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五階層での奇襲

大変お待たせいたしました。

 

 結局ボックルが俺の私物の何を盗ったのかはわからなかった。


 ただ、ロクでもないものを盗ったであろうという事はハッキリとわかる。それ故に俺は気が気でないのだが、わからないものは仕方がない。


 あいつの事だから、こうやって俺を悶々とさせるだけさせて実は何も盗っていないとかありえそうだ。やはり人という生き物は未知な物に弱いのだと身を持って体験させられるな。


 ボックルの事をいつまでも考えていても仕方がないので、あいつは何も盗っていないと俺は考えることにする。


「さっきの黒い液体は毒かもしれない……。念のために解毒ポーションを飲んでおこう」


 四階層にてコーラを目に浴びて悶えていた聖騎士が、腰元に装着していたポーチから試験管の瓶を取り出した。


 泥の落とし穴に何度も落ちているせいか、試験管も泥だらけだが蓋がきっちりと閉まっていたせいか中身は無事らしい。


 泥が入っていない事に安堵した聖騎士が、試験管の蓋を取って一気に煽る。


 着色料の入った飲料を好む俺が言うのも何だが、紫色の薬品って大丈夫なのだろうか?


 炭酸飲料のジュースでももっとマシな色をしているぞ。


 ともあれ、この世界の住人には必需品なのだろう。そうであれば利用しない手はない。


 聖騎士がコーラに困惑する様は非常に面白かったので、デュランの細工を真似させてもらうとしよう。


 俺は目の前にある水晶を操作する。


 冒険者をおびき寄せるためのアイテム欄を確認して、回復ポーション、魔力回復ポーションなどのマジックポーションをタッチ。


 魔力を対価に召喚する旨のメッセージを了承すると、水晶の傍のカーペットの上に試験管がセットで召喚された。


 俺は椅子から降りて召喚されたマジックポーションを手に取る。


 今までは宝箱の中に入れる物を決めて、直接見ずに配置していたから実際に見るのは始めてだな。


 試験管瓶を色々な角度から見て観察していく。


 ふむ、回復ポーションは薄い水色で魔力回復ポーションは緑色と……なるほど、なるほど。


 これなら着色料が使われているサイダーやら、メロンソーダを混入させても気付かなさそうだな。


 あとはアルコール度数が高い酒を混入させるとか……。アルコール度数が一番高い酒と言われるスピリタスなら無色透明なのでバレなさそうだな。


 これならレベルやステータスが高い冒険者も一撃でノックアウトだな。下手すればアルコール中毒で死亡しそうだが、そこは量を調節してやれば泥酔くらいで済むだろう。


 敵を崩すには内側から崩すがやすしって言うだろう?


 ただしこの方法は、一度使うと冒険者が過剰にマジックポーションを警戒する恐れがあるので注意が必要だな。ここぞという面白い瞬間だけに使うとしよう。


 ああ、想像するだけで笑えてきたな。


 俺がマジックポーションの使い道について楽しく考えていると、聖騎士が五階層に辿り着いたようだ。


 水晶に表示されるマップが四階層から五階層に自動に切り替わる。相変わらず便利な水晶だ。


 まあ、広大なダンジョンを管理するくらいなのだからこれくらいの性能はあって当たり前か。などと思いつつ、ボックルに念話を送る。


「ボックル、聖騎士が五階層に辿り着いたぞ」


『……ようやくですか。遅すぎて退屈する所でしたよ』


 どうせならナタリアの艶やかな声を聞きたかったのだが、ボックルが出した声音は中年神官のおっさん声だった。


 耳元で囁いてくるようなおっさん声が少し不快だ。


『マスター、今どうせならナタリアの声が良かったとか思いませんでした?』


「思ったよ! バカ野郎! わかっているのならナタリアの声に変えろ!」


『おやおや、マスターにしては素直ですが残念ながら変えません。私、この人間の姿が意外と気に入っているものでしてねえ。いや、決してマスターが今不快そうにしている様を想像して楽しんでいるのではありませんよ? ノフォフォフォフォ!』


 こちらをおちょくるような声で言ってくるボックルが無性に腹が立つ。


 ドッペルゲンガーとはここまで嫌な性格をしているものなのだろうか? 


「俺をからかうのはもういいから、しっかりやれよ? お前が聖騎士に変身さえすればこっちの勝ちなんだからな?」


「そこはお任せ下さい。例えレベル差が二十以上あろうとも私が死ぬことはありませんから」


 ボックルの自身満々そうな声を聞いて、俺はボックルとの念話切る。


 まあ、聖騎士と相性が悪かろうと、ボックルが簡単にくたばる姿は想像できないし大丈夫だろう。


 そんな事を思いながら、俺は聖騎士が映し出された画面へと視線を移す。


 聖騎士は石畳が広がる薄暗い通路を真っ直ぐに進んでいた。


 静かな通路内では聖騎士の鎧が擦れる金属音や足音が絡み合うように音を奏でる。


 やたらと静かな五階層の様子に気付いた聖騎士は、慎重な足取りで通路の奥へと歩く。


 聖騎士が進む先は十字路になっており、それぞれの道には無数の青いマーカー、魔物で埋め尽くされていた。


 何ともいやらしい場所に魔物を配置している事だ。


 確認のために青いマーカーをタッチしてみると、そこには無数のゴブリン達がひしめいていた。狭い通路では小型の魔物の方が動かしやすいからの選択であろうか? 


