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カッツの絶望

お久しぶりです。少し日が空いてしまい申し訳ないです。

 

 二階層にて冒険者に追いついたデュランとボックルは、冒険者の後を尾行していた。


 そんな不穏な魔物二体が後方にいるとは気付かずに、冒険者達は石造りの階層を歩く。


「噂には聞いていたけど、本当に一階層に下着が飾っているなんてね。それをあんな風に崇めているなんて、男って本当にバカね」


 気の強そうな貧乳魔法使いであるクルネが、冷ややかな声で呟く。


 それを聞いて前を歩く、カッツとロブの身体がビクリと跳ね上がる。


 そして、苦笑いをして。


「「だ、だよなあ」」


 お前達もパンツ信者の癖に何を言ってるんだか。あのパンツを拝もうと頻繁に通っている事は知ってるんだぞ。


「そういう系に寛容な私もアレには少しドン引きね。何か狂気のようなものを感じるから怖いわ」


 巨乳魔法使いであるナタリアが、どこかねっとりとした艶のある声で言う。


 色っぽいお姉さんもあれにはドン引きらしい。


 確かにあれには何か狂気のようなものを感じるのは確かだ。


 例の神官の男を中心にした多くの男が連日このダンジョンへと押し寄せている。


 エルフから悪感情を頂くためのネタと、客寄せに設置したのだが何だか違う気がする。


 あいつらってば一階層の大広間から動かないから、あんまりダンジョンのエネルギーの供給に貢献していないんだよ。


 あのパンツを下の階層に移動させれば大挙して攻略にかかってくると思うのだが、迂闊にそれをすると何か恐ろしいことが起きそうなのでできないでいる。


 やるならば慎重にやらなければならない。


 何か神からの褒美を与えるとか試練とか……まあ、パンツについては置いておこう。


 このパーティーは前衛の男二人、後衛の女二人という男女混成パーティー。


 様子を見る限り、前衛の二人と後衛の二人はそれぞれ別のパーティのようで今回に限り組んでいる、即席パーティーのような感じだ。


 知り合って間もない間柄なのだからボックルが付け入る隙はいくらでもあるな。


 俺がそんな風に分析していると、デュランとボックルが動き出した。


 水晶の別画面では道をすたこら走る二体の全身鎧の姿が。


 どうやらアイツらは冒険者達の先回りをするらしい。一体何をするつもりなのやら。


『で、ボックル。どうするんだ?』


 通路を駆ける中、デュランが問いかける。


『あのパーティーを崩壊させるのは容易いことでしょう。誰かに触れて変身さえすれば、あとは後ろから刺すなり好きにしてやれば信頼は崩れて憎しみ合うことになるでしょう。……ですが、それでは面白くありません』


 ボックルの言葉に俺は同意するように頷く。


 長年信頼してきた冒険者仲間ならともかく、大して信頼をしていない奴から刺されても怒りは底がしれている。そういう裏切りは長年苦難を共にしたパーティーでこそやるべきだ。


 絶対の信頼を寄せていた相手に裏切られた方が、反応が面白いだろ? 


