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デュランとドッペルゲンガーの邂逅

 

「……冒険者がやってきたな」


『それではこの私が行きましょう。私にかかれば冒険者なんて瞬殺です』


 俺が水晶を見ながら呟くと、足元からドッペルゲンガーの声がする。


 下を見れば、ベこ太の姿となったであろうドッペルゲンガーがいた。


 何故ならば、本物はソファーの上で気持ち良さそうに『ぶにゃー』と欠伸をして横になっているからだ。


 タッチして変身したのであろう。どうも変身できるストックが少ないとドッペルゲンガー的に不安になるらしい。


 それにしても、ベこ太が喋るとこんな感じなのだろうか? いや、あいつはこんな喋り方をしないであろうな。


 ベこ太の姿で喋られると何とも違和感があることだ。


『マスターの姿になって冒険者達に接触して、後ろからナイフを一閃……これで完了です』


「待て待て。冒険者を殺すな」


『はい?』


 物騒な事を言い出すドッペルゲンガーを慌てて諌める。


 すると、ドッペルゲンガーは予想外だったのか、間抜けな声を漏らした。


 俺はいつも言っているように、負のエネルギーを効率よく得るための方法を説明してやる。


 まあ、これは俺自身が好んでいやっている方法だがな。


『なるほど。ということは冒険者を殺さずに、煽って煽って負のエネルギーを絞り尽すのですね?』


 俺が簡単に説明してやると、ドッペルゲンガーは納得したように言う。


 煽って煽ってとは、また素敵な言葉を使うじゃないか。


「ああ、貴重なエネルギー源だ。殺してしまっては勿体ない。奴等は貴重なエネルギーの供給源だからな」


『わかりました。では、そのようにいたしましょう』


「ちょっと待て」


 べこ太の姿のまま、転移陣へと向かうドッペルゲンガーを呼び止める。


『何か?』


「魔物の姿で冒険者に近付くのは面倒だろう。人間に溶け込みやすい姿をした魔物を呼ぶからそいつと行け」


『それは助かります』


 お目当ての魔物を探すために、水晶をタッチしてマップの全体図を見る。


 するとお目当ての魔物が五階層にいるとわかった。


 あのデュラハンは一体五階層で何をしているんだか。


 五階層のマップを選択し、拡大表示。


 階層の広間にて一人の冒険者が何やらロープを手にして立っている。


 どうやら仲間が泥の落とし穴に落ちてしまったらしい。それでロープを垂らして引っ張りあげようとしている所だ。


 デュランが初めてエルフ達に出会った時のような状態というわけだ。


 そして、その後方には腰を下ろして、忍び足で近付くデュランの姿が。


 まあ、何をやろうとしているかは想像しやすいな。


「ぶはあッ! 気持悪い。早く引き上げてくれ」


「わかってる。今ロープを下ろしてやるから待ってろ」


「ああ、頼む。くそ、口の中がじゃりじゃりしやがる」


「ははは、落ちたところが剣山とかじゃなくて良かったじゃねえか」


 罠が泥だったせいか、ロープを持つ冒険者は気が緩んでいるようだ。


 その後ろでは漆黒の鎧を纏ったデュランが足音を殺して、忍び寄っていた。


 全身が金属鎧であるというのに大したスニーキング技術だ。きっと暇な時に練習していたのであろう。


 俺のダンジョンで気を緩めるなど舐めた奴らだ。


「んじゃ、下ろすからな。掴んでくれ」


「おう!」


 冒険者が仲間のために腰を下ろしてロープを下ろしている内に、一歩一歩とデュランは忍び寄り、そして――無防備な冒険者の背中を蹴った。


「はっ?」


 ロープを下ろして前かがみになっていた冒険者は、それはもう綺麗に倒れ込んだ。


 突然の衝撃に間抜けの声と表情を晒す。


「ちょ、お前何して――」


 泥の落とし穴にいた冒険者が落ちてきた冒険者を見て叫び声を上げるが、仲間が泥へと頭から突っ込む泥の音で掻き消される。


『うっひひひひひ』


 デュランは落とし穴から決して見えない所で、声を押し殺しながら笑う。


 俺は声を押し殺すような必要はないので思いっきり笑ってやった。


 誰だって落とし穴やプールの傍で立っている奴がいたら、押してやりたくなるよなあ。


 こう人を突き落とす感覚、自分が相手の運命を握っているという感覚がとても素晴らしい。


 そして押したら押したで起きた悲劇は、自分がこの手で追いやったという感触が得られるのも魅力だ。


 殺人ドラマなどで、ついカッとなって階段から突き落としたり、崖から突き落としたり人はこんな気持ちなんだろうか。


 ああ、やっちゃった俺の手で! ついにやってやったわ、この私の手で! みたいな?


