ドMの心境
HJノベルス様より書籍第一巻が明日発売です!
明日ですよ! 早いところでは今日からあるかもですが。よろしくお願いいたします。
ビアージュさんは特殊な性癖を持っているため、幸助視点からは語ることが難しいです。
ここからはドM視点でお楽しみください。
酒場で品のないエルフの女と貴族と自称する少女の話を聞いてやってきた森の奥。
そこには話で聞いた通り石造りの扉があった。数多のダンジョンを潜ったことのある私からすれば、その入り口の造りは凡庸。
しかし、どことなく禍々しい魔力が滲み出ている気がする。
「……ここに私が追い求めるものがあるのか」
石造りの扉を眺めて私は思わず呟く。
エルフと少女から聞いたダンジョンでコケにされた数々。看板の罠に騙されたり、落とし穴で死んだと思ったら泥まみれになったり、魔物にからかわれたり。
自分がその仕打ちを受ける姿を想像すると、不思議と身体に得体の知れない快感が襲ってくるのだ。
間違いない。ここには私の求める何かがある。それを確信した故に私はここへと足を運んだのだ。
「心の潤いを求めて……」
私は閉ざされた扉を開けてダンジョンの内部へと入った。
私がダンジョンに入ると小部屋の端からボオッと炎を湧き上がる。それらは地下へと続く階段への道筋を照らしており、まるで私を奥へと誘っている。
私は特に迷うこともんばく、照らされた道筋を歩いて階段を下っていく。
大人が一人すれ違えるかどうかの狭い螺旋階段を進んでいる間も、私はこれから対峙するであろう魔物や罠のことを妄想する。それだけで胸が高鳴り、おのずと足が速く進んでしまう。
逸る心を落ち着かせながら下ることしばらく。ようやく階段が終わり、私は一階層にある大広間にたどり着いた。
話を聞いた限りでは、ここには女性のパンツが飾られているらしく熱心な信者がそれに祈りを捧げているそう。
ダンジョンにパンツが飾られているなど意味がわからない。
ダンジョンの一階層に大型の魔物の頭部の骨などを展示して冒険者の恐怖心を煽る悪趣味なダンジョンもあったが、パンツを展示したところで恐怖心が煽られるわけでもない。
精々が物珍しくて男性達が観察するくらいだ。ダンジョンの主たるダンジョンマスターにメリットなど無い。
エルフ達は必死に本当だと言っていたが、それは嘘だろうな。
きっとダンジョンに挑む私をからかうために嘘を混ぜたのだろう。
そう思って大広間へと歩き出すと、私の視線の先には眩く光る者と大勢の人影が。
あまりの眩しさに目を細めながらも視線を向けると、そこには光り輝くパンツがあった。
「一階層に女性の下着が飾られているというのは本当だったのか……」
ダンジョンにパンツが飾られている。それが真実であったことに衝撃を受けた私は、思わず立ち止まって間の抜けた声を漏らしてしまう。
一体どうしてこんな所にパンツが飾られているのか、そしてどうして法衣を着込んだ人々が熱心に祈りを捧げているのかも。
頭の中が疑問で埋め尽くされてしまうが、すぐに私は意識を取り戻す。私はダンジョンに飾られるパンツを見に来たわけではない。まだ見ぬ快感を味わうためにここにきたのだ。このような物に気を取られている場合ではない。
特にあそこから魔物が出てくるわけでもないので、私は光り輝くパンツと祈りを捧げる信者を無視して階層の奥へと進んでいった。
◆
薄暗い石造りの通路を歩くことしばらく。
『ギイイッ! ギイイッ!』
壁の影から一匹のゴブリンが出てくると、それに続くようにわらわらとゴブリンがやってきた。
ゴブリンか。ダンジョンの低階層で現れるポピュラーな魔物だ。一階層なのでレベルも低く、私の頑強な身体に痛みを与えることは難しいだろう。
と気落ちするものの、ここのダンジョン魔物は一味違うというエルフの言葉を思い出した。
期待してもいいのだろうか? まあ何にせよゴブリンがいるのであれば喜んで叩かれに行くまで。
私はゴブリンの群れの中へと自分から入りに行く。
『ギ、ギイ? ギギギイッ!』
私がそのまま突っ込んでいくせいか、ゴブリンが少し戸惑ったような声を上げる。
しかし、すぐに持ち直したのか、棍棒を手にしながら襲いかかってきた。
私はそれを迎撃することなく、両腕を広げて迎え入れる。
さあ、私に痛みを与えてくれ。
ゴブリン達の棍棒が私の身体を打つ。
おほお! 何だこれは! 低レベルのゴブリンと侮っていたが、こいつら的確に人間の弱点といえる部分を攻撃してくる。
顔面を狙う事は勿論、股間、脛、足先、指先といった細かな部分まで。
間違いない、こいつらは人のどの部分を叩けば痛がり、嫌がると理解しているプロフェッショナルだ。それでいて、この混じりっ気のない悪意。
このゴブリン達は純粋に私をいたぶることに喜びを見出している。私を殺そうとか何かしらの考えがあって害そうとしているわけではない、ただ本能から相手をいたぶり、虐げるのが大好きなのだと理解させられた。
「……うっ」
その瞬間、私の背筋を小さな快感が駆け抜ける。
思わず漏れてしまう私の吐息。
今の感覚は一体何なのだろう。
幼い頃に初めてゴブリンの巣穴に入って、数という名の暴力にいたぶられて喜びを得て帰ったあの日のような……。
そんな懐かしくも清々しくもある気持ち良さだった。
どうして今さらゴブリンなんかにいたぶられて喜びを感じるのか。ゴブリンにいたぶられることなど、もはや数えるのもバカらしくなるくらいの回数を重ねているというのに……。
その答えはわからない。わからないけど、このダンジョンに潜り続ければきっとわかる気がする。
答えを見つけるためにもっと私をいたぶってくれ。
『ギギッ! ギギ、ギギギイッ!』
そんな私の願いを聞き届けたように、ゴブリンはだみ声を上げて棍棒による打撃を激しいものにしてい
く。
ああ、すごい。すごいぞ。そんな悪い顔で攻撃されれば私はもっと感じてしまう……っ!
急所にぶつけられる無数の攻撃が伝わる瞬間、それが快感となて私の身体を駆け巡る。
気が付けば私の身体は熱をもったように浮かされており、息が荒くなっていた。
もっとだ。もっと激しく! そうすれば私は何かに至れる気がする!
しかし、そう思っていたところで魔物の攻撃はピタリと止んでしまう。
もうすぐというところで、まさかの寸止めだと!? な、何という焦らしプレイか……。
「どうした? もう終わりなのか? もっとだ。もっと今の感覚を私に味合わせてくれ!」
先程の快感を味わいたくて私はゴブリンへと語りかけてお代わりを要求する。
しかし、ゴブリンは私が近付いていくごとに退いていき、
『ギイ、ギイイ!』
遂には背中を向けて一目散に逃げ出してしまった。
「そんな……っ! これからがいいところだというのに……」
ま、まさかのここでの放置。私の火照った身体をそのままにして帰るとはどういうことなのか。
しかし、この至れそうで至れない。じれったい感覚も心地よい。
一階層のゴブリンだけでこれか……。
コケのダンジョンは私が期待している以上のもののようだな。
もっと深い階層の魔物になればどうなるのか……。想像するだけで得体の知れない快感が走った。




