第一回神様会議
レビューを書いてくださると嬉しいものです。
あと皆様の感想も。
――神界。
神が住まう世界。そのとある場所では、ギリシア風のキトンを身に纏った四柱の神が円卓へ着いていた。
そこは時間や空間といった概念から隔絶された世界。
無限に広がる青い空。いくつもの雲が流れ、時折形を変えていく。一定の方向へ流れたり、全く違う方向へと流れたり、巻き戻されたりする光景はどこか幻想的だ。
上や下にも同じような光景が見られ、まるでどちらかが大きな鏡なのではないかと思える。
そんな幻想的な世界にも関わらず、テーブルに着いている神達は気にも留めない。
それどころか、真っ白な円卓に頬杖をついている女神は形の整った眉を歪ませ、足では貧乏揺すりをしていた。
人間離れした容姿を持つ彼女の顔には『不機嫌です』と言わんばかりの仏頂面を浮かべていた。
その女神の足元では、貧乏揺すりによって床が常に波紋を浮かべていた。
同じ円卓のテーブルを囲む神の一人がそれに気付き、神経質そうな顔をさらに歪ませる。
爽やかな雰囲気を持つ金髪の神が、ピリピリとした雰囲気を感じて苦笑いを浮かべる。
それから助けを求めるように対面にいる老神に視線を送るも、相手は無言のままである。
金髪の神は、老神がこの気まずい空気を何とかしようとする気配がないのを理解し、ため息を吐いた。
それから気まずい緊張感が続く事しばらく。ついに女神が動いた。
『本当にゴキブリのようにしつこい連中ね! まだ力が残っていただなんて!』
頬杖をついていた女神が、その腕をテーブルへと叩きつけた。
舌打ちをしながら忌々しそうに言葉を吐き出す女神。
間違っても女神が言うような言葉でも態度も無かった。
絹のような金髪に蒼穹を思わせる碧眼。顔立ちは恐ろしく整っており、肌は白皙のように白く透き通っている。
身体には古代ギリシア風のキトンのような服を纏っているが、プロポーションがいいせいか身体のラインが強調されて扇情的に見える。
この人間離れした美しさを誇るこの女性こそが、聖アレクシア法国が信仰する女神アレクシアである。
言動と行動は置いておくとして。
『まあまあ、落ち着きなよアレクシア。聖と美を司ると言われる女神様が台無しだよ?』
『うっさいわね! それは皆が押し付けただけであって私には関係ないわよ!』
『今の台詞を敬虔なる信徒が聞いたら発狂するよ?』
『いいのよ! 聞こえないんだし!』
爽やかな笑みを浮かべる金髪の神が窘めるが、女神は関係ないとばかりに顔を背けた。
『しかし、あの邪神達も困ったものじゃのう。奴等を逃がしてから数十年。魔の者の信仰心もなくして力を失くしたものだと思っていたのじゃが、いつの間に下界にちょっかいをかけられる余裕までできたのかのぅ……』
真っ白な髭を蓄える老神が重い口を開く。
神とは絶大な力を持つ者であり、世界を管理する者。
そんな神だが、生物からの信仰心があってこそ力を得ることができるのだ。
神達は力を人々に分け与え信仰心を貰い己の力とする。
どんな強大な神であっても人々から信仰されなくなれば存在を維持できなくなるのだ。
『本当そうよね。信仰心を失ってさっさとのたれ死ねばいいのに』
『あはは、今まで存在を保っていただけでも凄いのに、力を分け与えるだなんて。実は力を温存していたのかな?』
『負の感情と魔の者の信仰はねちっこいからね』
『喜び、感謝、愛と言った感情よりも、憎しみ、怒り、絶望といった負の感情の方が根深く長く続くからのぉ』
人間の感謝や喜び愛といったものは一時的なものも多く、いつかはそれが当たり前と感じで風化していくのも珍しくはない。
勿論、常にそのような感情を得て、毎日に感謝をして神に信仰を捧げる人間も多い。
が、多くの場合、感謝や喜びといった感情は冷めるものである。
時折思い出し感謝すればいい方で、その気持ちを忘れる者が大半である。
負の感情についても同様のことがあるのだが、生の感情よりも続く事は確かなのだ。
それゆえに邪神達は少ない信仰心であっても存在を維持し続けて、微かな信仰心で力を蓄えていたのである。
『力を蓄えていたのはあり得るけど、一体どうやって、魔王エルザガンをあれほどまでに強化するエネルギーを獲得したんだろ?』
金髪の神が疑問を口にするが、皆唸り声を上げるばかり。
そこで今まで何も言葉を発しなかった神経質そうな神が、閉じていた口を開いた。
『……この間部下にその事について調査させた』
『おお! いつのまにそんな事を』
『武神はいいわねー。絶対的な上下関係があって。あたしのところの部下って言う事を素直に聞いてくれる子が少ないのよね』
『それはアレクシアが部下の女神をいつもこき使うからだよ』
神であっても人望というのは存在するのである。
『私の部下なんだから雑用を手伝うのは当然よ』
