優美なる食事
ディルクが気絶すると、エルフと騎士は矢だけを回収して一先ず撤退した。
現在は広めの通路で食料を腹に入れながら休憩中のようだ。
意識を失ったディルクは、壁にもたれかかるように座らされている。片方の鼻に布を詰められ、口を開けている様は間抜けである。これもスクリーンショットで保存しておこう。
ダンジョンの一階層にでも後で貼り付けておこう。
ディルクが復活するまでの間は暇なので、こちらも昼食をとる事にする。
エルフと騎士が食べている食料は何であっただろうか。
俺は椅子から立ち上がり、キッチンへと向かう前にチェックする。
エルフが手にしているのは、固そうなパンに挟んだ干し肉。そして小さなポーチには木の実らしきもの。後はコップに入った水か。
「……よし、それの上位版を作ってやろう」
エルフを見て、俺の頭の中でメニューはすぐに決まった。
冷たくて硬い床の上で、ボソボソとしたパンと肉を食べているエルフ。
適温の部屋でフカフカな椅子の上で、柔らかいパンで挟まれた具だくさんのサンドイッチを食べる俺。
優越感も得られ、俺の心も舌も大満足に違いない。
温かいコーヒーとスープも付けて、食後にはプリンもつけよう。そうしよう。
俺は笑顔で食糧庫へと向かうのであった。
◆
騎士の「このパン硬いね……」と弱々しく呟く言葉を耳にしながら、俺はフワフワのサンドイッチを口にする。
ああ、柔らかくて麦の香りが広がる。そしてトマトやレタス、チキン、マヨネーズといった豪勢な具の味が次々と押し寄せる。
美味い。
エルフは騎士の呟きに答えることなく黙々と口に含んでいた。
そしてそれを胃の中に押し込むように、水を飲みこんだ。
ダンジョンの中の飯はこんなものである。きちんと木の実を用意してきているコイツらはまだましな方である。
こうして貧相な食事を食べているエルフ達を見るのも良いが、もうひと押し欲しいところだ。
エルフが癇癪でも起こしてヒステリックにでもなれば、なお嬉しい。
この間はコップを投げたら跳ね返って自分に当たっていたけどな。
あの時は散々罠にかかってむしゃくしゃしていた時だったからな。今回は撤退をするはめになっているが、ディルクのお陰で順調に進んでいるのだ。まだ心に余裕があるのだろう。
少し面白くない。
ディルクが復活し、軽く食事をとる事で再び足を進めるエルフ達。
「ディルク大丈夫かい?」
「……ああ、問題ない。さっきは油断した。すまない」
ディルクは糸の罠に引っかかったせいか、やたらと下を注視して歩いていた。
傍から見ても、もう同じ罠には引っかからないという強い意志が感じ取れるほどだ。そんな事をしていたら次は上から攻めたくなるではないか。
「ここのダンジョンマスターは何をするかわからないからね。致死性のある罠こそないけど、意地が悪い罠ばっかりよ。仕掛けた本人の性根が腐ってるわ」
気に入らないとばかりに鼻を鳴らすエルフ。
そんなに褒めないでくれよ、お礼に次は泥の落とし穴とかにはめてあげるからさ。
こんな所でドロドロになるのは、かなり嫌だろうしな。
水で濡らすのとは違い、乾いたら不快感が無くなるわけでもないしな。
重いし、砂でざらざらして気持ち悪い。それに服や鎧の間にも砂が入ったりとして動きが阻害されて厄介だしな。乾いても服がパリッとしてしまうしな。
うんうん、かなりいい罠だな。この先の階層で仕掛けておくことにしよう。
「またそんな悪口を言ったら、オーガに追いかけられるよ?」
「う、うるさいわね!」
オーガをけしかけるだなんて酷い事はしないよ。ちょっとこの先の落とし穴を改良するだけだって。全部泥の落とし穴に。
「む? こんな浅い階層でオーガが出るのか? 俺も何回か潜ったが見かけた事はないぞ?」
「それが出たんだよ。魔物部屋から何とか出る事ができたと思った時にね。連戦で消耗していたからすぐに逃げたよ」
ちなみにあれっきりオーガは低階層に配置してはいない。あんまり強い魔物が低階層にいると知られると新人冒険者がビビるからである。
ちょっとあの時ついカッとなってしまったんだ。
苔の洞窟だと馬鹿にしてやって来た冒険者を張り倒すくらいが面白いのだ。
「レイシアがダンジョンマスターを挑発するから……」
「ダンジョンマスターの悪口を言ったくらいで魔物なんて来ないわよ!」
そうそう、今日は罠を多くするだけだから。
さて他の階層の罠を改良しようと思った所で、六階層のマップ上に大きな青いマークが出現した。
む? おかしい。魔物は他の階層へと移動できないはずだが?
俺が疑問に思う間にも、その大きくて青いマークは移動を開始しはじめる。結構な速さだ。
俺はそれが気になりタッチして映像を出す。
すると、そこに映ったのは先程行方をくらませたデュラハンであった。
忘れていた。冒険者がやって来る前は、デュラハンを探していたのだ。
映像の中のデュラハンは楽しそうにスキップをしながら通路を移動していく。
このデュラハン、少しフリーダム過ぎではないだろうか。少しはミノタウロスの落ち着きを見習ってほしい。
「おい、お前そんな場所にいたのか」
『うおおお! 何か声が響いてくる!?』
俺が声をかけると、デュラハンは脇に抱えた頭部を落っことしそうになり、お手玉をした。
「俺の声だ。俺。ダンジョンマスターな」
『お? この声はマスターか! 俺に声を飛ばせるのか。じゃあ俺の事も見えてるのか?』
「見えてるよ」
俺がそう答えるとデュラハンは「おおー」と感嘆の声を漏らす。
「それ以上進むと冒険者と出会う事になるぞ?」
「この階に冒険者がいるのか!?」
「三十レベルくらいの奴が三人だな。戦うのか?」
「そりゃあ、戦うさ。駄目とか言わないよなー? なー?」
おっさんの声でなーとか言わないで欲しい。
デュラハンがあの冒険者達に負けるとは思わない。あの冒険者達はオーガに勝てないくらいなのだから、それより遥か上位に位置するデュラハンに勝つことはできないであろう。
うーん、このままけしかけるのもいいが、少し面白くない気がするなぁ。
俺はデュラハンを眺めながら考える。
あの頭部抱えたまま戦うって凄いよな。どうやって戦うんだよアイツ。戦闘の時も抱えたままなのか? それとも頭にくっつくのだろうか?
そう考えた瞬間、俺は閃いた。
「なあ、デュラハン。普通に戦うよりも面白いことがあるんだが?」
「詳しく聞かせてくれマスター」
面白いことがあると言うと、デュラハンは途端に大人しくなった。
何だかコイツの扱いが分かった気がする。俺は笑みを浮かべながら、デュラハンにある提案をするのであった。




