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ゴーちゃん出陣!

バトルが入ると少し分量が増えます。

 

 あれから、エルフがムキになって何度もメイスを打ち付けたが、ガラスはそれを力強く弾き返した。


 しまいには魔法をぶっ放したエルフだが、強化ガラスはビクともせず、冒険者の男達をさらに沸き立たせるだけであった。


 ガラス一枚貫けられなかったことに自尊心が傷つけられたせいか、エルフは怒りに顔を赤く染めて魔法を放ちまくった。


 ほとんどが破壊は不可能と言われている、ダンジョンの壁に当たっていたので魔力の無駄使いだが。


 そして、魔力を使い果たしたエルフは顔を青くして女性冒険者に介抱されることとなった。


 あの時、俺があのエルフの傍にいれば「目の前にあるのに届かないってどんな気持ち?」と、あの長い耳の傍で囁いてやれたのに。


 ただ欲しいだけのものなら悔しい思いをするだけで済むが、放置しておけば自分の恥となる物だ。プライドの高いエルフに耐えがたい仕打ちであろう。


 エルフは怒り、屈辱、何とも言えない表情を浮かべながら、女性冒険者と共にダンジョンを去っていった。


 最後らへんには「デュランの力を借りれば……!」とか喚いていたが、どうにも上手くいくとは思えなかった。



 ◆


 パンツが展示される珍しさのせいか、ここ二週間はダンジョンも賑わっていた。


 ひとりひとりの負のエネルギーの質こそ大したものではないが、量があるので負のエネルギーの回収も順調だ。


 最近、冒険者の間ではこのダンジョンを『コケのダンジョン』と呼んでいるらしい。


 何も変わっていないじゃないかと思ったのだが、どうやら意味が違うらしい。


 前回の名称は『苔のダンジョン』。文字通り苔に覆われているダンジョンだったからだ。


 今回の方は『コケ』人をコケにするという意味らしい。


 冒険者の会話を聞くと、


「罠にかかり、冒険者として死を覚悟したのに、ただの放置プレイとは何事だ」


「魔物にやられて死んだと思い、目が覚めたら裸だった。社会的に死んだ。許せん」などという言葉を頂けた。


 リスクとリターンが大きいダンジョン探索だというのに、死というリスクが無いうちのダンジョンは大変優しいダンジョンだと思うが。


 それにしても苔とコケを合わせた名前付け。冒険者達も上手い事を考えるものだ。


『マスター』


 しみじみとそんな事を思っていると、突然俺の下へと念話が届いた。


 この重く響くような声は二十階層の守護者こと、ゴーちゃんである。


「どうしたゴーちゃん?」


『ゴーちゃんではありません。エレメンタルゴーレムです』


「それでゴーちゃん、どうしたんだ? お前から念話とは珍しいな」


 どっかの問題児である、スライムキングやデュランとは違ってゴーちゃんは念話をしてくる事はほとんど無い。


 スライムキングは、しょうもない理由でしょっちゅう念話をしてくるからな。


 デュランの方はとても面白い反応をする冒険者を見つけては、報告してきたりするのでマシだ。最近のハイライトは魔物から逃げてきた冒険者を案内すると見せかけて、魔物部屋に案内したことであろう。あれは大変愉快な饗宴だった。


