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加護の強化と甘い幻想

百万PV突破! ありがとうございます!

 

『ダンジョンマスター黒井幸助の魔力を確認……邪神の加護を強化します』


 紫紺色に輝く水晶に触れると文字が浮かび上がり、紫紺色に光が腕を伝って俺の身体を包み込む。


 その光には暖かみなどなく、どこか冷気が漂っているのではないかという冷たさがある。光は俺の身体を完全に包みと、体内へと溶け込むようにして消えていった。


 水晶の輝きもいつものように落ち着きを取り戻し、何事もなかったかのように佇んでいる。


「……あれ? 何も感じないが?」


 そう思って首を捻っていると、自分の心臓が嫌に大きくドクンと跳ねた。


 それから急激に込み上がる不快さ。


 内臓を何かでかき回されるような感覚に吐き気がする。


「な、何だこれ……き、気持ち悪い」


 思わず口元を抑えて、玉座へと手をつく。


 自分の体内で何かがグルグルと渦巻く。


 この感じはいつも何気なく流している魔力だ。


 先程の光に反応して暴れ回っているのか?


 ムカムカとする吐き気が怒涛のように押し寄せてくるが、胃の中のものを吐き出すことはない。


 いや、吐き出せない。魔力なんてもの吐き出せるわけがないので無駄だ。


 吐き出せたらどれほど楽になるだろうか。


 額から大量の脂汗が流れるのを感じる。恐らく原因は先程の紫色の光。


 加護の強化とやらのせいであろう。


 ふざけんな! こんなにもしんどいとは聞いていないぞ。大体、最初に邪神の加護を付与した時は何も無かったじゃないか。加護をいつ付与したのかは知らないが。


 俺が心の中で毒づく間にも、魔力は暴風のように俺の体内で暴れ回る。


 息が荒くなり、視界が朦朧とする。


 気付けば俺は椅子にもたれ掛かるように地面に座っていた。


 今では呼吸する事すら苦痛だ。健康とは、どれほど幸せであるかを感じさせる。


 不健康な状態とは辛いものだ。


 今度、冒険者がやってきたら状態異常を試してやろうか? 


 ダンジョンに潜っている中、下剤でも盛られたら大変だろうな。


 毒の粉を撒く昆虫型の魔物、死なない程度の火傷、麻痺、病毒。


 脳裏でいくつもの戦略を巡らす。


「うえっ」


 別の事を考えるようにして猛烈な吐き気を忘れようとしたが無駄だった。


 俺の体内では魔力が絶え間なく暴れ回る。もはや今の俺は決壊寸前のダムの様。


 パンパンに圧縮された水が決壊して崩壊一歩手前の状態を維持させられているかのようだ。


「……こんなにしんどいとか」


 今頃苦しんでいる俺を見て笑っているであろう、邪神達の顔を思い浮かべたのを最後に俺の意識は闇へと沈んだ。




 ◆



 目が覚めると、俺はベッドにいた。ふかふかの白いベッドの上にだ。


 自分の身体の状態を確かめると先程の不快感が嘘のようになくなっていた。


 魔力も落ち着いており、不快感も吐き気も全く無い。


 ひとまずはその事に安心して息を吐く。


 本当に死ぬかと思った。この世界にきて、苦しい目に合ったのが邪神の加護の強化とは一体どういう事か。


 それにしても俺はどうしてベッドの上にいるんだ? 確か俺は水晶の前で倒れ込んだはずなのだが。


 疑問に思いながら、むくりと身体を起こすと自分の手の平に柔らかいものが触れるのを感じだ。


『ャッ』


 聞こえる艶っぽい声。


 ま、まさか、これはアニメなどでよくある、気が付いたら隣で女の子が寝ていたパターンなのか!


