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デュランの落書き

 

 デュランと別れ、階層主であるスライムキングへと挑んだエルフ達は全滅していた。


 今回は逃走ではなく全滅である。


 普通のダンジョンであればとどめを刺されてこの世とおさらばしている所であるが、エルフはこのダンジョンにとっていいお客様でありリピーター。スライムキングはいつものように気絶した冒険者達を転移陣へと放り込んだ。


「あーあ。やっぱり負けたか」


 俺は室内で柿ピーをポリポリと食べながら水晶を眺める。


 スライムキングはエルフ達が入ってくるなり大量のアシッドスライム、パラライズスライムを召喚。ゴーちゃんとの軍団バトルのお陰か見事な指揮能力でスライム達を手足のように扱っていた。


 魔法が得意なエルフは火魔法でスライムを殲滅せんと奮闘していたが、スライムキングがそれを妨害。瞬く間にエルフ達はパラライズスライムの餌食となった。


 ディルクが苦し紛れに投げた投げナイフをスライムキングがアシッドスライムを盾にして防いだ時は、コイツも成長したんだなとしみじみと思った。


 階層主同士の遊びも馬鹿にできないものである。


 これからはレベルアップや施設の向上など飴をチラつかせて積極的にやらせてやろうか。


 そんな事を思っていると、何故かデュランが階層主の部屋へと入っていった。



『ええっ!? もう次の冒険者が来たっすか!? っていうか首が無い!?』


 最後にディルクを転移陣に放り込んだスライムキングが驚き、液状の身体を変形させる。


 デュランは自分の兜を乗っけているのがしんどかったのか、今では脇に抱えている。


 やはりその姿がデフォルトらしい。


『おお、お前がここの階層主か。俺は今日マスターに召喚されたデュランだ』


『……あー、マスターに呼ばれたんっすね。十階層を守護しているスライムキングっす。よろしくっす。デュラハンっすよね?』


『デュランだ。ところでさっきの冒険者達はどうなった?』


『さっきの冒険者なら気絶させて転移陣に放り込んだっすよ? 今頃一階層の大広間じゃないっすかね?』


『殺していないのか?』


『いや、その方が何度も来てくれてダンジョン的に美味しいとかマスターが言ってましたよ?』


 スライムキングから説明を聞くと、デュランは『ふむ……』と持っている兜に手を当てて考え込む。何かシュールな光景だな。


 それからデュランは何か思いついたような声を上げると、上を向いて声を張り上げた。


『マスター! 何か書く物はあるか?』


 当然、十階層の映像を見ている俺は念話ではなくても声が聞こえる。


「そりゃあ、あるが何に使うんだ?」


『ひゅおおおおっ! マスター見てたんすね!?』


「何だよ。人を覗き魔みたいに言うな。ダンジョンを管理するダンジョンマスターとしての義務を果たしているだけだ」


 事実かもしれんが、階層主達のプライバシーはある程度守っている。暇な時は覗いたりするけど。


「で、あるけど。どんな奴がいいんだ?」


『お? どんな奴って筆とかじゃないのか?』


 ん? 一応デュラハンという魔物は、怨念を持ったこの世界の騎士の成り果てた魔物だったかな? それなら日本製品を知らないのは当たり前か。


 どっちにしろ異世界である日本の事など知れるわけはないが。文明レベルも冒険者を見る限り低そうなのだし。


「赤とか青とかピンクとか色々な物があるぞ?」


『『何それカッコいい!(っす)』』


 俺が黒以外にも色がある事を教えてやると、二体が予想以上に食い付いた。


『それって黒以外の色が出るって事だよな? 発色の悪い塗料とかじゃなくて』


「おお、滅茶苦茶発色がいいぞ? 試しに送るからそこで待っとけ」


『俺も欲しいっす!』


 俺は強請るスライムキングに軽く答えて、奥の部屋にある『道具倉庫』の部屋にある水晶に魔力を注ぐ。ちなみに『食糧庫』やここにある水晶はダンジョンの核と繋がっているだけでダンジョンコアというわけではない。子機のようなものだ。