『もうゴーちゃんでいいですよ』


 水晶で映像を見なくてもため息を吐いている様子が思い浮かぶ。ゴーレムの癖に人間臭い奴だ。


 そんなことを思いながら、水晶をタッチして二十階層の階層主部屋を映像として表示する。


 ゴーちゃんはだだっ広いコロシアムのような場所の中央にぽつりと立っていた。


『マスター、暇です』


「そうか。それならデュランでも呼ぶか? スライムキングなら冒険者がすぐ近くまで来ているから無理だぞ?」


『いえ、そうではなく、俺は冒険者と戦いたいんです!』


 あー、ゴーちゃんは二十階層を守護する階層主だからな。そこまで冒険者が到達しない限り、戦う機会はない。暇なのも当たり前だろう。


 今回そんな事を言い出したのも、スライムキングが冒険者と戦う自慢話を聞いて羨ましくなったとかであろう。



「じゃあ。今日は十階層を守護してみるか?」




 ◆




 十階層ではとある冒険者達が足並みを揃えて、階層主前の通路を進んでいた。


 どこか懐かしい顔ぶれだったので、それぞれの冒険者のステータスを表示させてみる。



 名前 シン

 種族 人間

 性別 男性

 年齢 二十四

 職業 剣士

 レベル 四十一

 称号 なし



 名前 キール

 種族 人間

 性別 男性

 年齢 二十四

 職業 戦士

 レベル 三十八

 称号 なし



 名前 アイシャ

 種族 人間

 性別 女性

 年齢 二十

 職業 魔法使い 

 レベル 三十九

 称号 なし


 名前 フローラ

 種族 人間

 性別 女性

 年齢 十九

 職業 修道士

 レベル 三十五

 称号 なし



 ああ、確か一番最初に十階層へとやって来た冒険者達だ。


 なかなかに高レベル冒険者で非常にバランスの良いパーティー。最初は苦戦していたスライムキングだったが、スライムを召喚して多彩な攻撃を繰り出すことによって撃退させた冒険者達だ。


 あれから一度も来ていない事から、今回は入念に準備をしてきたのであろう。


 これくらいのレベルになるとレベルが上がりにくくなっているというのに、全員前回よりもレベルが一か二上がっているな。大したもんだ。


「いい? じゃあ行くわよ?」


「ああ、打ち合わせ通りに」


 冒険者達は一言二言交わすと、階層主が構える石の扉へと手をかけた。


「さあ、スライムキング! 今日という今日は覚悟しなさい! スライムの大群を召喚しようと、投げようとしたって無駄なんだからね? 何てたって今日は私が広範囲魔法を覚えて……スライムキングじゃない?」


 勢いよく十階層へと入って来たのは、金髪ツインテールの魔法使い。


 緑色の瞳を吊り上げて声高に告げていたが、徐々に声が萎み困惑の声へと変わった。


『お? きたか!』


 それは冒険者達が予想していたスライム生物の高い声ではなく、重苦しく響く声。


 前回と同じであれば中央に鎮座している玉座にスライムキングが偉そうに座っていたであろう。


 しかし、今回は玉座やスライム状の魔物の姿もなく、代わりに黄金色に輝く巨大なゴーレムが立っていた。


 天井から発する光が、黄金色の輝く分厚い身体に当たり煌く。まるで黄金のレンガを積み上げたかのような存在だ。それぞれの腕は大樹を思わせるほどで、足腰もしっかりとしている。顔を模している部分には赤い光が妖しく灯っていた。


「……ゴーレムなのか?」


「……あんなゴーレムは見た事がありませんね」


「それにまた喋れるのか」


 ゴーちゃんの姿を見て、冒険者達が面を食らったような表情をする。


「ちょっと! 何でスライムキングじゃないのよ!? せっかく入念に対策したのにどういう事よ! せっかくあたしが頑張って広範囲魔法を覚えたっていうのに!」


 ブンブンと金髪のツインテールを振り乱しながら、憤慨する魔法使い。あれを掴んで振り回してやれば大変面白い事になりそうだ。


 前回の敗戦からこの日の為に情報を集め、分析をし、対策を考えて訓練したのであろう。


 そしてこの魔法使いは、スライム召喚の対策として広範囲の魔法を新たに習得してきたのであろう。前回は三十七レベルだったというのに、レベルが二も上がっている。


 結構な努力をしたのであろう。


 本当にお疲れ様です!


