその階層の映像を水晶に映し出すと、そこには道を埋め尽くさんばかりのスケルトン、ゾンビ、得体の知れないアンデッドが幽鬼のような足取りで彷徨い、空中ではレイスや、顔のついた炎の玉、鎌を持った朧げな布のような魔物が宙を浮いていた。


 二十九階層は荘厳な神殿をコンセプトとして作っていたのに酷いものである。どう見てもこれでは魔王城やアンデッドの巣窟にしか見えない。


 まあ、魔王である俺が住んでいるダンジョンだから魔王城っぽくて構わないんだけどね。


 それにしても階層主達の勝手がすぎる!


 広大な二十九階層をアンデッドで埋め尽くした本人の様子が気になり、最奥にある大広間をチェックすると、そこには大きな青いマーカーが二つほど存在していた。


 なんでやねん……。


 辟易しながらも俺は最奥の間をタッチする。


 すると剣闘士が戦うような円形の広場が写しだされ、その中心では不死王、スライムキングが骨で組み上げたであろう椅子に座っていた。


『ワシってば偉大な魔法使いじゃったのじゃよ?』


『へー? 例えばどんな?』


『戦争では前線に出て魔法をぶっ放し不利な戦況を覆して国を守ったこともあった』


『あ、知ってる! マスターのDVDの映像で見たよ! こう広いところで人間達がわーって走って殺し合うやつ!』


『そうそう、そうじゃとも。大勢の人間がいるところに魔法をぶっ放すのは何よりも楽しかったわい。こう、人間達がゴミの様に飛んでいくんじゃ』


 お爺さんが孫に昔話をしているような雰囲気だが、話している内容が危険極まりない。


『他にはどんなことがあったの?』


『新しい殺傷魔法を発明して王城に招かれたこともあるぞ。それで褒美に禁書庫の閲覧許可をもらって不死について研究をして…………あれ? そこから先の記憶がないの?』


『えー? そこ気になるのに』


『確かそこで凄い事が起きたような気がするのじゃが。……まあいいか』


 そこで不死の魔法に呑まれたりしたんだろうな。


 何となく察しはつくが、これ以上聞くと怖いので止めておこう。


『それより爺ちゃん! スケルトンを何体か貸してよ』


『む? スケルトンくらい構わんが何に使うんじゃ?』


『見せた方が早いよ!』


 スライムキングの言葉を聞いた不死王は、椅子に座りながら虚空に指を躍らせる。


 それだけで不死王の近くの足元から紫色の魔法陣が光り輝き、そこから五体のスケルトンが出現した。


 試しにダンジョンに蓄積した魔力を確認するがまったく減っていない。どうやら二十九階層にいるアンデッド達は全て不死王の魔力で作り出されたようだ。


 そのことが確認できた俺は安堵する。


 スケルトンが出現すると、今度はスライムキングが右腕をスッと伸ばす。


 すると、スライムキングの右腕がドロリと崩れ落ち、分裂を繰り返して数十体のスライムとなった。


 勿論、スライムキングの腕は何事もなかったかのように戻っている。


『このスライム達をねー、こうするんだ!』


 スライムキングの楽しげな声と共に右腕が振るわれる。


 すると、分裂したスライム達が一斉に一体のスケルトンに飛びついた。


 飛びついたスライム達が、スケルトンの体の隙間に侵入していく。


 すると、スライム達はスケルトンの体を補強する筋肉のように形を形成し始めた。


 互いと互いでくっつき合うように、人体の筋肉を再現するかのように包み込んでいく。


 そして数秒後には、骨と骨の間をスライムによって補強された一体のスケルトンが出来上がった。


『ほお、ほお、なるほど。スライムの弾力性を活かしてスケルトンに筋肉を与えるのじゃな?』


『そういう事だよ』


 感心したスケルトンの声にスライムキングが得意げに胸を張る。


『それじゃあ、早速実験じゃ。スライムを纏ったスケルトンと普通のスケルトンで力比べをしてみよう』


 不死王は楽しそうな声音を出しながら、再び虚空に骨の指を躍らせた。


 すると今度は、厳めしい防具に身を包み、二つの剣を手に持つスケルトンが出現。


 厳めしいスケルトンは両手に持つ剣を、実験する二体のスケルトンに手渡した。


『では、行くぞ?』


『うん、いつでもいいよ!』


 スライムキングが返事をすると、不死王が操るスケルトンが走り出した。


 ちょっと待て、普通のスケルトンってそんなに早く走れるのか!?


