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ドMは考える

HJノベルス様より昨日書籍第一巻が発売されました! 挿し絵にてディルクのマグロ滑りもあります。

店頭でお見かけしたら、ぜひお手にとってみてください! よろしくお願いいたします。

 

 一階層を下り、二階層をひた進んでいるとイビルアイが三匹立ちふさがってきた。


 ほう、遠距離攻撃ができるイビルアイが二階層からいるとは、ここのダンジョンマスターも中々に性格が悪いな。今回はイビルアイしかいないが、ゴブリンと一緒に遭遇してしまえば、駆け出し冒険者では手こずるであろう。


 そんなことを考えている間に、イビルアイ達はパタパタと宙を飛びながら、大きな瞳に光を溜める。


 私は光線が発射される前に距離を詰める……などという愚は犯さず、その場で迎え入れた。


 イビルアイの瞳から発射された光線がタイミングを遅らせて殺到する。なんと、同時発射ではないのか。


 そのことに少し驚くのも束の間、イビルアイの光線が私の肉体へと当たる。


「……ああっ」


 私の服や肌を焼き焦がすかのような熱。それがとても心地よい。


 服を突き抜けて肌をジリジリと炙られるような感覚。ゾクゾクとする。


 しかし、やはり低階層の魔物。レベルも低いのでその程度だ。


 それでは私を満足させることはできない。攻撃力が低いのであれば、せめてゴブリンくらいの容赦のなさと悪意を見せてくれなければ。


 やはりもっと深い階層へと潜って強い魔物と出会わなければならない。


 ひとまずは十階層にいる数々のスライムを投げるという喋るスライムと会うのが目標だ。ポイズンスライムやパラライズスライムなどを投げつけて、最後にはスライムで窒息させてくるという残虐な階層主。


 ぜひとも、その残虐性をこの身で味わってみたい。


 そのためには早く階層を降りていかねば。


 そう思いながらイビルアイとの距離を詰めようと走っていく。すると、イビルアイも同じよう後ろへと下がりながら光線を放ってきた。


「おや?」


 光線をその身に受けながら、もう一度距離を詰めにかかるも同じようにイビルアイは下がりながら光線を放ってくる。


 おお、まさか自分の中での安全な距離を理解しながら戦っているというのか。遠くから一方的に私を攻撃するために……っ!


 攻撃力こそ低いものの、相手をいたぶるための徹底的な姿勢。


 やはりここの魔物は一味違う。例え低レベルであろうと相手を苛め抜くような思想がある。


 その容赦のなさがヒシヒシと伝わり、私の身体が喜びを上げる


 十階層へ早くたどり着くのが目標だったのだが、これはしっかりと階層内を調査する必要があるな。


 新たなる決意を胸に秘めながら、私はイビルアイとの追いかけっこを楽しんだ。




 ◆




 イビルアイが逃げ去り、二階層の通路内を寂しく歩く。


 何故だろうか。先程までは果敢に魔物が挑んできたというのに今はそれらしき気配がまったくない。私に恐れをなしたとでも言うのか。


 魔物が来なければただダンジョンを歩くだけ。普通の者からすれば嬉しいことからしれないが私からすればひどく退屈だ。


 こうなればこちらから魔物を探しに動くべきだろうか。運がよければ魔物部屋とかに当たるかもしれな

い。


「むっ、これは……」


 そんな思考をしていると目の前の足下に薄っすらとだが細い糸があるのが見えた。


 ちょうど人間の足がひっかかるギリギリの低さに引かれた糸。どうみても罠であろう。


 恐らく、このまま足で千切ってしまえば何かしらの罠が発動するのは間違いない。


 罠か……この身をもってその威力を確かめなければ。


 そんな覚悟の下、私は敢えて歩き出す糸を千切る。


 すると、プチンと切れる音がし、後方からシュゴオオと空を切る音がする。


 きたな。そう思いながら振り返った瞬間、顔面に丸太のようなものが直撃。


「ぶほおっ!」


 私は華麗に後ろに吹き飛ばされて、身体を床へと強かに打ち付ける。――と同時に石畳が沈み込み、私の身体を支えていた床がパッカリと穴を空ける。


 何をするまでもなく落ちていく私の身体。落ちていく穴の先には泥が敷き詰められている。


 これはエルフが言っていた泥の落とし穴! な、なんという罠の連鎖。抗うことのできない流れ。


 ここまで計算された罠だと美しさのようなものを感じる。


 感心するのも束の間、私は頭から見事に泥へと落ちていく。


 ズブリという粘着質な水音がし、私の身体が泥という汚物に穢されていく。


 ああ、この身体全体を犯してくるような不快感。


 空気を求めて泥から這い上がると、纏わりつく泥が逃がさないとでも言うようにへばりついてくる。なおのこと気持ちが悪い。


 気持ちが悪いのだが、私の心はどうしようもなく喜んでいた。


 ……何故だろう。今の痛み事態は丸太が飛んできて顔面に当たっただけ。だというのに、私は先程のゴブリンにいたぶられた時のような、言いようのない快感を覚えていた。


 ゴブリン、イビルアイ、罠。どれもこれも先日のオークとの戦いに比べれば痛みというものは少ない。だというのに得た快楽はそれを遥かに勝っていた。


 一体、どうしてなのか。考えられる共通点は純粋な悪意。


「……もしかして今の私には純粋な痛みだけでなく、悪意といったメンタル的な部分が重要なのか?」


 ただ単に暴力を振るわれるよりも何かしらの背景やシチュエーションがあった方が燃えるもの。もしかすると、私は痛みだけでなくそのような精神性で感じる段階へと進化したのかもしれない。


 私は全身を泥に包まれながら、そのような推論をしていた。




次回からは幸助視点に戻ります。

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