 ダンジョンコアの水晶と同じ要領で操作する。


 カテゴリーの文房具をタッチしてマジックペンや筆ペン蛍光ペンなど魔力と引き換えに召喚していく。どれもこれも魔力ポイントが五ポイントくらいなので遠慮する事なく召喚していく。


 ダンジョンで冒険者を煽る用と、あいつらが落書きして遊ぶ用と余分に紙も召喚しておく。


 文房具セットを召喚した俺は、いつもの部屋に戻り文房具セットをまとめて十階層の階層主部屋をタッチして転送。


『おお! 何かきたぞ!』


『来たっすね!』


 文房具を転送してやると、デュランとスライムキングが初めて玩具を目にした子供のように飛び付く。


 まあ、実際に初めて見るしな。


『鮮やかな色合いだなー』


 デュランは赤色のマジックペンを手に取ると、興味深そうにあちこち眺める。


 スライムキングも同じように青色のマジックペンに手を伸ばしていた。


『うわっ! 何か取れたっすよ!?』


『おお、本当だ! 壊れたのか?』


 デュランもそれを真似して端っこを引っ張り、キュポッした音と共にキャップを外した。


「その尖った先端部分を紙に押し当ててみろ」


 俺がそう言うと二体は恐る恐る紙にマジックペンを押し当てる。


『『おおっ!』』


 キューっと赤と青の線が引かれた事が新鮮だったのか、二体は楽しげに笑い合って子供のように落書きをし始める。


『トルネード!』


『おお! 何かそれいいな!』


 魔物と呼ばれる奴等が仲良さそうに肩を並べて地面に寝転び、お絵かきをする姿は大変微笑ましい。


 デュランの声がダンディなおっさんの声なので、二体が親子に見えなくもないな。


『何すかそれ?』


 デュランが描いている絵を指さしてスライムキングが疑問符を浮かべる。


 赤で描いているからか見づらいな。何だそれ? ゴーレムか?


『俺様を描いている! 似てるだろ!』


『えー似てないっすよ。ゴーちゃんみたいっすねー』


『ゴーちゃんって誰だ?』


『えーと、ゴーちゃんは二十階層の階層主で……ゴーレムのゴーちゃんっすよ!』


 エレメンタルゴーレムな。友達なんだから覚えてやれよ。


 二体が笑い合い楽しそうな姿を眺めて俺はふと思った。


「楽しそうにしている所悪いがデュラン。これを何に使おうとしていたんだ?」


『あっ! そうだった! 急がねえと起きちまう!』


 俺が尋ねると、デュランははっと立ち上がり、マジックペンをいくつか掴んで一階層の大広間へと繋がる転移陣へと駆けこんだ。


 それから映像を一階層へと切り替えると、死体のように転がっている冒険者達の姿が見えた。


 騎士の男の全身鎧はアシッドスライムに取り付かれたせいか、至るところがドロドロに溶けてしまっている。


 これはもう修理とかできるレベルではないだろうな。買い替えだ。


 騎士の男の懐が寒い事になるだろう。これでは当分ダンジョンに来る事ができなさそうだ。


 あいつはエルフで色々と苦労しているし、可愛そうなので今度きたときは金貨一枚でもくれてやるか。


 勿論無料ではやらないが。何かと引き換えにして手に入れてもらうか。


 例えばプライドと引き換えにするとか、小石食べたら金貨一枚とかヘドロの中に金貨が一枚見えているとか。


 エルフの方は酷いな。特に顔が。完全に白目を剥いて涎を垂らしていやがる。


 せっかくの美人な顔が少し見せられない状態だな。念のためにスクリーンショットしておこう。


 最後には口の中にスライムを詰め込んで窒息させていたもんな。そりゃそうなるわ。


 スライムの身体は液状なので手で取りだそうにも掴む事ができないからな。スライムって色々できて恐ろしいんだぜ?