 そして俺は、その女の子の豊かな双丘を無造作に掴んでいる状態――


『ぶにゃあ』


「…………ですよね」


 俺の隣で寝ていた柔らかい存在はべこ太だった。


 背中の肉を無造作に掴んだ手を『うっとうしいからどけろ』と言わんばかりの低い鳴き声だった。


 さっきの艶っぽい声は驚きからきたものであろう。


 俺の興奮が一気に冷めていくのを感じる。


 ちょっと俺ってば邪神の加護を貰って倒れて、頭がおかしくなっていたんだと思う。大体俺の部屋に女なんているはずがないじゃないか。


 べこ太が俺の部屋にいることから、べこ太が倒れた俺を運んでくれたのであろう。


 いつも素っ気ない態度をしている割には優しい奴だ。


 俺はべこ太を労うように優しく背中を撫でる。


 相変わらずモフモフでムチムチな奴だ。


 俺が撫でていると、べこ太は見開いていた金色の瞳を気持ちよさそうに細める。


 二つに別れた尻尾もゆらゆらと動いていた。


 にしてもお前、俺の寝るスペースを取り過ぎではないだろうか?


 結構大きいサイズのベッドだというのに、半分以上をベこ太に取られてしまっている。


 俺ってばよくこの狭い範囲で寝ていたものだ。


 まあ、いいか。今日はベこ太が倒れた俺をベッドに運んでくれたんだしな。これくらい許してやろうじゃないか。


 俺は器の大きいご主人様だしな。


 そう思い俺は残った狭い範囲のベッドへと身を沈める。


 今日はしんどい目にあったし、このまま寝てしまおう。




 ……………………狭すぎて寝にくい。というか体勢がキツイ。


 明日には大きなベッドを設置してやろうと思った。



 ◆



 俺が紫色に光に包まれてぶっ倒れた次の日。


 俺は邪神の加護がきちんと強化されたのか確かめてやろうと思った。


 昨日はあれほど辛い目にあったんだ。これで加護の強化がしょぼかったら泣けてくる。


 まあ、あれからは妙に身体が軽いし、魔力量も増えた感じがするのでそれはないと思うが。


 身体については健康に戻っただけというのはあるが、魔力については少し期待できそうだ。漠然とだが結構増えている感覚がある。


 まあ、魔力は使ってみたら大体わかるであろう。


 いつものように椅子に座り、水晶へと触れる。


 すると、水晶が仄かに輝き、こんな文字が表れた。



『ダンジョンに配置できる魔物が解放されました』


『ダンジョンに配置できる罠が増えました』


『邪神の加護が強化されました』


 おお、それが本当なら嬉しいな。


 加護が強化されたって具体的にどう強化されたのか。


 解放された魔物と罠が非常に気になるが、後でゆっくりと確認しよう。


 魔物と罠の情報を調べたくなるのを我慢して、流れるような手つきで水晶をタッチ。スクロール。自分の情報へと進む。


 ダンジョンを起動した時のように、ダンジョン情報という項目を見つけタッチ。


 すると、


 コケのダンジョン


 支配者 黒井幸助


 階層三十七階層


 ダンジョン維持魔力 五千




 ダンジョンの情報が表示された。


 名前がコケのダンジョンなってやがる。最初は名もなきダンジョンで、冒険者が苔のダンジョンと呼んでいただけだったのに、いつの間に定着したんだ。


 まあ、今はそんな事はいい。


 俺はダンジョン情報に表示される、自分の名前をタッチ。水晶の文字が溶けるように消え去り、新たに浮かび上がる。




 名前 黒井幸助


 種族 人間


 性別 男性


 年齢 十七


 職業 ダンジョンマスター


 称号 魔王 邪神の加護(中)



 邪神の加護が小から中に変わっていた。


 これだけかよ! 何だこの適当感溢れる表記は。


 水晶をグーでパンチしたくなる衝動に駆られるが我慢する。そんな事をしても拳を痛めるだけだ。いや、魔王な俺なら大して痛くはないかもしれんが。


 俺はどこかのエルフとは違うのだから。


 詳しく情報を知ろうと、邪神の加護をタッチすると水晶の文字が切り替わる。



 邪神の加護(中)


 邪神様による加護を受けた者に贈られる大変名誉な称号。


 身体能力の向上、魔力向上といった恩恵を(小)よりも高く受ける。


 次は(大)を目指そう!


 俺は邪神達の顔を殴りつけるのをイメージして、水晶をグーで殴りつけた。


次回は新しい魔物の登場です。


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