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ダンジョン一階層で輝く秘宝

 

 エルフから偶然奪う事のできたパンツを一階層の大広間に飾った、次の日。


 日が浅い内から男の冒険者二人がやってきた。


 ダンジョンマスターとしての能力のお陰か、眠っていてもそれがわかった。


 睡眠を大して必要としない身体になっているので、俺は二度寝する事もなく起き出す。


 彼らはエルフのパンツを初めて目にする冒険者達なのだ。


 彼らがどんな反応をするのか是非とも見ておきたい。


 あのエルフの知り合いとかであれば、近くの街で冒険者達に広めてもらえれば嬉しい。


 そうすれば自ずとあのエルフの耳にも確実に届くであろう。


 彼女はどんな感情を抱いて、どんな表情でここにやってくるのだろうか。


 感情的になって暴れ回るエルフの姿を想像すると、思わず笑みが漏れる。


 彼らはデュランの落書きに気付いたであろうか? 


 三人とも次回が非常に気になることである。


 そんな事を考えながら朝食を手にして椅子へと座ると、冒険者の男達が一階層へとちょうどたどり着いたようだ。


 武人のような顔つきの剣士と、スキンヘッドの戦士風の男。朝からむさ苦しい組み合わせだ。


「何だあれは?」


 大広間を目にした武人冒険者が早速気付いたらしく、怪訝な声を上げて正面にある壁の上部を指さした。


 一番目立つような場所に置いたので、気付くのも当たり前なのだがな。目立つような演出も加えたし。


「何だありゃ? 何か光ってんぞ?」


 武人の男の指し示す方向へと顔をやった戦士風の男も、同じく怪訝そうに声を出す。


 それから二人は顔を見合わせると歩き出す。正体不明の光を確かめるために、壁へと近付いていった。


 やがて。二人が目視するのに十分な距離へと行くと、


「……なあ、あれって」


「……ああ、あれだな」


「「女のパンツだな」」


 二人が見上げる壁にはレイシアのパンツが丁寧に飾られていた。


 大広間の壁を少し凹ませて空間を作り、パンツがしっかりと見えるように台座で支えている。空間内には、よりパンツを良く見せるために温かな光を当てて、純白な白を強調させるようになっている。