 まあ、ここら辺にいるゴブリンならあまり消耗しても惜しくないので俺としては助かるな。


 それぞれの道をチェックしていくのだが、どうもボックルの姿が見当たらないな。どこにいるのだろうか?


 慌ててマップを確認すると、ダンジョン内の壁と思われる場所を移動する青いマーカーが見えた。


「……はっ? 水晶が壊れたのか?」


 明らかに通路ではない場所に存在する青いマーカーを見て、俺は驚く。


 ついにこの水晶は壊れてしまったのだろうか? そんな事を思いながらも道から外れたマーカーを追いかける俺。


 通路から外れた場所にいる青いマーカーは、聖騎士の傍へと近付き――そして、聖騎士が十字路に差し掛かった瞬間、真横から朧げな骸骨が壁から飛び出した。


「レイス!?」


 壁から出現した朧げな骸骨に驚いた聖騎士だが、何とか体を捻って躱り、回避と同時に剣を振るう。


 聖騎士の銀色に輝く刀身を朧げな骸骨は難なく回避して壁へと消えていった。


「こんな低階層にレイスがいるとは厄介な!」


 聖騎士が体勢を立て直して毒づく。


 レイスというのは俺の知らない魔物だが、アンデッド族なのはわかった。


 それにしても、五階層に壁をすり抜けて攻撃をするようなチートな魔物など配置した覚えがないのだが……。


 気になって壁の中を移動する青いマーカーをタッチすると、水晶に情報が表示される。


【レイス(ドッペルゲンガー ボックル)レベル三十】


 やっぱりお前か! 一体どこでそんな魔物にタッチしたというんだ!?


 俺が心の中で突っ込みを入れていると、それぞれの通路の奥で待機しているゴブリン達が一斉に動き出した。どうやら事前に命令していたらしい。


 三方向の道から現れたゴブリンの大群に、聖騎士を驚き後退する。


 十字路の真ん中にいては三方向から攻められるので、後退して攻められる場所を制限するつもりなのだろう。


 しかし、聖騎士がそのような行動に出ることは予想していたのか、レイスに変身したボックルが後退するタイミングで壁から飛び出してくる。


「……くっ! 嫌なタイミングでっ……!」


 聖騎士が執拗に体を逸らしている様子を見てみると、レイスには触れられると何かしらのダメージがあるのだろうと推測される。


 試しに水晶でレイスを検索してみると、レイスに触れられたものは体力と魔力を著しく消耗するというような解説が書かれていた。


 さすがはボックルさん。魔物のチョイスがいやらしいな。


 タッチすれば変身できるし体力や魔力も削ることができる。一石三鳥だな。


 ボックルの狡猾さに俺も思わず唸る。


 ボックルが壁から聖騎士に奇襲をかけたお陰で、相手の足が止まる。


 その間にゴブリン達が次々と距離を埋めて、第一陣が三方向から聖騎士へと飛びかかった。


「ふっ!」


 聖騎士が裂帛の声と共に、三体のゴブリンを撫で斬りにする。


 聖騎士の僅かな硬直を突くように、ゴブリンが矢を射かけるが聖騎士は首を軽く逸らして回避した。


 軽々と襲いかかってくるゴブリンを切り倒しているように思えるが、その表情は険しい。


 何故なたばゴブリンが三方向から襲ってくる中、天上や地面、左右の壁からやってくるレイスを警戒しなければならないからだ。


 一番警戒するべきはレイスだとわかってはいるが、ゴブリンの大群や飛んでくる矢も無視はできない。聖騎士は神経を張り詰めながら動き続けなければならないのだ。


 絶え間なくゴブリンが襲いかかるのを聖騎士は剣だけでなく、拳や蹴りを使って撃退していく。その中でも四方の壁に注意を向けるのも忘れない。


 聖騎士が真剣な様子で戦う中、レイスに変身しているボックルは真上から顔を出しては壁に逃げ、股下から顔を出しりと好き放題していた。非常に楽しそうである。


「ここの魔物は一体何なのだ!? 一体どうしてこんなに私をおちょくる!? おかしいであろう!? 魔物なら策を弄さずに獣のように襲い掛かって来るべきだろう!?」


 聖騎士がそのような叫び声を上げる。


 俺の部屋にいるべこ太が、水晶から聞こえる聖騎士の声に顔をしかめ、くつろいでいるワインドウルフが鼻で笑った。




読者様の熱い更新コールありがとうございます!


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