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聖騎士と信者

お待たせして申し訳ないです。少し短いですが、また近いうちに投稿できるかと思います。

 

 薄暗い階段の中でもはっきりとわかる、陶器のようになめらかな白い肌。目鼻立ちがくっきりとしていて、端正な顔立ちで気の強そうな青い瞳。歩く度に揺れる金色の長髪が、階段の壁に灯る炎の光によって煌く。


 その身に包むは白銀の鎧。高潔さと正義を思わせる白さ。腰には大きな剣が装備されており、今まで見たどの剣よりも銘が高い物だとわかる。


 ピンと背筋を伸ばし、無駄のない足取りで階段を降りていく。


 聖騎士だ。しかもレベルが五十六。今まで見た中で最高のレベルを持った人間だ。


 侵入者のステータスを見て俺は恐れ慄いた。


 レベル五十六の聖騎士だって!? 何でそんな奴がやって来たんだよ!? レベル五十台の魔物なんて俺のダンジョンには…………結構いるんだけれどね。三十階層辺りに。


 レベルが戦闘力の全てとはいえないのだけれど、やはりレベルの高さは圧倒的な力だと思うのだ。高レベルの魔物を配置して自分の身を守ることの何が悪い。


 まあ、そんな所まで聖騎士がやって来させるつもりはないけどね。大勢の魔物が殺されちゃったらまた補給しなければいけなくなるしな。


「……それにしても」


 何だろう。この嗜虐心を煽るこの感じは。気のせいだろうか?


『どうしました? マスター』


 俺の様子を不思議に思ったのか、神官の姿をしたボックルが水晶を覗きこんでくる。


 これも俺への嫌がらせなのだろうか。おっさんと肩を寄せ合って喜ぶ趣味はない。


『これはまた随分高レベルな人間ですね』


 そんな俺の心境も気付かず、ボックルは感心したように呟く。


「聖騎士というくらいなんだ。さぞかしプライドが高いのだろうな」


 きっとこの聖騎士はエルフのような幼稚なプライドではなく、高潔さからくるプライドであろう。なので、あのエルフとは違って苛めがいがあるというものだ。


 こういう奴は自分なりの強い信念を持っているだろうからな。


 その大切な自尊心だけをわざと傷つけないようにして、やすりで削るように痛み付け、最後に心をぽっきりと折ってやるのが一番だと思う。


 まあ、それをすると壊れてしまって今後来てくれなくなってしまうので、今日は挨拶程度に留めておくとしよう。エルフのようにダンジョンに貢献してくれる素材に違いないからな。


「まずは奴から有名な台詞を吐かせる」


『といいますと?』


「『くっ! ……殺せ!』と言わせるのだ」


 聖騎士や女騎士と言えば「クッ……殺せ!」という有名な言葉があるのだ。


 まずは是非奴からこの台詞を言わせるべきだな。


『……意味はよくわかりませんが、いつも通り追い詰めるのですね?』


 最近はDVDで映画などを見て人々の心を研究しているボックルだが、こういう方面の知識は疎いらしい。


「まあ、簡単に言えばそうだな」


 俺とボックルは、聖騎士がどんな奴か探るべく水上へと目を移した。




 俺達が落ち着いて水晶の映像を見る頃。階段を下っていた聖騎士は一階層の大広間へとたどり着いていた。


「な、何だ? 妙な光を感じる」


 聖騎士が光に目を細めて訝しげな声を出す。視線をそちらへと向けると、案の定とパンツ信者が今日もご神体を見上げて祈りを捧げていた。


 大広間にはかなりの人数が詰めかけているにもかかわらず、空間内には静寂に満ちている。


 一切の無粋な音はしない。完璧なる静謐。彼らのその佇まいが、ここは聖域なのだと雄弁に語っていた。


「やけに冒険者達が多いな。光を取り囲むようにして、祈っているのか? ……このダンジョンには女神アレクシア様の像でも飾っているのだろうか?」


 とんでもない。そんな汚らわしいビッチな女神像なんてうちのダンジョンに置いておくわけがない。邪神の奴等に怒られてしまうだろう。邪神達はかなり女神を嫌っているからな、そんなことできるか。


 ちなみにもっと高位で神聖な御方が鎮座されております。


「これは相当な信仰心だ。誰一人身じろぎせず、心から祈りを捧げている。ここまで敬虔な信者はアレクシア神殿でも中々いないぞ。私も戦いの前に女神アレクシア様に祈りを捧げていくべきだな」


 と、勝手に勘違いをして信者の冒険者へと近付いていく聖騎士。


 うん、彼らは敬虔な信者だと思う。ちょっと三大欲級の一つに素直なだけだ。


「さて、私も女神アレクシア様のご尊顔を……なっ!?」


 後ろの列に加わり、祈りを捧げようと顔を上げた所で驚愕の声を上げた。


「女性の下着だと!? そんなものを飾っているとは卑猥な! お前達はこんなものに祈りを捧げているのか!?」


「「「こんなものだと!? ご神体に向かって失礼な!」」」


 聖騎士の突然上げた声に、本気の怒声を浴びせかける冒険者達。


「お前にはあの御方の素晴らしさがわからんのか!」


「神を侮辱するなど、万死に値する!」


 今までの静謐さはどこへやら。あちこちで罵声や怒声が飛び交う。


 凄い怒りだ。水晶に端では、負のエネルギーがドンドンと満ちていくのが見える。


「ひっ! な、何なのだ!」


 レベル五十六の聖騎士。この場にいる誰よりも強いはずの聖騎士が、信者達の様子を見て怯える。


 安全な場所から見ている俺も信者達の豹変ぶりがちょっと怖い。


「やめなさい。ここは神の御前でありますよ」


 低くて威厳ある声が大広間内に響き渡る。


 それを耳にして、怒りに我を忘れていた信者達が一斉に静まる。


「「「申し訳ありません」」」


 暴徒と化した信者を諌めたのは、俺の隣にいるボックルと同じ姿の中年神官だ。


 どうやらコイツのお陰で荒くれ者の冒険者達を、束ねることができているらしい。


「…………」


 静まった信者達を見て、呆然とする聖騎士。


 何がなんだか分からないといった様子だ。


「そこの騎士殿。うちの信者のご無礼をお許し下さい」


「い、いえ」


「その鎧を見るに、貴方はアレクシア教の騎士ですね?」


「そうだが」


「貴方が女神アレクシア様を侮辱されて怒りを感じるように、我々も崇めるご神体を侮辱されては穏やかではありません。なので、本日のところはお引き取り下さい」


 落ち着いているようで、どこか怒りを感じている神官。よく見れば杖を持つ手がカタカタと震えている。相当な怒りだったのだろう。


「す、すいません。では私はこれで」


 そんな神官の様子を察したのか、聖騎士はどこか怯えた様子でそそくさと奥へと走って行く。一刻も早く二階層に行きたいという感じだ。


 そんな聖騎士の後姿を神官と信者は冷めた表情で見送る。そして、消えていくのを確認すると神官が振り返り。


「少し、異教徒が入ってしまいましたね。仕切り直しです! 今日はご神体の前で無礼を働いてしまった分、一層深い祈りを捧げましょう!」


「「「はい!」」」


 大広間で祈りを捧げる信者達が怖い……。



この作品、謎にレビューが多いのです。

書いてくださった読者様。こんな変わった作品を応援してくださり、ありがとうございます。


聖騎士をいじめましょう!

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