『確かにな。あいつらってば大した仲が良くなさそうだもんな』


『だからこそ付け入る隙があるのです。なんせ相手の事もロクに知らないのです。私が多少妙な行動をしても不思議と思わないでしょうね』


『じゃあ、まずはアイツらの身体に触れねえとな。カッツとロブとは知り合いだし、さっきみたいにさりげなく触れていくか?』


『言い方が変態みたいに聞こえますが、それが一番楽ですからねぇ』


 方針が決まったのか、階層内を知り尽くしたデュランの案内のもと二体は進み、冒険者達の先へと着いた。


 そして、今から一階層へと帰る途中という風で通路を歩き。


『おー! カッツじゃねえか』


「おー! デュランか! 相変わらずデケえなってデュランが二人!?」


「つうか二人して全身鎧だと怖えな」


 薄暗い通路の中で黒い全身鎧の男が二人もくればそりゃビビるわな。


『俺の仲間のボックルだ』


『初めまして。ボックルです』


 デュランから紹介されてボックルが前に出て手を差し出す。


 先程の流れと同じように、何の違和感もなく握手をしてカッツとロブに触れていくボックル。


 これであの二人にも変身できるな。もう、他人の身体を使って何でもしほうだいである。


 いや、男に変身できるからって言う台詞ではないな。そういうのは女性に変身できるようになってから言うべきだ。


『それで後ろの綺麗な女性達は?』


 適度に話したところでボックルが次のターゲットへと移ろうと、歯の浮くようなセリフを言って近づいた。


 やべえ、俺だったらそんな事絶対言えない。


 クルネの事を少女と言わずに、女性扱いしているところがさりげなくポイントが高いぞ。相手からの第一印象に好感を持たせて、さりげなく触れるつもりだな。


「あらあら綺麗だなんて嬉しいわ。魔法使いのナタリアよ」


 ナタリアもまんざらでもなさそうに笑いながら、差し出されたボックルの手を握った。


「……ま、魔法使いのクルネよ」


 クルネもどことなく取っつきにくいオーラを取り、ボックルとい握手を交わす。


 クルネちょろいな。


 もっと冷たい女だと思っていたぞ。まあ、冒険者をやっているのにそこまで潔癖な女性ってのもおかしいよな。


 一人だけ握手をして回るのも変だと思ったのか、デュランもさりげなく二人と握手していた。


 それから冒険者達と別れた、ボックルは俺に念話を送ってきた。


『マスター。冒険者達を夜までとどめることはできますか?』


「夜までか? そうだな。さすがに低階層でひき止めるのは難しいが、五階層くらいまで潜ってくれれば魔物や罠で足止めできるぞ。夜に何かするのか?」


『ええ、しかしそれは秘密です……』


 怪しい笑い声を上げるボックルの意図を掴めずに、俺は首を傾げる。


 まあ、あれだけ自信満々に言っているのだ。寝込みを襲う程度のつまらないことはしないであろうな。



 ◆



 冒険者達を行き止まりに誘導したり、時間制で開く落とし穴にはめたりと時間を稼いでいるとあっという間に夜になった。


 冒険者達は六階層にまで進出し、そこで疲れと眠気を感じたのか、今日は六階層で睡眠を取る事にしたようだ。


 俺が豪勢な食事を食べて見守る中、冒険者達はテキパキと質素な食事をして横になる。


 横になるといっても簡易テントをアイテム袋から取り出しているお陰でキャンプのようだがな。アイテム袋様々だな。


 ロブは小さなフロアにテントを立てており、女性達はその隣のフロアでテントを立てて眠っていた。まあ、長年一緒にいる男女パーティーならともかく、即席ならこんなものであろう。


 両者の間は、学校の教室でいう隣のクラスくらいなのでそんなに距離も空いていない。これくらいなら、いざという時でも見張りが一人いればどうにでもなる。


 そんなわけで、カッツはほの暗い通路の中、魔物がやってこないか通路を見張っていた。


 そして夜が深まり、カッツ以外の冒険者が寝静まったところで、近くに伏せていたボックルが動いた。


 ボックルはデュランの姿からクルネの姿へと変身。


 女性冒険者が寝ているフロアの近くから音を立てずに歩き、カッツへと近付く。


 おい、あいつってばクルネに変身してどうするんだ? おいおい、夜って事はまさかいかがわしい事をするつもりじゃ! 


 おいおい、駄目だぞ! 俺のダンジョンでそんないかがわしい真似は。第一それじゃカッツを喜ばせるだけじゃないか。羨ま……いや、いや相手は魔物だ。ボックルなんだ。いくら見てくれはよくても……。


 そんな風に俺が焦っている間に、クルネの姿をしたボックルがカッツへと声をかける。


『……ねえ、カッツ』


「なっ!? クルネ!」


『シーッ、静かにして』


「…………(コクコク)」


 薄暗い通路の中、突然声をかけられたカッツが大きな声を出すが、ボックルが口元を押さえたことで大人しくなる。


 うわー、何だろうな。この展開。青春マンガや恋愛マンガでよくある夜のハプニングみたいだ。


 それから二人は至近距離で見つめ合う。可愛らしいクルネの顔が至近距離であるせいかカッツの顔と耳が赤く染まる。


 今は皆が寝静まった深夜。密着した男女。色々と想像してしまうのも無理はない。


 それに対してボックルは特に動じることなく、余裕の笑顔をカッツに向けている。


 完璧に童貞であろうカッツを殺しにいっているな。相手はドッペルゲンガーなんですけどね。


 そんな風にボックルが口元を押さえてカッツに密着する中、とんでもない事をボックルは口走った。


『……ねえ、カッツ少ししたら私のテントに来てくれない……?』


 どことなく、上目遣いなところが腹立つ。お前は一日中何を研究していたんだ。


「えっ!? それって……どういう?」


『言わせないでよ……バカ……。夜に男女がすることなんて一つしかないでしょ?』


 おい、おい……おいおいおいおい! 何口走っちゃってんの? 何言っちゃってんの?


 クルネさんがとんでもないビッチになってるぞ!?  


 というかボックルの演技が上手くてキモイ。俺でも実際にやられたら騙される自信がある。


 ドッペルゲンガーとはなんと恐ろしい魔物なんだ。純情な男心を弄ぶだなんて……。


 悪魔族と呼ばれるのも頷ける。ある意味夜襲だな。


 このままじゃ、カッツはとんでもない誤解をして夜這いをしに行く事になるぞ!?


 そんな事になれば……カッツは明日自殺したくなるぞ。よくて女性不信だ。


 でも、ゴメンなカッツ。俺は見てみたい。


「……え? ええ!? でも、ナタリアが……」


『ナタリアにはスリープの魔法をかけて別のテントで寝てもらっているから大丈夫よ』


 周りを心配する童貞カッツの耳元で囁くボックル。これは悪魔の囁きだ。


 吐き気が催してきた。


 念のためにチェックすると女性のフロアをチェックするとテントが二つ。


 フロアでは勿論二人の寝息が聞こえている。


 確かクルネは左側のテントだったな。テントを立てる様子は見ていたのでバッチリ覚えている。


「クルネのテントは左な」


 俺が念話をボックルへと送ると、一瞬ハッとして。


『私のテントは左側だから。……じゃあ、私待ってるね』


「……お、おお」


 恥ずかしそうに顔を染めて小走りでフロアに戻っていくボックル。


 本当は奥の壁に消えただけだが、薄暗さのせいと、突然の事で正常な判断なできないカッツは気付くことができなかった。




 それから数分後。カッツが本物のクルネへと夜這いを仕掛けたところ、当然反撃に遭い、さらには騒ぎを聞きつけたナタリアも加わってボコボコにされた。


 今日ほど濃密な絶望エネルギーが取れたのは初めてだった。


次回は女騎士にいけたらいいなと思っております。

また近いうちに更新します。


新作『俺はデュラハン。首を探している』の方もよければ一読下さい。デュラハンが主人公な物語です。こっちはデュランではなく、デュークですが。

http://ncode.syosetu.com/n5372dl/

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