邪神界へようこそ
俺、黒井幸助には彼女がいない。
自分でも言うのもなんだが、俺の容姿はそこそこに整っている方だ。
身長は百七十四センチ。体重は七十。
髪は黒髪で、前髪が少し目にかかるかという程度。
筋肉もちゃんとあり、運動神経は良く、勉強もそれなりにできる。
そんな高校二年の十七歳なのだが、今までに彼女がいた事はない。
もちろん俺の通う中学、高校は男子校などでは無い。
俺の周りは常にむさ苦しい野郎がいるせいなのであろうか。
――なぜこんなにも優秀な俺に彼女ができない?
俺がそう言うと、俺の周りにいる奴は決まってこう答える。
――性格が悪いからだ。
俺の性格が悪い? どこがだ? ちょっと面白い事が好きなお茶目な男じゃないか。
全く。いくら俺の顔面スペックを羨んでいるからと言って、俺に嫉妬するのはやめて欲しい。
あ、高橋さん。彼氏の奥山君が他の女子と手を繋いでいたよ。
え? 奥山君は一人っ子だし、親戚に年の近い女性はいないよ?
あの子どこかで見たことがあるんだよねー。
あっ、思い出した! いつも高橋さんと一緒にいる江本さんだ!
あれ? 高橋さん? 急にどこ行くのー? おーい?
× × ×
気が付けば知らない場所にいた。
俺、黒井幸助は学校から帰りベッドの上で寝ていたはずだった。
しかし、俺の目の前に広がるのは見たことの無い風景。真っ赤な赤と闇のような黒色がお互いぶつかり合い、混ざるようにも、侵食をしているようにも見える絵具のようだ。
不気味なこの光景に戸惑い、硬直していると声が響いてきた。
『見ろ! 成功したぞ!』
『すっげー、流石俺達!』
『人間だ! 人間だぞ!』
……何だか凄くテンションが高い声だ。
声の方へと視線を向けると、漆黒の色をした大きな円卓を囲むように座る四人の男の姿が。
男達は全身が黒、赤、緑、金を基調とした豪華な服を着ており、数多くに身に着けられた装飾品の数々はとても派手派手しい。
傍から見たらすごい中二病な格好なのだが、圧倒的な容姿と雰囲気がそれを違和感なくこの男達を飾っている。
テレビでイケメンだ、かっこいいなどと持てはやされているものとは異なる、人間離れした容姿。
しかし、どの男もただ者ではないと思わせるようなオーラを纏っており、この禍々しい空間と相まって、そのプレッシャーは半端ではない。
俺はごくりと喉を鳴らした後に、学ランのズボンをパンパンと払い立ちあがった。
俺が立ち上がった事に気付いたのか、男達の鋭い視線が集まる。
こうしてまじまじと男達を見つめると、ますます違和感を覚える。
自分とは根本的な何かが異なるような存在感。この男達は俺と同じ人間などでは無いという心の訴え。
そんなバカな。だとすれば遥か上位の存在。神様だとでも言うのか?
『こんにちは。黒井幸助さん。俺達、邪神は貴方を召喚させてもらいました』
……邪神……?
俺が呆然とする間に、男達は邪悪な笑みを見せる。
うわっ! なんて悪そうな笑顔なんだ。友達に黒い笑みをしていると言われる俺なんか目じゃないくらいだ。まあ、あいつらはイケメンの俺を妬んでいるからの謗りだろうがな。俺の笑顔は爽やかだし。
「それで、ここは一体どこなんですか?」
俺が問いかけると、邪神と名乗る男達は両手を大きく広げて叫んだ。
『『『『ようこそ、邪神界へ!』』』』
…………母さん。俺、どうやら邪神に召喚されたようです。