ダンジョン
目を開けると、そこは室内のようであった。部屋全体は石で作られており、苔や蔦があちこちを這いまわっている。
ここはどこだろう? この部屋を見る限り、長い間誰にも使われていなかったのであろうか。
俺はひとまず立ち上がり、室内を観察する。部屋では、どこかから聞こえる水の滴り落ちる音が微かに聞こえるだけ。
床や壁、天井は石造りのようだが、そのほとんどが苔に侵食されてしまっている。
俺はその中で、中心にある苔に覆われた何かに視線を向ける。そこでは苔の覆われていない箇所にでは、何かガラスのような物が顔を出していた。
そこに手を触れると、次の瞬間ガラスが輝きだした。
「な、何だ?」
強くなる光に目を細めていると、体から何かを吸い上げられる感覚に襲われた。
何だこれ。奇妙な感覚だ。
俺が不思議に思う間にも、ガラスはより輝きを増す。
まとわりついていた苔を弾きとばし、台座の上に鎮座するガラスの球体が姿を見せる。
そして俺の何かをグングンと吸い上げていくと、そのガラスは紫水晶のように鮮やかな色となった。
『一定以上の魔力を確認……黒井幸助をダンジョンマスターとして認定します』
紫の水晶に浮かび上がったのはこんな文字。という事は、ここは既にダンジョンの中だったということか。となると、俺はダンジョンの中に召喚されたらしいな。
何か吸い取られる奇妙な感覚の正体は俺の魔力ということ。この水晶は俺の魔力を吸い上げていたのか。
全く疲労は感じない。まだまだ余裕があるぞ。一体俺の魔力はどれほどあるのだろうか。
光がじょじょに無くなり、改めて部屋を見渡す。先程まで苔に覆われていた部屋だが、既に苔らしき物は見当たらない。真新しい石がびっしりと一面を覆っている。
だだっ広い何も無い部屋の中で俺一人。
ダンジョンマスターはダンジョンを改造できる者らしいが一体どうやればいいのであろうか。
ここにある物は水晶のみ。
「まあ、これだよな」
俺は水晶に手をかざす。
すると水晶には文字が浮かび上がった。
『ダンジョン情報』『改造』
俺はとにかく情報が欲しかったので『ダンジョン情報』を指でタッチした。すると文字が消え去り、新たな情報が表示された。
名もなきダンジョン
支配者 黒井幸助
階層五階層
ダンジョン維持魔力二百
ほう、特にそんなに大きくないダンジョンらしいな。まあ。一から自分好みに改造できるのだ。問題ない。
水晶では俺の名前だけ光っていたので、なんとなくタッチしてみる。
俺の情報でものっているのであろうか。
名前 黒井幸助
種族 人間
性別 男性
年齢 十七
職業 ダンジョンマスター
称号 魔王 邪神の加護(小)
お、おう。レベルとか攻撃力とかのステータスは表示されないんだな。
…………ん? 魔王? えっ! 俺魔王なのっ!?
邪神達なにしてくれてるの!? 魔王とか勇者に狙われちゃうじゃん。
まあ、いいか。ここは魔物や、魔族、人間達が争う弱肉強食の世界。強さはあるだけでも心強いじゃないか。まあ、全部の力をダンジョン強化に思う存分つぎ込んでやるがな。勇者であろうと何だろうと虐めて追い返す。
俺は水晶を操作して早速『改造』の項目へと移動した。
× × ×
ダンジョンマスターとは、どうやら魔力があれば何でもできるようだった。
支配者の魔力こそが全てで、水晶に己の魔力を注ぎこむ事で階層を追加したり、魔物を配置したりと好き放題にできる。後はダンジョン内で吸い取るなり、人が死亡するなりしても魔力を吸収する事ができる。階層追加には多くの魔力を消費する。それがどれくらいかはまだ感覚でしかわからないのだが、俺の力では精々一日に五層追加することが精一杯であった。
これはダンジョンの維持魔力を計算してなのだが、他のダンジョンマスターの力がどれくらいなのか分からないので何とも言えない。
俺としては、一気に十階層追加ぐらいはしてみたかったのであるが魔王とはこんなものなのであろうか。
そう思って自分の力を卑下していたのだが、実際に追加した階層を歩いてみると、自分の魔力のみでこんな大きな階層を造ったと思うと凄いと思う。
うん、勿論魔物はまだ配置していないよ? まずは上の階層を固めなければ。
ちなみにダンジョンマスターである俺は、自在に階層を転移することができ、ダンジョン内では魔物に襲われる事はない。俺の言う事も理解して従ってくれる。
もし、そうでないとしたら自分の生み出した魔物に襲われるとか間抜けすぎる。知能の低い魔物はほとんどが喋れないのだが、高位の魔物とかは喋ったりもする。
見た目は怖いのだが、話してみると凄く面白い奴等だ。
現在俺のダンジョン全ての階層は十五階構成。十階では階層主としてスライムキングを配置している。
やはり序盤はスライムで無ければ。調整で変更したりするとは思うのだが、まずはスライムキングに十階層を任せたい。
そして俺はというと、水晶、ダンジョンコアがある部屋で過ごしている。
そう、凄く快適に。どうしてこんな石で覆われた部屋で快適に過ごせているのかと言うと『ルーム作成』というダンジョンマスターの能力のお陰である。
ルーム作成とはその名の通り部屋を作成するのだ。
主にダンジョンマスターが過ごす部屋を快適にするための能力である。
そこにあった素敵な項目を見て、俺は真っ先に俺はお風呂やトイレ、キッチンや食糧庫を設置した。
特に食糧庫はヤバい。なんと日本の食材が入っているのだ。その気になればポテチでさえも手に入る。
現在ではプライベートなお風呂などは奥に拡張され、水晶がある部屋は赤いカーペットが一面し敷かれ、豪華な椅子も設置し王城のような一室となっている。
ダンジョンが快適すぎる。本当に魔力って偉大。
もう俺、この部屋から一生出なくていいのでは……あっ……俺、料理ができないや。