ドMとドSは同じ?
お待たせしました。こちらも更新していきます。
それと邪神の異世界召喚の書籍二巻が発売するそうです。秋ごろ発売らしいので情報が詳しくわかれば、またお知らせします。
ビアージュという男。ただのドMの変態だと思っていたが……いや、それは紛れもなく真実であるのだが想像以上に厄介だ。
まずレベルの高さと実力で低階層の魔物の歯が立たない。
これはいいだろう。これは聖騎士やシンのパーティー相手でもあったこと。高いレベルの相手に低いレベルの魔物が勝てないのは当然だ。
しかし、俺のダンジョンではその溝を深めるために低レベルの魔物にも、あらゆる嫌がらせを徹底させている。
ゴブリンであれば安易に飛び掛からない。飛び掛かるならタイミングをずらして、部位別で躱しづらいようにする。靴紐を盗む、足の脛や小指を狙うなどだ。
しかし、ビアージュはドMという変態的趣向を持っているせいか、それさえも甘んじて受け入れてしまう。
看板の罠で騙されたと知っても嬉しそうにしているし、落とし穴を見抜いたとしても、何故か自分から入ってしまう。
落とし穴の壁が狭まる罠では壁が迫る度に喜びの声を上げ、一時間後にはつやつやとした顔立ちで出てくる。
魔物部屋に入れば喜び、狭い部屋で喜んで魔物にボコられる。そして最後には魔物が疲れ果て、倒れないビアージュ相手に恐れをなして逃げようとする始末。
当然魔物部屋なので出られないのであるが、冒険者と魔物がまったく逆の立ち位置になってしまっていた。
そんな快進撃もあってか、ビアージュは今や七階層。
負のエネルギーを一度も回収できずに、ここまでの侵入を許したのは初めてだ。
『さすがにレベルという圧倒的な力の差があっても、これはおかしいのですね。何か称号に秘密があるのではないですか?』
「そうだな。あまり調べたくないが、きちんと調べてみることにするか」
ボックルの思う通り、ドMという称号に何かしらの補正があるのだろう。この謎はそれを見ることで明らかにするべきだ。
気になった俺は水晶を操作してビアージュのステータスを改めて表示。
名前 ビアージュ
種族 人間
性別 男性
年齢 二十四
職業 格闘家
レベル 三十三
称号 ドM
うん、称号はまごうことなき変態性を示している。それに変わりはない。
だが、その実際の効果はどういうものなのか確かめなければいけない。
ドMというわかりやすくも不思議な効果を見ただけで理解した気になっていたのだがいけないのだろう。
俺は称号にあるドMという部分を指でタッチして詳しい情報を出す。
称号 ドM……あらゆる攻撃や苦痛を楽しんだり、喜びや快感を覚えられる変態に与えられる称号。さらなる痛みや苦痛を得るために常に防御力向上。苦痛や痛みを受けて喜びを感じると体力が僅かに回復し、攻撃力が上がるといった補正がある。
おいおいおい、ドMといった単純な二文字の中にどれだけ補正が込められているというのか。というか地味に補正の効果が、物語の主人公のようで腹が立つ。
『常に防御力向上に痛みを受けると体力が回復し、攻撃力も上がる……ですか』
これには水晶を見ていたボックルも驚きの様子。
こうして補正効果だけを聞いていれば、カウンター型のチート野郎みたいだ。
にしても道理で痛めつけても嫌がらせしてもケロリとしているわけだ。まさに今まで俺達がやっていたことは精神面でも肉体面でも彼を喜ばせていただけということか。
「これは攻撃を加えても喜び、強くなるだけだな」
『はい、それに負のエネルギーも全く得られませんし』
嫌がらせをしても効果がなくて喜ぶし、負のエネルギーも吐き出さない。
何という不良物件なのか。良い反応をしつつ、バカみたいに負のエネルギーを吐き出すエルフとは正反対だな。
『ここは十階層までスルーさせて、スライムキングに何とかしてもらって追い出した方がいいのでは?』
ボックルの言う通り、ビアージュにはあらゆる罠も魔物の攻撃、嫌がらせも無駄だな。ここは大人しくスルーして進ませれば……ん? スルー?