 コンセプトは伝説の聖剣だ。


 穢れを知らないような純白の輝きと静謐な雰囲気を出している。

 大人が少し手を伸ばせば届くような高さにあるが、もちろん盗まれたりしないように強化ガラスで遮っている。ガラスは世界一硬いガラスと言われているものを採用。


 壊れたとしても手を出せば手痛い反撃を食らうのでオススメしない。


 最初は回してやろうか、何て考えたがレイシアという文字が見えなくなるので却下にした。そこは結構大事な所だからな。


 神々しいまでに光り輝くパンツを見て、武人の男が口を開いた。


「……あれは宝か?」


「かもしれんな。もっと近付いて確認してみるぞ」


 それらしい体裁を繕っているが興味深々なのは隠せていないな。一階層に入った瞬間に宝があるダンジョンなんてあるはずがないだろ。


 女性のパンツとは男が滅多にする事のできない、いわば秘宝とも言えるもの。誰だって美しい宝があれば触りたくなるものである。


 二人はゆらゆらと秘宝に吸い寄せられるかのように歩く。


 それから秘宝の前へとやってきた二人は、英雄に憧れるような少年のようにキラキラとした眼差しでそれを見つめる。


 無意識に二人から声にならない感嘆の声が漏れる。


 人は美しいものを目にすると言葉が出なくなるものだ。


「……何か文字が書いてあるぞ?」


 食い入るようにして見ていた武人の男が文字に気付いたようだ。


 でかしたぞ武人の男。


「お? どこだ? 何て書いてある?」


「あの上の部分だ。えーと……『レイシア』って書いてあるな」


 武人の男がパンツに書かれている文字を読み上げると、戦士の男が眉を寄せる。


「……レイシアって言ったら、あの冒険者の残念エルフだよな?」


「ああ、胸はぺったんこだが、偉いべっぴんな残念エルフだ」


 どうやらこの男達はあのエルフを知っているらしい。残念エルフとは、また随分と可哀想な呼ばれ方だが、残念な奴なので納得だ。


「という事はあのパンツは残念エルフのパンツってことか……」


 戦士の男がそう呟くと、二人は腕を組んで目を閉じる。


「「…………」」


 二人の男の脳裏では残念エルフの姿が浮かび上がっているに違いない。


 二人は唸り声を上げながらゆっくりと目を開いた。


「んー……あいつのかー」


「残念エルフのパンツかー。見てくれは良くても中身があれだしなー」


 それは全く持って同意できる話である。俺もあのエルフのものでは無いと知っていたら、こっそりポケットに入れていたやもしれん。


「まあ、女のパンツなんて滅多に見れるもんじゃねえから、じっくりと見ておくけどな」


「ギルドの巨乳受付嬢、クルネさんのパンツだと思えばいいじゃないか?」


「あー! そりゃいいな!」


 二人はなんてゲスい会話をして笑い合う。


 さっきから思っていたけど、武人の男ってば真面目そうな顔つきをしていてちょいちょい発言が結構ゲスいな。


 この二人はパンツを眺めて散々ゲスい会話をした後、楽しそうにダンジョンを進んでいった。


 特にパンツを欲しがったりする事は無かったようだな。


 あのエルフをおちょくるために誰にも取られたくなくて警戒していたのだが、これなら安心できそうだ。


 今回の二人組にはパンツの事を広めてもらわなければならないので、うっかり死なないように見守っておこう。




 ◆


 パンツを初めて見た武人と戦士の男がダンジョンから帰還して三日後。


 男達から噂を聞いたらしく、他の冒険者がやってきた。パンツが飾られてあるなどと聞いてやってくるのだ。当然男達だ。


 冒険者達は猜疑心半分、遊び半分で来ていたみたいだが、一階層に下りてきてパンツを目にした途端絶句した。


 本当にダンジョンの一階層にパンツが飾られているとは思わなかったようだ。


 そりゃそうだ。ダンジョンの一階層にパンツが飾られているなんて言われて、いきなり信じる方がどうかしている。


 半ば信じていなかった冒険者達はパンツに書かれているレイシアという文字を見ると、笑って指をさしたり、微妙そうな顔つきをしていたりと様々であった。


 美人な女性のパンツを見ているのにこの反応。あのエルフの普段の行動がダンジョン内とさほど変わらない事が窺えるものだ。


 ◆


 それから五日後。


 三日目に来ていた冒険者達が街に帰って噂を流したのか、多くの冒険者達がエルフのパンツが飾られている珍妙なダンジョンを見に訪れていた。


「おいおい、ドレイク達の言っていた通りだぞ! 本当にあったな!」


 開口一番に男が、まるで見世物を見つけたかのように叫ぶ。


 まあ、見世物というか晒し物だから問題ないけど。


「何でダンジョンにパンツが飾られてんだよ」


「おーおー、ちゃんと名前まで書いているな。まな板エルフの名前が書かれてやがるぞ」


 まな板エルフ? 確かあいつの呼称は残念エルフではなかったか?


「大衆浴場の事件といい、あいつのパーティーメンバーは自分達を誇示することに目覚めたのか?」


「俺、自分の逸物を『ダガー』とか『ボーンククリ』とか誇示する度胸も自信もないわ」


 あ、あああああ! どうやらあのエルフ達は街でやらかしてしまったのか! 


 それはまたご愁傷様なことで。


 大衆浴場まで気付かなかったのか、脱いだ時に気付いて洗い流そうとした所を誰かに見られたのかは知らないが、事件は起きたらしい。


 下腹部に書かれているので、気付かないという事はなさそうなので後者のような形だろう。


 着替える時に見られたとか、十分にあり得る話だ。

 俺だって下腹部を隠す男がいたら、遠慮なくタオルとか剥ぎ取るしな。だって凄いものを隠しているかと思うじゃないか。


 風呂に入る女みたいにタオルを巻いても、同じことだ。


 何か隠したいものがあると言っているようなものじゃないか。そんなの暴きたくなるに決まっている。これは人間の嘘を暴きたい、真実を知りたいという欲求からきているものなのだ仕方がない。


 まあ、そんな建て前がなくても、面白ければ俺は水泳の授業で、女子の前にいる友達の海水ズボンを平気で下ろしてやる男だけどな。


「あれは笑えたな。ハンスとディルクがあそこまで自分を誇示する奴だったとは思わなかったな」


「いや、新しい羞恥プレイかもしれないな。俺の友達に痛みや辱めを受けて興奮するという変な輩がいてな。そいつと同類かもしれん」


「「ああ、ビアージュか」」


 とんだド変態じゃないか。



 ◆


 それからさらに次の日となる四日後。


 今日も今日とて一階層は男の冒険者は賑わっていた。


 パンツだけ見て帰るなんている事もなく、このダンジョンが多くの冒険者に知られるようになっているからいいんだけれどね。



 パンツを見て緩んだ気持ちになった冒険者達が、魔物や罠に手酷くやられて負のエネルギーを回収されて帰っていくからいいんだけれどね。


 今日はパンツを食い入るように見つめる男性を、女性がゴミを見るような目で見ていたのが印象的だった。


 あれが一番純粋な負の感情だったかもしれないな。


 ◆


 パンツを展示から五日後。


 本日はこれまで以上の男性冒険者が一階層の大広間で食い入るようにソレを見ていた。


 誰もが真剣な顔つきで、壁に密着する程近くでだ。


 そろそろエルフの名前は十分に晒され、噂されるようになったので、今日は趣旨を少し変えてこのパンツを辱める演出にしてみた。


 前回のコンセプトである伝説の聖剣は終了である。


 現在のコンセプトは絶対領域だ。


 下着屋に展示されるさいに使われる、女性のリアルな身体つきを再現した肌色のマネキン。


 お腹から太ももにまであるマネキンは、純白のエルフのパンツを穿いている。


 さらにその上にセーラー服のスカートが被さっている。下からは送風機の風が発生しており、スカートがひらひらと揺れる演出だ。


「くそっ! じれってえな!」


 男の一人が焦燥感に満ち溢れた声で叫ぶ。


「バカやろ。見えそうで見えないのがいいんじゃねえか!」


 男達は何とかして純白の布を一目見ようと、場所を変えたり、角度を変えたりと必死になって動き回る。


 今日は女性冒険者の負の感情がますます強いな。


 本当に皆さんゴミを見るような視線だことで。


 男女混合パーティーの男もよくこの塊に入って来れたな。


 後ろで待機している女性冒険者に後で殺されるぞ?


「おおっ! 今ちょっと見えたぞ!」


「マジかよ!?」


「見えそうで見えない状態が俺達の心をこうもかき乱すとは……」


 それがチラリズムというものである。見せる事を目的とし、露出の増えた現代日本では衰退気味ではあったが。


「つーか、この腰部分、すげえリアルだな。一体何でできているんだ?」


「さっぱりわからねえ」


「こっちの角度、見えそうだ! こっちだけ風が強いぞ!」


「「「本当か!?」」」



「本当か!? じゃないわよ! この変態共!」



 男達が一斉に動き出そうとする中、ダンジョンの一階層に聞き覚えのある鋭い声が響いた。


 男達が振り返る先には、まな板エルフが大層お怒りのご様子で立っていた。


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