 ちなみに、浅ましい人間関係が見られる昼ドラや殺人事件が起きるドラマは、俺の大好物である。


「おい! 何お前まで落ちてるんだよ間抜け!」


 最初から落ちていた冒険者が、顔にかかった泥を払って怒鳴る。


「ぶうぇ! ぺっぺっ、ち、違えよ! 誰かが俺の背中を蹴ったんだ!」


「はあっ!?」


 慌てて上をさして弁解をする、落ちてきた冒険者。


 二人は上を見上げるがそこには誰もいない。


「……誰もいねえじゃねえか! お前がバランス崩して落ちてきたんだろ! 間抜け!」


「はあ!? 違うわ! 大体お前が馬鹿みたいにトラップに引っかかるからこうなったんだろ! お前こそ間抜けだろうが!」


「んだと! やんのか!」


「上等だ! 表に出ろ!」


「お前のせいで出れねえんだよ!」


 二人は泥だらけの額をぶつけ合うと、泥を相手めがけて飛ばし始めた。


 大の大人が泥のかけ合いをするとは、滑稽である。


 デュランはというと、泥のかけ合いをしている冒険者をこっそりと覗いていた。


『なかなか面白い事をする人ですね? 彼がその魔物ですか?』


「ああ、そうだ。デュラハンだ」


 下から水晶を見上げるドッペルゲンガーに答えてやると『なるほど』と感心した風な声が聞こえてくる。


 まあ、とりあえず面白いところは十分に見られたので、デュランを呼ぶために念話を飛ばす。


「おい、聞こえるかデュラン」


 俺が念話を飛ばすと、デュランも慣れたもので驚くことなく声を返してくる。


『おお。マスターか! 今の冒険者達見たか? あいつら間抜けだったなあ』


「ああ、大変面白いものを見せてもらった」


『だろだろ。で、マスター何か用か?』


「こっちに面白い奴がいるんだが来ないか?」


『面白い奴!? エルフの冒険者か!?』


 俺が誘ってやると、デュランの興奮した声が頭に響いた。


 それに顔をしかませるが、こっちも慣れたもので文句は言わずに続ける。


「確かにそいつは面白い奴だが、今回は違う。新しい仲間だ」


『おお! どんな奴なんだ!?』


「それは会ってからのお楽しみだな。ただ、面白さは保証できるぞ」


『おお! 行く行く!』


「転移陣を設置してやるから少し待ってろ」


『おう!』


 デュランとの念話を切って、水晶を操作。


 デュランのいる位置の近くに転移陣を設置。魔法陣が水色の光を帯びて輝く。


 デュランはそれに気付いたのか、振り返り足音を殺した駆け足で転移陣へと入った。


『で、面白い奴ってのはどいつだ?』


 俺の部屋へと転移陣で飛んできたデュランが元気よく声を上げる。


 今は全身鎧の黒騎士に化ける必要はないために、兜を脇に抱えるという楽な体勢だ。


 どうも兜を脇に抱えるのが落ち着くらしい。


「もうすでにいるぞ」


『…………変な猫が一匹増えただけじゃねえか?』


 手に持った兜を振って辺りを見渡したデュランが失望の声を出す。


 俺はそれに余裕を持った笑みで答えてやり、足元にいるドッペルゲンガーへと視線を送る。


 ドッペルゲンガーが俺の視線の意味を組み取り、悠然とデュランへと向かう。


『ん? 何だこの猫?』


 足元にやってきたベこ太の姿をしたドッペルゲンガーを見て、怪訝の声を上げるデュラン。


 見下ろしてくるデュランに構わず、ドッペルゲンガーは肉球を使って足をタッチ。


 全身がスライムのように蠢き、大きな姿となる。


 そしてそれは一瞬にしてデュランの姿となった。


『なっ、なんじゃこりゃ!?』


 デュランが驚き、自分の兜を思わず取り落とす。そして慌ててそれを拾い上げた。


『お初にお目にかかります。この度マスターに召喚されたドッペルゲンガーです』



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