金髪の神からの注意の言葉を女神はあっさりと流す。
そんな事よりも女神は自分の前髪が気になっているようで、しきりに髪の毛をいじっている。
相変わらずの女神の態度に、金髪の神は力なく苦笑いをする。
『で、武神よ。どうじゃったのだ?』
老神が逸れた話を戻し、武神に改めて問いかける。
他の神も視線を武神へと向けた。
『ああ、先日とある場所を調査しているとある書物が紛失しているのがわかった』
『その書物とは?』
『異世界召喚のススメだ』
『へー……ってそれ私の領域にある書物じゃないの! なに、女神の領域に許可なく侵入してるのよ!』
感心していた女神だったが、ふと我に返り、身を乗り出して拳をテーブルに叩きつけた。
『まあまあそう怒らなくても』
『乙女の聖域に侵入したのよ!? 怒るに決まってるわよ!』
『武神とて原因解明のために仕方なく行ったことじゃ。そう責めてやるな。元々はアレクシアが自分の領域の管理を怠ったが故の出来事でもあるのじゃぞ?』
『うっ……』
老神に痛い所を突かれ、女神がゆっくりと身体を下ろす。
『あれ? でも私に一声かけてくれれば良かったんじゃ?』
『お前さんはいつもどこにいるのか分からんしな。機嫌が悪いと碌に言葉も交わさない時もある。早急に調査する為に仕方なく行ったんじゃろ。のお、武神よ?』
『………………勿論だ』
『ちょっと今の間は何よ!? もしかしてあんた私の領域で何かやったんじゃないでしょうね!?』
『話が進まないからそれについては後で! ね!』
このままではなかなか本題に入れないと思ったのか、金髪の神が場を諌める。
他の神達もそれもそうだと思ったのか、落ち着きを取り戻す。
ただし、女神と老神は猜疑心に満ちた表情で武神を睨み付けていた。
『異世界召喚のススメが紛失していたって、誰かが盗んだってこと?』
金髪の神が仕切る雰囲気になったため、話を本題へと進める。
『……ああ、そうだ』
『犯人は誰かわかったのか?』
『いや、わかっていない』
『アレクシアの領域となると、僕達四柱の神がいないと入れないはずだけど』
『武神が調査だとか言って侵入した時に盗んだんじゃないの?』
さっきのやり取りを引きづっていたのか、女神が冷ややかに言う。
『いや、調査に入った部下を念のために調べたが誰も持っていなかった』
『ということは?』
女神が険しい目つきで睥睨する。
『わしは女神の領域に入るなんてことはせんよ』
『僕もだよ。ここのところはずっと部下と一緒にいたしね』
どちらも嘘をついているようには見えないと判断し、女神は険しさを和らげる。
『じゃあ誰よ?』
女神の問いかけに答えたのは武神だった。
『……ここ最近、負のエネルギーで強化された魔王エルザガンの事を考えると犯人は予想できそうだがな』
その言葉をきいた瞬間、神達の脳裏ではとある奴等が思い浮かんだ。
『ってことはあの邪神共が私の書物を盗んで勝手に異世界召喚したって事!?』
『邪神の異世界召喚というわけじゃな?』
『元、円卓の神であった彼なら侵入できるだろうね』
元円卓の神とは、現在円卓に着いている女神達と同等の位と力を持っていた神。
リーダー格の邪神のことである。
神界においてもっとも禁忌とされる神殺しをやった神。
今いる神達の上司であった創造神を神殺しの剣で葬り、最悪の邪神として認定された神だ。
『……本当にやってくれるわね。私の聖域をあの薄汚い邪神が踏み入ったなんて』
邪神に己の領域へと侵入された事を知った女神が怒りに震える。
神の力が漏れて、美しいブロンドの髪がゆらゆらと揺れる。
『見つかれば僕達に袋叩きに合うというのに大した度胸だよ』
今まで優しげな笑みを浮かべていた金髪の神も、この時ばかりは静かな怒りを瞳に灯していた。
『異世界召喚するだけの力を残しておったとは。で、どこでどやつを召喚したのじゃ?』
『……俺の推測では聖アレクシア法国と魔族大陸の国境際にあるダンジョンが怪しいと睨んでいる。あそこだけ最近はやたらと負のエネルギーが集まっている』
『私の国のすぐ近くじゃない!』
『ほほう、ならそこを探ってみるかのぉ』
『許せないわ。神託の巫女であるソフィアちゃんにチクって勇者でも派遣させるわ!』
『それくらいなら、過度な干渉にはならないだろうね』
『当たり前よ。この女神アレクシア様をどこかの邪神共と一緒にしないでくれる?』
こうして、世界は幸助を中心として動き出すのであった。
邪神達にも具体的な見た目とかあるんですよ。
暇があれば一話を改稿して、今回くらいの厚みにしたいところです。
少し区切りが微妙かもしれませんが、今回の話が一章の区切りです。
もうすぐ新キャラ登場です。幸助のダンジョンの位置や国の情報も書きます。本当はもう少し早くに書くべきでしたのにすいません。