 俺が水晶で読み流しした魔物の解説では、普通のスケルトンは走れないと書いていたんだが……。それはあくまで単体としての能力であって、不死王が指揮すればその程度は造作もないという事だろうか。


 肉薄してくるスケルトンに対して、スライム纏ったスケルトンは微動だにせず、剣を真っ直ぐに構えた。


 肉薄したスケルトンは片手に握った剣を大きく振りかぶった。それに合わせてスライムを纏ったスケルトンは剣を横なぎに振るう。


 剣と剣がぶつかり金属音をたてた瞬間、飛びかかってきたスケルトンが力負けして壁まで吹き飛んだ。


 闘技場の地面を無様に転がるスケルトンは、その衝撃でバラバラになり崩れ落ちた。


『ただのスケルトンがこれほどのパワーを得るとは素晴らしいな。これならスケルトンドラゴンにも同じような事ができそうじゃな』


 不死王がスライムスケルトンに興味深そうに視線を向ける。


 眼窩の奥で灯る赤い光が興奮し輝いているように思えた。


 そんなボス級の魔物を気軽に召喚しようとしないでほしい。


 一番落ち着きのある魔物だと思っていたのに、とんだマッドサイエンティストじゃないか。


 これだから主だった階層主の魔物は油断ができないんだ。ダンジョンマスターの知らない所で勝手に物事を進める。


『うーん、さすがにドラゴンの筋肉は知らないから無理かな? 人間ならマスターの持っているDVDで学べたんだけれどね』


 日本の知識が魔物にとんでもない影響を与えている。


『ふむ、それならマスターにドラゴンを召喚してもらうとしよう。魔王でありダンジョンマスターである彼ならドラゴンくらい召喚できるじゃろう』


 できるけれどしません。今の戦力で十分戦えているのだ。うちにはドラゴンを解剖するためだけに呼ぶだなんて贅沢はできません。


 そんな事を思っていると、すぐさま不死王から念話が届いた。


『マスター……』


「ドラゴンを解剖するためだけに呼ぶだなんて余裕はうちにはないぞ?」


 不死王が妙な事を言い出す前に遮って先制口撃をする。


『話を聞いていたなら早い。では、早速上級のドラゴンを二、三体見繕ってもらいたい。なに、心配はせんでもいい。解剖が終わったらアンデッド化させてドラゴンゾンビ、スケルトンドラゴンとして働かるからのぉ』


「俺の話を聞いていたのか!?」


 ダメだと言っているのに、交渉を優位に進めようとする不死王に驚く。


『……ならば仕方がない』


 おお、さすがは長い間生きてきた不死王。退くべきところをわきまえて……。


『ボックルが階層主に配っていた、マスターのお宝本とやらを返そうとしたのだが……』


「下級ドラゴンで手を打ってくれ!」


『これは情報量込みなので、中級ドラゴンを所望する』


「ぐぬぬぬぬ……。わ、わかった。後で中級のドラゴンをそこに配置しよう」


 俺が怒りを堪えてそう答えると、不死王が満足げな声で『ありがとうございます』と告げた。


 ボックルめ! 何て物を盗んで配り歩いているんだよ! 




次回、ボックルと聖騎士の対決。

ボックルの変幻自在な変身能力に聖騎士も苦戦?

ボックルは聖騎士に触れることができるのか……!?


何となく次回予告風に書いてみました。

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