 恨むなら自分の運の無さを恨んでくれ。今日はたまたまスライムキングとゴーちゃんが入れ替わっているだけなんだ。


 それにしても……本当に運がない……色々な意味で。


「十階層のボスが倒されたっていう情報は聞いたことがないな」


「ダンジョンの階層主が変わるなんて聞いたことがない」


 普通は変わらないのか。でも、うちでは面白かったりすれば何でもありだ。


『さあ、来い冒険者達よ!』


 ゴーちゃんが拳を打ち鳴らして、厳かな声を発する。


 ゴーちゃん、初めての戦いのせいか気合入ってんな。


「……どうする?」


 戦士の男が背中に背負ったトマホークを構える。


「見た事がないゴーレムだけれど、とにかく戦ってみよう」


 剣士の男がそう告げると全員が頷き、臨戦態勢に入る。


「フローラ! 頼む!」


「はい! 『エンチャント・スピード』『エンチャント・シールド』」


 剣士の男の一言で理解したのか、修道士が杖を掲げて戦士と剣士に補助魔法をかける。


 二人は青い光と緑色の光に包まれると同時に走り出した。


 限界まで引き絞られた弓を解放するように、二人が勢いよく飛び出す。身体を包む光が鮮やかに輝き空中へと軌跡を描く。


 さすがは高レベル冒険者。補助魔法が加わっているとはいえ、とんでもないスピードである。


 迎撃するようにゴーちゃんが突き出した黄金の拳を、スピードを維持したまま滑らかな動きで掻い潜る。


 そしてそのまま二人は、ゴーちゃんの両足部分にスピードと体重を乗せた一撃を叩きつけた。


 ギイィィンという金属と金属がぶつかり合うような、嫌な音が室内に響き渡る。


「はっ?」


「硬ぇっ! 何でできてるんだよコイツの身体!」


 剣士の間抜けな声と、戦士の苦渋の声。


 空中では何かがヒュンヒュンと鳴り、遅れて床の絨毯に突き刺さった。


「け、剣が! はっ!」


 自分の剣がへし折れたことに驚いていた剣士だが、瞬時に我へと返り、薙ぎ払われる腕から逃れるように後退する。


 戦士のトマホークは折れてこそいないが、刃こぼれが酷い。


 舌打ちをしながらも、振り下ろされる黄金の鉄槌を躱す。


 打ち下ろされた鉄槌が床を大きく破壊して、土煙を巻き上げる。


「『ファイヤーランス』ッ!」


 そこへとすかさず、魔法使いから撃ち込まれる炎の槍。空中で炎を散らしながらゴーちゃんの頭部へと吸い込まれるように直撃し爆発。


『おお!?』


 爆風が舞い上がった土煙を吹き飛ばした。


「どうよ!」


 魔法使いが誇らしげに叫ぶ。この魔法使いもエルフ同様、自分の魔法に自信を持っているようだ。魔法を使える連中といったら、どうしてこうも高慢な奴ばかりなのか。


 他のメンバーがゴーちゃんの様子を黙って見守る。


 前衛の一撃が全く通らないのは、先程の一撃で理解している。魔法が通用するのであれば、魔法使いや修道士の魔法を主力して戦わなければならない。冒険者達が必死に見極めようとするのは当たり前だろう。


 冒険者達が固唾を呑んで見守る中、頭部から爆炎が晴れた。


 そこには傷一つないゴーちゃんの頭部があった。


「――なっ!?」


『ははは、その程度の魔法は効かんな』


 ゴーちゃんは辺りに漂う煙を鬱陶しそうに振り払いながら、呑気に笑う。


 彼の黄金ボディには炎に焼かれた形跡など微塵もなく、テカテカと輝いていた。


『ほらどうした? もっと打ち込んできても構わんのだぞ?』


 余裕たっぷりに腕を広げて挑発するゴーちゃん。目の部分の赤い光を歪めて憎らしい笑顔を浮かべている。


 予想外の展開に戦士が大きく距離を取る。


「ぐぬぬぬ! フローラ!」


「ええ! 『シャイニングアロー』ッ!」


「『ライトニングペイン』ッ!」


 修道士と魔法使いから放たれる魔法。


 虚空から光の矢が現れ、魔法使いの杖から雷撃が放たれる。


 光の矢がゴーちゃんの全身を穿ち、雷撃が全身を焼き焦がすはずなのだが――それらはゴーちゃんの数センチ手前で弾けて、魔法の効果を失ったかのように掻き消えた。


「はっ!?」


「えっ!」


 エレメンタルゴーレムことゴーちゃんは、一定レベルまで属性魔法を無効化するという反則的な能力を持つゴーレムなのだ。十階層より下の階層は火、水、土と属性階層となっており、それぞれ属性を持つ魔物が跋扈している。一層ごとに属性が変わり、相手の弱点も変わっていくという鬼畜な仕様。


 それでいて最後の階層主は属性魔法を無効化するエレメンタルゴーレムが待ち受けるのだ。


 高慢ちきな魔法使い共の心をへし折る素敵なダンジョンだろう?


