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ドッペルゲンガー

 


 邪神達の適当な説明は置いておいて、新たに解放された罠や魔物を確認する。


 罠については魔法的なトラップが増えた感じだ。


 今までも転移陣や火を噴き出したりするものはあった。今回はそれよりもさらに細かいもののようだ。


 例えば冒険者が踏み抜けば麻痺状態になる麻痺トラップ、相手がその領域に入る事で発動する結界、相手に枷を与えるもの、簡単な魔法を自動で放つトラップなんてものまで。


 他にもたくさんあるのだが、今までよりも多彩な罠を仕掛けられるのは確実だ。


 冒険者を実験にしながら効果を確認していこうと思う。考えるだけでも楽しいな。


 そして次に魔物。簡単に目を通してみると、どうやら主に強力な魔物が増えたようだ。


 悪魔族というものが多く追加されている。

 憤怒の猛将、強欲の魔女、魂食いとかいかにもヤバそうな魔物だ。


 魔法も使え、特殊能力を持つうえに、低級魔法の無効化といった能力がある。


 冒険者を簡単に殺してしまいそうな勢いだ。邪神達は俺に世界を支配しろとでも言っているのか? 


 召喚に必要な魔力もバカ高いし、俺のダンジョンからしたらこんな奴等は不要だぞ。


 いやでも、もしもの切り札として頭の片隅に置いておこう。


 新たに追加された魔物は単純な戦闘力が強力な奴ばかりで、なかなか面白い奴がいないなーと水晶を眺めていると、ふと気になる魔物を見つけた。


 ――ドッペルゲンガー。


 新たに追加された悪魔族であるが、ランクや魔力ポイントが低いので上の方に表示されているようだ。


 もしかして、他人の姿になる事ができる魔物だろうか? そうなると相手の冒険者となって仲間割れをさせるなどといった、とても愉快な事ができるのだが。


 俺は瞳を爛々と輝かせてドッペルゲンガーをタッチして情報を見る。


 ドッペルゲンガー。


 影の身体を持つ悪魔族の魔物。生物であれば触れる事でその姿になることができる。

 本当の姿を見られる事を嫌い、常に何かしらの姿で行動している。

 相手のステータスや記憶までは真似をする事ができない。変身する相手の能力が低ければ特有能力を扱うことができる。基本的な戦闘力自体は低い。


 ……ひと目見た瞬間にコイツが欲しいと思った。


 相手の姿になれるだなんて最高じゃないか。


 コイツさえいれば嫌がらせにも幅が広がる。冒険者共を仲違いさせることも簡単だ。


 相手が手強いなら内側から崩してやればいいのだ。命を預けて信頼していた仲間に裏切られたと知った時、人はどんな表情をするのか。


 驚き呆然とするのか、怒り狂うのか、泣き叫ぶのか、非常に楽しみだ。


 信頼していればいるほどその衝撃は大きいものであろう。


 記憶や強さまで再現できないのは残念ではあり、注意をしなければいけないところだな。


 そこは冒険者を観察していく事で補っていこう。


 早速このドッペルゲンガーを召喚しようと思う。


 変身能力だけが取り柄とみなされているせいか、必要魔力ポイントがそんなに高くはない。


 高ポイントである悪魔族なのにデュランと同じくらいだ。


 俺はいつものように水晶をタッチして魔力を込める。


 水晶が俺の魔力を対価としてグングン吸い上げる中、俺は違和感を感じて驚きの声を漏らす。


「お? いつもよりも余裕だな」


 グングンと魔力が吸い取られるのだが、いつもより自分の魔力が大して減っていない。


 邪神の加護の効果がきちんと表れているようだ。


 常に魔力を消費するダンジョンマスターとして、魔力が増えることほど嬉しいことはないな。


 やがて水晶が必要な魔力を吸収すると、俺の室内に黒い魔法陣が出現した。


 そこから徐々に黒い何かが沸き上がるようにして姿を現す。


 水晶の説明にあったように、まるで影が人型になったような見た目だ。


 しかし、鋭く尖った形の指や黄色い眼光はとても人間とは思えない。


 影の魔物だ。俺がドッペルゲンガーを観察しているように、相手もこちらを観察している。


 無機質な黄色い瞳からは何も感じることはできないが、敵意といったものはなさそうだ。


「ドッペルゲンガーだな?」


 俺が先に声をかけると、ドッペルゲンガーは膝をついた。


『はい、貴方が私を召喚した主ですね?』


 今までの魔物とは違い、随分と丁寧な態度をする魔物だ。


 どこから声を発しているのかわからないが随分と落ち着いた声だ。そんな事を言ったら、スライムやゴーレムはどうやって喋っているのか、考えたら考える程深みに嵌りそうなので考えない事にする。