「……もしかするとそれが最善かもしれないな。上手くいくとビアージュから負の感情が得られるかもしれない」
『そんなことで負の感情を吐き出すとは思えないのですが……』
首を傾げるボックルに、俺は笑みを浮かべながら言ってやる。
「いや、ドMのこいつだからこそだ」
やれやれ、ボックルも人間に近い思考をしているがまだまだのようだな。
そんな事を思いながら、俺は水晶でビアージュのいる七階層マップを操作。とりあえず全ての罠をオフにして、階層内にいる魔物にビアージュを襲わないように命令だ。
「よし、これでビアージュを阻むものはないな」
ニシシと笑いながらしばらく見守ると、ビアージュは一度も魔物と遭遇することも、罠にかかることもなく八階層へと進んだ。
案外あっさりと進んだことにビアージュは違和感を覚えたようだが、気にしないことにしたのか進み続ける。
しかし、進めど進めど八階層でも魔物は現れないし、罠の一つもない。
八階層の中程まで歩いたところでビアージュはポツリと言葉を漏らした。
「……おかしい。魔物が出てこないし、罠もないぞ。これはダンジョンとしてあるまじき状態! 一体どうなっているというのだ!」
理不尽なまでの放置プレイを食らったドMは叫んだ。
すると、今までピタリと動かなかった負のゲージが、負の感情を回収して少し増えた。
「ははは、当たりだな。こいつは放っておくのが一番みたいだな」
『本当ですね。でも、何故? 放置プレイをされるとドMは喜ぶと聞いたことがありますが……』
ダンジョンに置いてあるテレビかアニメから情報を仕入れたのだろう。それは間違いではないが少し足りない気がする。
「確かにそうだが、それは攻撃や苦痛を与えてくれる相手がいるからこそ成り立つんだ。ゴブリンが袋叩きをした時も途中でやめたら残念がりながら喜んでいただろう? ああいう苛められて喜んでいる最中に、止められるからこそ放置プレイだ」
何もない状態で放置され、スルーされるのはただの無視でしかない。
ビアージュはここが痛みと快楽を与えてくれる格好の場所だと理解しているからこそ、この無視に失望し、思い通りにいかないことに怒るのだ。
『なるほど、ドMというのは奥が深いのですね』
「まあ、ドMの気持ちを察しろというのが難しいだろうな」
『にしてもドSとドMは表裏一体と聞きましたが、これは本当のようですね』
「……おい、ちょっと待て。どうしてそうなる?」
なんで俺がビアージュと同じドMみたいな言われ方をしなければならないのだ。
『ドSの方はドMの気持ちがわかり、その行動を実行することができる奉仕者でもあると聞きました。今回の場合はドMの気持ちをよくわかっていたからこそ、成しえたことですよね? ノフォフォ!』
意地の悪い笑みを浮かべながら笑うボックル。
確かにMとSというのは、見た目はSがMを支配しているようだが、実はMが望むような虐待の仕方をさせられているので、実質的にはMがSを支配しているっていう理屈も成り立つ……のか?
何か考えれば変な泥沼に陥ってしまいそうだ。俺は深みに入りかけた思考を追い出すように首を振る。
「んなわけあるか」
『ノフォフォフォ! そうですかね?』
こちらをわざわざ覗き込んできて笑うボックルが鬱陶しい。
「魔物はどこだ! 私にもっと痛みを与えてくれー!」
俺がこんな奴等の奉仕者であってたまるか。
俺は自分の好きなように苛めて、相手の嫌がることができればそれでいいのだ。
新作始めました。
『転生したら宿屋の息子だった。田舎の街でのんびりスローライフをおくろう』
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