 一定レベルがどこまでかは詳しくは知らんが、上級魔法とやらは無効化できないらしい。


 あと俺の魔法もなぜか防げなかった。俺の黒炎と黒雷は無理らしい。なら、俺の魔法は上級なのかと思ったのだがどうも違うらしい。一体どういう仕組みなのか。


「魔法耐性が高いゴーレムか!?」


「それでいてあの防御力とか反則だろう」


 様子を見ていた剣士と戦士が呻く。


「なっ! そんなはずはないわ! きっとどこか弱点になる属性があるはずよ!


 フローラは水をお願い!」


「え、ええ」


 戸惑っていた修道士だが、魔法使いの鋭い声によって我に返る。


 魔物には弱点となる属性があるというのはよくある事だ。


 いいぞ、いいぞ。その調子でどんどん反抗して欲しい。そしてご自慢の魔法をゴーちゃんにことごとく無効化され、自尊心をへし折られて欲しい。そして無様な表情を俺に見せてくれ。


「『ウインドカッター』ッ!」


「『ウォーターランス』ッ!」


 同じくして魔法使いから風の刃と水の槍が空気を切り裂いて、ゴーちゃんへと迫り――掻き消された。


「「「「…………」」」」


「「撤退!」」


「『なっ!?』」


 前衛二人の声に驚いたのは、魔法使いとゴーちゃん。


「まだいけるわよ! あたしの魔法が通じないはずなんて――ちょっと! 離しなさいよ」


「それで前回みたいに魔力切れになられたらこっちが辛い。それに残った属性はどれもお前の苦手な属性だろうが」


 自分の魔法の力はこんなものじゃないと叫ぶ魔法使いを、戦士の男が肩に担ぐ。所謂お米さま抱っこだ。


『おいおいちょっと待て! もう帰るのか!? 早すぎだろう!?』


 初めての冒険者とのバトルが呆気なく終了しそうになっている事が不満なのだろう。


 属性魔法無効に、剣をへし折る防御力。相手が撤退を選ぶのは仕方がないと思う。


「うるせえ。だったら防御力を下げろ! 俺の剣をへし折りやがって! 高かったんだぞ!」


『その程度の剣なんか、このダンジョンの宝箱に普通に入ってるぞ』


「マジで!? それならなおさら戻るぞ!」


 あーあー、ゴーちゃんってば、かける言葉を間違えたな。


『んな!? おい! 魔法使い! お前の魔法はその程度なのか!? へっぽこ魔法使い! 悔しかったら俺にダメージを与えてみろよ! 少しでも傷つけることができたら、金塊ゴーレムとかくれてやるぜ? できたらだけど』


 その台詞は正解だ。もっともっと煽ってやれ。


「ムキイィィ! 上等よ! あんたのその身体にぽっかりと穴を開けてやるから待ってなさい! ちょっとキール下ろして! 金塊をゲットしてくるから!」


 うはは、いい表情だ! この魔法使いはエルフと何かが通じる奴だ。叩けば叩くほど反抗してくれるぞ。もっと叩け。


「こら! 俺の髪を引っ張るな! やめろ!」


『やーいやーい! へっぽこ魔法使い! 逃げるのかぁー?』


「逃げないわよ!」


 スライムキングと遊んでる時みたいだな。


「ちょっとうちの魔法使いを煽らないでくれ!」


「アイシャ。今日は退きましょう」


「ちょっと、腕を抑えないでよフローラ! 金塊がゲットできるのよ! ちょっとぉぉぉ!」


『あっ! おい!』


 ゴーちゃんが冒険者を追いかけるも、相手は見事な手際で扉の向こうへと消える。やがて扉が閉まり、室内にはゴーちゃんただ一人となった。


 ゴーちゃんを十階層に出せば、大概こうなるんだって。





皆さんの感想見てます! 素晴らしい罠や、トラップを考えてくれたりして作者の想像も膨らみます。ありがとうございます! 面白いことがあればどんどん取り入れますよ! 次は魔物の能力を生かしたものを予定しております。

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