 今までの奴等といったら、『おお! お前がマスターか!』『マスターっすね? よろしくっす』などと言うような奴等だったしな。


「ああ、そうだ。ここのダンジョンマスターをやっている黒井幸助だ。他の奴等はマスターと呼んでいる」


『では、マスターとお呼びしますね。早速ですがマスター。お願いがあります』


「何だ?」


 やけに腰が低いために警戒してしまう。

 もしかしたらこれが悪魔族特有の策略か何かだろうか。いや、俺が召喚した魔物は従順なはずなのでそんなことはないと思うのだが。


 いや、今までの奴等が失礼極まりなかっただけなのかもしれん。


『マスターに触れてもよろしいでしょうか? 私、ドッペルゲンガーなので常に他人の姿をしていないと落ち着かないのです』


 なるほど、情報でもあったとおりのことだ。


「それなら問題ない。俺もお前の能力を見てみたいしな。触れてもいいぞ」


『ありがとうございます』


 俺が許可すると、ドッペルゲンガーが立ち上がりゆらゆらと俺の前までやってくる。


 それに少しビビりそうになったが、ここはマスターとして威厳を見せるために我慢する。


『では失礼』


 ドッペルゲンガーがゆっくりと手を上げて、俺の肩に優しく手を置いた。


 それからドッペルゲンガーの真っ黒の身体が突如蠢き、スライムのように身体を不定形に変形させる。


 それがドロドロと動きながら徐々に人間の形、俺の姿を象っていく。


 そして目の前には、見目麗しい美男子こと黒井幸助の姿が目の前にあった。


「さすが俺、かっこいいな」


 艶やかな黒髪に端正な顔立ち。すらっとした身体つきをしていながら、男らしさを感じさせる筋肉が伺える。


 どうして日本で俺がモテなかったのか不思議でならない。この容姿なら彼女の二人や三人いてもいいはずだ。


 運動もできる上に勉強だってできる。こんなハイスペックな優良物件は他にいないぞ? 


 全く、皆俺を見る目がないな。


『……もしかしてマスターは男色趣味なので?』


「違うわ!」


 どうやら顔を近づけて凝視していたせいで誤解されてしまったようだ。大変不愉快な誤解である。


「それにしても声も姿も全く同じだな」


『それはそうですよ。私、ドッペルゲンガーですから』


 俺が感心した風に言うと、ドッペルゲンガーは少し嬉しそうに答える。自分の能力を褒められて嬉しいようだ。


 それにしても自分が目の前にいるというのはかなり違和感があるな。


 俺は普段、周りのやつらからこんな風に見えているのか。


 俺がまじまじと見つめていると、ドッペルゲンガーが変な事を言い出した。


『マスター、笑ってくれませんか?』


「何でだ?」


『いえ、今の自分の状態を確認しておきたいので』


「面白くもないのに笑えるか。姿を確認したいなら鏡があるから、自分で確認しておけ」


 俺は自分の姿をしたドッペルゲンガーを奥の自室へと連れて行く。


 そして全身サイズの鏡の前に来ると、ドッペルゲンガーは驚きの声を上げて自分の姿を確認しだした。


『これは便利ですね』


 ほおーと、俺の声そのままで鏡の前で、身体の調子を確かめている。


 それからドッペルゲンガーは鏡の前で直立すると、亀裂のような笑みを浮かべた。


『ふむ、容姿は悪くないですが笑顔が邪悪すぎますね』


「失礼な!お前の表情の動かし方が下手なだけだ。本当はもっと素敵な笑顔だっつうの」


 俺が指摘してやるも、俺の姿をしたドッペルゲンガーは下劣な笑みを浮かべるばかり。


「馬鹿にしているのか? 俺の笑顔はもっと爽やかだぞ」


『どんなに笑顔を作ってもこの笑顔にしかならないのですが? マスターが見本を見せてくれませんか?』


 俺が不満げに言ってやると、ドッペルゲンガーは困惑する。


 おいおい、ドッペルゲンガーの変身能力の再現度はそんなものなのか?


「しょうがないなぁ」


 俺は少女へと手をさしのべる、王子のように爽やかな笑みを浮かべる。


 ドッペルゲンガーは俺の爽やかな笑みを見ると、再び黒い笑みを浮かべる。それから俺の笑顔と鏡へと視線を向けて、


『なるほど。やはり私の変身能力のミスではないですね』


「どこがだよ!俺の笑顔はそんな黒いものじゃないぞ!」


 俺が叱りつけるもドッペルゲンガーは全く気にせず、突然ズボンを開き、股間を覗きだした。


『……フッ』


「お前本当にやめろよな!」


 コイツ俺の股間を見て鼻で笑いやがった。

 許せん!

 そういうことは冒険者を相手にしたときにやれよな!


 デュランといい、魔物の癖になぜそこに興味を持つのか。全く理解できない。


 俺が頭を抱える間にも、目の前で俺の姿をしたドッペルゲンガーはズボンを下ろし始めた。


「とにかくお前!俺が許可した時以外、俺に変身するのは禁止だ!絶対に!」


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