 最後はディルク。陸に打ち上げられたマグロのように横向きに寝転がっている。


 口は半開きで手がピシッとした状態で体の横に置かれている。


 これは称号、華麗なるマグロ滑りの補正に入るのだろうか? 


 俺は笑いをこらえながら何とかスクリーンショットすることに成功する。


 確かディルクはパラライズスライムの軍勢に取り付かれて、ビクビクと魚のように跳ねまわっていたよな。


 あれは面白かった。思い出すだけでも笑えてくる。腹筋が痛い。


 俺が一人でお腹を抱えて笑っていると、デュラハンはマジックペンを手にしてエルフのへと近寄った。


 ここまで来るとさすがに予想はできる。


 俺の予想通り、デュランはマジックペンのキャップを取ると、キュッキュッと顔に落書きをし始めた。


 おーおー。目をパンダみたいにしたり、ほっぺたにグルグルと好き放題やっているな。


 ちなみにデュランが持っているのは、なかなか落ちない事で有名な油性ペンである。


 悪戯心を分かっている奴だ。偶然だと思うが。


 ちょっと楽しそうだな。今度冒険者が来たら、俺もやってみよう。もちろん油性ペンで。


 それから三人の冒険者をマジックペンで蹂躙したデュランは、冒険者達を眺めて満足げに頷いた。「いい仕事した」というような感じである。


 おいおい、ディルクにはエラと背びれと尻尾を描いておけよな。


 それからデュランは散らばったマジックペンを回収すると、ふと思いついたかのように動きを止めた。


 どうしたんだ?


 デュランは再び振り返ると、騎士の男の下へと駆け寄り、それから腰の辺りをまさぐった。


 それからカチャリとベルトやら防具が外れるような音がしたかと思うと、デュランはパンツを一気に脱がした。


「うおいっ! 何てものを見せてくれてんだよ!?」


 まったくもって不愉快なものがドアップに映ってしまったので、俺は慌てて画面を遠ざける。


 どうして俺が男のナニをドアップで見なければいけないのだ。


 俺が憤慨の声を飛ばすも、デュランは『はははははは!』と笑うだけ。


 それからデュランは騎士のナニを見ると『うむ』と声を上げてパンツを戻した。


 それから下腹部の辺りにマジックを踊らせると、


 → ダガー


 と書いた。


 お前ってば何て恐ろしい事をするんだ!


 それ油性ペンだぞ!? 中々消えないんだぞ!? 最高じゃないか!


 惜しむべきはダンジョン内で負のエネルギーが取れない嫌がらせという事か。いや、次回は相当の怒りを溜めた状態で来てくれるはずだ。問題ない。むしろ推奨する行為だ。


 俺の腹がよじれている間にデュランはディルクの下へと歩み寄る。


 男の尊厳をへし折る悪魔の足音がダンジョン内に響く。


 俺は行動が読めているので、画面を再び遠ざけて眺める。


 そしてディルクのズボンとパンツに手をかけたデュランは一気にずり下ろした。


 ディルクは比較的軽装なために脱がしやすいんだな。


「それで判定はいかに……?」


 俺が喉を鳴らして見つめると、デュランはさっとズボンとパンツを元に戻した。


 それから腕を組んで悩む素振りを見せたあと、勢いよく下腹部にマジックペンを躍らせた。


 おお、今回は画数が多そうだぞ! ディルクの判定は……っ!


 → ボーンククリ



 ……そっかあ。ボーンククリかぁ。



 何かイメージしやすかったな。


 それからデュランはエルフの下に寄ると、上着を脱がす事なく。


 ← まな板


 と印し、高笑いをしながら一階層の奥へと消えていった。




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[一言] ダガー! ボーンククリ?って何?
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